もう、ずいぶん前のことです。

Bさんは、肺がんをわずらっていました。

今まで何度も抗がん剤治療を行ってきましたが、だんだんと効果も薄れてきて、副作用もきつくなってきて抗がん剤治療を行うのは厳しい状況になってきました。

ほどなく、抗がん剤治療を中止して症状をとるような治療に専念するようになりました。

そんなBさんには、献身的な介護をする奥さんがいらっしゃいました。

外来にも必ずついてきます。

入院しても毎日やってきます。

しばらくすると、Bさんの調子がだんだんと悪くなってきました。

息苦しさが強くなり入院することになりました。

右肺がつぶれています。

肺門部に腫瘍があるため閉塞を来して無気肺になったものと思われます。

大量の酸素を吸わないと苦しいようです。

食事もだんだんととれなくなってきました。

奥さんは、Bさんにがんばって食べて欲しいようです。

『がんばって食べて、元気になって。』とBさんに語りかけています。

しかも時々、ゼロゼロとむせています。

誤嚥している可能性が高いです。

そんなある日、Bさんの奥さんと話をしました。

『残念ながら、Bさんは、がんばったからといって食べれるわけではなく、がんばって食べることが負担になっている可能性があります。

しかも、むせもありますので、無理に食べてもらうようにするのはやめましょう。』

Bさんの奥さんは黙って聞いていましたがどうも不満な様子でした。

そして、一言つぶやきました。

『私、あの人に食べさせるのが生き甲斐なんです。』

まあ、確かにBさんが今後むせずに食べるようになる可能性は低く絶食までする必要性はないと考えました。

『たくさんは、食べないようにしてくださいね。』

その翌日、Bさんに尋ねました。

『Bさん、ご飯食べられる?』

『食べられないけど、妻が食べろというからがんばって食べます。

でも、正直、食べるのがつらいです。

先生、このことは妻には言わんといてください。

わたしがご飯を食べると喜ぶんです。』

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つづく


なかのひと

『患者と医者をつなぐもの』も読んでね。



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