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2008.07.15 23:32 |  診療  |  仕事 / 職場  |  医療事故  |  エピソード  |  SAM  | 推薦数 : 1

エピソード10:持続鎮静

Hさんは礼儀正しい人でした。

「失礼します。今日もお世話になります。」

ドアを開けて、診察室に入って来るときは必ずこのように丁寧な挨拶をしました。抗がん剤の副作用で体がだるくても、食欲がなくてつらくても、丁寧な挨拶を忘れませんでした。

私の言う説明に特に反論もなく、いつも「先生の言うとおりでいいよ」と、自分の治療なんだからもっとチャンと考えてよと言いたくなるような患者さんでした。

そんなHさんが意識が無くなったと救急隊から連絡がきました。

病院に来たHさんは完全には意識を失っていませんでした。しかし、目が見えなくなっており、呼びかけには反応するものの、言葉はしゃべれませんでした。頭部CTの結果、癌性髄膜炎の合併と考えられました。看護師や家族の手を振り払うなど暴力的な行動をとることもありました。ベットからの転落事故も予想されたため、床にマットレスを敷いて寝てもらいました。

礼儀正しいHさんの姿はどこにもなく、マットレスの上を縦横に転がっていました。愛する娘さんは近づくこともできませんでした。

ご家族と相談し、持続鎮静を導入しました。24時間睡眠薬を点滴で投与し、Hさんには眠ってもらうことにしたのです。

数日後、Hさんは亡くなりました。

 

---誤解される人がいるかもしれませんが、決して安楽死ではありません。---

 

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2008.06.30 22:05 |  診療  |  医療制度 / 行政  |  医療事故  |  SAM  | 推薦数 : 2

治療関連死つづき

医師になる前からよく思っていることは、医師の仕事の基本原則は「人を助けることであり、少なくとも人を傷つけることではない」ということです。しかし、この至極当り前の原則が時として困難であることを医師なら誰でも知っています。医療行為は人を助ける、治すという向きのベクトルを本来持っているものですが、それとは逆のベクトルを常にはらんでいます。つまり、副作用、合併症を必ず伴うのです。

 

医療関係者以外の方には分かりにくいかもしれません。いわゆる風邪薬から難易度の高い手術までの医療行為はすべて、人を助けるために考案されたものです。しかしながら、たかが風邪薬でも飲んだために、薬のアレルギーで死ぬ人がいます。例えばアスピリン喘息は、薬局で市販されているアスピリンを飲んで喘息発作を起こし、最悪の場合死に至ります。

 

人を助けるための医療行為は、リスクを常に承知の上で患者に施し、患者に受けてもらう必要があるのです。

 

薬局の薬は箱の中に説明書が入っており、私達は薬を飲む前に読んでおくことになっています。それは即ちリスクを承諾したことに他なりません。病院でうける主な医療行為は医師などから事前に説明があり、患者がリスクを同意します。しかし、問題は病院で受ける医療行為の種類は無数にあり、そのすべてに説明と同意の手順を踏まれた訳ではありません。

 

入院中につまずいて転倒骨折するリスク、病院のベッド柵に体の一部がはさまれるリスク、経鼻経管栄養チューブが肺に入るリスク、採血や血液ガス採取で末梢神経障害を起こすリスク、首が太いために気管内に挿管チューブが入らないリスク、高カロリー輸液で高血糖や肝機能障害を起こすリスク、抗生物質の副作用で肝機能障害やショックを起こすリスク、ブドウ糖の点滴で血管炎および血栓症を起こすリスクなどなど、すべてを説明することは不可能です。患者さんにこれらのリスクを列挙した分厚い冊子を入院前に渡して、読んだか読んでないかは別として同意書にサインしてもらう時代がくるかもしれませんが、未知の事故、リスクについて説明することは無理です。我々医師もマスコミの報道を聞いて、「そうか、そんな合併症があったか」と思うことも少なくありません。

 

すべての治療行為、医療行為は副作用や合併症と隣り合わせであり、最悪の場合は死に至ります。ところが、最近の医療裁判、医師逮捕の報道をみると、この基本原則が患者や検察、弁護士に理解されていないのではないか思われて仕方ありません。医師や看護師にもっと時間の余裕があれば、医療行為のリスクを十分に説明し、不測の事態が起こることも説明できていたのではないか、そうすれば裁判にはならなかったのではないかとも思います。そうであれば、医師不足、看護師不足の問題がこういった裁判の背景にはあるはずであり、なぜその責任を一医師が法的に問われなければいけないのか。

 

患者を傷つけようとして治療をする医師はいないのです。更に合併症を起こした患者さんには、その合併症に対する治療に最善を尽くすのが医師だと思います。

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2008.06.27 21:24 |  診療  |  仕事 / 職場  |  医療事故  |  エピソード  |  SAM  | 推薦数 : 2

エピソード8:治療関連死

昔は綺麗だったに違いないという患者さんに時々出会います。Hさんは、言葉づかいや身振り、顔の構造から、30年前の容姿を失礼ながら想像したくなるようなご婦人でした。Hさんは健康診断で肺に異常影を見つけられ、私の外来を受診しましたが、レントゲンのみで明らかに肺がんを考えるような大きな影でした。

気管支鏡で肺がんと確定診断され、骨転移のあるⅣ期(進行期)でした。更に、PET-CTで腸に異常な集積を認めましたが、まず肺がんの抗がん剤を行う目的に入院してもらいました。入院後、大腸内視鏡を行いました。その結果、大腸にもがんがみつかり、しかも、そのがんは大腸をほぼ閉塞していました。

Hさんの旦那を呼んで、Hさんとともにお話しました。あと少しで大腸がんにより腸閉塞の状態になること、腸閉塞を回避するには手術しかないこと、手術すると肺がんに対する抗がん剤治療を延期しなければいけないこと、延期したために肺がんが進行し治療のタイミングを失うかもしれないこと、を伝えました。

Hさん夫婦はがんが同時に2つも見つかり、どちらも進行した段階で発見されたことに、少なからずショックを受けていました。しかし、旦那さんも聡明な方で、手術のリスクを十分理解した上で、大腸がんの手術を受けることに同意しました。

大腸がんの手術は無事終わり、術後肺炎も起こさず、順調に回復しました。しかし、1ヵ月後、私の外来に来たときには、食欲はあるものの術前と比較すると体重は5kgほど減っていました。抗がん剤治療のリスクは術前より高まっていました。

旦那さんには、Hさんが抗がん剤治療で死亡する可能性もあることを説明しました。それでもHさん夫婦は、「治療してください」と、はっきり抗がん剤治療を希望されました。

抗がん剤治療をするには、risk(危険性)とbenefit(有益性)のバランスを常に考えます。riskがbenefitを上回ると判断したら、患者さんが希望しても決して抗がん剤治療はしません。しかし、その判断は時として非常に難しく、結果的に判断を誤ったと後で思うことがあります。

Hさんは抗がん剤を1回投与した後、副作用を契機に、肺炎で1ヶ月後に亡くなりました。抗がん剤の副作用で亡くなる確率は約1%です。しかし、患者さんにとっては0%か100%のどちらかしかありません。主治医として今から思えば、やはり判断を誤ったのでしょう。(もちろん医療過誤や誤診をしたわけではありません。)

Hさんをお見送りするとき、旦那さんは「お世話になりました。僕が肺がんになったら、またよろしくね」と私にこそっと言って帰っていきました。すこし心が救われた気がしました。

 

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2008.06.18 22:22 |  診療  |  仕事 / 職場  |  医療事故  |  エピソード  |  SAM  | 推薦数 : 3

エピソード7:誤診と偽陰性

Gさんは肺炎疑いで私の外来を受診しました。

レントゲンで右下肺に白い影(浸潤影)があり、1ヶ月前より咳と痰を訴えていました。Gさんの話によれば、以前、気管支拡張症といわれたことがあったそうです。

胸部CTスキャンを撮りました。確かに右肺に気管支が正常より拡張している所見があり、気管支拡張症に細菌が感染し、咳と痰となっていると考えられました。放射線科がCTを読影した結果も同様でした。抗生剤を内服してもらい、症状は改善したので、受診は終了としました。

1年後、検診で異常を指摘されたGさんが、私の外来を再診しました。両肺に結節影が無数に見られます。気管支鏡で右下肺より癌細胞が検出されました。

私はGさんより責め立てられました。

「1年前から癌だったんでしょう。誤診(見落とし)でしょう。1年前に気管支鏡をやってくれていたらよかったのに。1年前だったら手術して治ったはずなのに。」

 

私は謝ることはしませんでした。なぜなら、誤診と偽陰性は違うからです。

 

医療関係者以外の多くの人は、CTを撮れば、肺の影がなんなのか分かってしまうと誤解しています。ナースレベルでもそう思っているかもしれません。CTを含めすべての検査は、偽陽性(間違って異常と判定すること)と偽陰性(間違って正常と判定すること)をはらんでいます。100%ではないのです。しかし、偽陰性が怖いからといって、どんどん検査を追加していっては、過剰な検査を患者に負担してしまうことになってしまいます。

Gさんには残念な結果となってしまい、未だに私の心の傷となっていますが、医療の世界に100%の結果はないのです。

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