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2010.01.13 18:21 |  医療事故  |  スーさん  | 推薦数 : 7

都立墨東病院妊婦死亡事件

都立墨東病院妊婦死亡事件


 平成20年10月22日、東京都江東区に住む妊婦(36)が7つの病院から受け入れを断られ、出産後に死亡していたことが報道されました。この妊婦は 10月4日の午後6時45分ごろに激しい頭痛、吐き気、下痢を訴え、かかりつけの「五の橋産婦人科(江東区)」に救急車で搬送されました。診察した医師は 緊急の対応が必要と考え、7時ごろ都立墨東病院に受け入れを要請、しかし都立墨東病院は「当直医が1人しかいないので、対応できない」と断ったのです。医 師は対応可能な病院を探しましたが、7つの病院に断られ、7時45分ごろ都立墨東病院に再び受け入れを要請。都立墨東病院の当直医は自宅にいる産婦人科部 長を呼び出し、対応となりました。8時18分、妊婦は都立墨東病院に到着。同9時30分ごろ帝王切開で赤ちゃんを出産、さらに30分後に脳出血の手術を行 いましたが、母親は3日後に死亡しました。医療が充実しているはずの東京都心で、このような痛ましい事件が起きたのです。


1. 総合周産期母子医療センターの医師不足
 都立墨東病院は「総合周産期母子医療センター」として東京都から指定を受けていました。周産期母子医療センターとは重症妊娠中毒症、切迫早産、胎児異常 などのハイリスクの妊婦と新生児の治療を24時間体制で行う高度な医療施設のことです。周産期母子医療センターの指定を受けているのは全国75病院で、ど のような重症の妊婦でも受け入れ可能なはずでした。しかしその指定を受けている都立墨東病院の産婦人科医は。常勤定数が9人ですが医師不足から4人しかお らず、妊婦が搬送された日の産婦人科医の当直医は1人だけ、しかも研修5年目の医師でした。産科医不足は都立墨東病院に限ったことではありません。全国の 周産期母子医療センターの休日当直の約半数が1人当直だったのです。


2. 受け入れ困難
 都立墨東病院の当直医はいったん受け入れを断りましが、専用端末で受け入れ可能な周産期母子医療センターを探し、妊婦がいる「五の橋産婦人科」に連絡していました。しかし救急隊が受け入れ可能な3病院に連絡をとると、3病院は受け入れを断ったのです。
 日赤医療センター(渋谷区)は救急患者の対応に追われ、順天堂大学病院(文京区)は2人の産科医が出産対応中であること、慈恵医大青戸病院(葛飾区)は 脳神経外科が不在、慶応大学病院(新宿区)は妊婦に下痢症状があったため、感染症に対応する個室が必要と判断、個室が満室だったので断りました。さらに日 大板橋病院(板橋区)、慈恵医大(港区)は新生児集中治療室が満床のため断ったのです。また翌日になり東大病院(文京区)も要請を断っていたことがわかり ました。妊産婦が頭痛を訴えた場合、産婦人科医は当然のこと、新生児に対応する小児科医、脳出血に対応する脳外科医が必要で、ベッドが満床であれば受け入 れは不可能です。このように救急医療の脆弱さが東京都心において露呈したのです。
 東京のような大都市部でも、1センター当たり年間約200件の妊婦の救急搬送を断っており、驚くことにあの聖路加国際病院は東京都から補助金をもらいな がら、救急搬送のすべてを断っていまいた。このように妊婦の搬送を断る理由の9割が、新生児集中治療室(NICU)の満床によるものでした。都内の NICUが満床に近いのは、1500グラム未満の極低出生体重児がこの10年間で約1.3倍に増加し、重い障害のため退院できない新生児が多いからです。 重症の新生児を扱うNICUは看護師1人当たり新生児3人までと配置が義務づけられ、小児科医不足、看護師不足から整備が遅れていたのです。
 いっぽう地方の周産期母子医療センターでは、すべての妊婦を受け入れています。地方の周産期母子医療センターは自分の病院が断れば、妊婦の行き場がない ため、無理にでも受け入れているのです。医療施設の多い都市では、最良の病院を選べる利点が欠点になり、医療施設の少ない地方都市では、最後の砦としてす べてを受け入れている。この違いをどのように評価すればよいのでしょうか。
3. 政治家の認識不足
 この事件に対し、舛添要一前厚労大臣は「週末に当直医が1人しかいない。これで重症の妊婦に対応する周産期医療センターといえるのか、東京都の医療体制 が悪い」と述べました。しかし石原慎太郎都知事は「医師不足が原因であり、東京に任せられないのではなく、国に任せられない。医師不足は国の責任」と反 論。そして舛添前厚労大臣はすぐに医師不足を認めました。つまり厚労大臣でさえ周産期母子医療センターの医師不足を知らなかったのです。さらに11月10 日、二階俊博前経済産業大臣は妊婦死亡事件に関し「医者のモラルの問題、忙しいだの、人が足りないだのというのは言い訳にすぎない」と発言しましたが、二 階前大臣は周産期母子医療センターの医師が年間1人100回当直していることを知っていたのでしょうか。さらに11月19日、医師不足についての見解を求 められた麻生太郎前総理は「医師は社会的常識がかなり欠落している人が多い」と発言しました。この発言は、医療現場で必死に働いている医師に対する最大の 侮辱です。国会議員と医師の犯罪率(逮捕率)を比較すれば、国会議員のほうが社会的常識に欠けている人が多いはずです。いずれにしても政権与党のトップが このような認識だったので、日本の医療はよくならないのです。


4. 救急医療システムの不備
 五の橋産婦人科の救急要請から都立墨東病院到着まで約1時間15分かかっており、「もう少し早ければ助かっていたかもしれない」とのコメントが報道の大 部分を占めていました。しかし東京都の統計では、救急要請から現場到着まで平均5分、救急車到着から病院到着まで平均45分かかっています。つまり今回の 搬送時間は通常より約30分遅れただけで、救急体制の改善を望むのであれば、病院到着まで平均45分かかっていることが問題です。脳出血の経過は発症直後 に決まるものです。搬送が30分遅れても脳出血による結果は避けられなかったと思います。
 救急医療システムの不備を指摘する声があります。救急医療システムとは「コンピュータ画面で受け入れ可能な病院は○、不可能な病院は×と表示されるシス テム」で、都立墨東病院の当直医はコンピュータ画面から受け入れ可能な3つの病院を五の橋産婦人科に伝えましたが、実際には受け入れ不可能でした。救急医 療システムが機能しなかったのは、刻々と変わる受け入れ態勢を入力する職員がいないほど、病院は人手不足だったからです。
5.医師の判断
 都立墨東病院の当直医(研修医)は、1人では対応できないと判断。他の病院を紹介しましたが、この判断は正しいと思われます。研修医1人では手術は困難 です。また下痢や嘔吐の症状から感染症を疑い、そのため専用端末で受け入れ可能な3つの救急病院を五の橋産婦人科に伝えていたのです。さらに他の病院が受 け入れ困難と知った当直医は、自宅にいる産科部長を呼び出し、最終的に患者を受け入れました。都立墨東病院の当直医は医師として最善を尽くしたと思いま す。


6. マスコミ報道
 マスコミは「救急病院をたらい回し、1時間で患者は死亡」、「受け入れ拒否」という表現を使いました。しかし本当は「受け入れ困難、受け入れ不可能」と 書くのが正しいのです。医師は助けたくても、手術中で対応できない、ベッドがないなど受け入れに余裕がなかったからです。このような事件が起きるとマスコ ミは「たらい回し」と表現しますが、それを読んだ読者は「ひどい病院だ」と医療不信に陥ります。しかし、たとえば博多のどんたくに突然行きたくなり、当 日、博多のホテルに電話をしても、空いているホテルなどありません。これをホテルのたらい回しと表現するでしょうか。なぜ病院だけをたらい回しと表現する のでしょうか。マスコミは人の不幸で売り上げを伸ばし、あるいは視聴率を上げるという営利的側面があります。都立墨東病院での記者会見では「断るなんて、 それでも医者か」と病院をつるし上げるような雰囲気でした。この事件で島崎修次杏林大教授(救急医学)は「都内には病院が多いので、他の病院をあてにして 受け入れ拒否が起こりやすい」とコメントを述べました。しかし皮肉なことに、この事件の1ヶ月前の9月、東京都調布市の妊婦(32)が片麻痺、嘔吐を訴 え、杏林大病院の「総合周産期母子医療センター」に搬送を要請。しかし手術中を理由に断られ、3時間後に25キロ離れた都立墨東病院に搬送されていたので す。
 妊婦は右半身の麻痺を訴えていました。この症状だけで脳出血と診断できたはずです。杏林大病院は事件が報道されると、「緊急性があると分かっていれば受 け入れていた」と述べましたが、手術中で対応できないのなら、正直に「対応困難だった」と答えればよかったのです。それとも手術を途中でやめて、対応する つもりだったのでしょうか。この調布市の妊婦は都立墨東病院で意識不明のままです。その杏林大学の教授が他人事のようなコメントを述べたわけですが、あま りに白々しく聞こえます。


7. 合併症としての脳出血
 平成18年8月、奈良県大淀町の大淀病院で妊婦(32)が急変、主治医は手当てが困難と判断、他の病院を探しましたが、奈良県立医大など18の病院から 断られ、19番目の病院が受け入れました。帝王切開で赤ちゃんは無事出産、しかし母親は脳出血で死亡という悲しい結果になりました。妊婦が痙攣で意識を 失った場合、妊娠中毒による子癇と診断するのがこれまでの常識でした。そのため診断が遅れたのです。妊婦が脳出血を発症する確率は0.002%以下で、死 亡率は13.7%とのデータがあります。しかしこのデータは過去のデータで、高齢出産が常識となっている現在では、その頻度はより高くなっています。産婦 人科医は妊婦の新たな合併症として脳出血を疑う必要があります。


8. 最大の教訓
 都立墨東病院で死亡した妊婦の夫(36)は、厚労省での記者会見で「だれをも責める気持ちはありません、裁判を起こすつもりもありません。赤ちゃんを安 心して産める社会にしてほしい。どうすれば安心して子供を産める社会を築けるかについて、医師、病院、都、国が力を合わせ改善してもらいたい。再発防止に 取り組んで頂くことを心からお願いします。妻の死を無駄にしないでほしい」と声を詰まらせながらコメントを述べました。さらに夫は「都立墨東病院の当直医 が傷ついて、病院を辞めて産科医が減ったら意味がありません。産科医としての人生をまっとうし、絶対に辞めないでほしい」と訴えました。ご主人の発言は立 派であり、感動させられました。このご主人こそが、この事件の本質を最も正しく理解していたのです。またマスコミによる医師バッシングを救ってくれたのも ご主人でした。彼の発言を最大の教訓として、赤ちゃんを安心して産める社会を築かなければいけないと思います。

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「医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か」を読んだ後、そういえば当時息子の出産を担当してくれた先生が、総合病院の医師不足について、墨東病院事件を例に問題提起をしていたなと思い出し、ググったら当ブログにあたりました。

ご主人の発言に、大変感動致した次第です。来るべき高齢化社会にむけ、治療費における国民負担を増やし、一刻もはやく医師不足を解消すべきだと切に思います。

しかし、当時の自民党大臣の発言には、あいた口がふさがりませんね。墨東病院の対応を非難したワイドショーもいかがなものかと思います。
written by nori_m / 2012.01.28 00:54

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