もう、ずいぶん前のことです。
Kさんは、50代の男性でした。胸部異常陰影(無症状)で紹介され、検査の結果は、肺癌(腺癌)3B期でした。
標準治療である。抗癌剤と放射線の同時併用療法を行いました。
幸いなことに、2コース終了時点で非常に小さくなりました。(good PRの状態です。)
ただし、副作用はきつく1週間以上嘔気、嘔吐があり、点滴を要する状態でした。
医師側からすれば、非常に効果があり、若年者であり、3コース、4コースの抗癌剤治療を勧めるわけです。
しかし、Kさんは、『もうこれ以上抗癌剤はしたくない。』とはっきりおっしゃいました。
そこで、2コース終了時に奥さんに来てもらい、今までの経過で副作用はきつかったが、治療効果が予想以上によく、もう少しがんばりましょう。ただし、副作用はきつかった(シスプラチンのためと考えてます。)ので副作用の弱い事が予想されるメニュー(カルボプラチンを含む)に変更してやりませんか?という内容の話をしました。
Kさんは、涙を流し出しました。今までのKさんは、非常に気丈な方で決して弱音を吐くことのない人でした。もちろん、今までKさんの涙を見たことは、ありません。そして、話し始めました。
『死ぬのはな、こわくないねん。入院していろいろ考えて、他の患者さんと話して覚悟はできてん。でもな、あの吐き気は、もう我慢でけへんねん。今日は、もう治療やめるって絶対先生に言おう思てたんや。でもな、家族のためには、もう少しがんばろうかな。わし、おらんかったら困るしな。でも、ほんまにつらいねん。いややねん。』
そして、何日かたった日。Kさんは、僕に言いました。
『先生、やっぱり、2回でやめるわ。先生が勧めてくれることは十分理解してる。完治をめざすんやったらがんばった方がええのもわかってる。でも、もう帰るわ。』
結局、Kさんは、再発しましたが、抗癌剤治療は拒否され、永眠されました。
医師としては、もう少しがんばって欲しかった。しかし、医師でない立場でKさんをみたら、よく頑張ったと思います。
それは、Kさんの生き方です。よく考えた上の結論です。総合的に考えるとこれでよかったのではないかと思います。
Kさんは感謝してくれました。
『後悔してないねん。今まで、ありがとう。』
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こういう言葉を最後に残す事ができたKさんはいい死に方をしたのではないかと私は思います。生命の量よりは生命の質を考えた彼の決断だったのでしょうね。
主治医として、ホントにほっとする言葉でした。
現実問題、もう少し延命は可能だと思うので。
ありがとうございます。
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