糖尿病はCADの強力な危険因子
小川(司会)
現在,わが国の糖尿病患者は増加の一途をたどり,予備群を含めると約2,210万人に達すると推測されています。
糖尿病は CADの発症と密接にかかわっていることが知られており,CADを起こした患者の糖代謝異常の割合を調べると約5割でなんらかの異常を示すことが国内外のデータから示されています。
本日は,糖尿病患者におけるCADの予防戦略を最新の知見を交えて考えていきたいと思います。
朔 (糖尿病のリスクについて)
日本人の2型糖尿病患者の心血管疾患発症リスクは,疫学調査の結果から非糖尿病患者に比べて約3倍高いといわれています。
また,自験データからも,インスリン抵抗性があり,HDLコレステロール(HDL-C)値が低い方は,相乗的にCADの危険率が高まることが示されており,糖尿病を含めた糖代謝異常はCADの危険因子として極めて重要な病態といえます。
糖尿病患者の脂質コントロールはより積極的に
朔(CADリスクの高い糖尿病患者の治療のポイント)
日本人の糖尿病患者を対象に実施されている疫学調査JDCS(Japan Diabetes Complications Study)の9年次報告では,2型糖尿病患者におけるCADのリスクについて検討していますが,最も重要な因子はLDLコレステロール(LDL-C)であることが示されています。
こうした結果から,糖尿病患者のCAD発症抑制のためには,血糖管理に加えLDL-Cの管理が重要と考えます。
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007 年版における糖尿病患者のLDL-C管理目標値は一次予防で120mg/dL未満,二次予防で100mg/dL未満と厳格な目標値が設定されています。
一 方,米国のガイドラインNational Cholesterol Education Program(NCEP)ATPⅢでは,糖尿病はCADに相当するvery high riskに分類され,一次予防であってもLDL-C目標値は100mg/dL未満に設定されています。
糖尿病の危険因子としての重み付けはガイドラインで異なり,いまだ議論の余地があるところと思います。
小川
糖尿病患者においてLDL-Cをどこまで下げればよいかということを明確に示すことは今後の大きな課題の1つと考えられます。
今回, 日本人の急性冠症候群(ACS)を対象としたJAPAN-ACSの糖尿病サブ解析結果から,そのヒントになるような知見が得られたと伺っています。
糖尿病患者における冠動脈プラークの特徴
廣
われわれが実施したJAPAN-ACSは,日本人のACSを対象にピタバスタチンまたはアトルバスタチンを投与しプラーク容積がどのように変化するかを検討したもので,平均17.5%のプラーク退縮を認めました。
また,この試験の中でプラーク退縮の因子として糖尿病が重要であることが分かり,サブ解析として糖尿病群(全体の約30%)と非糖尿病群を比較したところ,両群間でLDL-C変化率には有意差がないにもかかわらず,プラーク容積 変化率は糖尿病群で有意に低いことが示され(図1),糖尿病患者ではプラークが退縮しにくいことが明らかになりました。
廣 (糖尿病患者のプラークが退縮しづらい理由)
明確な理由は分からないのですが,一般的に糖尿病患者の血管はプラーク量が多く,さらに石灰化しているという特徴があり,こうした性状の違いが関係していると思われます。
小川
JAPAN-ACSのサブ解析ではもう一点,興味深い結果が得られているようですね。
廣
プラークとLDL-Cの関係について非糖尿病群,糖尿病群に分けて解析したところ,非糖尿病群では,LDL-Cとプラーク容積変化率には有意な相関が認められなかったのですが,糖尿病群では,LDL-Cとプラーク容積変化率に有意な相関が認められました。
つまり糖尿病患者においては,LDL-Cを下げれば下げるほど,プラークが退縮に向かうことが示されました。
小川
なるほど。糖尿病の有無によってスタチンの効果が違ってくるのですね。
この知見をどのように解釈したらよいでしょうか。
廣
スタチンによるプラーク退縮のメカニズムにはLDL-Cに依存するものと依存しないものがあり,その加算によって退縮が決まると推測しています。
糖尿病ではなんらかの影響でLDL-C非依存の部分が抑制されてしまうため,LDL-C依存性の部分が残り,それが前面に出ているのではないかと考えています。
小川
今回の解析から糖尿病患者の脂質管理目標値に関して何か新たな知見は得られたのでしょうか。
廣
脂質管理目標値については,値が明らかになっているわけではありませんが,糖尿病患者においては積極的にLDL-Cを下げることの重要性を示唆する結果が得られたと考えています。
現在,日本人のCADを対象としたREAL-CADという試験が進行中です(図2)。
この試験は,日本で初めてのストロングスタチンによる積極的脂質低下療法の二次予防効果をみた大規模臨床試験です。
この結果が明らかになれば,LDL-C はどこまで下げるべきなのかについて日本人独自の新たな基準が示されることでしょう。
そしてそのサブ解析を含めて,日本人の糖尿病患者の脂質管理に関する エビデンスが今後次々ともたらされるものと期待しています。
日本人におけるピタバスタチンの新たなエビデンス
小川
このような臨床研究の結果からもやはり糖尿病患者においてはストロングスタチンを用いてLDL-Cをしっかり管理する必要があるわけですが,現在3種類ある中でどのスタチンを使えばよいのでしょうか。
朔
私たちが行ったPATROL Trialは,そのストロングスタチン3剤を世界で初めて直接比較した試験です。
九州の51施設において高コレステロール血症患者302症例を登録し,ピタバスタチン2~4mg/日,アトルバスタチン10~20mg/日またはロスバスタチン2.5~5mg/日の3群に無作為に割り付け,各薬剤を16週間投与しました。
有効性および安全性について検討した結果,いずれの投与群もLDL-Cが十分に低下し,重篤な副作用もなく忍容性は高いと判断されました。
さ らに詳細に検討していくとピタバスタチンは,HbA1cにほとんど影響を与えませんでした(表)。
この点についてはクラスエフェクトではなく各薬剤固有の作用(ドラッグエフェクト)が存在する可能性があると考えています。
小川
糖尿病患者の治療では,糖代謝に影響を及ぼさないことが重要と考えられます。
このメカニズムは何が考えられますか。
朔
スタチンがHMG-CoA還元酵素を阻害するところにHbA1cが上がるメカニズムが存在すると考えていますが,ピタバスタチンは,HMG-CoA還元酵素阻害作用とは独立してLDLレセプターを効率的に増加させるとのデータがあり,そのような作用がHbA1c上昇を抑制している可能性があります。
同じクラスの薬剤間にも少しずつ特徴に差があり,臨床現場では合併症など患者背景を考慮し,最も適する薬剤を選択することが望ましいと思います。
小川
PATROL Trialの結果は,脂質異常症治療におけるストロングスタチンの使い方を示す重要な知見と思われます。
われわれも,CAD患者を対象にピタバスタチンまたはアトルバスタチンを投与し,HDL-Cと高分子量アディポネクチンを中心に,脂質やhs-CRP,HbA1cに与える影響を検討するCOMPACT- CADを進めています(図3)。
現在データを解析しているところですが,この結果によりスタチンごとの特徴が明らかとなれば,脂質異常症治療に新たな示唆を与えられるのではないかと期待しています。
出典 Medical Tribune 2011.7.7