研修医の頃の話。
身寄りのない高齢の男性、進行した肺がんの患者さんです。
もの静かで、訥訥と話される話し方や教養の高さを私は尊敬していました。
昔ある高名な文学賞の最終選考まで残ったことなど、懐かしそうに話してくださいました。
入院していただき検査を進めてゆくなかで、脳転移を調べるため頭のMRIを撮影しました。そのフィルムにははっきり転移の影が。私はその事実をお伝えするために病室に向かいました。
「先生、何も言わなくても顔見りゃわかるよ。脳にもあったんだね。俺何も考えられなくなっちゃうのかなあ・・・。」
人間としても医師としてもまだまだの私、答える言葉が見つかりませんでした。
ある日、病室にゆくと、いつもとはうって変わって多弁です。取りとめもなくいろいろなことを話され、私が部屋を出ようとすると、「先生もう行っちゃうの、もっと話そうよ・・・。」と帰してくれません。
研修医に限らず医師という仕事は結構雑用も多く、残念ながらずっと付き合うわけには行きませんでした。
病棟のナースに聞いても、「今日はずいぶん淋しがって、なかなか離してくれなかった。」とのこと。なにはともあれ私は次の仕事に向かいました。
そこで病棟からPHSが。
すぐに病室に向かうと、患者さんが大量の血液の中で倒れていました。肺がんが肺の中の大きな動脈を破っての喀血、ほぼ即死状態でした。
肺がんのなかでも扁平上皮がんは喀血が多いことが知られています。
入院してからは病状も安定し、お食事も良く召し上がって見た目はとても具合がよさそうでした。
虫の知らせ・・・。ご自分がもうじき亡くなられることを無意識に感じておられたのでしょう。
日本は平均寿命世界一を誇ります。皆さん当たり前のこととお考えでしょうがこれはすごいことです。
しかし医師数や患者さん一人当たりの医療費は先進国の中ではかなり低いのです。
言っていることに全面的には賛成しかねますが、ご参考までに日本医師会のサイト↓
http://www.med.or.jp/nichikara/iryo03.pdf欧米では、一日10人の患者さんを診察すれば食べていけるともいわれています。
ひるがえって日本の大病院では悪名高き「3時間待ちの3分診療」がなかなか解決できず、それでも病院は赤字だといいます。
この患者さんと、もっとゆっくり話をしたかった・・・。
そのためには医療機関の仕組みそのものを変えていかないといけないのではないか?
この思いが、私を「医療経営」に向かわせるきっかけとなりました。