もう、ずいぶん前のことです。
Nさんは、がんの末期で残された時間はほとんどない状態でした。
一般的な、末期の患者さんと少し違う点があるとするならばNさんは、まだ30代だったと言うことです。
Nさんは、今まで抗がん剤や放射線治療を行ってきたのですが、もう、Nさんにこれ以上の積極的な治療に耐えうる体力はない状態となっていました。
Nさんの苦痛は、かなり強いものとなっていました。
Nさんも苦痛はなるべく取り除いて欲しい。鎮静にも同意されています。
あとは、家族のセデーション(鎮静)への理解だけです。
ご家族に説明をするために時間の約束をしました。
約束の時間に、母親、弟が診察室に入ってきました。
少し遅れて、妻が、
そして、そのあとに小学生の娘(10歳)が入ってきました。
正直、ビックリしました。
今まで、中学生が一緒に説明を聞きに入っていたことはありましたが、小学生は初めてです。
しかも、かなりの心に深い傷を負うかも知れません。
あとで、確認するとどうしても話しを一緒に聞きたいと娘さんが希望したらしいのです。
ご家族の方に
Nさんは、がんの末期であり回復する見込みのないこと。
残された時間は、おそらくあと数日から1週間程度であること。
今まで、いろいろ手をつくしたけれども、全身倦怠感や身のおきどころのなさを取り除けなかった。
取り除くためには、セデーション(鎮静)しかないと考えられる事。
セデーションを開始したら、Nさんと話しなど出来なくなる可能性が高いという事。
などを説明しました。
一通り説明が終わりました。
母親の目からも妻の目からも娘の目からも涙があふれています。
『じゃあ、眠たくなるような薬を使い始めていいですね。』
『先生、その方向でお願いします。』
と妻が言った瞬間。
今まで毅然とした態度の娘は、「えっ」と驚いたような顔で母親(妻)の顔をのぞき込んで、そして、大声で泣き始めました。
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大好きなお父さん。
もうすぐ、永遠の眠りにつくことは理解しているでしょう。
だから、少しでも長く話しがしたい。
でも、すごくしんどそうなお父さん。
少しでも、起きておいて欲しい。
お母さんもそう言ってくれると思っていたのに。
彼女が心に受けた傷はどんなものなのでしょう。
彼女の心のケアまで、手が回りませんでした。
決して忘れることのできない出来事でした。
『患者と医者をつなぐもの』も読んでね。
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