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医者なら誰でも、「もし他人に職業を聞かれたらどう応えようか?」と迷ったことがあると思います。別に隠すことはないのでしょうが、医者だと分ると急にいろいろと健康相談をされることもあれば、誰かが倒れたときに手当てをせざるを得ない状況になってしまうこともあるでしょう。
法的には街で倒れた人を助ける義務は皆無なのですが、倫理的には何とかしないと、と思ってしまうのが医者です。アメリカでは州によって多少異なりますが、助ける義務はないが、助けて失敗してしまうと急に法的責任を取らされることがあります。多くの州では、グッド・サマタリアン法によって善意で救急患者さんを援助した場合、例え過誤を起こしても法律によって守られています。ただ、そのような法律がない州および明らかな過誤ならやはり法的責任、といった州では、「出来れば関わりたくない」という医者がいても当然といえば当然だとは思います。
さて、前置きがいつものように長くなりましたが、以前、旅行でワシントンンDCを訪れていた際のタクシー内での出来事です。
空港で拾ったタクシーの運転手さんは、中近東、確かパキスタンからの移民で、50代の男でした。何故か海賊のように片目を黒いパッチで隠しており、ちょっと嫌な予感がしたので、「あれ、目はどうしたんですか?」と聞いてみると、「いや、ちょっとウィルス感染でお客さんに移すと悪いので、あっ、でももう治りかけですよ」と不安なことを言います。何か嫌だなあ。まあ20分くらいだから良いか、そう思って乗っていました。
ところが、案の定、彼は道をふらふらと走るため、非常に危険です。高速の合流でもかなり危なっかしく、四方八方から盛んにクラクションを鳴らされています。
「本当に大丈夫ですか?」「いや、大丈夫、それよりお客さん、何処から来たんだい?」「セントルイスからです」「ほう、そんなところで何をしているんだい?」「いや、医者をやっています。」私が、変な感染症移したら承知しないぞ、という顔をしていると、彼は「医者?先生なのかい?」「ええ、一応」・ ・ ・
「そうか、なら正直に言おう、実はこの目は先日、糖尿病で出血して見えなくなっちゃったんだ」(何?それは話が全然違うじゃないか!)「手術したんだけど、もう殆ど見えないんだよ」(運転してていいのか?)「病院にったら血圧も高いといわれるし、けど薬はあまり飲みたくないんだよね」(飲まないとダメでしょう)「先生、私の血圧、最近上が170、下が100なんですけど、どうでしょう?」と延々と健康相談が始まります。
因みに、御存知の方も多いでしょうが、糖尿病は長く罹患していると、血管がやられてしまいます。特に細かい微小血管がやられることが多く、腎臓の血管がやられると糖尿病性腎症、脳の細かい血管がやられると糖尿病性脳症、そして目玉の裏にある網膜がやられると糖尿病性網膜症と呼ばれます。
網膜は人体で唯一毛細血管が観察できる場所なので、眼底検査とよばれるもので網膜の血管を診察された方も少なくないと思います。血糖値が高いと次第に血管が脆弱になり、そのうち破れて出血してしまうことがあるのです。その結果盲目になってしまうこともあり、非常に恐いのです。

私の乗ったタクシーの運転手さんはこの網膜症で片目がやられ、もう片方の目も危ないと言われたそうです。それが戸の程度危ないのか、彼はちゃんと血糖を管理しているのか、そういった不安を感じながらの20分。いや、正直に言うと、それよりも、事故に遭わずにホテルに着くのかという不安の方が比較にならない程大きかったのです。
何とか目的地についたものの、彼がコレステロールの話に熱中してくらたお陰でホテルを過ぎてしまったときにはどうしようかと思いました。
その後、チップの計算に非常に苦悶したのを覚えています。
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