それから、数ヶ月が経った外来での出来事です。

レントゲンを見ると肺の腫瘍は間違いなく大きくなっています。
診察室に入ってくるEさんは、明らかにふらついています。

『Eさん、どうですか?』

『別に、かわりないです。』

『えっ、ふらふらしてませんか?』

『いや、大丈夫です。』

『Eさん、おそらく頭の転移も大きくなってきていると思います。

入院して、治療した方がいいと思いますよ。』

Eさんは、入院したくなさそうでしたが、家族にも勧められ入院することになりました。

また、点滴も始まります。

Eさんは、点滴も嫌いでした。

また、ナースたちの言う事は聞いていないようです。

Eさんと家族と相談の上、1種類での抗がん剤治療をはじめることになりました。

抗がん剤治療が始まり、2週間が過ぎてもEさんのふらつきはよくなっていません。

吐き気なども出てきており、むしろ悪化している印象です。

しかも、足がしびれるとの訴えも出てきました。

調べてみると腰椎(腰骨)への転移が見つかりました。

神経を圧迫していて、両足が完全麻痺になる可能性もあります。

その場所にも放射線治療を開始しました。

残念ながら、Eさんは手すりを持って歩くことすら出来ない状況になってしまいました。

Eさんと奥さんとに病状説明を行いました。

『Eさん残念ながら、抗がん剤の効果はありませんでした。

放射線の効果はもうしばらくしてから出てくるかも知れませんが、今のところ効果はありません。

病気で動けなくなっているので、Eさんのプライドは許さないかも知れませんが看護師の世話になってください。』

Eさんは、うなずきました。

しかし、なかなかしもの世話や身の回りのことを看護師にさせてくれません。

腕の力だけでベットから動こうとしたりさえします。

しかも、ナースに文句は言う口だけは元気です。

そんなある日、奥さんが私の元にやってきました。

『先生、あのひとよくなることはないですよね。

家で過ごすことはできませんか?』

『……、出来なくはないですけど、奥さんが大変ですよ。

奥さんや家族の方さえよければ、また往診してくれる先生が見つかれば出来ると思いますよ。』

Eさんの性格、その他を考慮すれば自宅療養がベストなのはわかるのですが、完全に寝たきりの状態で足さえ動かせなくなった今、正直、かなり自宅療養は厳しいと思われました。

ただ、奥さんは、

『あの人の性格はわかっています。

わたしが甘やかしたから、ああなった面もあるんです。

だから、がんばってみます。』

奥さんは相当な覚悟でいるようです。

『もう、うちで診れないと思ったらいつでも連絡くださいね。』

Eさんは、退院しました。

1ヶ月が過ぎようとしたある日、往診の先生から連絡が来ました。

Eさんが自宅で亡くなったと。

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Eさんのご冥福をお祈りします。

そして、奥さんのがんばりに心から敬意を表します。


なかのひと

『患者と医者をつなぐもの』も読んでね。



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