もう、ずいぶん前のことです。

Kさんは、ある夏の暑い日に入院してきました。

Kさんは、20代後半の少し気のよさそうな青年でした。

レントゲンで片肺が真っ白になっていました。

Kさんは、飲み屋の店長をしていました。
2ヵ月前からしんどさを感じていたのですが、病院へ行きませんでした。
店長と言っても雇われであり、休みにくい状況だったそうです。

だんだんとしんどさがひどくなっていくことを自覚していましたが我慢していたようです。

とうとう、耐えきれなくなって病院を受診したときには片肺が真っ白だったのです。

胸に管を入れないといけない状況でした。

胸腔内へ管を入れ中から出た胸水を検査に出しました。

検査の結果、少しめずらしい感染症でした。
いわゆる膿胸という状態になっていました。(肺野にも病巣はありました。)

さっそく、治療が始まりました。

一般的に言って膿胸はよくなるまでに時間のかかる病気です。
治療が始まり1週間が経ってもKさんの症状はあまりよくなってきません。

『Kさん、Kさんの病気は、時間かかるかも知らんけど頑張ろうね。
1ヵ月以上ほってたから、よくなるのもそれぐらいかかること多いし。』

『そうですね。しんどいけど、ほったらかしにしていた自分が悪いんです。仕方ないです。
ぼく、いっつも遅いってみんなに言われるんです。
手遅れになってること多いんです。』

それから、Kさんは今までのことをしゃべり出しました。

高校生の時、野球をやっていたようで体力には自信があったそうです。
しかも、通っていた高校は甲子園の常連校です。

残念ながら、Kさんは、甲子園には行けなかったのですが、すぐ上の先輩や後輩にプロ野球選手がいます。
なかには、誰でも知ってるような有名選手も先輩だったそうです。

しんどかったけど、野球をするのが楽しかったようです。

眼を輝かしながら当時の思い出を語ってくれました。

最後にKさんは、こう言いました。
『仕事を休みにくかったのもあるけど体力には自信があったからここまで病院へ行かなかったと。』

徐々に肺の影は少しよくなっていきました。
しんどさも少しましになっていきました。

それから、数日してKさんは、血を吐いたのです。
とてつもない量です。

私が病室に到着したときKさんの意識はもうろうとしていました。

挿管しようとしても、血だらけでよく見えません。

カメラを用いて挿管するのですが、カメラの視野もすぐに真っ赤になります。

なんとか、管を入れたのですが、出血は止まるところを知りません。

そうこうしているうちに、かれこれ2時間は過ぎたでしょうか。

残念ながらKさんは、帰らぬ人となりました。


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『ぼく、いっつも遅いってみんなに言われるんです。手遅れになってること多いんです。』の言葉が、しばらく頭から離れませんでした。

Kさんのご冥福を心よりお祈り致します。



なかのひと


悪性疾患以外で一番若くしてお亡くなりになった患者さんでした。
今でも、忘れることはできません。


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