減塩の臨床的効果の評価とともに,減塩を進めていく上での課題や具体策を,滋賀医科大学生活習慣予防センターの上島弘嗣特任教授(同 大学名誉教授)と九州医療センター高血圧内科の土橋卓也医長にインタビューした記事で勉強しました。2011年に発表された2件の論文を引き金として,減塩の臨床的効果をめぐる論争が展開された。1つはJAMAに報告された観察研究,もう1つはコクランレビューのメタ解析で,ともに減塩が心血管リスクや死亡の上昇を招く可能性を指摘した。しかし,このデータについては異論が噴出しており,米食品医薬品局(FDA)もあらためて減塩を推進する旨の声明を出した。では,これまで減塩について多くの検討を重ねてきた日本の研究者は,今回の報告をどのように受け止めているのか。 減塩効果に疑問を呈した2論文の解析方法に重大な瑕疵あり 減塩論争の発端となった論文の1つは,ベルギー・ルーベンス大学の研究グループによる観察研究(JAMA 2011; 305: 1777-1785)。
欧州の地域住民を対象とした2件の前向きコホート研究(FLEMEGHO:1985~90年,EPOGH:99~2001年)の参 加者のうち,心血管疾患のない成人男女3,681例(平均40.9歳,追跡期間中央値7.9年)を抽出。
24時間尿中ナトリウム(Na)排泄量別に3群に 分けて,総死亡,心血管死,高血圧の発生を比較したところ,Na排泄量の最も少ない群で,心血管死のリスクが上昇傾向にあったという。
つまり,食塩摂取量が少ないほど,心血管死のリスクが高いと解しうる。
上島教授は,この試験の目的自体は妥当であるが,解析方法に大きな問題があると指摘する。「最大の誤りは,調査期間が10年以上違う2件のコホート研究 を併せて解析してしまっていることだ。イベント発生率を比べても,古いコホートであるFLEMEGHOは高く,新しいコホートのEPOGHは低い。喫煙率 も同様で,学歴も前者で低く,後者で高いという差がある。このように背景因子の大きく異なる集団をプールして一緒に解析するのは非科学的。なぜこのような 方法を取ったのか,首をかしげざるをえない」 もう1つは,24時間尿中Na排泄量を調べるための蓄尿の仕方だ。通常,尿量は男性の方が多いはずだが,このデータではむしろ女性が上回っている(表1)。また,1日の尿量が3,000mLを超える人が多いのに2,500mLしか蓄尿されず,それ以上の排泄量がある人の尿量が反映されていない。
では,コクランレビューのメタ解析はどうか。対象は,2008年10月までに発表された追跡期間6カ月以上のランダム化比較試験(RCT)で,減塩指導か減塩対策による介入を行い,死亡や心血管疾患の発生を指標として検討したもの。この選択基準に合致した論文は7件あり,対象総数は6,489例(正常血 圧3,518例,高血圧758例,両者の混在1,981例,心不全232例),観察期間は7~36カ月(最長12.7年)だった。メタ解析の結果,656 例が死亡していたが,総死亡,心血管死の相対リスクは正常血圧者と高血圧者で差がなかった。一方,心不全患者の全死亡リスクは2.59倍に上昇していた。 この結果について解析したグループは「死亡や心血管死を抑制する減塩のベネフィットは明らかにならなかった」とコメントしている。 しかし上島教授は,このメタ解析にも重大な問題点があると指摘する。まず,取り上げた研究の追跡期間が短すぎるという点だ。中には7カ月というものもあり,これで結論を出すのは無理があるという。さらに,減塩効果を均質な集団で比較していない点を挙げる。「正常血圧者と高血圧,心不全などの患者の減塩は 全く別のもの。次元の違う集団をメタ解析しても正しい結論は出てこない。この論文から分かるのは,心不全という特殊な病態を抱えた患者では,減塩が良くないということだけ。心不全患者は,既にループ利尿薬などを多量に使っているケースがほとんどで,そこへさらに厳しい減塩を行っている。そうした治療方針そ のものも疑問だし,そのデータを踏まえて,減塩による心血管死抑制のベネフィットが明らかでないと言うのは不適切だ」
減塩効果を高めるには全国的な環境整備が不可欠
ルーベンス大学グループによる観察研究やコクランレビューに対する,他の日本人研究者の評価も上島教授の考えに集約されるようだ。
同教授も「2つの論文 によって,これまでわが国で積み重ねてきた減塩対策に水を差されることはない。むしろ,論争が起こったことで,減塩への関心がいっそう高まる可能性がある」と前向きにとらえる。
そこで問題となるのは,さらなる減塩対策をどう進めていくかだ。
日本人の平均食塩摂取量は,20~30g/日余り取っていた時代から見るとかなり減少した。
しかし現在でも11g/日と,高血圧ガイドラインの目標(6g/日未満)にはほど遠く,世界的に見てもかなり多い。最新のNIPPON DATAによると,食塩摂取量が多く,野菜・果物摂取量が少ないと,10年以内の循環器疾患死亡リスクが高くなる(表2)。
逆に,国民全体で1日当たり1g減塩すれば,収縮期血圧が1mmHg,2g減塩すれば2mmHg下がり,それによって脳卒中など心血管イベントによる死亡者数が大幅に減るという試算もあるという。

とはいえ,減塩は容易ではない。
特に難しいのが健康な一般人への啓発だ。
高血圧や心不全などの通院患者では,合併症の予防という動機付けが比較的簡 単で,しっかりした知識と情報を伝えれば,ある程度の減塩は可能になる。
しかし健康人の場合は,減塩への意識が薄く,舌は濃い味,おいしい味に流れてしま う。
それを変えるには,国全体の環境整備が欠かせない。
例えば,現在,食品や調理品に表示されているNaに加えて塩分も明記し,食塩への注意を喚起するのも 1つの手だ。
また,加工品の塩分量を少しずつ減らしていくことも大事だ。
同教授は「日本人の舌を濃い味文化から薄味文化に転換していくのは大変だが,減塩 のためにはそのハードルを越えていく必要がある」と話す。
減塩の意義や臨床効果は日本で確認されている
土橋医長も今回の論争を巻き起こした2件の研究には否定的で,「欧米諸国に比べ食塩摂取量の多い日本では,高血圧の管理,そして心血管イベントの予防という観点から減塩の意義は極めて大きい」と主張する。
とはいえ,日本人の食文化に深くかかわっている食塩摂取を減らすのは容易ではない。
同医長らのグループはアンケートを行い,高血圧患者の多くは減塩の意識を強く持っているものの,それが尿中食塩排泄量に反映されていないことを確かめている(図1)。
また,日本全体で見ても食塩摂取量は,目標の6g/日未満からはるかに遠い11g/日で足踏みしているのが実情だ。

出典 Medical Tribune 2012.1.26
版権 メディカルトリビューン社 <番外編>武田薬品が高血圧治療薬アジルサルタンの承認を厚生労働省より取得
1月18日: 武田薬品は、高血圧治療薬アジルサルタン(アジルバ)の製造販売承認を厚生労働省より取得したことを発表した。
本承認は国内で実施された4つのフェーズ3試験に基づいており、カンデサルタンと比較した試験では、軽度から中等度の高血圧患者636人において、アジル サルタンによる治療を受けた群で、座位拡張期血圧、24時間自由行動下血圧などにおいて有意に高い降圧効果が示され、安全性と忍容性は同等であった。
本薬剤は、武田薬品が創製した1日1回経口投与の新規ARBである。
https://www.tcross.co.jp/details.php?category=market&no=1534
第34回日本高血圧学会での島田和幸会長による会長講演「高齢者高血圧の研究」の記事で勉強しました。
地域医療の現場から高齢者高血圧を追究
第34回日本高血圧学会で島田和幸会長は「高齢者高血圧の研究-地域医療の現場から」と題する会長講演(座長=高知医科大学・小澤利男名誉教授)を行った。
米タフツ大学リサーチフェローを経て,1981年以降高知医科大学(現高知大学)老年病科で10年,次いで自治医科大学で20年にわたり,高齢者高血圧にフォーカスした研究の軌跡を語り,高齢者高血圧の治療が極めて今日的な問題であることを示した。
高齢者血圧の規定因子は構造的要因が優位
高知医科大学に赴任した1980年代前半,加齢に伴う心拍出量の減少は必ずしも一様ではなく,日常活発に活動している高齢者では心拍出量は意外にも維持されていることがCirculationに報告され,生理的加齢変化の考え方に大きな変革がもたらされた。
当時提唱されたsuccessful agingの概念は,個々人の生活習慣や生活環境によって老化が左右されることを示し,島田会長にとって,従来加齢変化と考えられていた多くの現象を根本から見直す契機となった。
それにはまず,心血管系の正常加齢変化とは何かを明らかにしなければならない。
高知県の地域住民ボランティアを正常対象者とし て,精力的な研究が開始された。
まず,同大学の理工学系の研究者らとの共同研究を通じて生物統計学の手法を取り入れ,地域ボランティアの測定値を基に,年齢,調圧反射機能,SBP,血漿カテコールアミンの相関関係を検証。
大動脈硬化が起こると,頸動脈内の圧受容体が血管壁の張力変化を感知しにくくなり,結果として交感神経が亢進し,血圧上昇の一因となることを証明した。
すなわち高血圧の病態は,神経・液性循環調節因子よりも,心血管系が肥大し,血管が硬くなるという構造的要因が加齢とともに優位になることが明らかになった。
実際に健康若年者と健康老年者を比較すると,心係数や末梢血管抵抗に大きな変化は見られない。
しかし健康高齢者と高血圧高齢者を比較すると,後者で末梢血管抵抗係数や左室重量係数が有意に増加する。
当時,60歳以上を対象とした研究はほとんどなく,一連の成果をHypertensionに報告すると,“much needed data”と高い評価を受けた。
同会長は,高齢者高血圧の研究について「高齢者の究極のテーマは,老いてなおいかに健やかさを保つかであり,心拍出量が何%低下したかではなくて,最大の関心は脳卒中にだけはなりたくないということだ」と指摘。研究のフォーカスは,高齢者高血圧による臓器障害,特に心疾患以上にQOLに深刻な影響をもた らす脳血管障害となった。
同会長は,MRIを導入して高血圧の高齢者における無症候性脳血管障害の定量的な解析を開始した。
この試みは全国でも初の試みであり,同時にこの時 期,24時間血圧計が臨床で使えるようになったため,いち早く血圧日内変動と脳血管障害の関連を追究し,dipper,non-dipperの概念を提唱。
ラクナ梗塞の数は夜間の血圧降下が少ないnon-dipperで有意に多いことを1992年にHypertensionに報告。「
脳卒中は夜間の血圧低下によって発症する」という当時の定説を覆した。
1991年に自治医科大学に赴任後は,日本各地で地域医療に従事する同大学出身者と連携して,高齢者高血圧と脳卒中の関連をさらに広範に追究していった。
超高齢者,要介護老人の降圧治療をどうするか
当時,兵庫県淡路島の診療所に在勤していた苅尾七臣氏(現自治医科大学循環器内科主任教授)は,島田会長との共同研究を通じて,夜間の血圧が過度に低下するextreme-dipperもnon-dipperと同様に無症候性脳血管障害が増加していることを報告。
その後,起床直後に血圧が急上昇する morning surge群で無症候性脳梗塞の頻度が有意に高い(P=0.02)ことを見いだし,同会長と共著でCirculationに報告した。
これらの長年にわたる先駆的な研究の蓄積から,現在は外来以外の血圧が重要であることが周知となっている。自治医科大学関連グループが約1,000例の 高血圧患者で外来血圧と家庭血圧を調べたところ,外来・家庭のいずれでも高血圧の範ちゅうに入る例が38%,外来血圧のみ高い白衣高血圧が18%,外来は 正常だが家庭血圧が高い仮面高血圧が23%,いずれの血圧も正常値を示すものが21%だった。
同会長は現在,約2万例の高血圧患者を対象とする前向き観察 研究HONEST studyを進めており,降圧薬の投与を開始した症例で外来血圧と家庭血圧を測定し,心血管イベントの発症との関連を調べている。
同会長は同試験の意義に ついて,現在の診療形態において家庭血圧をどう理解し臨床に組み込むか,示唆となる研究と位置付ける。
心血管イベントの予防のために,高齢者高血圧をどう治療すべきか。
最近,米国心臓病学会財団(ACCF)/米国心臓協会(AHA)指針は,80歳以上でもSBPは140mmHg未満とするが,忍容性を考慮して140~145mmHgも許容される。
同時にgeneal health conditionもサポートすべきとした。
同会長は,これは非常に重要なメッセージであるとして,「地域医療にとって切実な問題である超高齢者や要介護 老人の降圧治療をどうするかなど,定量的なルールを明確にすべき問題は少なくない」と結んだ。
出典 Medical Tribune 2011.11.12版権 メディカル・トリビューン社
中年期の血圧変化がCVDのライフタイムリスクを決める米7研究70万人・年の分析結果米・ノースウエスタン大学のNorrina Allen氏らは,米国の7研究約70万人・年を分析した結果,中年期の血圧の上昇が心血管疾患(CVD)のライフタイムリスク(死亡までに発症する絶対 累積リスク)に大きなインパクトを与えており,41~55歳の間に正常血圧を維持したか正常血圧に低下した群でリスクが低く,55歳までに高血圧を起こし た群でリスクが高かったと報告した(Circulation 2011年12月19日オンライン版)。中年期において高血圧の発症を防ぐか遅らせることが,CVDを予防する上で重要と指摘している。 55歳で高血圧なら85歳までに最大で男性7割,女性5割がCVD発症Allen氏らは,追跡期間10年以上のコホート研究を集めたCardiovascular Lifetime Risk Pooling Projectのデータを用い,研究条件に適合した7研究の6万1,585人を対象に,55歳時から心血管疾患の発症または死亡まで69万5,394人・ 年追跡した。 血圧のカテゴリーは,米国合同委員会第7次報告(JNC-7)にのっとり,正常血圧120mm/80mmHg未満,前高血圧:120~139 /80~89mmHg,ステージ1高血圧:140~159/90~99mmHg,ステージ2高血圧:160/100mmHg以上,とした。 その結果,CVDのライフタイムリスクは男性52.5%(95%CI 51.3~53.7%),女性39.9%(同38.4~41.0%)で,冠動脈疾患(CHD)については男性30.9% (同29.8~31.9%),女性17.5%(同16.6~18.3%),脳卒中については男性11.2%(同10.3~12.1%),女性14.7% (同13.6~15.8%)だった。 55歳時の正常血圧は男性25.7%,女性40.8%で,前高血圧は男性49.7%,女性47.5%だった。各疾患のライフタイムリスクは男女ともに血圧のカテゴリーが高いほど増加していた。 血圧のカテゴリーが高いほどCVDのライフタイムリスクが8%に達する年齢は低下した。特にアフリカ系米国人女性においては,血圧のカテゴリーが最も低い群と高い群でCVD 9年,脳卒中21年という開きがあった。同じ血圧カテゴリーではアフリカ系米国人は白人より8%を超える年齢が低かった。 平均41~55歳の中年期に,半数は血圧カテゴリーが変わらなかった。血圧カテゴリーは男性では約20%が低下し,約30%は上昇。女性では約40%は上昇し,約10%のみ低下しており,女性で中年期の血圧上昇が目立った。 男女ともにその間正常血圧を維持しているか正常血圧に下がった群でCVDのライフタイムリスクが最も低く(21.8~41.0%)で,正常血圧を 維持あるいは正常血圧に低下した群の間ではライフタイムリスクは同等だった。それに対し,55歳までに高血圧を発症するか,高血圧が続いていた場合はリス クが最も高く,男性では最大69.0%,女性では最大49.4%が85歳までにCVDを発症すると見積もられた(表)。
血圧の経時的変化をリスクの個別化,予防戦略に取り入れるべきなお,この期間を通して高血圧だった男性は脳卒中のリスクが高く,高血圧に移行した男性はCVD,CHDのリスクが高かった。一方,女性はこの間に高血圧に移行した場合脳卒中のリスクが高く,高血圧が続いた場合CVD,CHDのリスクが高い傾向があった。 Allen氏らは「CVDのリスクは高血圧の期間の長さに依存することが示唆された」とし,血圧の測定値のみならず経時的血圧変化をリスクの個別化,CVDの予防戦略に取り入れることが有用としている。 (木下 愛美) 出典 MT pro 2011.12.26
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