初めて、当直にいったのは医者1年目の梅雨の頃でした。
当時、国家試験の合格発表が4月の下旬にありその発表を待って研修が始まります。
ゴールデンウィークあたりから働き出す研修医が多かったように記憶しています。
1ヵ月過ぎて徐々に仕事のペースもつかめるようになってきました。
ある雨の日でした。
オーベン(指導医)が『雨か。めんどくさいな。お前、今日バイト行けへんか?』と言ってきました。
『先生、無理ですよ。1人じゃ出来ませんよ。』
『大丈夫やって、寝当直やから。』
『ほんまに大丈夫ですか?』
『風邪薬ぐらい処方できるやろ。死亡確認もできるやろ。ほんなら大丈夫や。困ったら、電話してきたらええから。』
大丈夫かな?少し考えましたが、特に拒否する理由も見あたりません。
『わかりました。行ってみます。』
バイト先の病院に到着しました。
築何年か想像するのも恐れる古い建物です。
『医局』と書かれてドアをノックします。
中に入ると院長先生が答えます。
『先生、初めてですね。何人か状態の悪い人いますけど、確認だけで結構です。家族の方は納得されてますので。当直日誌のはしに振込先を書いといてください。郵便局はダメですから。では、よろしくお願いします。』と言い残し帰られました。
医局という部屋を見まわします。
細長い部屋にベットとテレビ、机、冷蔵庫があります。
医学雑誌と漫画やその他の雑誌が乱雑に置いてあります。
のんびりするようなスペースはありません。
入院患者は50人ほどです。
当直日誌を見てみます。ほとんど”著変なし”と書いてあります。
1ヶ月に一回ほど、『何時何分○○氏永眠。』とか『○○氏感冒にて受診処方』書いてあります。
少し、安心しました。よっぽど運が悪くなければ呼ばれる事はないようです。しかし、何かあったらどうしようと思いドキドキです。医師免許取ってすぐなのに問題をおこせば剥奪されるかも。なにせ、大学病院は指導医など上の先生も一緒に責任を取ってくれるけど、ここはホントに自分1人だけ。非常に緊張します。
少しでも動こうものならギシギシきしむベットの寝そべりながら『当直医マニュアル』なる文庫本から新書版サイズの本をむさぼるように読みます。
もし、何か起こればこの本だけがたよりです。一番多い病気はなんだろう?とか考えながら。やっぱ、腹痛かな、それとも喘息かな。何事もなく時間は過ぎていきます。
静寂をかき消すように電話のベルが鳴ります。
ビクッとして電話を取ります。
『先生、お風呂は入りますか?』と事務の方から電話でした。
テレビをつけてみましたが、やはり不安になってきて当直医マニュアルをパラパラとめくってしまいます。
とうとう、深夜12時をまわりました。いつのまにか寝ていました。
気が付いたら明るくなっています。時計を見てみると6時半でした。
無事に何事もなく初めての当直は終了しました。
少し、成長したような気になってました。
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