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< 奈良の産婦人科医 | メイン | 医師の超勤手当 >

奈良の産婦人科医2

Dr. I / 2006.10.22 01:20 / 推薦数 : 11

奈良県の産婦人科学会から、今回の件に関して、声明がでましたね。

産婦人科医会主治医ミスなし」 奈良・妊婦死亡

奈良県大淀町の町立大淀病院で8月、
分娩(ぶんべん)中に重体となった妊婦(当時32)が
県内外の19病院に搬送を断られ、
出産後に死亡した問題について、同県医師会産婦人科医会
(約150人)は19日、同県橿原市内で臨時理事会を開き、
主治医判断や処置にミスはなかった」と結論づけた。

妊婦は脳内出血を起こし、意識不明となったが、
主治医らは妊娠中毒症の妊婦が分娩中にけいれんを起こす
子癇(しかん)」と診断し、CT(コンピューター断層撮影)
検査をしなかったとされる。

理事会後、記者会見した同医会の平野貞治会長は
「失神とけいれんは、子癇でも脳内出血でも起こる症状で、
見分けるのは困難。
妊婦の最高血圧が高かったこともあり、子癇と考えるのが普通だ」
と説明。「CTを撮らなかったのは妊婦の搬送を優先したためで、
出席した理事らは『自分も同じ診断をする』と話している」とも述べた。

県警が業務上過失致死容疑で捜査を始めた点については、
「このようなケースで警察に呼ばれるのなら、
重症の妊婦の引き受け手がなくなってしまう」と懸念を示した。

参考:ある産婦人科医のひとりごと:産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡で県産婦人科医会 (朝日新聞)


素早い対応だったと思います。
前回の記事「奈良の産婦人科医」で書いた、私の推測が、
医学的にもほぼ正しかったという事になりますかね。
専門でないので、自信はなかったんですけどね。

と、すると今回の件は、搬送先が決まるまでに時間がかかった
という事が問題になりますね。

前回も書きましたが、出産間近の妊婦で、意識消失があり、
重症の子癇もしくは脳出血が疑われる症例ですから。
受け入れ先の病院の条件として、

ICU(集中治療室)+NICU(小児の救急治療室)
+産婦人科医2人+小児科医麻酔科医
+手術室の看護師3,4人 +脳外科医2人

この条件を夜中の2時、3時に満たす病院という事になります。

そして、こういう条件を満たす病院は数少ないので、
受け入れ拒絶、拒否」ではなくて、「受け入れ不可能」であるんですね。

では、なぜそうなったかという原因ですが。

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1,医師の人数の問題

産婦人科医2人+小児科医麻酔科医脳外科医2人の医師が必要なんですから。
最低6人の医師が、夜中に緊急で来ることができる病院です。
という事は、それぞれの医師が1人、2人であれば、24時間365日
これだけの人員を確保できる訳がありませんから。
最低でも、それぞれの科で、この2倍、3倍かそれ以上の医師が必要という事になります。

これに関しては、さんざんこのブログでも書いてきた、
医師不足」の問題になります。
さんざん医師不足って言っているのに、厚生労働省医師偏在と言って、
過去の政策の間違いを認めず医師数を削減する政策を取ってきたから、
こういう事が起こったと言っても、過言ではないでしょう。

2,施設の問題

ICU+NICUがある病院って事になりますね。
しかも、それぞれに空きがなければ受けられません。

普通の病院では、看護師の数は10:1看護といって、
ベッド数10に対して、看護師1人が必要になります。
今回、改正になって7:1看護だと診療報酬が上乗せされるようになりましたけどね。

で、集中治療室の場合は、これが2:1看護になります。
要はベッド数2に対して看護師1人が必要って事です。
ベッド数10なら3交代制として、5x3人
もちろん15人しかいなかったら、交代交代とはいえ、
全員365日休みなしですから。
最低でも25~30人位看護師は必要って事になります。
ICUNICUそれぞれって事には、必ずしもならないとは思いますがね。
看護師不足の問題にもなってきますね。

そして、満床だと、新規の患者は受け入れられないんですよね。
ベッドが空いてないのに、患者を受け入れられるわけないですから。

ちょっと前は、満床でもなんとかやりくりして、患者の命を救うために
無理して
受け入れていた病院もあるんですがね。
今、厚生労働省は、病床数を減らそうとしているので。

満床を超える入院患者を抱えた病院には罰(減額)措置があるんですよ。
一時的にでも、満床を越えると、厳しーく厚生労働省から指導が入ります。

それなら、「じゃ、ベッドを空けていたら良いんじゃないか」
って話になりますが。

それも、なかなか難しくなっています。
厚生労働省医療費削減の方針で、診療報酬が徐々に下げられていますから
各病院とも、常に満床に近い状態でないと、赤字になってしまうんですよ。
だから、いつも満床に近い状態でも、病院側から見たら、
やむを得ないって事になると思います。

これも、行政、厚労省が悪いって事になりますかね。

3,医療訴訟の問題

これは昨今のマスコミによる医者叩きが関係していますかね。
最近、専門じゃないから助けられなかった。
もっと早く専門病院に送ったら、助けられたかもしれないのに。
という事で、医師が叩かれているので。
病院も患者を受け入れにくくなっている、という面もあると思います。

自分の病院では
ICU(集中治療室)+NICU(小児の救急治療室)
+産婦人科医2人+小児科医麻酔科医
+手術室の看護師3,4人 +脳外科医2人
までの設備、人員はないがベッドは空いているので、
なんとか受け入れることは可能かもしれない。
でも、助かる見込みは少ない
となると、昔は患者を助ける為になんとか受け入れていたかもしれませんが。
今は、「能力がないのに受け入れたから助けられなかった。」と
マスコミに責められる時代ですから。
受け入れに躊躇するのも当然だと思います。

しかし、病院としては必要な設備が整っていなくて、
他の施設に送った方が助かる可能性は高い、
と判断したのですから。
それが間違いではないと思いますし、責められるべきでもないと思います。

受け入れられるのに受け入れなかった、「受け入れ拒否」ではなく、
受け入れる人材、施設がなかったので、
受け入れる能力がなかった」という事ですから。

4,システムの問題

病院同士の連携の問題と言っても良いかもしれませんね。

個々の病院が、どういう患者がいたら、まずどこに送るとか。
ルールを決めるとか、そういう事もできなくはないんですが。
これを、個々の病院の問題にすり替えるのは、どうかと思います。

それぞれの地域全体で、もしくはでそういうシステムを作らないと、
また同じ事が起こると思います。

例えば、インターネットで、どこの病院ベッドが空いているか
どの病院医者が何人いて、ICU,NICU等の設備があるのか。
そういうのを、リアルタイムで全ての病院で見る事ができるシステムとかですかね。

実現には時間がかかると思いますが。
こんなシステムがあれば、素敵ですね。

是非このシステムを導入する時は、厚労省の天下り先の特殊法人からではなく、
競争入札を行って、民間企業に作ってもらいたいですね。


結局、今回の件で問題になるの主治医産科医個人ではなく、
厚労省医療行政って事になると思うんですがね。
それを、医者個人の責任にしようとしてますよね、明らかに。

行政責任にしてしまうと、その原因をなくすために、
また医療費がかかるから、医者個人の責任にしよう。
そういう圧力政府からマスコミにでもかかっているんですかね。
そう考えでもしないとおかしいくらい、各マスコミ
間違った方向で一致していますよね。

医師不足に関しては、厚労省が「医療費亡国論」って、
20年以上前の間違った理論に固執して、医師削減を勧めているので。

厚労省政策の間違いを認めて、OECD平均になる位までは、
医師の数を増やす政策に方針転換する。

施設に関しては、空きベッドがないと急患を受け入れられない訳ですから。
3次救急をやっている大きな病院は、急患受け入れの為に、
いくつかベッドを敢えて空けて貰う。
その為に、空きベッドを作った病院には、それに応じて補助金を出すとか。

急患の命を助ける為に、一時的に患者を受け入れて満床を越えても
罰則を与えるのではなく、むしろそうした場合には、報奨金を出す
とか。

そういった、行政側の対応

医療訴訟を増やさない為に、萎縮医療をなくすために、
マスコミは仮説だけで、悪くもない医師の個人攻撃を止めるとか。

病院間の連携を取るために、地域毎にネットワークを作るとか。

そういった、根本的な解決策をとらなければ、
間違いなく、また同じ様な事は起きると思います

大事なのは、1人の医者をいじめることではなくて、
今後似たような事を起こさないようにする事のはずです。


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当夜の当直は外科系は整形外科医、内科系は内科医、産婦人科は奈良医大から派遣の当直医。
患者さんは午前0時に頭痛を訴えて失神、ただ痛みに対する反応(顔をしかめる)はあった。産婦人科当直医は念のため内科当直医に対診を依頼、内科医は「陣痛による失神でし ょう、経過を見ましょう」ということになった。しかしその後強直性の痙攣発作が出現し、血圧も収縮期が200mmHgになったので、子癇発作と判断、マグネゾールを投与し ながら産婦人科部長に連絡した。部長は午前1時37分、連絡してから約15分程で病院に到着。以後二人で治療にあたったが、状態が改善みられないため、午前1時50分、母 体搬送の決断を下し、奈良医大へ電話連絡を始めた。
written by 痴呆医師:真実1 / 2006.10.22 01:45
午前2時30分、産婦人科部長が家族に状況を説明、そのあいだにも大淀病院の当直医や奈良医大の当直医は大阪府をふくめて心当たりの病院に受け入れ依頼の電話をかけつづけ た。家族はここで「ベビーはあきらめるので、なんとか母体をたすけてほしい。ICUだけがある病院でもいい」と言ったので、NICUを持たない病院にまで搬送先の候補をひ ろげ、電話連絡をとろうとした。家族も消防署の知り合いを通じ、大阪府下の心当たりの病院に連絡をとって、受け入れを依頼した。この頃には産科病棟婦長(助産師)も来院、 手伝いはじめてくれた。大淀病院看護師OGで患者さんの親戚も来院し、多くの人が集まり始めた。けれども受け入れてくれる施設が見つからない。担当医は当直室(仮眠室)か ら絶望的な気分になりながら電話をかけ続けたし、大学の当直医は大学の救命救急部門にまで交渉に行ったが子癇は産婦人科の担当で、我々は対処できないと言うことで受け入れ 拒否された。午前4時30分、呼吸困難となり、内科医が挿管したが、その後自発呼吸ももどり、サチュレーションは98%と回復した。その後すぐに国立循環器病センターが受 け入れOKと連絡してきたので、直ちに救急車で搬送した。患者さんは循セン到着後CT検査等で脳内出血と診断され、直ちに帝王切開術と開頭術をうけたが、生児は得られたも のの脳出血部位が深く、結局意識が戻らないまま術後8日目の8月16日死亡された。

written by 痴呆医師:真実1 / 2006.10.22 01:46
こんばんは

>大事なのは、1人の医者をいじめることではなくて、
今後似たような事を起こさないようにする事のはずです。

全く同感です。トラックバックさせていただきました。
written by いなか小児科医 / 2006.10.22 17:56
はじめまして。安曇野の住人、azumineseです。いつも興味深く拝見しています。今回の奈良の出来事、関心を持って見つめています。私は、小児病院に併設された総合母子周産期センターのある病院に勤務しております(外科系の診療部長です)。今回のような患者が生じた場合、残念ながら、総合母子周産期センターを備えていても、当院では対応不能です。児には対応できていても、母体には対応不可能です。総合母子周産期センターと呼ばれていても、医療を完結できないことを残念に思います。現状を責められても、どうにもなりません。母体にも対応できるシステムの構築が緊急の課題であると痛感しました。
written by azuminese / 2006.10.22 22:03
>痴呆医師:真実1先生
あ、これブログへの転載の許可を取ってから、ブログに書こうと思っていたんですよ。
今度、もうちょっと整理した物を書きますね。
ありがとうございました。

written by Dr. I / 2006.10.22 23:45
>いなか小児科医 先生
そうなんですよ。
マスコミは視聴率さえ取れれば、それで良いのかもしれませんけどね。
お気楽でよいですね。
written by Dr. I / 2006.10.22 23:46
> azuminese先生
はじめまして。

そうでしょうねー。
結局システムの問題のはずなんですけどねー。
医師個人に責任を押しつけても、何の解決にもならないんですけどねー。
written by Dr. I / 2006.10.22 23:48
Dr.I様。やはりこの事件も、センセーショナルにまず医師叩きが先行して、事実が後から出てくる感じです。マスコミの報道姿勢はまだ治療困難なようです。で、神経内科医の私としては、脳出血の部位とサイズの情報がないと判断に困ることが多々あります。少なくとも脳の深部らしいという報道は見たことがあるのですが、正しいのかな?。また、あくまで一般論ですが、意識不明になるような出血で脳深部となると、これはかなり予後が悪いと思います。発症直後に治療を開始できたらまだしも、ある程度時間がたつと、手術不能、ただ見守るしかない、と判断される可能性が大きいです。もし、手術を強行するとなると、深部ですから健常な脳組織にも傷を付け、後遺症が大きいと推測されます。脳室への穿破のあるなしでも相当予後に影響します。仮に1時間ほどで搬送先が見つかり手術しても寝たきり状態以上には改善しないかもしれません。以上はあくまで憶測ですが、要は正しい情報なしに論じても無意味という感じがします。根本原因は医師不足、医療費削減にあることは、現場の医師なら誰でも納得できると思います。また、参考にさせていただきます。
written by Doctor Takechan / 2006.10.23 00:36
TB, Commentありがとうございます.
TBさせていただきました.
産婦人科学会のコメントは,当事者にはありがたいですね.大淀病院の院長先生にもありがたいコメントを頂きたいものです.
頭部CTを撮らなかった事と,生命予後とは関係がなかったかもしれないし,転送先の病院の選択がすぐ国循や阪大になったかもしれず,機能予後はともかくとして植物状態でも命だけは,助かったかもしれません.
亡くなられた患者さんやご遺族にとって長い目でどちらがHappyかは,難しい問題です.
医療裁判は,頭の悪いロボットみたいな判決しか出てこない可能性が高いので,
ご遺族も周りの自己本位なノイズに混乱されることなく,裁判じゃない手段で,解決して頂きたいですね.亡くなられた,患者さんが,安らかに永眠できるように.
written by F / 2006.10.23 02:54
>Doctor Takechan先生
ちょっと詳細な情報が入りそうなので。
一応おおざっぱにはわかっているんですが、不明な点が何点かあるので。
そこらへんがわかり次第、ブログにアップしますね。

少なくとも、この患者が元気になるって事はあり得ないと思いますけどね。
どんなに早く他の病院に送っても、良くて植物人間とかだと思いますね。
written by Dr. I / 2006.10.23 22:34
>F先生。
TBありがとうございます。
あの院長を見ていると。
今度の就職する病院を決めるときは、院長がどんな人かまで見ないと、就職できないですねー。

詳細がわかれば、今回の件は少なくとも医師に過失がないってなると思っているんですけどねー、私は。
でも、裁判にはなって欲しくないですね。

written by Dr. I / 2006.10.23 22:37

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