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人間、誰でも病気を起こすと人格が多少変わると言います。人間の弱さを悟るからなのでしょうか。例えば、鬼教授として有名だった某先生は、心筋梗塞を起こしてからは非常に丸くなり、研修医を怒鳴ったりすることがめっきり減ったようです。
ただ、大怪我をして全く人格が変わってしまうということはあまり見たことがありません。マーブル君(仮名)はそんな例外的な患者さんの1人でした。
彼はまだ20代前半の黒人青年でしたが、歩行中、トラックにはねられ、骨盤から手足、頭などあらゆる箇所を骨折し、一命を取り留めたのが奇跡的なくらいでした。当然、脳挫傷なども起こしており、傷めた脳は腫れて正常な脳を圧迫して致命的になることもあるため、除圧のために頭蓋骨を外したりもしていました。あらゆる手術を尽くし、入院後1ヶ月以上経ってから彼は外科病棟から内科病棟に転棟してきたのです。
今でこそマーブル君などと軽々しく呼んでいますが、実は彼は手に負えない不良少年で、麻薬を売ったり、窃盗を起こしたりなど、問題ばかり起こしていたそうです。
ところが、事故の後、彼の人格は180度変わってしまったのです。
例えば。毎朝、彼の病室に入ると、頚や骨盤を鉄棒で固定されていながらも、彼は朗らかな表情で、「やあ、先生、待ってたよ、今日はなんだい?」と話しかけてくるのです。あらゆる金属の道具で固定された彼の骨盤を一目見てみようと、シーツをどけていいか聞くと、「うん、別にいいよ、けど、痛いから気をつけて欲しいんだな、うん」「じゃあ、ちょっと動かしますよ」「あっ、そうすると痛いんだな」「ごめんなさい、もう少し下の方を見たいんですが」「別にいいけど、痛いのはイヤなんだな。」その後、暫く診察している間、彼は痛そうですが、我慢しています。「マーブル君、終わりましたよ、どうもありがとう」「うん、ちょっと痛かったんだな」「御免なさい、痛め止めでも出しましょうか?」「いや、大丈夫、だけど喉が渇いたぞ」「ジュースでももってきましょうか?」「うん、けど、プルーン・ジュースはいやだな」と、まるで会話に毒気がないのです。
まるで小学生と話しているみたいで、愛嬌があるため、看護婦さんも皆彼を可愛がっていました。今まで彼の悪態に辟易していた両親も、そうなると非常に可愛いらしく、非常に熱心に看病に当たるのです。
僕らの間では、"Mr. Marble's lost his marbles" (精彩を欠いたマーブルさん)と冗談を言われていましたが、事故によって、家族の絆がより深まったような面すらありました。非常な不幸でしたが、それでも不幸中の幸いとでもいえるのでしょう。あれだけの骨折と、人工物を体内に埋め込んでいながら、彼は未だに感染症や床ずれといったことでの再入院をしていません。
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