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最近ある病院で、本来サクシゾン(副腎皮質ステロイド・抗炎症薬)を投与すべき患者さんに誤ってサクシン(筋弛緩薬)を点滴してしまい、患者さんが亡くなるという事故がありました。
まずは亡くなった患者様とご家族に心より哀悼の意を表し、ご冥福をお祈りしたいと思います。
今回は処方した医師、調剤した薬剤師、投与した看護師の誰もが間違いに気づかなかったということになります。
サクシンとサクシゾンについては、私が研修医のときにも「間違いやすい薬品名」として何度も繰り返して教わった経験があります。
そもそもどちらかの薬品名を変えるということはできなかったのでしょうか?
サクシゾンには、同成分の「ソル・コーテフ」という薬品もありますので、間違い防止のためにあえてこちらのみを採用している病院もあります。
とはいえ、この事故についてはニュースで見ただけですので軽々に論じることはできません。事故の原因究明と今後の再発を防ぐ対策を強く願わざるを得ません。
また、自分たちの施設でも同様な事故が起きる可能性がないか慎重に再度チェックしたいと思います。
===
飲み薬でも紛らわしいものがいくつもあります。
厚労省の旗振りで、医薬分業もすっかり定着してきました。
院内処方だと開業医が薬価差益(仕入れ価格と販売価格の差)で儲かるのでけしからんという、医療そのものとはあまり関係ない思惑も作用していたのでしょう。
医薬分業はメリットもたくさんありますが、処方した医師と調剤した薬剤師の間の情報が、処方箋1枚だけに限定されるというのは心もとないと思うことも間々あります。
処方箋は全国どこの調剤薬局に持って行っても有効ですし、そもそも処方医が「この薬局に持っていってください」という誘導をすることは禁じられています。
処方箋には薬品名と日数、飲み方しか書いてありませんので、処方した医師が意識した病名、使用目的は薬剤師さんにはまったく伝わりません。
良し悪しは別として、現在の日本の「医薬分業」とはそういう仕組みなのです。
===
たとえば、こんな薬があります。
アリセプト(適応:アルツハイマー病など)3mg,5mg,10mg
アルマール(適応:高血圧、本態性振戦など) 5mg,10mg
アマリール(適応:糖尿病) 1mg,3mg
たとえば普段アリセプトを処方されているアルツハイマー病の患者さんに医師が誤って、
(1)「アルマール(5mg) 1錠 朝食後 30日分」という処方箋を手渡して、患者さんがいつもと違う薬局に持ってゆき、あまり説明を聞かずに薬を受け取って飲んでしまったら、低血圧でふらついてしまうかもしれません。
(2)「アマリール(3mg)錠 朝食後 30日分」という処方箋を受け取った患者さんが、薬局で「血糖値を下げるお薬ですね」といわれて薬をもらい、「そういえば自分もちょっと血糖が高いのかな」とそのまま飲んでしまったら低血糖発作を起こしてしまいかねません。
最近は電子カルテも増えてきましたが、電子カルテは薬品リストから目的の薬品を選ぶ形式のものが多いので、手書き処方箋ではありえなかった事故もありうるのです。
先ほどのサクシンも電子カルテでの事故のようです。
===
医師をはじめとした病院やクリニックのスタッフ、処方箋で調剤する薬剤師が、プロとして細心の注意で正確な仕事をしなければいけないのは当然のことではありますが、患者さんの側でも、
・自分の薬についていつも注意を払う
・不明なことがあれば遠慮なくたずねる
・なるべく同じ医療機関、同じ調剤薬局を利用する
・お薬手帳をかならず毎回出す
といったことを習慣にしていただければと願います。
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ずっと前のことになりますが、ふとした行きがかりである男性に相談を受けたことがあります。
(普通の外来診療ではありません、知人の紹介でとりあえずお話を伺うことになりました)
その男性のお母様は90歳を目前にして、がんのためにある病院で亡くなったのでした。
そんなとき人は「天寿を全うされましたね」と慰めたりするのでしょうが、彼にとってはいくつになっても大事なお母様、とても悲しい出来事だったと思います。
===
さて、彼の場合、お母様が入院されてからの様子(治療内容や薬品名も含めて)を克明にノートに記録されており、それをお持ちになってのご相談でした。
黒いペンで記録されたノートに、おそらくご自身で調べた赤の書き込みがびっしりと並び、それは壮観でした。
その最初のページから、
・ここでこの薬を使うのは妥当か?
・この状態にはこの治療法しかないのか?
・この病気になると普通はどのくらい生きられるのか?
・ここで栄養状態が悪くなっているのはなぜか?
・この段階での医師のこの説明は正しいか?
・最終的に死を避ける方法はなかったのか?
などなど、矢継ぎ早に質問され、私の答えが今度は青で書き込まれてゆきます。
数時間はお話を伺ったでしょうか?
私が拝見する限り、すべての診療過程において、医療スタッフはベストを尽くされ、説明も丁寧で完璧な治療と対応であったと思われました。
しかし、お母様のご病気と、ご年齢からくる身体の衰えから、最終的には残念な結果になってしまったものと思われます。
===
すべての質問と説明が終わると、彼はノートを閉じて、「わかりました、納得しました。病院を訴えることはできないんですね。ありがとうございました。」と言って帰って行かれました。
「訴える」という言葉を、私はその後しばらく消化できないまま、月日は過ぎてゆきました。
===
私はその病院のドクターも存じ上げませんし、医師同士かばい合うつもりで真実を曲げてご説明したわけでもありません。
ただ、その分厚いノートと、病院でもらった様々な説明書類を私なりに一生懸命拝見して、思うままをご説明しただけです。
しかし、万が一その記録の中で診療上問題があると思われる場所があり、それをそのまま彼にお伝えしたら、おそらく彼は病院や医師を相手取って民事訴訟を起こすつもりであったのでしょう。
事実、悪徳医師と悪徳弁護士がタッグを組めば、勝てるかどうかは別として診療上の出来事について民事訴訟を起こすのはそう難しいことではないと思います。
同時に刑事告訴をおこなえば、その真偽や妥当性は抜きにして検察は捜査をせざるを得ませんし(刑事訴訟法242条)、告訴された医師や医療機関は取り調べを受けることになります。
最近は民事訴訟を有利に進めるために刑事告発も同時に行って医師に心理的プレッシャーをかけ、早期に有利な和解に持ち込む手法も横行していると聞きます。
===
さて、そうした世知辛い話題はともかく、彼の「訴える」がお金目当てでないことは最初からよくわかりました。(そもそもそんな雰囲気があれば最初から相談には乗りませんし)
彼は、大好きなお母様の死が「悲しく」「納得できず」「受け入れがたい」のだと思います。
===
精神分析で「防衛機制」という概念があります。
受け入れがたい出来事に出会ったとき、不安定になった自我に安定を取り戻すために自分の心の中で起きる様々なメカニズムのことです。代表的な防衛機制は、
・抑圧・・・苦痛を無意識的に意識から締め出そうとする作用。
・合理化・・・「酸っぱいブドウ」のたとえで有名。得られなかったものが価値のないものだと思いこんで安定をえること。
・補償・・・勉強でうまくゆかないからスポーツでがんばる、など、劣等感をほかの方法で補うこと。
・退行・・・一人っ子に弟や妹ができると赤ちゃん返りする、などが代表的。
・転移・・・抑圧された感情を本来とは別の対象に振り向けること。
===
さて、話の趣旨はお察しいただけたでしょうか?
人の死は必然です。
昔から、人は愛する人の死をいろいろな方法で乗り超えてきました。
これについては多くを語る必要はないでしょう。
===
Wikipediaで「防衛機制」を調べると、「転移」の例として、
「例:父親への憎悪を抑圧し、より安全に攻撃できる教師に向ける。」
と出ています。ちょっと笑ってしまいました。
モンスターペアレンツの方々にとっても、社会での鬱憤を晴らす対象としては、学校の先生が「安全」なんでしょう。先生方には本当にお気の毒です。
===
そう、最近は医師も「安全に攻撃できる」対象になりつつあるのでしょう。
「悲しく」「納得できず」「受け入れがたい」お母様の死を、医師や病院の責任とすることによって彼は心の安定を得ようとしたのだ、と、数年かかって私は気がつきました。
これはまさに「転移」の機序に他なりません。
===
医療の危機が叫ばれています。
これを、医師不足、財政不足、などなど、単一の原因に「転移」して済ませるのではなく、社会心理学的な観点からも整理し、議論し、対策を考えてゆく必要を感じました。
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福島の大野病院で、帝王切開後にお母さんが亡くなり、執刀した医師も刑事被告人となった悲しい事件の判決がさきほどありました。
===
毎日新聞のサイトより↓
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080820k0000e040014000c.html?inb=yt
【転載はじめ】
大野病院医療事件:帝王切開の医師に無罪判決 福島地裁
厳しい表情で福島地裁に入る加藤克彦医師=福島市で2008年8月20日午前9時49分、長谷川直亮撮影 福島県大熊町の県立大野病院で04年、帝王切開手術中に患者の女性(当時29歳)が死亡した事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医(休職中)、加藤克彦被告(40)に対し、福島地裁は20日、無罪(求刑・禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。鈴木信行裁判長は、最大の争点だった胎盤剥離(はくり)を途中で中止し子宮摘出手術などへ移行すべきだったかについて「標準的な医療水準に照らせば、剥離を中止する義務はなかった」と加藤医師の判断の正当性を認め、検察側の主張を退けた。
加藤医師は04年12月17日、帝王切開手術中、はがせば大量出血する恐れのある「癒着胎盤」と認識しながら子宮摘出手術などに移行せず、クーパー(手術用はさみ)で胎盤をはがして女性を失血死させ、医師法が規定する24時間以内の警察署への異状死体の届け出をしなかったとして起訴された。
争点の胎盤剥離について、判決は大量出血の予見可能性は認めたものの、「剥離を中止して子宮摘出手術などに移行することが、当時の医学的水準とは認められない」と判断した。医師法21条については「診療中の患者が、その病気によって死亡したような場合は、届け出の要件を欠き、今回は該当しない」と指摘した。
医療行為を巡り医師が逮捕、起訴された異例の事件で、日本医学会や日本産科婦人科学会など全国の医療団体が「結果責任だけで犯罪行為とし、医療に介入している」と抗議声明を出すなど、論議を呼んだ。公判では、検察、被告側双方の鑑定医や手術に立ち会った同病院の医師、看護師ら計11人が証言に立っていた。【松本惇】
【転載おわり】
===
関連してこんな記事もありました↓
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080820-00000042-mai-soci
【転載はじめ】
日本産科婦人科学会の調査によると、妊娠・出産に伴って命にかかわる緊急治療を必要とする女性は250人に1人と推計されている。調査を担当した国立成育医療センターの久保隆彦・産科医長は「一般に妊娠・出産は危険な行為であるということが知られていないが、産科医は数多くの危険な妊婦を助けてきた。有罪になれば、こうした妊婦を対象にした医療行為が否定され、産科医療の崩壊に拍車をかけるところだった。今回の判決は極めて妥当な判断だ。これ以上の産科医減少、産科医療の崩壊を招かないために、検察は控訴すべきではない」と語った。
【転載おわり】
===
上の記事にある「妊娠・出産に伴って命にかかわる緊急治療を必要とする女性は250人に1人」という現実をどれだけの方がご存知でしょうか?
これだけ低コストで高レベルな医療が実現している日本でさえ、まだこれだけのリスクがあるのです。
マスコミの心無い報道で、日夜を問わず患者さんのためにがんばっている多くの産婦人科医が魂を失ったように職を離れ、残った産婦人科医の負担が増すという悪循環が止まりません。
今回の事件で亡くなったお母さんの命を無駄にしないためにも、今回の判決が日本の産婦人科医療の崩壊を食い止めるためにいろいろな立場の方々が協力し合っていく契機になることを祈ります。
産科医療について、以前にもブログにしました↓
http://blogs.yahoo.co.jp/rijichonikki/42560024.html
===
亡くなられたお母様のご冥福を心よりお祈りいたします。
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10年ほど前の話です。
「先生、喘息発作の女性です」
当直の夜、ナースからのコールで救急室に駆けつけると、そこには男性が一人。
患者さんのご主人でした。
「患者さんはどこですか?」
「受付が済むまで駐車場の車の中で待たせています」
私たちは車いすを押してその男性の車に向かって走りました。
・・・
助手席にいたのは、心肺停止状態の患者さんの姿でした。
急いで心肺蘇生を行いながら救急室に運び、ドクターを集めてあらゆる処置を行いましたが、救命することはできませんでした。
駐車場に着いた時は、もちろん苦しいながらも患者さんの息はあり、ご主人は患者さんを待たせて急いで受付をしたのでしょう。
しかし、その間に心停止が起こってしまえば、ものの5分足らずで脳細胞は死滅をはじめ、救命は不可能になってしまうのです。
・・・
「救急車で来てくれれば・・・」
私たちは一様にそう思い、心から悲しい気持ちになったものです。
救急車で赤信号も突破して走りながら病院に連絡をしてくれれば、私たちは救急室で万全のスタンバイをすることができたでしょう。
時間的にはまだ呼吸があるうちに治療を始めることができたでしょうし、救命の可能性は大いにあったと思われます。
保険証なんてそれからでよかったのに。
突然のことに呆然とするご主人の姿が忘れられません。
本当にお気の毒な出来事でした。
===
一方で、タクシー代わりの救急車の利用、不要不急の夜間受診はあとを絶ちません。
子供の数は減っているのに夜間の小児科受診数は急増しているといいます。
===
1997年の医師数抑制の閣議決定から、10年以上にわたって「医師余り」を唱えて医師数を抑制してきた政策が、ようやく転換されようとしています。
医学部の定員が少し増えて、9年後の春には今より少し多いドクターが初期研修を修了することでしょう。
しかし、それだけでは今の医療の抱えるいろいろな問題は解決しませんし、何よりあまりに時間がかかりすぎます。
・医療従事者には、患者さんに正しい知識を伝える絶えざる努力が
・行政には、安心して医療に専念できる財政的・制度的支援が
・司法には、医療現場でナマで起こっていることへの深い理解が
・患者さんには、限られた医療インフラを上手に利用する智慧が
・マスコミには、それらすべてを上手に支援する公平で正確な報道が
それぞれ求められるのだと思います。
===
先日ふっとテレビを見ると、出演1回のギャラが200万円ともいわれる大物女性キャスターが、「勤務医が病院を捨てて楽な開業に走る流れを止めなければいけません」としたり顔でおっしゃっていました。
あの~、開業医も楽じゃないんですけど・・・。
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最近、ヘルパーのお仕事をされている方からこんなお話を聞きました。
「訪問してお世話しているお年寄りが、近くの百貨店に行きたいといつも言っている。ADL的には介助すれば大丈夫なので、お休みの日にボランティアででも連れて行ってあげたい。でも職場の責任者には、何かあったら大変だから止めるようにいわれている。」
といった内容です。
===
善意から、一生懸命にやった結果不幸にして患者さんの状態が悪くなった、患者さんが亡くなってしまったということで、訴訟になったり逮捕されたりということが日常となれば、自己防衛のために「萎縮医療」におちいらざるを得ません。
・危ないことはしない
・余計なことはしない
ということばかり考えながら医療をおこなうのは心地のよいものではありませんし、肝心の医療の質も低下させるおそれがあります。
===
私が医師になりたてのころ、「最後に一度だけ自分の家を見たい」という患者さんをストレッチャーに乗せて酸素マスクをつけてご自宅までお連れしたことがありました。
患者さんもご家族もとても喜ばれ、私たちも皆さんの暖かい気持ちに包まれる思いでしたが、そんなことは古き良き時代の出来事なのでしょうか?
そんな時に患者さんの具合が悪くなれば、「重症の患者を無理に外出させたことによって病状を悪化させた医師の判断には重大な瑕疵があり、刑事告発が妥当と考えられる。」なんて言われてしまうのでしょうか・・・。
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ゆうあいクリニック理事長日記
written by Atsushi Katayama(片山 敦)
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「ななのつぶやき」というブログを書かれているなな先生から転載の許可をいただきましたので、以下に転載させていただきます。
迫真の文章力です。
元ブログはこちら↓
http://blog.m3.com/nana/20080515/1===
【転載はじめ】
もう、何年も前のことです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕方、私が外来で診ていた妊婦さん・裕美さん(仮名)が
陣痛が始まったので、今からいらっしゃるという連絡を受けました。
病棟で到着をお待ちしていたら、何故か入り口の警備室から電話がかかってきました。
「先生! 妊婦さんがお腹痛がって、立てないみたいです」
助産師と一緒に玄関に飛んでいくと、裕美さんがお腹を抱えて、うずくまっています。
痛がり方が、尋常ではありません。
にわかに緊張が走ります。
すぐに病棟に運んで、内診台に上がってもらったら、血性羊水が流れています。
赤ちゃんの心音は聴取できず、エコーをあてたら・・・
心臓は、既に、止まっていました。
嗚呼・・・
「裕美さん」と呼びかけると、
怯えきった目が私の顔を捉えて、一瞬表情が緩みます。
愛おしさが、こみ上げて来ます。
しかし、告げなくてはなりません。
「裕美さん、残念だけれど、赤ちゃん・・・亡くなっているみたい・・・」
「えっ・・・。先生、私はいいから、赤ちゃん助けて・・・」
なす術は、ありませんでした。
常位胎盤早期剥離です。
通常はお産になってから剥がれてくるはずの胎盤が、先に剥がれてしまう、
原因不明の恐ろしい病気です。
胎盤が剥がれてしまえば、赤ちゃんに酸素が行かなくなりますので、
赤ちゃんは数分で亡くなります。
さらにDICという血液凝固異常を併発すると、
血が止まりにくくなる一方で、血が固まり過ぎて血栓ができてしまうことがあり、
母体の生命も危険です。
なるべく早めに、死んだ赤ちゃんをお腹から出さないとなりません。
帝王切開が頭に浮かびましたが、準備する間もなく分娩が進行して、
あっという間にお産になりました。
急激に進んだお産にありがちなのですが、弛緩出血や頚管裂傷を起こすことがあります。
裕美さんの場合もやはり、なかなか血が止まりませんでした。
両手で子宮を圧迫して止血を試みますが、叶いません。
産婦人科医3人がかりで出血点を確認しようとしても、
子宮を圧迫している手を緩めると、ジャーッと血が出て、何も見えません。
輸血をオーダーし、院内にいた他科の先生にも来てもらって、
3本の点滴ルートから、輸血を注射器で流し込みます。
産婦人科部長が、決断しました。
「だめだ、開腹しよう」
お腹を開けてみて、全員が驚きました。
子宮頚管から子宮の壁に向かって、ざっくりと裂けています。
頚管裂傷が延長した、子宮破裂です。
子宮、取らないと、だめかな・・・
しかし部長が、粘ります。
鮮やかな手際で、すいすいと破裂した子宮壁を縫合し、
あっという間に縫い終わりました。
部長すごい、と思ったのも束の間、DICという凝固障害を引き起こしており、
縫合した針穴からも血が流れています。
もはや縫合では止血できません。
麻酔科の先生が、凝固因子をどんどん点滴します。
これで止血はできますが、今度は過凝固になって、血栓症を引き起こす危険があります。
しかし今、目の前の出血を止めないことには、裕美さんを救命できません。
最終的に出血は止まり、子宮を残せました。
裕美さんはICUに入院し、DICに対する厳重な治療を受け、
一時は透析をする状態になりましたが、生命は助かりました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
産婦人科医をしていると、全身の血液が沸騰するような、恐ろしい思いをすることがあります。
そのうちの何例かは、常位胎盤早期剥離によるものでした。
恐ろしく悲しい病態です。
【転載終わり】
===
長男が生まれたとき、私は産科の先生にお願いして分娩室にいました。
点滴の針も私が入れました。
分娩には必ず「まさか」のリスクがあり、「まさか」の時には人手が大事だと専門外ながら思っていたからです。
気管内挿管、心臓マッサージ、輸血などなど、「まさか」の時に私のような内科医でもできることはたくさんあります。
===
医療の世界で今起こっている問題の原因のひとつに、「医療側と患者さん側の情報と認識のミスマッチ」があると思います。
赤ちゃんを産むお母さんやご家族に「母子ともに無事なのが当然」という認識がある限り、「まさか」の時の悲劇はなくなりません。
日々奮闘されるなな先生のようなドクターに安心して仕事をしていただくためにも、患者さんや一般の方々に「正しい情報」を伝え続ける必要があると思います。
マスコミの皆さんにも挙げ足取りではなく本当にためになる報道をお願いしたいと思います。
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今年も残念な「モチ」のニュースです。
モチといえばいつも思い出すエピソードがあります。
===
※MSN産経新聞ニュースより
【転載はじめ】
餅をのどに詰まらせ7人搬送1人死亡 元日の都内
2008.1.1 21:53
東京都内で1日午前0時から午後7時までの間、もちをのどに詰まらせて7人が搬送され、自宅でもちを食べていた大田区の男性(59)が死亡した。昨年12月26日からこれまでに高齢者を中心に10人が搬送されていて、死者は3人となった。
昨シーズンは26人が運ばれ、4人が死亡している。東京消防庁ではもちを小さく切ってよくかんだり、高齢者や子供が食べる際には家族がそばで見ているよう呼びかけている。
【転載終わり】
===
以前勤務医をしていた頃、お正月の当直中にまさに「モチ」の患者さんが運ばれてきました。
モチをのどに詰まらせて心肺停止、覚知(119番への通報)から現着・蘇生開始まで7分を要しており、救急隊もすぐにモチを取り除いてくれましたが依然心肺停止、人工呼吸と心臓マッサージをしながら搬送されました。
救急救命士が自分の判断で除細動器を使えるようになったのは平成15年ですから、当時は救急車内でAEDなどの除細動器を使うには医師の診断が必要で、現実的にはほとんど無理でした。
救急隊員の方も「心電図を取って大学の先生に無線でFaxして除細動の許可をもらう頃には、病院に着いちゃうんですよね。」と嘆いていました。
どこにでもAEDがあって一般市民が使えるようになった現代とは隔世の感があります。
===
さて、この患者さんですが、病院の救急室で除細動をおこない、いろいろな薬剤を使ったところ幸い心拍、自発呼吸とも再開してICUに入院となりました。
しかし、心肺停止の時間が7分と長く、生命は取り留めたとしても完全な社会復帰は難しいと予想されました。
統計によって異なりますが、心肺停止の患者さんが歩いて退院する率は1%前後と、きわめて困難なのです。
===
この患者さんは結局、一度も意識を取り戻すことなく数日で亡くなりました。
この患者さんはもともと(いまでいう)認知症を患っており、モチを詰まらせた原因が、「ぼけ封じのお参りに行くために朝早くに家族で慌てて雑煮を食べた」ということだったと伺い、これまた心が痛みました。
私自身、医師になってそう時間がたっていない頃でしたから、この間の治療のこと、ご家族とのやりとりのことは鮮明に覚えています。
ご家族ひとりひとり立場や意見も微妙に異なって、これらを丁寧にくみ取って治療に反映させるのはとても難しいと感じたものでした。
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1998年、川崎協同病院で喘息患者さんが亡くなった事件について、高裁判決がありました。
読売新聞のサイトより↓
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070301ik08.htm
==========
(上記サイトより転載)
川崎協同病院事件、元主治医に2審減刑
東京高裁「治療中止事後非難は酷」
川崎協同病院(川崎市)に入院中の男性患者(当時58歳)が1998年11月、気管内チューブを抜かれ、筋弛緩(しかん)剤を投与されて死亡した事件で、殺人罪に問われた元主治医、須田セツ子被告(52)に対する控訴審判決が28日、東京高裁であった。原田国男裁判長は「家族からチューブを抜くよう要請されて決断したもので、その決断を事後的に非難するのは酷な面もある」と述べ、懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役5年)とした1審・横浜地裁判決を破棄し、殺人罪としては最も軽い懲役1年6月、執行猶予3年を言い渡した。
控訴審で、須田被告は「患者は死が不可避な末期状態で、家族から要請されて延命治療を中止した」などと、無罪を主張していた。
判決は、須田被告の治療中止が適法だったかについて、〈1〉患者本人の意思に基づいていたか〈2〉患者の死が切迫していて医師の治療義務が限界に達していたか――という観点から検討。「患者本人の意思は不明で、死期が切迫していたとも認められない」とし、「法的に許されず、殺人罪が成立する」と判断した。
一方で、判決は、患者が死亡した3年後に問題が表面化するまで家族から苦情がなかったことなどを理由に、「家族の要請がなかったとするには合理的な疑いが残る」とし、「家族の意思の確認を怠ったという事実を前提とした1審判決の量刑は不当」と述べた。
また、判決は「尊厳死(治療行為の中止)の問題を根本的に解決するには、尊厳死を許容する法律やガイドラインの策定が必要」とも指摘した。
◇
判決後、須田被告は、家族からの要請があったことなどを認めた判決について、「非常に配慮された判決を頂いた」と、ほおを紅潮させて語った。一方で、無罪主張が認められなかったことについては、「事実誤認の部分もある。上告したいという気持ちもある」と述べた。須田被告は現在、横浜市内の診療所の院長を続けている。
(2007年3月1日 読売新聞)
==========
私が研修医になってはじめての上司(指導医)が須田先生です。
裁判で争われているこの事件の時、私はたまたま出向中で病院にいませんでしたので事実関係はわかりません。しかし、事件のずっと前、須田先生に教わったことは今でも体に染み付いています。
・患者さんや家族に大事な説明をするときには必ずきちんとカルテに残すこと。
・説明をしたとき、誰が同席していたかもしっかり記録すること。
・できるだけ看護師さんや他のスタッフも同席させて話すこと。
・医師の論理だけを振りかざすのではなく、患者さんの気持ちも考えて一緒に結論を出すこと。
一審では、あまりに「殺人」ということが強調されすぎた酷い判決で、私も心を痛めていました。
検察の言い分も、須田先生の普段のこうした姿からは想像できないものでした。
・あまりにも外来患者さんが多く、患者さんをお待たせしないために朝9時の外来開始時間の30分以上前から診療を始めていた姿。
・深夜まで翌日の予約患者さんの下調べをしている姿。
・自分が診療していた患者さんが自宅で寝たきりになると、病院の仕事の合間を見つけて往診をしている姿。
・亡くなった患者さんを前に、家族と一緒に涙を流している姿。
こうした姿は今でも私の目に焼き付いています。
==========
2審判決では、「家族からチューブを抜くよう要請されて決断したもので、その決断を事後的に非難するのは酷な面もある」と述べられているように、1審とは随分判断が変わってきています。
「尊厳死(治療行為の中止)の問題を根本的に解決するには、尊厳死を許容する法律やガイドラインの策定が必要」というコメントにも深く頷きます。
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折りしも、先日の日本救急医学会に先立つ特別委員会では、「患者本人の意思や家族による意思の推定に基づき、人工呼吸器の取り外しも選択肢の1つとする」という案をまとめていたと報道されています。
みずきダイアリーより↓
http://blogs.yahoo.co.jp/kuwadayukiko/14147912.html
「死」に関する国民のオープンな議論と、健全なコンセンサスの形成が望まれます。
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ゆうあいクリニック理事長日記
written by Atsushi Katayama(片山 敦)
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時間外勤務が月100時間超、小児科医の「過労死」認定
asahi.comより↓
http://www.asahi.com/national/update/0223/TKY200702230220.html
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(上記サイトより転載)
北海道北部の2カ所の総合病院で勤務し、03年10月に突然死した旭川市の小児科医(当時31)の遺族から出されていた労災申請について、北海道労働局は労災を認定し、遺族補償年金の支給を決めた。
医師は02年4月から03年8月まで、道北地方の公立病院で働き、同年10月から別の民間病院に移り、6日目に亡くなった。申請を担当した弁護士によると、公立病院時代に月の時間外勤務が平均100時間を超え、泊まり込みの当直も3、4回。病院外で救急患者のため待機する当番も月20~25日あり、多い日は1晩に5回呼び出された。民間病院でも5日間で32時間の時間外労働をした。遺族は過労死にあたるとして04年11月に労災認定を申請していた。
(転載終わり)
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「月の時間外勤務が平均100時間を超え、泊まり込みの当直も3、4回」ですか・・・。
「自分はもっと残業も当直もしている」というドクターもたくさんいらっしゃるでしょうね。おそらく数万人は・・・。
亡くなった若きドクターのご冥福をお祈りすると同時に、日々過重な勤務をされている多くのドクターたちの健康をお祈りします。
私も今日は横浜市夜間急病センターで深夜まで外来のお当番です。
インフルエンザ、まだ多そうですね。
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自宅の近くに24時間営業のお弁当屋さんがあって、遅く帰ったときなど、よく利用させてもらっています。
安くておいしくて助かります。
アルバイトの店員さんを募集していました。
(1)17:00~22:00 時給900円(合計4500円)
(2)22:00~05:00 時給1125円(合計7875円)
(3)05:00~06:00 時給900円(合計900円)
(4)06:00~09:00 時給1000円(合計3000円)
ずいぶん細かく決まっていますね。
もちろん16時間連続勤務などということはないのでしょうが、単純に全部足すと16275円になります。
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おととい土曜日の夜24時まで、またまた横浜市夜間急病センターで外来のお当番をしていたのですが、発症間もない脳梗塞の患者さんがみえて、転送先探しに大わらわでした。
脳梗塞は早期に適切な治療をすることでかなり予後が改善されることがわかっていますから、治療は時間との戦いになります。
昨今、遅まきながらインフルエンザもはやってきて、その日は悪いことに上室性頻拍で脈拍が200近くもある患者さんも来ていて(その方は注射で治りました)、結構忙しい日でした。
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専門治療のできるであろう病院を次々にあたったのですが、「満床」「外来多忙」「病棟で急変」などなど、どちらもお忙しいようでなかなか引き受けていただけません。
去年奈良県で、出産時に脳出血を起こし、転送先探しに時間がかかって(そのためにかどうかは別として)お母さんが亡くなった不幸な事故が報道されていました。
患者さんを引き受けなかったとされた病院に対して「恥を知れ」という発言をして物議を醸した報道もありました。
しかし、「引き受けたくても引き受けられない」という事情は私にも痛いほどわかりますから、患者さんもドクターも気の毒としか言いようがありません。
私の診察した患者さんは、幸い生命に危険が及ぶ状態ではなかったこともあり、10件ほど電話をしたところで受け入れ先が見つかって転送できました。
(その間もインフルエンザの診察をしながら、です)
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比較的医療体制の整った横浜ですらこうですから、地方では本当に大変でしょう。
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夕方まで働いて、翌朝まで寝ないで当直をこなし、翌朝9時から外来をやって・・・といったハードな仕事をされているドクターは日本全国に大勢おられます。
その間の勤務に対して支払われる金額が16275円以下の病院も少なくないと思います。
今この時間も働いておられるドクターやナースの皆さんにに敬意を表し、健康をお祈りします。
日本の医療を守るためにも、夜間の不要不急の受診は避けていただきますよう、患者さんたちにはお願いしたいと思います。
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