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 先回までに、アトピー性皮膚炎におけるステロイド依存、すなわち「リバウンド」というのは、ステロイドが表皮細胞のJAG1を抑えるために、Jagged1→Notch pathwayを通して、ほかの表皮細胞へのTSLP産生抑制が外れることが関係しているのだろう、という私の考えを説明しました。
 それでは、TSLPが活性化すれば、それは即「リバウンド」なのでしょうか?わたしは、そういうことではないと思います。
 マウスを使った実験ですが、ビタミンD投与が表皮細胞のTSLPを活性化させる、という実験結果があります。 
  
Topical vitamin D3 and low-calcemic analogs induce thymic stromal lymphopoietin in mouse keratinocytes and trigger an atopic dermatitis 
Mei Li et al.; PNAS August 1, 2006 vol. 103 no. 31 11736-11741  
http://www.pnas.org/content/103/31/11736.full.pdf+html


 これは、ビタミンDが「リバウンド」を引き起こす、ということなのでしょうか?そうではないです。今回は、そのあたりについての私の現時点での考えを解説します。
 
 まず、基本的なところから整理します。副腎皮質ステロイドの作用機序についてです。
 きれいな図があったので、借用します。
  
  
 ステロイド(Corticosteroid)は細胞膜(Cell membrane)を通って細胞質(Cytoplasm)内に入り、ここでレセプターと結合します(Glucocorticoid Recepter Complex)。これは核(Nucleus)内に入り、
 1)NF-κBと結合します。NF-κBは、炎症反応を引き起こす遺伝子(Inflamatory Gene)に結合して炎症性サイトカイン産生に働く蛋白質なので、ステロイドがNF-κBに結合してこれを不活化するということは、炎症性サイトカイン産生抑制に働きます(Inhibition of Cytokine synthesis)。(NF-κBデコイは、この経路に働くわけです、参考までに。)
 2)ステロイドとレセプターの結合物は、IκBα遺伝子に結合して、この産生を促進します。IκBαは、細胞質内で、NF-κBと結合してこれを不活化する蛋白質なので、こちらの経路からも、ステロイドはNF-κB抑制、すなわち炎症反応の沈静化へと作用します。
 
 これらは、ステロイドに対する、一個の細胞内での出来事である、という点に注目ください。ステロイドが作用すれば、ONになりますが、ステロイドがいなくなると、速やかにOFFになります
 
 一方、ステロイドによるJAG1抑制→Jaged1・Notch抑制→TSLP活性化というのは、複数の細胞間の反応です。
 
    
 複数の細胞間の反応ですから、時差(タイムラグ)が生じます。ステロイドを作用させても、すぐにはTSLPの産生は起きないだろうし、ステロイドがいなくなっても、すぐにはTSLPの産生は低下しないでしょう。
 ステロイド使用前、使用中、中止後(リバウンド)の三枚の図で説明します。 
   
 ステロイド使用前は、TSLPは抑制されています。 
 
 
 ステロイド使用中は、JAG1が抑えられた結果、TSLPが活性化していますが、その先のランゲルハンス細胞(アトピー性皮膚炎の病勢のマーカーと言われるTARCを産生する)を見てみると、これまたステロイドで抑えられています。この抑制は、ステロイドのランゲルハンス細胞への直接作用です。TSLPのような細胞間の間接作用ではありません。
  
 
 ステロイド中止後、「リバウンド」の状態というのは、ステロイドがいなくなったあとで、TSLPが抑制されるまでに、時差があるために起こるのだと私は考えます。ランゲルハンス細胞へのステロイドの作用は直接作用なので、ステロイドがいなくなったあとはすぐに解除さます。そして間接作用のためすぐには低下しないTSLPに反応してTARCを産生します。
 表題の問いに答えるならば、リバウンドとは時差(タイムラグ)ですステロイドのリバウンドがきついのは、ステロイドに同時に「炎症を抑える」という作用があるためです。  
 
 最初に記した、ビタミンDのTSLP発現作用は、ビタミンDがビタミンDレセプターに結合して、TSLP遺伝子の発現を促すという「直接作用」です。複数細胞間作用と異なり、ONとOFFがはっきりしています。ですから、この場合は「リバウンド」は生じません。時差が生じないからです。
 
 ところで、ビタミンDについては、以前、「ステロイド外用剤の副作用を軽減するようだ」という論文を紹介しました(→こちら)。傷害された表皮バリア機能を修復し、抗菌ペプチドの産生を促すからです。その一方、上記論文からは、TSLPを上昇させるというデメリットもあるということになります。 
 疫学的な調査では、ビタミンDは、アレルギー疾患を増やす、という結果と、減らす(予防になる)という結果の両方が出ているようです(疫学調査というのは、一定の率(危険率)で誤った結果の可能性がある、ということを前提とした話なので、相反した調査結果が出ていても、おかしな話ではありません)。
 たしか、ボンアルファ軟膏(乾癬用のビタミンD軟膏)が出た当時、これをアトピー性皮膚炎の患者に使ってみたという学会発表があったと思うのですが、それでアトピー性皮膚炎が悪化したという話は無かったです。良くなったという話も聞いたことないですが。
 ビタミンDが有用かどうかは、1)ステロイドで脆弱化した表皮バリアや抗菌力の回復に働く、というメリットと、2)表皮細胞に直接作用してTSLPを増やす、というデメリット、とを天秤にかけることになると思います。ちょっと難しい判断なので、何かほかの情報を見つけるまで保留とさせてください。 
 少なくとも、海水浴療法など、日焼けさせて結果としてビタミンDの産生を促すような治療が存在する以上は、ビタミンDがアトピー性皮膚炎にそれほど悪く作用するということは無いような気はしますが・・。 
 しかし、ひょっとしたら気がつかれていないだけで、海水浴療法で、皮膚(アトピー性皮膚炎)は良くなったけれども、そのあと喘息に移行したというような例が、意外と隠れているのかもしれません・・。うーん、そんな話聞いたこと無いけどあるのかなあ・・。
 
 一応、現時点でのビタミンDについての評価は、「皮膚炎以外にアレルギー素因(家族歴や既往)がない、すなわち、表皮バリアが生来的に弱くて皮膚炎を起こしているようなタイプにおいて、ステロイドと併用するとリバウンド(依存)予防に有用だろう」ということになろうかと思います。①喘息の家族歴や既往がある場合、②リバウンドの最中には、使用しないほうが無難かもしれません。
 
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