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2010.02.14 03:30 |  開業 / 病院経営  |  スーさん  | 推薦数 : 1

ニチイ学館

ニチイ学館 スタッフ「乱造」で揺らぐ信頼

 景気の悪化や医療費削減政策が続き、病院経営は慢性的な赤字体質に陥っている。経費の約5割を占めるといわれる人件費の削減が、病院経営者の課題となっている中、急増しているのが医療事務の外部委託だ。民間病院の場合、医療事務の外部委託率は40%以上となっている。

  病院の業務にはさまざまな事務作業がつきもの。受付、会計、診断書や処方せんなどの文書作成、電子カルテなどの入力、診断に関するデータ管理など多種多様 な事務がある。こうした医療事務のアウトソーシングサービスを行っているニチイ学館(以下、ニチイ)は現在、全国の約11000の医療機関を顧客に抱え ている大手。

 ニチイは「医遼関連事業」(アウトソーシングサービスなど)、「ヘルスケア事業」(介護サービスなど)、「教育事業」(各種実務講座、資格取得講座)を3本柱に、医療関連とヘルスケアの人材を教育事業で育成するビジネスモデルを全国に展開している。

 2007年にコムスンの介護事業を継承後、業績が低迷していたが、合理化などによって経営改善を果たし、099月期中間決算では黒字に転換した。教育事業でも失業率の上昇や介護報酬の引き上げなどを背景に受講者が増えている。

不祥事で契約医療機関が離れる

  追い風が吹く中、「20103月期中間決算説明会」の資料には、「過去最高の売上高を更新」「営業利益の大幅改善」「キャッシュフローの大幅改善」とい う文字が躍る。ちなみに093月期の連結売上高は2136億円で、そのうち医療関連事業が約1013億円、ヘルスケア事業が約997億円と二分してい る。

 ただニチイにとってみれば、この中間決算だけで喜んでばかりもいら れない。093月期の医療関連事業の売上高は前年同期に比べて7.3% 減、営業利益は18%減という大幅な減収減益だったのだ。契約している医療機関離れが進み、これをつなぎ止めるために利益を削って契約を見直し、必死に営 業活動に努める姿がこの数字から浮かび上がってくる。

 減収減益の理由の一つは、078月に大きな不祥事が発覚したことだった。千葉県循環器病センター(市原市)から委託されていた医療用具の滅菌について、ニチイから派遣されていた契約社員がマニュアルで定められた有効期限を改ざんしていたのだ。

  この契約社員はメスなどを乗せるトレーや、ガーゼなどを入れる容器などの医療用具の滅菌をセンターの滅菌室で担当していた。だが、マニュアルに反して有効 期限を記さないまま滅菌した用具を保管し、用具の請求を受けた段階で日付を記入して渡していた。マニュアルでは滅菌後1週間の有効期限を記しておき、期限 を過ぎれば使っていなくても再度滅菌し直すと定められているが、担当者はその手間を省いたわけだ。

 「業務負担を減らそうと思った」と担当者は語っていたというが、単なる作業の手抜きなどという現場レベルの枝葉末節の問題ではなく、病院経営にもかかわる大きな問題だった。手術にダイレクトにかかわる医療器具が滅菌されない状態で使われた可能性があったからだ。

  例外もあるが、高度な滅菌状態が求められる手術で万一感染が起こった場合の影響を考えれば、医療機関としては看過できない。それがどういうレベルの感染で あろうと、間違いなく医療事故として処理されることになる。責任追及は医師や看護師に向かい、病院の管理体制が糾弾される。単なる派遣のスタッフの手抜き とは誰も思わない。

 そして、その先は医療裁判ということになる。現場の医師はもちろんだが、医療機関の経営者が現在最も怖れるのは医療事故による裁判である。莫大な裁判費用はかかるし、負ければ賠償金も巨額に上る。それ以前に病院としての信用も落ちて、患者の足が遠のくことは必至だ。

  この不祥事で医療事故が起こったわけではないが、こうした手抜きは医師や看護師には見抜けないということにも問題がある。医師や看護師がいちいち自分たち で滅菌処理をするわけではないし、それを担当する者がきちんと作業を行っていると信用して手術に入る。だから感染が起こっても、第一義的には医師や看護師 には責任はないのだが、誰もそうは思わないだろう。単なる書類仕事ではなく、患者の生命を委ねる手術にかかわる作業に「信頼」が置けないようでは、ニチイ にアウトソーシングして大丈夫なのか、という不安が医療機関の間に起こるのは当然だ。

即戦力性なき資格保有者

 しかも、「作業を軽減させようと思った」という担当者の動機に「さもありなん」とうなずく医療関係者は少なくない。実はニチイの派遣社員に対しては、さまざまな批判の声があるのだ。

  ニチイでは医療事務などの講座を設け、その資格を取った者を医療機関に派遣している。点数算定やレセプト点検、受付や会計といった医療事務の基本を学べば 2級の医療事務技能資格を得ることができる。ただ、資格といっても国家資格ではないため、医療機関にとっては参考程度にしかならない。

 しかし、資格取得者にとっては、医療事務という何やら華々しい資格であるように思うのだろう。採用する医療機関とニチイから派遣されるスタッフとの認識の違いは極めて大きい。資格取得者は意気揚々とした気分で送り込まれるが、病院側にとっては即戦力性のない人材である。

  医療事務は資格ではなく、いわば現場のスキルである。受付であったり、患者への対応であったり、大きな病院だったらカルテの出し入れだけの仕事だったり、 はっきり言えば雑用係。病院側にとっては医療事務の資格よりも、個人の適性が重要なのであって、現場の経験を重視する傾向が強い。患者とコミュニケーショ ンを取れる能力の方が重宝するのだ。

 しかし、ニチイは大手であるため、 2級医療事務技能資格取得に必要な6カ月の実務経験が免除されている。そ のため、ニチイで資格を取っても、右も左も分からないまま、いきなり病院に「放り込まれる」。こういう人材が即戦力として使えるわけがない。だから、病院 側の不満の声も大きくなる。

 医療事務の派遣社員側にとっても待遇は決し てよくない。資格を持っているといっても極論すれば雑用の資格だけに、高 い給料を払う病院は少ない。病院のヒエラルキーから言っても医療事務はずっと下の存在だ。病院というのは非常に特殊な階級社会である。医師が絶対君主とし て君臨し、看護師はその下、事務職員はさらにその下、下僕的な扱いをされることも多いという。

  給料は安い、仕事は雑多で忙しい、病院の人間関係 は複雑で難しいとなれば、辞めていく契約社員が多いのも当然だ。ウェブ上では「国家資格でもないのに受講料が高すぎる」「残業は月100時間、残業手当は もらえず、正社員でもボーナスゼロ」「給料が手取り10万円以下と割に合わない」などといった不満が書き込まれている。

スタッフを質より量で補う悪循環

 退職者を補うため、ニチイは資格取得者を大量に生み出し、数でカバーしている。その結果、人材の質はなおざりにされ、ニチイへの信頼性を揺るがしているのだ。

  0911月にも和歌山県内で、ニチイの介護施設の送迎用軽自動車の運転手が事故を起こし、乗っていたデイサービスを受けたお年寄り3人が死亡する事故が 起こった。運転していたのはニチイのパート従業員の女性で、「運転中に胸が苦しくなり、冷や汗をかき、それからの記憶ははっきりしない」と事故当時の状況 を語ったという。ニチイの定期健康診断では女性に異常はなかったというだけに、逆に不安感が増す事故だった。

  資格取得者の「粗製乱造」、即戦力 性のないスタッフの「放り込み」とも言える状況について、ニチイの広報本部広報部に取材を申し込んだところ、「回答を差し控えさせていただきたい」という メールが送られてきた。メールには「医療機関・介護施設で働くスタッフに関しましては、資格取得後も研修等で育成をしてきておりますが、今後も研修制度を 強化し、スタッフの育成に注力していきたいと考えております」と、当たり障りのない文章も付いていた。

  しかし、医療機関側も一気に取引停止というわけにはいかないのが悩ましいところ。経営的な理由から、いったん外部委託を行うと抜け出すことはできにくいという事情がある。医療機関が自ら職員を採 用して、一から教育する手間やコストを考えれば、ニチイとの契約を続けた方がはるかに安上がり。手っ取り早く安価な労働力を求める業務リストラをどの病院 も進めているから、今さらコストのかかる従来型の労務管理に戻すわけにはいかない。

  また、契約期間が長くなっていくと、病院側が表に出せない秘 密も握られることもある。幽霊患者による医療費の水増し、レセプトの付け忘れ、患者とのトラブル、病院経営者の私物化など、アウトソーシングによって持ちつ持たれつの関係になっていることも多い。ニチイの場合、大手でもありアウトソーシングを代替できる企業も少ない。医療機関にとっては今さら簡単に取引を 見直すことができにくいのが実情だ。

 ニチイの寺田明彦会長と寺田大輔社長はホームページのトップメッセージで「我が国の医療と介護分野を支える生活支援企業として、誰もが安心して暮らすことができる社会の実現に努めていきたいと考えています」と語っている。今のままでは、超高齢社会のあだ花にならないか。

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