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2010.03.11 09:35 |  生活 / くらし  |  趣味  |  その他(医療関連)  |  昭和 40年代 4  |  スーさん  | 推薦数 : 0

男性用カツラ

男性用カツラ(昭和47年)
 昭和47年4月6日,「私も使っています」という男性用のカツラの広告が読売新聞に初めて掲載された.モデルとなったのは,当時,第一生命保険会社に勤 務していた金沢秀行氏でカツラをかぶる前後の写真が紙面に掲載された.カツラをかぶることを隠しておきたいというのが男性心理であるが,金沢秀行氏は快く 写真広告を引き受け,また新聞広告も予想外に好評であった.新聞の次に週刊誌,そしてテレビへと広告は広がっていった.テレビではカツラをかぶったタレン トの南たかしが,娘に「パパ行ってらっしゃい」と送り出されるほのぼのとしたコマーシャルで,電話番号「9696(くろぐろ)」とともに世の中に自然にと けこんだ.この広告はアートネイチャーのものであったが,ほぼ時期を同じくしてアデランスもテレビ広告を放映した.アートネイチャーはロッテ・オリオンズ の倉持明選手をモデルに起用し,明るく活動的なイメージと,激しい運動に耐えられることをアピールした.これらのテレビ広告により男性用カツラは市民権を 得たといえる.
 男性カツラ業界はアートネイチャーとアデランスが約8割のシェアーを占めているが,その創立はアートネイチャーがわずかに先であった.
 明治学院大学を卒業した阿久津三朗は大正製薬に就職したが,不動産会社に転職し,阿久津はそこでトップセールスマンとなり,昭和38年,成績優秀者とし てにヨーロッパ旅行をプレゼントされた.ヨーロッパで阿久津を驚かしたのは,薄毛の男性がヘアサロンに入り,フサフサの髪になって出てくる光景だった. ヨーロッパでは男性カツラは当たり前だったのである.阿久津は大正製薬の営業部で育毛剤を希望する男性の切実な悩みを思い出した.
 そして帰国した阿久津は女性用かつらメーカー「ボア・シャポー」に再就職,カツラの知識を得ると,昭和40年に日本初のオーダーメード男性カツラの会社 を創業したのである.会社の名前はアートネイチャー,つまり「自然な芸術」を意味していた.毎日会社の窓から下をながめながら、薄毛の男性がいると階段を 駆け下り、家まで追いかけて営業活動をした。当時カツラは女性の専用品であったので,営業のたびに「ばかにするな」と客に怒鳴られていた.
 阿久津が勤めていた「ボア・シャポー」には根元信夫(27),平川邦彦(31)大北春男(26)も勤務していた.そして彼らも男性カツラの必要性を感じ ており,昭和43年にアデランスを創立させた.アデランスとはフランス語で「くっついている」を意味していた.これまでのように「かつらはかぶるのではな く,つける」という意味をこめた社名だった.以後,この2つの男性カツラメーカーは競うように新技術を開発させ,業績を伸ばした.
 当時のかつらはすっぽりかぶる既製品であったが,しだいに頭部の形状を型取りして製作するオーダーメイドが主流となった.使用目的に応じ10秒で着脱で きるタイプと,粘着剤を使用し薄膜を頭皮に貼り付け約1ヶ月間着脱なしで使えるタイプがある.個人によって毛の太さや長さなどが違うためすべてオーダーメ イドである.
 またカツラとは別に増毛法がある.増毛法とは自分の髪の一本一本の根元に一本から数十本の人工毛髪を接着する方法である.一回千本増毛するのに通常5万 円,毛髪は毎月成長するので、人工毛を代えるため1カ月ごとに5万円かかることになる。増毛で間に合わない人はかつらになるが,かつらの平均価格帯は50 万円台で、3年から5年でかつらを替える必要があり,また修理などにも費用がかかる。かつらに使われる人工毛は形状記憶素材のため自然な毛流みであり,自 分でセットできるし,またシャンプーを使うことも出来る.
 さらに自分の後頭部の健康な毛髪と皮膚を一緒に採取し、薄くなった部分に移植する方法がある。髪がよみがえるが皮膚移植手術なので、高度な技術を必要と し費用は200万円から500万円である。また人工的につくられた毛を頭皮に植毛する方法もある.さらに最新の技術では,頭部の無毛の部分に通気性に優れ た極薄の特殊素材を使用し,自然な発毛と思わせる方法がある.
 現在,日本の男性薄毛人口は成人男性の2割で1000万人を超えている.特に 20歳代からの薄毛が増えているとされている.若者の多くは、洗髪、頭皮マッサージなどの育毛コースを利用するが,このコースが好評なのは人気タレントを 起用した明るいテレビCMで、ファッション感覚で来る若者が増えたせいである。育毛コースは髪が生えるわけでなく、髪の脱毛時期を遅らせるのが目的であ る.また紫外線、ヘアカラー、パーマなどで傷んだ髪や、もともと毛髪が細い髪質の改善を目的とした髪のエステもはやっている。髪が薄くなると育毛剤や養毛 剤を買い求めるが,最終的にカツラに行きつく人が多い。
 カツラはオーダーメイドで,長期間使用するため値段が高いことが難点である.カツラ使用男性は100万人以上とされ,たしかに街中では老人は増えたが,薄毛の男性を見ることは少なくなった.かつては大学でも頭髪の薄い学生がいたものだった.
 かつらは生活必需品なので不況とは関係なく、最近は若年の客が増加して業績をあげている。男性カツラは1000億円市場とされているが,かつら業界は口 コミで顧客が広がることは期待できず,広告宣伝が売り上げにつながっている.アートネイチャーがイメージキャラクターにさとう珠緒さんを起用したように, 宣伝がもっとも重要な企業戦略となっている.
 なおアデランスは、やけど、けが、放射線治療などによる脱毛で頭髪に障害がある200人の子供たちにオーダーメードのかつらをプレゼントする「愛のチャ リティキャンペーン」を毎年行っている.昭和40年に全国で初めて男性用かつらの事業を始めた阿久津三郎氏は肝不全のため平成7年7月19日,慶応大病院 で死去58歳であった.

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