もうずいぶん前の事です。

Dさんは還暦をすこし過ぎた男性です。
血痰が出てきたため、近くの開業医に行きました。
そこで、胸部レントゲンを撮って肺癌の疑いがあると紹介となりました。

いろいろ検査をした結果、4期の肺がんである事がわかりました。
その事を、Dさん、奥さん、娘さんに説明しました。

Dさんは、十分に落ち込んでいます。
その状況で、奥さんはDさんに

『あんた、何悪い事したん?何か悪い事せえへんかったらこんな病気になれへんやろ。日頃の行いが悪いんや。』

主治医のE先生は、一瞬固まりましたが落ち着いた声で

『奥さん、わるい事したから肺がんになったわけじゃありません。
もちろん、喫煙による可能性は十分ありますが、タバコを吸わない肺がんも増えてますし、日頃の行いが悪いからと言ってがんになるものではありません。』と説明しますが、

奥さんは
『いや、何か悪い事したんや。』とつぶやいています。

もし、日頃の行いが悪ければがんになるなら、刑務所の中はがんだらけになるよね。
など考えるのですが奥さんに責められているDさんが可哀想でなりません。

『日頃の行いが悪いからがんになった。Dさんが悪い。自業自得だ』と
奥さんはDさんを責めます。

Dさんの抗がん剤治療が始まっても奥さんは事あるたびにDさんを責め続けます。

何度か、E医師は奥さんの誤解を解こうと説明するのですが奥さんは真剣に信じています。

副作用が結構強くでて、かなりしんどそうです。
それでも、奥さんに責められています。日頃の行いが悪かったからだと。

さらなる不幸がDさんを襲います。
抗がん剤の効果がほとんど認められません。

その時に、奥さんはDさんに
『あんた、よっぽど悪い事してきたんやな。』
とつぶやきました。

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次回へ、続く。


なかのひと

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