第84回米国心臓協会年次集会(AHA 2011)での発表記事で勉強しました。
~HDLターゲット治療~ コレステロール引き抜きと逆転送促進を目指すべき
スタチンによる強力なLDL-C低下療法によっても残存する心血管疾患の発症・再発をいかに防ぐか—。
その解決策として,HDLを標的とした治療が脚光を浴びている。
ペンシルベニア大学(ペンシルベニア州フィラデルフィア)内科・薬理学のDaniel J. Rader教授は「HDL-C上昇」に代わって,HDLによる「コレステロール引き抜き(efflux)と逆転送の促進」を目指す治療へのコンセプトの転換を提言した。
HDL-C仮説からHDL流動仮説へ
Rader教授はまず,疫学研究などを基に提唱された「HDL-C上昇が心血管イベントを減少するだろう」との“HDL-C仮説”が,遺伝子学的研究や今学会での徐放性ナイアシンのAIM-HIGHなどの臨床試験により痛手を負っていると指摘した。
同教授らは,HDLによるコレステロールの引き抜きと逆転送に焦点を当て研究を推進してきた。
測定が難しかったマクロファージからのコレステロール逆転送をin vivoで定量化できるモデルマウスや,HDLにより逆転送されたコレステロールを肝臓に取り込む受容体scavenger receptor class B type I(SR-BI)のノックアウトマウスなどを作製。
後者ではHDL-Cは上昇するが,逆転送の障害により動脈硬化が促進されることを明らかにした。
一方,プロブコールのHDL-C低下作用にも着目。
同薬が肝臓のATP結合カセット輸送体(ABC)A1活性を阻害し,肝臓から血漿中へのHDL由来コ レステロールの排出を抑制してHDL-Cを低下させるものの,胆汁中や糞便へのコレステロール排出を増加させて逆転送を促すことを解明し,これが動脈硬化軽減に寄与している可能性を示唆した。
さらに同教授らは,ヒトでのHDLによるマクロファージからのコレステロール引き抜き能のin vitroでの測定系を開発。臨床的にもHDL-C引き抜き能が,HDL-Cとは独立して頸動脈内膜中膜複合体厚(IMT)や冠動脈造影による冠動脈疾患 と有意な逆相関を示し,HDL-Cよりも冠動脈疾患との関連が強いことを突き止めた。
同教授は「HDL-C仮説を捨て去り,コレステロールの引き抜きと逆転送の促進が心血管イベントを減少するという“HDL流動(flux)仮説”を提案 するときが来た」と強調。
コレステロールエステル転送蛋白(CETP)阻害薬が,ABCG1経路を介してマクロファージからのコレステロール引き抜きを促 進している可能性や,CETPが逆転送のプロセスの鍵を握っている可能性にも言及した。
出典 Medical Tribune 2012.1.5
~evacetrapibの第Ⅱ相試験~ 優れた脂質改善効果が明らかに
HDLコレステロール(HDL-C)値の上昇を目指す治療が模索される中,期待を集めているのがコレステロールエステル転送蛋白(CETP)阻害薬だ。
クリーブランド・クリニック臨床研究調整センター(オハイオ州クリーブランド)のStephen J. Nicholls部長らは,新規CETP阻害薬evacetrapibが,懸念される血圧上昇などを来すことなく,HDL-C値を著明に上昇させ,LDL コレステロール(LDL-C)値を低下させることを,第Ⅱ相試験としてオーランドで開かれた第84回米国心臓協会年次集会(AHA 2011)で明らかにした。
結果の詳細はJAMA(2011; 306: 2099)に報告された。
500mg/日群でHDL-C 128.8%上昇,LDL-C 35.9%低下
対象は,18歳以上で食事療法と脂質改善薬のウオッシュアウト後に,低HDL-C(男性45mg/dL,女性50mg/dL未満),または高LDL- C(100mg/dL以上,上限はリスク別に130~190mg/dL),トリグリセライド(TG)400mg/dL未満の脂質異常症患者。
欧米の70施 設から393例が登録され,
(1)evacetrapib単剤療法(プラセボと同薬30mg,100mg,500 mg/日の4群)
(2)スタチン併用療法(アトルバスタチン20mg,シンバスタチン40mg,ロスバスタチン10mg+プラセボまたは evacetrapib 100mg/日の6群)
-にランダムに割り付け,二重盲検で12週間追跡した。登録時の背景因子は各群同様で,平均年齢58.3歳,女性が56%,平均 LDL-C 144.3mg/dL,同HDL-C 55.1mg/dLだった。
単剤療法でのベースラインからの脂質変化は,HDL-Cがプラセボ群0.7mg/dL低下に対し,evacetrapib群では用量依存性に30.0mg/dL,50.9mg/dL,66.0mg/dL上昇した。
1次評価項目はベースラインからのHDL-CとLDL-Cの変化率で,HDL-C変化率はプラセボ群の−3.0%に対し,evacetrapib群では 用量依存性に53.6%,94.6%,128.8%と増大した(各P<0.001)。
一方,LDL-C変化率はプラセボ群の3.9%増大に対 し,evacetrapib群では用量依存性に有意な減少を示し,500mg/日群では−35.9%に及んだ(各P<0.001)。
臨床現場で頻用されるスタチン3種との併用療法では,evacetrapib併用群のHDL-C変化率は79.9~94.0%,LDL-C変化率も −46.1~−52.3%で,evacetrapib併用によりHDL-C上昇(P<0.001)とLDL-C低下(P<0.01)の増強が認められた。
安全性評価では,evacetrapib単独/併用群で有意な血圧上昇,鉱質コルチコイド作用などの有害作用や重篤な有害事象の増加はなく,忍容性も良好だった。
有用性高い対象の解明が課題
指定討論者でペンシルベニア大学内科・薬理学(ペンシルベニア州フィラデルフィア)のDaniel J. Rader教授は,HDL-C上昇が心血管イベントを減少するとの“HDL-C仮説”をCETP阻害薬が検証する可能性に期待を表明。今回の evacetrapibの用量によるCETP阻害率は50~90%だが,CETP阻害と心血管リスク減少との間に直線的関係が存在するかは不明であり,「心血管リスク減少のためのCETP至適阻害率の解明と,CETP阻害薬により最も恩恵を受ける対象集団を明らかにすることが今後の課題だ」と展望した。
ロスバスタチン vs. アトルバスタチン,プラーク退縮を直接比較同等の“前例のない”大きな効果,AHA 2011で発表のSATURN試験強化スタチン療法による動脈硬化進展抑制の検証において,初のスタチン間比較が実施された。このロスバスタチンとアトルバスタチンのプラーク退縮効果を検証したSATURN試験の 結果を,第84回米国心臓協会年次集会(AHA 2011:11月12~16日,オーランド)において,米クリーブランドクリニック臨床研究センターディレクターのStephen Nicholls氏が発表した。その結果,症候性冠動脈疾患患者への24カ月間の最大用量投与により,標的冠動脈のプラーク容積率(PAV)がともに有意に減少した。両薬間の効果に差は見られなかった。同氏は「至適なLDLコレステロール(LDL-C)値やHDLコレステロール(HDL-C)値を可能とする最大用量の強化スタチン療法において,高い忍容性と前例のない高頻度かつ大きなプラーク退縮が示された」と述べた。この成績は,N Engl J Med 2011年11月15日オンライン版に同時掲載された。 20%以上の狭窄有する冠動脈疾患患者に最大用量のスタチンを投与 SATURN試験は,北米,欧州,南米および豪州の208施設が参加した二重盲検ランダム化比較試験(RCT)だ。 対象は血管内超音波法 (IVUS)で冠動脈に1カ所でも20%以上の狭窄が認められた症候性冠動脈疾患患者。
LDL-C値の登録基準は,4週間以上のスタチン服用中の場合で80mg/dL超,それ以外ではLDL-C 100mg/dL超と設定された。
2008年1月〜09年6月にかけて1,578例が登録され,1,385例がランダム化割り付けされた。
まず,試験用量の半量で忍容性とLDL- C 116mg/dL未満の達成を確認する2週間のスクリーニング期間が設けられ,その後に,ロスバスタチン40mg群(R群)とアトルバスタチン 80mg(A群)に割り付けられ,104週間の投薬期間を経て再びIVUSが施行された。
割り付けが行われた1,385例のうち346例(25%)はIVUSの未実施などにより脱落したため,R群520例,A群519例の計1,039例が解析対象となった。
標的冠動脈プラーク退縮率は同等,全プラーク容積はロスバスタチンでより大きく減少
対象患者の平均年齢は57歳で,男性が約4分の3,BMI中央値は30%弱,高血圧7割程度,糖尿病15%程度,スタチン使用歴は6割程度だった。
他の治療薬としては抗血小板療法が98%に行われており,β遮断薬が6割程度,ACE阻害薬は4割強,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は 15%程度に投与されていた。
登録時点のLDL-C値は両群ともに約120mg/dLだった。
試験終了時の脂質値は,LDL-C値がR群62.6mg/dL,A群70.2mg/dLとR群で有意に低く(<0.001),HDL-C値はR群 50.4mg/dL,A群48.6mg/dLとR群で有意に高かった(P=0.01)。
そのため,LDL/HDL比はR群1.3,A群1.5とR群で有意に小さかった(P<0.01)。
一方,高感度C反応性蛋白(hsCRP)中央値はR群1.1mg/L,A群1.0mg/Lと,A群で有意に低かった (P=0.05)。
1次評価項目は,IVUSにより求められる標的冠動脈のPAV変化率で,R群の1.22%縮小に対してA群では0.99%縮小と両群間で差はなかった(P=0.17)。
しかし,両群ともベースラインに比べて有意な退縮が示された(表)。
Nicholls氏は「スタチンが用いられた試験の中でも最も大きい退縮率であった」と述べた。
一方,2次評価項目の全プラーク容積(TAV)のベースラインからの変化は,A群4.42mm3減少に対してR群では6.39mm3の減少と,R群の方が有意に減少していた(P=0.01)。
なお,1次評価項目でPAV縮小が認められた患者は全体の3分の2に上り,その頻度はR群が68.5%とA群63.2%を上回ったが,有意差はなかった(P=0.07)。 最大用量の強化スタチン療法でも3分の1で動脈硬化が進展 観察期間に発生した主要心血管疾患イベント(MACE)は,R群7.5%,A群7.1%とともに低かった。
副作用として,肝機能異常を示すALTの3×正常値上限(ULN)がA群2.0%に対してR群0.7%,蛋白尿がR群3.8%に対してA群1.7%と両群間に有意差が認められたが,全般に低率だった。
HbA1cの変化も両群で0.1%以下にとどまった。
脂質値の変化に違いは認められたものの,PAV変化率は両群同等であったことから,Nicholls氏は「いずれの強化スタチン療法でも前例のないプラーク退縮作用と高い忍容性が認められた。 しかし,3分の1の患者では動脈硬化が進展していたことから,さらなる抗動脈硬化治療の模索が必要といえ る」と結んだ。
指定討論者でノースウエスタン大学フェインバーグ予防医学教授のDarwin R. Labarthe氏は,1次評価項目と2次評価項目の結果に一貫性がない点や,割り付けの4分の1が脱落した点を挙げ,2剤の違いについて今回の成績から 臨床効果の違いを示すことはできないと指摘した。
出典 MT pro 2011.11.17
版権 メディカル・トリビューン社
<私的コメント>
昨日の診療終了後。
たまたまファイザーのMRさんがSATURN試験の結果の説明に来ました。
iPadで発表内容を、見せてくれたのですが一見アトルバスタチンに比較してロスバスタチンが有利な結果でした。
RCTということでバイアスはないものと思われますが、スポンサーはアストラゼネカのようです。
<自遊時間 その1>
ルイ・ダゲールは写真を発明した人とのことです。
ノーベル賞は物理学賞、化学賞、生理学・医学賞、文学賞、平和賞の6部門がありますが「物造り」の部門がありません。
じょの中の平和賞は本来ノーベルの遺志で作られたものですが、非常に軽い人(?)も受賞しています。
該当者がない年には無理に受賞者を選ばないでこういった飛行機、自動車、コンピューターなどの「物造り」の人に光りをあてていただけないものでしょうか。
もっともノーベル賞は1901年からですから、ルイ・ダゲールは受賞できなかったでしょうが。
スティーブ・ジョブズ氏なども「人類のために最大たる貢献をした人々」ということでは、立派な該当者かも知れません。
こんなことをふと思った次第です。
<自遊時間 その2>
定期購読の医学雑誌の継続更新の季節となりました。
私は長年「週刊・日本医事新報」を大学生協で定期購読して来ました。
ご存知のように4月から模様替えをして、内容も随分若い先生向きに変わりました。
いわゆる「ハウツー物」が増えました。
これを良しとするかどうかは購読者が決めることです。
私はモデルチェンジしてからのこの雑誌に個人の読み物として毎週777円を投資する価値はない、と判断しました。
来年から購読中止する旨、生協に電話をしました。
すっきりしたような後ろ髪を引かれるような複雑な心境です。
<ちょっと気になるサイト>
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