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2010.03.21 06:26 |  診療  |  研究  |  その他(医療関連)  |  昭和 50年代 1  |  スーさん  | 推薦数 : 0

CT検査

CT検査(昭和50年)

 昭和50年826日,東京女子医大に設置されたCTスキャンが日本で初めて稼働した.身体の断面図を映し出すCTスキャンは,現在では誰でもその名前を知っているほどに普及しているが,CTスキャンの発明は医療に革命をもたらすほどの衝撃があった.

 CTスキャンの原理はレントゲン(X線)写真と基本的に同じである.1895年,ドイツのレントゲン博士は真空放電の実験で,蛍光板を光らせる未知の光線を偶然発見しX線と名づけた.そして最初に撮った写真は,妻の手を撮影したもので,写真には手の骨とその指にはめられた指輪が写っており,この写真は世界中の人々を驚かした.レントゲンは人類のために特許権を放棄,そのためX線は急速に広まり医学に大きな貢献をもたらした.そしてレントゲンは1901年、第1回ノーベル物理学賞を受賞した.

 このレントゲン写真には2つの欠点があった.ひとつは骨の様子はよく分かるが,筋肉,軟骨,血管などの軟部組織がはっきり写らないこと.ひとつは二次元の写真なので重なった臓器を識別できないことである.これを解決したのがイギリスのゴッドフリー・ハンズフィールドとアメリカのコーマックだった.

 ハンズフィールドは第二次世界大戦中,サウス・ケンジントン空軍大学で無線工学を学び,戦後,ロンドンのファラデー・ハウス電気大学に入学した.彼は医学とは関係のない分野で研究をしていたが,1951年にEMI社に入社しすると,開発されたばかりの電子計算機に興味をもち,それを応用する仕事に夢中になった.そして物理学者コーマックとCTスキャン( Computed Tomography :コンピュータ断層法)を1972年に開発した.コンピュータによってX線の情報を計算し,それによって人体の断面の画像化に成功したのである.

 CTスキャンは基本的にはレントゲン写真と同じであるが、X線を発生させる管球とX線の量を測定する検出器を,身体をはさむように向かい合わせに設置し,患者を台に寝せたまま線管球と検出器を1回転させ,多数の角度から身体各部位のX線の吸収率を測定し,X線吸収率の違いをコンピュータで処理して,体を「輪切り」に撮影する放射線装置のことである.

 レントゲン技術,コンピュータ技術を駆使し,病変部位を視覚的に示すというまさに革命的医療器機であった.ハンズフィールドとコーマックはこの業績により1979年にノーベル医学生理学賞を受賞している.

 CTスキャンの登場はまず脳外科の分野で役に立った.それまで脳腫瘍や外傷による頭蓋内血腫の鑑別には発症の状況,検査としては脳血管造影が主であった.脳血管造影は太い血管にカテーテルを入れ脳の血管を撮影するが,患者には大きな侵襲があった.そして脳血管造影の検査で死亡事故が起きることもあれば,検査で麻痺を残すこともあった.脳血管造影は手術の必要性,治療に欠かせない検査であったがその診断精度は低かった.さらに放射性同位元素による核医学検査,脳内に空気を入れて脳の形態を調べる気脳造影検査などがあったが,このような侵襲的な検査を行っても病変部位が分からない場合が多かった.その点,CTスキャンは患者にとって革命的メリットがあった.

 また脳血管障害は脳梗塞,脳出血に大別できるが,両者の鑑別は困難で,それまでは両者を区別できず脳卒中と呼んでいた.しかしCTの登場により,病変部位が白ければ脳出血,黒ければ脳梗塞と診断できたので,素人でも病変部位と疾患の鑑別ができた.

 CTスキャンが脳神経内科医に与えた衝撃は強烈であった.それまでの脳卒中の診断は発症状況を詳しく聞き,ハンマーで患者の反射を調べ,針で痛みへの反応を調べ,病巣がどこなのかを推測していた.しかしそれでは正確な診断は困難で,神経内科医の病巣診断よりもCTスキャンの画像診断の方が正しいことを視覚的に示してくれた.このCTスキャンの出現によって脳神経内科医の立場が劇的に変化した.

 CTはこのように脳専用装置から出発したが,肺,肝臓、膵臓、腸などの内臓臓器に応用され,医学全体,医療全体に絶大な貢献をした.従来のレントゲン検査では臓器や筋肉などの組織の吸収率の違いがわずかであったことから画像化できなかったが,CTスキャンは解像度に優れ多くの病変を描出することができた.さらに各種の造影剤の投与よって疾患の鑑別能が高まった.情報量が多く、位置情報が正確なことから,診断、治療の方針決定には不可欠な検査となった.CTスキャンは日本で急速に普及し,日本の人口当たりのCT普及率は世界最高となっている.大掛かりな装置であるが、被爆を除けば患者への侵襲はほとんどない.

 当時のCTスキャンは,回転部に載せたX線管と検出器に電力を供給するためのケーブルがついていた.そのため1回転させると一旦停止して反対方向に回転させる必要があった.そのためスキャンスピードが遅いという欠点があった.1回の検査に数分を要したことから心臓や肺など動いている臓器の診断は困難で,頭部CTのように静止した臓器が主に調べられた.

 このスキャンスピードの問題を解決させたのがヘリカルCTだった.ヘリカルとはらせんを意味しており,患者が横たわる寝台をX線の発生器と検出器をらせん状(ヘリカル)に連続回転させながら移動させ高速撮影が可能になった.

 平成10年,検出器を複数配列したマルチスライスCTが登場した.ヘリカルCT1回転で1スライス(1枚)の断層画像の撮影しかできないが,マルチスライスCTでは1度に複数枚の断層画像を撮影することを可能にした。そして平成14年には16チャンネルのマルチスライスCTが登場した.16チャンネルは1チャンネルCTに比較し30倍以上の早さで撮影し,精度の高い立体画像を数秒で撮影できた.つまり動いている心臓も撮影できるようになった.

 CTスキャンの開発はまさにレントゲンのX線の発見につぐ医学史上重要なものであった.

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