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以前、東京の骨董通り辺りを車で走っていたときのことです。信号が黄色から赤に変わり、止まろうブレーキを踏むと、パス、パス、と音がするだけど一向に止まりません。マズイ、もうこれは無理だ。左から出てくるBMW,右から出てくるタクシー、どうせぶつかるなら一般人、とハンドルを左に切ってタクシーをよけ、あとはどうにでもなれ。と、覚悟を決めていたのですが、あら不思議。私の車は何にもかすりもせず、散歩客で賑わう土曜日の交差点を無事に越えることが出来たのです。と、安堵した瞬間、前方にまたしても赤信号を待つ車が!私はとっさにギアをNに入れ、思いっきりパーキング・ブレーキを引いて何とか車を停めることが出来ました。
あとからJAFの方に聞くと、車のブレーキが「空中分解」していたそうです。ブレーキの利かない車は、たとえ時速5kmで走っていても止まる保障がないので大変恐いものです。
また、先日は乗っていた友人の車のエンジンがやられました。どうやらオイルが漏れていたらしく、気づかずに運転していたらエンジンを焦がしてしまったようです。エンジンの利かない車もまた怖いもので、ちょっとの上り坂でもどんどんと後ろへ落ちていくのです。
車でもこうなのですから、これが自分の体だったらどんなものでしょう?
前置きがいつものように長くなりましたが、今回は補助人工心臓のお話です。
皆さん御存知のように心臓は毎分60~100回、毎時間、毎日、毎年打っています。体が運動をすればもっと早く、休んでいればもっと遅く、それでもずっと打ち続けているのです。驚異的な臓器です。
そんな心臓が生まれつき弱い、心筋梗塞で傷めてしまった、病気でイカレてしまった、という場合、心臓を守る治療法はあっても、心臓を治す治療は今のところ殆どありません。それなら心臓の代わりを、ということで発達したのが人工心臓です。
ただ、完全な人工心臓はまだ技術的に無理なので、とりあえず、残った心臓を補助する形でいこう、と開発されたのが補助人工心臓(Ventricular Assist Device=VAD)です。心臓の補助輪として小型の人工心臓を体内に埋め込むのです。ただ、毎秒打ち続けるためには当然電源が必要です。VADも、以前は冷蔵庫のような電源と管を介して接続されていたのが、最近では、ショルダーバックくらいの大きさまで縮小され、患者さんもVADを入れたまま歩いたりと、日常生活を営めるようになりました。
また、もともとは心臓の手術後に、心臓がまた強く打ち始めるまでの数日間、心臓移植を待つ間の数ヶ月間、といった臨時のものだったようですが、最近ではVADを治療として受け、50%の人が一年以上生きていられるそうです。
(from Columbia University)
私が心臓移植チームと働いていた頃、このVADを入れた患者さんで、ジェイムス・ジェイミソン(仮名)、通称JJというのがいました。ややこぶくれした赤ら顔の親父さんで、割と小型のVADを入れていたため、普通に日常生活もこなしていました。
ただ、マズイことにJJはお酒をまた始めたようで、飲んで体調を壊しては入院してきます。
回診に行くと、JJはいつも私のボスに起こられます。「JJさん、本当にどうしたんですか、ダメでしょう、こう毎回飲んでばかりでは」「へい、全く仰る通りで」「これでは移植も出来ませんよ」「へい。」
彼は、以前、バーで女の子に心臓の音を聞かせて恐がらせていたのも目撃されたそうです。確かに、人工心臓の音は、生身の心臓の「ドックン、ドックン」ではなく、 「シュイーン、シュイーン」という音なので、一般の人からすると不気味なのかもしれません。目を輝かせて飛びつくのは医学生くらいでしょうか。
ただ、JJを見ていると、何となく同情はしてしまいます。自分の命をショルダーバックに背負って生きているのです。それはお酒も飲みたくなるでしょう。
どうやって決めたのか不明ですが、一般には5万ドル(約550万円)かけることでもう一年健康に生きれることが出来るなら、そのコスト・パフォーマンスは高いとされるそうです。最近ではVADがいくらするのか知りませんが、今後更に進歩すれば国民、皆VADを入れることになるのでしょうか。
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新聞の集金が来た時の居留守、地下鉄の座席に座って寝た振り、新入生歓迎コンパでの酔った振りに、部活の朝練での捻挫した振り。人生、皆いろいろな場面で演技をしているものです。
ところが、こういった演技を病的に行なう患者さんも世の中にはいるのです。英語では factitious disorder や Munchausen syndrome と言いますが、要は病的な仮病で、あえて病気を装うなんて非常に哀れな精神病です。
例えば、以前、自分でインスリンを過剰投与して低血糖発作をわざと起こして入院してくる患者さんがいました。これらの患者さんは、別に自殺をしようというのではなく、どちらかといえば「かまって欲しい」のだそうです。
そういった病的な仮病の中に、精神病を真似る Ganser Syndrome と言いものがあります。
私達が一時受け持ったビル(仮名)は麻薬中毒者でもあり、多少分裂症気味なところもありました。胸痛のため入院したのですが、結局検査は全て正常だったため、病院から麻薬更正施設に送られるという矢先でした。「先生、ビルが全く動かなくなりました!バイタル(血圧や脈拍、呼吸など)は正常なんですが、何か変です、ちょっと見に来て下さい!」
なるほど、ベッド上のビルは天井を凝視して寝そべったまま全く動く気配がありません。押してもつねっても全く反応しないのです。もしかしたらヒステリー発作か分裂病患者さんにみられるカタトニーか何かかな?けど、さっきまでピンピンしていたのに、何か変だな。精神病については殆ど知らない私は早速精神科のレジデントに電話して相談してみます。
「ふーむ、ドクトル、患者さんの腕を持ち上げ、彼の顔に落としてみると良い。もし彼が本当に発作を起こしているなら腕は彼の顔に落ちるが、もし発作じゃないなら、彼は反射的に腕を顔に当たらないようによけるはずだ」なるほど、それは妙案。
早速、私は医学生と共にビルの元へ戻り、ビルの腕を持ち上げ、顔の上に落とします。するとどうでしょう?彼はよけず、腕は天井を凝視したままの顔へ落下するのです。これは確かに分りやすい。私は医学生にも「こうやるんだ」とばかりに試させます。うーん、やはりよけない。そのうち、レジデントもやってきて、私が精神科レジデントとの会話の一部始終を話すと、「どれどれ、俺にもやらせてみろ」とビルの腕を持ち上げ、顔に落とすのです。別に大した距離を落下するわけではないので怪我もしません。
早速、私は精神科のレジデントにもう一度電話をして結果を報告すると、興味があったのか、彼は割りと直ぐやってきてビルを診てくれました。が。彼がビルの部屋に入って直ぐのことでした。「ふざけるな!いいかげんにしろ!」というビルの怒りの叫びが廊下まで轟いたのは。
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