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銚子市立総合病院閉鎖
平成20年9月30日、千葉県銚子市民の健康を守ってきた銚子市立総合病院(393床)が、財政難と医師不足から58年の歴史に幕をとじました。病院に 入院していた患者は他の病院に転院を強いられ、外来患者は宛先名のない紹介状を渡され、遠くの病院へ通うことになりました。年間3万人が受診していた病院 を銚子市は廃止したのです。銚子市立総合病院の休止は、同年7月7日、岡野俊昭市長がその方針を発表し、8月22日の市議会で採決の結果、病院存続が 12、反対が13、わずか1票の差で閉院が決定したのです。
1.公約違反
元中学校校長の岡野俊昭市長は「市立総合病院を必ず残す」と公約して、平成18年の市長選挙で前市長を破り初当選。岡野俊昭氏が13235票、前市長の 野平匡邦氏が12756票、わずかの差の勝利でした。岡野市長が病院存続を公約にしなかったら、当選は困難だったことでしょう。公約違反は市長の市民に対 する裏切りで、政治家にとって公約違反は最大の罪です。岡野市長は病院閉鎖を決めましたが、銚子市では病院存続を求める4万6000人の署名が集められ、 12月21日、岡野市長のリコール(解職請求)に必要な有権者の3分の1を上回る2万5639人の署名が集まり、住民投票の結果市長は解任となりました。
2.市の財政危機
この数年、銚子市立総合病院は経営難におちいり、累積赤字は18億4000万円に達していました。医師不足から患者が減り、患者減少が収益減となり、経 営がさらに悪化する悪循環に陥ったのです。岡野市長は「市の一般会計から病院を救済する財源がなくなった」と述べましたが、自治体の財政は不明な点が多い のです。銚子市は平成20年に約70億円の借金で市立銚子高校を開校、平成16年には大学進学者が入学定員を下回る時代に、90億円以上を投入して千葉科 学大学を開校させ、さらに220億円をかけて銚子大橋の架け替え工事を行い、このことが銚子市の財政を悪化させ、病院への支援が限界になったのです。市民 にとって最も大切な医療を二の次、三の次にしたのです。岡野市長は夕張市を例に挙げ、「銚子市を救うのか、病院を救うのか」の選択を迫りました。しかし銚 子市の負債を夕張市の膨大な負債と比較することそのものが間違いで、「お金がないから病院を救済できないのではなく、お金はあるが病院には使いたくない」 が本音でした。病院の廃止により看護師や医師など200人以上の退職金、清算業務が発生し、新たに60億円が必要になりました。この金額は病院の累積赤字 の3倍以上になります。
2.医師不足の原因
銚子市立総合病院は日大医学部の関連病院で、常勤医35人中28人が日大医学部の出身でした。平成16年に新臨床研修制度が導入され、人手不足となった 日大医学部が医師を引き揚げ、このことが医師不足の原因と市は説明しました。しかし日大医学部の片山医学部長は「引き揚げたのではなく、銚子に行きたい医 師が見つからなかった。将来の展望がないと評判が立てば、誰も希望しなくなる。市の責任こそが問われるべき」と反論しました。銚子市立総合病院の佐藤博信 院長が3月の市議会で「市民の健康を守れない病院長は無能だ!」と批判を受け退職、さらに医師の給料を減らしたのです。医師の待遇改善に否定的な病院に医 師が集まるはずはありません。市長と議会は病院を大切にする意識が欠けていました。銚子市は医師給料を引き下げた後、32人いた医師が12人に減り、あわ てて給料を引き上げましたが遅すぎました。
3.自治体病院の給料と意識
自治体病院は民間病院に比べ医師の給料は安く、看護師や事務職員の給料は高くなっています。また「銚子市はヤミ給与発祥の都市」といわれるほど職員の給 料は高かったのです。平成18年の銚子市立総合病院の看護師の年収は614万円(平均41.9歳)、医療技術職678万円(平均43.1歳)でした。看護 師や事務職員の給料は民間病院より3割程度高かったのです。病院の支出に対する人件費の割合は、全国平均は55.5%ですが、銚子市立総合病院は 78.2% と飛び抜けていました。病院職員の給料は、市職員の給料と連動しているので、病院職員の給料は市の職員全体の給料に関わることになります。市職員の給料は 市議会の承諾が必要なので、市議会は労働組合と対立するよりは、病院をつぶしたほうが簡単と考えたのではないでしょうか。自治体病院の事務職員は数年で本 庁に戻るため、コスト意識、経営改善意識が低いのです。納入する薬剤や医療器具を値切ってもご褒美がないので、言い値で買ったほうが楽なのです。書類さえ 揃っていれば公務員としての責任は問われません。一般に自治体病院の薬剤や材料費は民間病院より10%高く、建設費は1.5倍高いとされています。銚子市 長も病院閉鎖の原因として公務員体質を述べました。しかし市長は、市のトップとして改善策を実行すべきなのに、そのトップが公務員体質を述べたというの は、自らの職務怠慢を公表したに等しいことです。
4.医療からの逃げす自治体体質
各地方自治体はそれぞれ自治体病院をもっていますが、その90%が赤字です。病院の赤字は各自治体の補助金で穴埋めとなるので、自治体の財政を悪化させ ることになります。銚子市に隣接した旭市にはベッド数956床の旭中央病院があります。銚子市は市立総合病院が閉院となっても、銚子市民は旭中央病院へ行 けばよいと考えたのでしょう。このように自治体にとってお荷物である病院を閉院し、隣の市町村の病院にお荷物を背負わせたほうが財政的に楽になるのです。 隣接する市町村が病院を閉院にする前に、自分たちの病院を閉鎖すれば、財政的に勝ち組になります。自治体の「病院から逃げるが勝ち」の現象で、この1年間 だけで26の自治体病院が閉院になっています。
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都立墨東病院妊婦死亡事件
平成20年10月22日、東京都江東区に住む妊婦(36)が7つの病院から受け入れを断られ、出産後に死亡していたことが報道されました。この妊婦は 10月4日の午後6時45分ごろに激しい頭痛、吐き気、下痢を訴え、かかりつけの「五の橋産婦人科(江東区)」に救急車で搬送されました。診察した医師は 緊急の対応が必要と考え、7時ごろ都立墨東病院に受け入れを要請、しかし都立墨東病院は「当直医が1人しかいないので、対応できない」と断ったのです。医 師は対応可能な病院を探しましたが、7つの病院に断られ、7時45分ごろ都立墨東病院に再び受け入れを要請。都立墨東病院の当直医は自宅にいる産婦人科部 長を呼び出し、対応となりました。8時18分、妊婦は都立墨東病院に到着。同9時30分ごろ帝王切開で赤ちゃんを出産、さらに30分後に脳出血の手術を行 いましたが、母親は3日後に死亡しました。医療が充実しているはずの東京都心で、このような痛ましい事件が起きたのです。
1. 総合周産期母子医療センターの医師不足
都立墨東病院は「総合周産期母子医療センター」として東京都から指定を受けていました。周産期母子医療センターとは重症妊娠中毒症、切迫早産、胎児異常 などのハイリスクの妊婦と新生児の治療を24時間体制で行う高度な医療施設のことです。周産期母子医療センターの指定を受けているのは全国75病院で、ど のような重症の妊婦でも受け入れ可能なはずでした。しかしその指定を受けている都立墨東病院の産婦人科医は。常勤定数が9人ですが医師不足から4人しかお らず、妊婦が搬送された日の産婦人科医の当直医は1人だけ、しかも研修5年目の医師でした。産科医不足は都立墨東病院に限ったことではありません。全国の 周産期母子医療センターの休日当直の約半数が1人当直だったのです。
2. 受け入れ困難
都立墨東病院の当直医はいったん受け入れを断りましが、専用端末で受け入れ可能な周産期母子医療センターを探し、妊婦がいる「五の橋産婦人科」に連絡していました。しかし救急隊が受け入れ可能な3病院に連絡をとると、3病院は受け入れを断ったのです。
日赤医療センター(渋谷区)は救急患者の対応に追われ、順天堂大学病院(文京区)は2人の産科医が出産対応中であること、慈恵医大青戸病院(葛飾区)は 脳神経外科が不在、慶応大学病院(新宿区)は妊婦に下痢症状があったため、感染症に対応する個室が必要と判断、個室が満室だったので断りました。さらに日 大板橋病院(板橋区)、慈恵医大(港区)は新生児集中治療室が満床のため断ったのです。また翌日になり東大病院(文京区)も要請を断っていたことがわかり ました。妊産婦が頭痛を訴えた場合、産婦人科医は当然のこと、新生児に対応する小児科医、脳出血に対応する脳外科医が必要で、ベッドが満床であれば受け入 れは不可能です。このように救急医療の脆弱さが東京都心において露呈したのです。
東京のような大都市部でも、1センター当たり年間約200件の妊婦の救急搬送を断っており、驚くことにあの聖路加国際病院は東京都から補助金をもらいな がら、救急搬送のすべてを断っていまいた。このように妊婦の搬送を断る理由の9割が、新生児集中治療室(NICU)の満床によるものでした。都内の NICUが満床に近いのは、1500グラム未満の極低出生体重児がこの10年間で約1.3倍に増加し、重い障害のため退院できない新生児が多いからです。 重症の新生児を扱うNICUは看護師1人当たり新生児3人までと配置が義務づけられ、小児科医不足、看護師不足から整備が遅れていたのです。
いっぽう地方の周産期母子医療センターでは、すべての妊婦を受け入れています。地方の周産期母子医療センターは自分の病院が断れば、妊婦の行き場がない ため、無理にでも受け入れているのです。医療施設の多い都市では、最良の病院を選べる利点が欠点になり、医療施設の少ない地方都市では、最後の砦としてす べてを受け入れている。この違いをどのように評価すればよいのでしょうか。
3. 政治家の認識不足
この事件に対し、舛添要一前厚労大臣は「週末に当直医が1人しかいない。これで重症の妊婦に対応する周産期医療センターといえるのか、東京都の医療体制 が悪い」と述べました。しかし石原慎太郎都知事は「医師不足が原因であり、東京に任せられないのではなく、国に任せられない。医師不足は国の責任」と反 論。そして舛添前厚労大臣はすぐに医師不足を認めました。つまり厚労大臣でさえ周産期母子医療センターの医師不足を知らなかったのです。さらに11月10 日、二階俊博前経済産業大臣は妊婦死亡事件に関し「医者のモラルの問題、忙しいだの、人が足りないだのというのは言い訳にすぎない」と発言しましたが、二 階前大臣は周産期母子医療センターの医師が年間1人100回当直していることを知っていたのでしょうか。さらに11月19日、医師不足についての見解を求 められた麻生太郎前総理は「医師は社会的常識がかなり欠落している人が多い」と発言しました。この発言は、医療現場で必死に働いている医師に対する最大の 侮辱です。国会議員と医師の犯罪率(逮捕率)を比較すれば、国会議員のほうが社会的常識に欠けている人が多いはずです。いずれにしても政権与党のトップが このような認識だったので、日本の医療はよくならないのです。
4. 救急医療システムの不備
五の橋産婦人科の救急要請から都立墨東病院到着まで約1時間15分かかっており、「もう少し早ければ助かっていたかもしれない」とのコメントが報道の大 部分を占めていました。しかし東京都の統計では、救急要請から現場到着まで平均5分、救急車到着から病院到着まで平均45分かかっています。つまり今回の 搬送時間は通常より約30分遅れただけで、救急体制の改善を望むのであれば、病院到着まで平均45分かかっていることが問題です。脳出血の経過は発症直後 に決まるものです。搬送が30分遅れても脳出血による結果は避けられなかったと思います。
救急医療システムの不備を指摘する声があります。救急医療システムとは「コンピュータ画面で受け入れ可能な病院は○、不可能な病院は×と表示されるシス テム」で、都立墨東病院の当直医はコンピュータ画面から受け入れ可能な3つの病院を五の橋産婦人科に伝えましたが、実際には受け入れ不可能でした。救急医 療システムが機能しなかったのは、刻々と変わる受け入れ態勢を入力する職員がいないほど、病院は人手不足だったからです。
5.医師の判断
都立墨東病院の当直医(研修医)は、1人では対応できないと判断。他の病院を紹介しましたが、この判断は正しいと思われます。研修医1人では手術は困難 です。また下痢や嘔吐の症状から感染症を疑い、そのため専用端末で受け入れ可能な3つの救急病院を五の橋産婦人科に伝えていたのです。さらに他の病院が受 け入れ困難と知った当直医は、自宅にいる産科部長を呼び出し、最終的に患者を受け入れました。都立墨東病院の当直医は医師として最善を尽くしたと思いま す。
6. マスコミ報道
マスコミは「救急病院をたらい回し、1時間で患者は死亡」、「受け入れ拒否」という表現を使いました。しかし本当は「受け入れ困難、受け入れ不可能」と 書くのが正しいのです。医師は助けたくても、手術中で対応できない、ベッドがないなど受け入れに余裕がなかったからです。このような事件が起きるとマスコ ミは「たらい回し」と表現しますが、それを読んだ読者は「ひどい病院だ」と医療不信に陥ります。しかし、たとえば博多のどんたくに突然行きたくなり、当 日、博多のホテルに電話をしても、空いているホテルなどありません。これをホテルのたらい回しと表現するでしょうか。なぜ病院だけをたらい回しと表現する のでしょうか。マスコミは人の不幸で売り上げを伸ばし、あるいは視聴率を上げるという営利的側面があります。都立墨東病院での記者会見では「断るなんて、 それでも医者か」と病院をつるし上げるような雰囲気でした。この事件で島崎修次杏林大教授(救急医学)は「都内には病院が多いので、他の病院をあてにして 受け入れ拒否が起こりやすい」とコメントを述べました。しかし皮肉なことに、この事件の1ヶ月前の9月、東京都調布市の妊婦(32)が片麻痺、嘔吐を訴 え、杏林大病院の「総合周産期母子医療センター」に搬送を要請。しかし手術中を理由に断られ、3時間後に25キロ離れた都立墨東病院に搬送されていたので す。
妊婦は右半身の麻痺を訴えていました。この症状だけで脳出血と診断できたはずです。杏林大病院は事件が報道されると、「緊急性があると分かっていれば受 け入れていた」と述べましたが、手術中で対応できないのなら、正直に「対応困難だった」と答えればよかったのです。それとも手術を途中でやめて、対応する つもりだったのでしょうか。この調布市の妊婦は都立墨東病院で意識不明のままです。その杏林大学の教授が他人事のようなコメントを述べたわけですが、あま りに白々しく聞こえます。
7. 合併症としての脳出血
平成18年8月、奈良県大淀町の大淀病院で妊婦(32)が急変、主治医は手当てが困難と判断、他の病院を探しましたが、奈良県立医大など18の病院から 断られ、19番目の病院が受け入れました。帝王切開で赤ちゃんは無事出産、しかし母親は脳出血で死亡という悲しい結果になりました。妊婦が痙攣で意識を 失った場合、妊娠中毒による子癇と診断するのがこれまでの常識でした。そのため診断が遅れたのです。妊婦が脳出血を発症する確率は0.002%以下で、死 亡率は13.7%とのデータがあります。しかしこのデータは過去のデータで、高齢出産が常識となっている現在では、その頻度はより高くなっています。産婦 人科医は妊婦の新たな合併症として脳出血を疑う必要があります。
8. 最大の教訓
都立墨東病院で死亡した妊婦の夫(36)は、厚労省での記者会見で「だれをも責める気持ちはありません、裁判を起こすつもりもありません。赤ちゃんを安 心して産める社会にしてほしい。どうすれば安心して子供を産める社会を築けるかについて、医師、病院、都、国が力を合わせ改善してもらいたい。再発防止に 取り組んで頂くことを心からお願いします。妻の死を無駄にしないでほしい」と声を詰まらせながらコメントを述べました。さらに夫は「都立墨東病院の当直医 が傷ついて、病院を辞めて産科医が減ったら意味がありません。産科医としての人生をまっとうし、絶対に辞めないでほしい」と訴えました。ご主人の発言は立 派であり、感動させられました。このご主人こそが、この事件の本質を最も正しく理解していたのです。またマスコミによる医師バッシングを救ってくれたのも ご主人でした。彼の発言を最大の教訓として、赤ちゃんを安心して産める社会を築かなければいけないと思います。
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医は算術でないことを忘れるな
かつて「医は仁術」と高尚に捉えられ、「医は算術」という言葉は軽蔑されてきた。しかしこの10数年は、「医は算術」が跋扈し、「算術のできない病院は 廃院しなさい」と国全体が毒されてきた。政府、官僚、提灯持ち学者、経済界、彼らはそろいも揃って、医を算術と捉え、効率化の名のもとに医療を破壊してき た。医療における効率化は儲けを第一とする営利主義である。診察に1人10分かかるのを、診察料が同じなら5分にすれば2倍儲かる。さらに必要のない検査 をやって儲ける、逆にDPC(包括医療)ではなるべく検査をしないで、中途半端な治療で患者に退院を迫る。救急や小児科は不採算だから止めてしまう。この ように医療のすべてが算術となり、効率化は医師と患者と会話を減らし、医療の信頼性は地に落ちてしまった。暖かな医療、親身な医療を破壊したのが医療の効 率化である。また7割の病院が赤字なのは、赤字になるように診療報酬が低く設定されているからで、10年前の診療報酬に戻すだけで多くの病院は黒字にな る。これほど簡単な改善策がなぜわからないのか。医療経営者なら誰でも知っているはずなのに、診療報酬を元に戻せとは誰も言わない。小学生が高校生になっ たのに、小遣いを下げられ、小さな服のままで、「それがいやなら家を出て行きなさい」、このような鬼のような行政になぜ反対しないのか。総務省は経営効率 化を旗印に自治体病院を廃院に追い込んでいるが、医療を経済で考えること自体が間違っている。医は仁術であり算術でないことを大声で叫びたい。世のお偉方 が全人的医療などと言うのならば、それを阻害している厚労相の前でハンストでもやるがよい。それが出来ないなら、二枚舌医学教育者と言われて反論できるだ ろうか。
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情と法律
妻が腹痛を起こし、胆石の診断で大学病院に入院となった。もちろん私の誤診であったが、妻はもともと私の診断能力を信じていないことが幸いした。近医で超音波検査を受け、手術のため神奈川県の某大学病院に入院、手術は無事に終わった。
手術翌日のことである。見舞いの帰り、その日は冷たい雨が降っていた。タクシー乗り場にはすでに3人の老婆が闇夜に立っていて、私は4番目だった。そし てやっとタクシーが来たと思ったら、後ろにいた集団がタクシーに割り込んできた。彼らは携帯電話でタクシーを呼び出していたのである。多分、病院の職員な のであろう。このタクシー乗り場での「呼び出しタクシー割り込み」が3回続き、ついに私の脳ミソはブチ切れた。
タクシーに乗ろうとする若者を引きずり出すと、「お前ら、何のつもりだ。雨に震えるあの婆さんたちが見えないのか」。多分、血圧は200以上、相当の迫力だったのだろう。おびえた若者はタクシーを譲ってくれた。私は3人の老婆を後部座席に乗せ駅まで送ることになった。
はたして私の行動は間違っていたのだろうか。法的には間違いであろう。もし訴えられれば、もしケンカになっていたら、私は罪人、病院はクビになっていた だろう。しかし法律よりは人情である。もし批判する者がいれば、堂々と責任を取ればよい。法律よりは人間の情、自分の良心に従うべきである。あの3人の老 婆もきっと私の行動に小さな声援を送ってくれたことだろう。
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くさい飯
刑務所に入ったことのある患者に「刑務所はくさい飯でつらかっただろう」と聞いてみました。すると患者は「病院の食事時より刑務所の方がおいしいです よ、麦飯は仕方ないにしても、麦飯は健康には1番ですから、糖尿病などは一発で治りますよ」と妙なことを自慢げに言い出したのです。そこで調べてみると、 刑務所一食の材料費は393円から423円で、料理の得意な服役者が作り、配膳も服役者ですから人件費、光熱費はゼロ円です。いっぽう病院の食事は一食 640円ですが人件費が含まれているので材料費は250円になります。また学校給食の一食の材料費は292円で人件費は別会計ですから、たしかに食事のお いしさは、刑務所、学校給食、病院の順になるのです。
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