もう、ずいぶん前のことです。
Sさんが紹介されてきたのは、Sさんは、咳が続いたために近くの医院を受診し、胸部レントゲンで異常陰影を指摘されました。
検査の結果、脳、骨、肝に転移のある肺がんでした。
本人、家族に説明しようとしたのですが、家族と20年会っていない。
連絡先も知らない。別に今さら言わなくてもいい。どんな病気でもすべて自分で聞く。今まで好き勝手生きてきたから。との事。
Sさんに、無治療であれば平均余命3ヵ月から6ヵ月であること。
治療しても、再発する可能性が高く、1年前後であることが多い事。
効果、副作用、治療関連死の可能性など説明した上で治療を行いました。
そして、腫瘍の大きさはずいぶんと小さくなり退院を考える時期となりました。
そして、退院前にSさんとゆっくり話しをしました。
『Sさん、治療はうまくいって今がん自体は非常に小さくなった。このまま、再発しないかも知れないけれど、するかも知れない。今はわからない。再発して治療してもあんまり効果がなくなってしまって、残念ながらSさんの命をがんがおびやかすときがくるかも知れない。そのとき、Sさんの命を少しでも延ばそうとすると、口から管を入れて、人工呼吸器という器械をとりつけて、その器械から強制的に酸素を肺に送り込んだりとか、心臓マッサージをしたりとかしないとSさんの命がもたないときがくるかも知れない。』
Sさんは、真剣に話しを聞いてくれました。
『その時の、人工呼吸器とか、心臓マッサージは延命にしかならない可能性が高い。なぜなら、その時というのは肺がんが悪くなって今の医学ではコントロールできない状態だから。Sさんのしんどい時間を延ばすだけの治療になる可能性が高い。』
Sさんは、しばらく黙っていました。そして、
『今は、調子ええんやけどな。いつか、そんなときはくるんやな。治らへんのやったらしんどい治療はいらんわ。』
それから、1年後Sさんは積極的な治療が出来ない状態となって入院してきました。
『Sさん、1年前退院する直前に話ししたこと覚えてる?』
『……うん。』
『1年前と気持ちは変わってない?』
『……そやな。』
しばらくして、Sさんはひとりで売店に行く元気もなくなってきました。
そして、私に聞いてきました。
『先生、もうあかんのか?死ぬんか?』
『Sさん、Sさんが本当の事を聞きたい?Sさんが本当に聞きたいんやったら、本当の事を言うわ。でもな、Sさんにとって厳しいこと言わなあかんかも知れへんねん。』
『………ええわ。』
口には出しませんでしたが、Sさんは自分の残された時間が短いことを悟ったようです。
それから、2週間ほどしてSさんは苦しむことなくひっそりと息を引き取りました。
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身寄りのない方の対応はいつも考えされます。何がベストな対応だろうと。
Sさん、あの対応でよかったよね。
Sさんのご冥福をお祈り申し上げます。
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自分とて身寄りが無くなり一人で死ぬ可能性はあるわけで、となると、死ぬ前に会っておきたい人、やっておきたいことはあります。やはり死に向かって準備をし、人生に満足をしたいと思うでしょう。Sさんが退院後、どの程度準備をし達成できたのかを想像すると、切なくなります。
それにしてもよっしぃ先生、医師になってたった十年間にこのようなご経験を何度も積まれるとは…。自分が社会人十年目に何をしていたかを思い出すと、恥ずかしくってとても振り返れません。頭が下がります。
この場合、本人さんが意識があり判断能力のある時に文書が必要になります。
身寄りのない方の場合、死後どなたに連絡をとるのか?民生委員さんでしょうか?お友達?
Sさんが、どんな人生を送ってきたか細かいところはわかりませんが、いったん退院した後は、なすべき事は行っていたようです。
私が、こんな経験をしているのも、自分から飛び込んだわけではなく気が付けばこんな世界に身をおいていたと言うのが正解です。ですので、頭を下げられるようなものではないと思います。
Tai-chan先生
この方の場合は、ナース同席の上で本人の意志をカルテに記載しただけです。死後ですが、この方の場合は幸い、ご友人があとは任せてくださいと名乗り出てくれたのでお任せ致しました。
なかには、役所に連絡することもありました。
もちろん、臨終の場に誰も来ませんし、ナースと『寂しいね。』とか言いながら、確認をします。本当に寂しいです。(ご本人さんはもっと寂しいのでしょうね。)
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