ガイドラインによる急性心筋梗塞患者の血清K値,至適でない可能性 米,3万8,000例対象の後ろ向きコホート研究 米エモリー大学のAbhinav Goyal氏らは,急性心筋梗塞(AMI)治療に関し,現状のガイドラインが推奨する血清カリウム(K)値が至適ではない可能性を2012年1月11日発行のJAMA(2012; 307: 157-164)に報告。全米67施設,約3万8,000例を超えるAMI患者のデータを検討した結果,血清K値と死亡率におけるUカーブの底は現在の推奨値(4.0~5.0mEq/L未満)ではなく,3.5~4.5mEq/L未満だったとしている。 4.5~5.0mEq/Lで死亡率が3.5~4.0mEq/Lの2倍 適正なK値の維持は,冠動脈疾患患者の有害事象を予防するに当たり重大とGoyal氏。現在,日本を含む各国のガイドラインの多くは,AMI患者で保持すべき血清K値の範囲を4.0~5.0mEq/Lとしており,中には4.5~5.5mEq/Lを推奨しているものもあるという。 この根拠とされているのが,1970年ころから2000年までの間に報告された複数の論文。AMI患者の血清K値3.5mEq/L以下となった場合,心室性不整脈(VF)の増加が見られたとされている。 しかし,当時の試験では現在のようにβ遮断薬のルーチン使用や再灌流療法,早期からの積極的治療が行われていなかったほか,いずれも小規模な検討で,十分な解析が行われているとは言い難いと同氏らは指摘。2000年から現在までの臨床情報から,現在の環境とガイドライン推奨値の間に隔たりがないかどうかを検証することにした。 全米67施設の患者登録システムから2000~08年のAMI確定診断例のデータを抽出,入院期間中の平均血清K値と院内死亡との関連を解析。 その結果,死亡率が4.8%と最も低かったのは血清K値が3.5~4.0mEq/L未満の群で,これを参照群とした場合,4.0~4.5mEq /L未満群の死亡率は5.0%だったが,4.5~5.0mEq/L未満では10.0%と参照群の2倍に上っていた。一方,同値が3.0~3.5 mEq/L未満の場合も死亡率は11.4%と同様に高まっていることが示された(図)。
また,入院期間中のVFまたは心停止の明らかな増加が見られたのはK値が最も低かった群(3.0mEq/L未満)と最も高かった群(5.0mEq/L以上)のみであった。 以上の結果から,同氏らは現行のAMIガイドラインが推奨する血清K値は再考の余地があると提言している。 (坂口 恵)
出典 MT pro 2012.1.12
版権 メディカル・トリビューン社
MCV低値は安定冠動脈疾患患者のAMIリスクに
基本的な末梢血球検査の1項目で貧血の診断時などに用いられる平均赤血球容積(MCV)が、安定冠動脈疾患患者における急性心筋梗塞(AMI)発症の予測因子になるという。
自治医科大学循環器内科の齋藤俊信氏らが、9月23~25日まで開催されていた第59回日本心臓病学会(JCC2011)で発表した。
心不全患者において貧血は、心血管イベントの予測因子になることが知られている。
そこで齋藤氏らは、安定冠動脈疾患患者でも貧血が心血管イベントの予測因子になる可能性があるとの仮説を立て、今回の検討を行った。
対象は、血行再建に成功した安定冠動脈疾患患者、連続803例(男性658例、女性145例、年齢64.4±9.7歳)。血液疾患や免疫異常の合併、急性冠症候群、3カ月以内の心血管イベントの既往がある患者は除外した。
観察開始時の体重指数(BMI)は、平均24.2 kg/m2。合併する心血管リスク因子は、高血圧75%、脂質異常症66%、糖尿病43%、喫煙37%、冠動脈疾患の家族歴21%、陳旧性心筋梗塞37%などだった。
末梢血球検査値は、赤血球(RBC)428万/μL、ヘモグロビン(Hb)13.5g/dL、ヘマトクリット(Ht)40%、MCV 93.8 fL、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)31.5pg、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)33.6%、血小板数(Plt)22.6万/μLなどで、高感度CRP(hs-CRP)は3097ng/mL、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)は1317pg/mLだった。
平均774日のフォローアップ期間中に発生した主要心血管イベント(MACE:心不全、冠動脈再血行再建、AMI、致死的不整脈、脳卒中、突然死と定義) は、105例(13%)だった。
内訳は、冠動脈再血行再建43例(41%)、心不全30例(29%)、AMI 14例(13%)、脳卒中8例(8%)、突然死7例(7%)、致死的不整脈3例(3%)だった。
まず、赤血球の量的指標であるRBC、 Hb、Htをそれぞれ四分位して(低値からQ1、Q2、Q3、Q4)MACE発生との関連を見たところ、HbとHtに関してはQ1でMACE発生率が非常に高く、Q1とQ2~Q4との間で有意差が認められた(Hb:p=0.001、Ht:p=0.002)。
一方、RBCは4群間に有意差はなかった。
次に、赤血球の質的異常に着目し、MCV、MCH、MCHCの各四分位とMACE発生との関連を見た。
その結果、MCHとMCHCでは4群間に有意差はなかったが、MCVではQ1において、Q2およびQ3に比べて有意に高値を示していた(p=0.037)。
個々のイベントにおいて、MCVの四分位と有意な関連が認められたのはAMIだけだった。
MACEを従属変数、各指標(年齢、BMI、Plt、HbA1c、推算糸球体濾過量[eGFR]、GOT、HDL、MCV)を説明変数として、Cox比例ハザードモデルによる多変量解析を行うと、MCVだけが有意な予測因子となった。
以上より齋藤氏は、「MCVは安定冠動脈疾患患者において、AMI発症を予測する臨床上重要な予測因子となり得る」と結論した。
MCVとAMIの関係につ いて詳細は不明としたが、鉄欠乏性貧血などの小球性貧血でMCVが低値となること、また血清中への鉄移送を抑制するヘプシジンが慢性炎症で増加することから、「慢性炎症に伴う鉄欠乏性貧血が関与している可能性がある」と述べた。
出典 NM online 2011.9.28
(日経メディカル別冊編集)
版権 日経BP社
<私的コメント>
MCV(平均赤血球容積)= Ht×10÷RBC
MCVが減少した状態はとりもなおさず小球性です。
どうしてMCVだけがMACE発生に関係しMCHC、MCH、は関係がなかったのでしょうか。
血液のことはよくわかりませんがMCVが低ければ(Hbが正常でも)その時点で貧血という定義になるのでしょうか。

ラウ・デユフィ ヴァカンス・フォルセ:オパール・ブルー 木版画 http://www.suiha.co.jp/?cat=9&pid=791&aid=19 |
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心筋梗塞後の責任血管完全閉塞例へのPCI
施行を支持しないガイドライン推奨は浸透せず
ブリティッシュコロンビア大学(カナダ・バンクーバー)のMarc W. Deyell博士らは「心筋梗塞発症後の梗塞責任血管が閉塞した安定患者への経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の適切な施行に関するガイドラインの推奨が,診療に十分反映されていない」との研究結果をArchives of Internal Medicine(2011; オンライン版)のLess Is Moreシリーズに発表した。
改訂後もPCI施行率は不変
米国立心肺血液研究所(NHLBI)の助成を受けたOccluded Artery Trial(OAT)の結果が2006年に発表された。
OATは,心筋梗塞発症後24時間以降(2~28日後)に梗塞責任血管の完全閉塞が同定された安定症例を対象に,バルーン血管形成術やステント留置などのPCIの効果を検討したものである。
Deyell博士らは「OATにより,そのような患者に対する PCIの施行は臨床イベントの減少につながらないこと,また狭心症やQOLに対するPCIの効果は限られており,持続しないことを示すエビデンスが得られた。さらに,PCIは至適薬物療法単独に比べて費用が高かった。したがって,これらの知見に基づき,心筋梗塞後の責任血管完全閉塞例へのルーチンなPCI 施行は減少するはずであった」と述べている。
同試験の結果が発表された後,それに沿って米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)はガイドラインを改訂した。
同博士らは,ガイドライン改訂後の診療内容の変化について検討した。
米国の心カテーテル実施施設の情報を収集しているCathPCI登録に含まれる 2005~08年のデータを解析し,OATの発表前後ならびにガイドラインの改訂前後におけるPCI施行率を比較した。
また,診断的カテーテルの報告は義務付けられていないため,診断的カテーテルについて報告している上位四分位の施設の傾向を調査した。
調査には896施設の受診者2万8,780例のデータが含まれた。
PCI施行患者数は,OATの発表前で1万1,083例,同試験の発表からガイドライン改訂までの期間で7,838例,ガイドライン改訂後は9,859例であった。
年齢,性,保険などの変数を調整した結果,同試験の発表後またはガイドライン改訂後,閉塞例に対する全体のPCI月間施行率に有意な減少は認められなかった。
診断的カテーテルについて継続的に報告している施設でのPCI施行率は,同試験の発表後は減少していなかったが,ガイドライン改訂後は若干減少する傾向が認められた。
不適切なPCIの施行に警鐘
Deyell博士らは「今回の研究では,OATの結果やこれを踏まえたガイドラインの改訂が,その後1~2年間にわたり心疾患治療やPCIに影響を及ぼしたとするエビデンスは,わずかしか得られなかった。心筋梗塞後24時間以降に梗塞責任血管の完全閉塞が同定された安定患者に対するPCIについては,その施行を支持するエビデンスが乏しく,新ガイドラインでも施行しないよう推奨しているにもかかわらず,施行され続けている」と指摘。
「これは,多くの患者に対して有用性の低い高額な治療が施行されている可能性があること,また研究に費やした膨大な時間と労力が診療にさほど貢献していないことを意味している」と述べている。
出典 Medical Tribune 2011.9.29
版権 メディカル・トリビューン社
<私的コメント>
「安定患者」の定義は一体何どうなっているのでしょうか。
はたして心筋梗塞後24時間以降で「安定」かどうか判定できるのでしょうか。
<自遊時間>
当院では月に一度、腕のいい先生にエコーに来ていただいています。
最近のこと。
60代男性でMR,TRのある方に肝うっ血の有無をチェックしていただきました。(急激に総コレステロール値が低下)
レポートには「バニーガールサイン」と書かれていました。
先生に「バニーガールの尻尾のところですか」と訊くと、即座に「いや耳のところです。肝静脈のうっ血像がウサギの両耳に似ていることからつけられた名称です」 と答えられました。
お尻を連想する私が悪いのですが、「それならラビットイヤーサインにすれば」と心の中では思いましたが、言わずにその場はこらえました。
「Circulation Journal 2011.No.8の注目論文」というサブタイトルがついた、低リスクのAMI後患者へのβ遮断薬の効果を検討した論文の紹介記事で勉強しました。東北大学循環器内科・下川宏明教授が選出(Pick Up)Circulation Journalの編集長(Chief Editor )をされてみえます。 された論文ですが、先生方もご存知のように下川教授は
数年前に、教授の講演を拝聴する機会があり、その際の懇親会で名刺をいただきました。肩書きに編集長と書かれてあったのを見て、恥ずかしながらその時、初めて知りました。 低リスク患者でも予後改善の可能性示すAMI患者へのβ遮断薬の効果は欧米から報告されていますが,PCI導入前のものでした。今回,PCIが成功した低リスク患者でも投与すべきという示唆が国内で得られました。薬剤間比較も興味深く,今後の参考になる研究論文です。 AMI治療進化の陰で位置付けあいまいなβ遮断薬 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)など血行再建術の導入やデバイスの進化,さらにレニンアンジオテンシン系 (RAS)阻害薬の有用性が証明され,急性心筋梗塞(AMI)の治療は1990年代以降急速に発展し,救命率が上昇してきている。その一方で,1980年 代にはAMI治療の主役でもあったβ遮断薬の位置付けがあいまいとなった。 冠血行再建術が成功せずに再環流しなかった場合や,左室駆出率(LVEF)が低い高リスクAMI患者に対しては,β遮断薬の有用性を示す臨床試験結果があるが,大規模な前向き試験のエビデンスがなく,β遮断薬を使用すべきなのか,それともRAS阻害薬の増量で血圧が安定していればβ遮断薬は不要なのか, 治療指針は確立していない。米国心臓協会(AHA)/米国心臓学会(ACC)ガイドラインにおいても,AMI高リスク群でのβ遮断薬はクラスⅠであるが,AMI低リスク群での推奨レベルはⅡaとなっている。 そこで今回,東京医科歯科大学医歯学融合教育支援センターの小西正則氏ら同大学循環器内科のグループはAMI患者にβ遮断薬を投与すべきかどうかを単施設による後ろ向き調査として解析し,Circulation Journal(2011; 75: 1982-1991)に報告した。この中で,低リスク患者に対してもβ遮断薬が予後改善に有効な可能性を示した。 連続251例の後ろ向き解析でβ遮断薬が効果 研究の対象は2004年9月以降2009年9月までに同大学に搬送されたAMI患者382例のうち,(1)AMI後のPCI施行(2)β遮断薬・RAS 阻害薬の服用歴なし(3)透析未導入(4)PCI後のRAS阻害薬導入—の条件を満たした251例。β遮断薬投与群171人とβ遮断薬非投与群80例に割り付けられた。両群の重症度や合併症頻度,投薬状況に有意差はなかった。冠血行再建術歴は両群とも約6%で,心不全が5%前後,虚血性心疾患は約6%だった。RAS阻害薬のほかにスタチンとアスピリンはほぼ全例が服用していた。なお,RAS阻害薬の内訳としては,ACE阻害薬が85%,アンジオテンシンⅡ 受容体拮抗薬(ARB)が15%だった。 その結果,12カ月後の死亡や心疾患イベント非発生率はβ遮断薬投与群が4.1%で,非投与群13.8%と比べて有意に低下した(図)。血圧変化率は両群間で差はなく,両群とも収縮期血圧で15mmHg程度低下したが,B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)やマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-2,MMP-9はβ遮断薬群で有意に低下した。
低リスク患者も全例に投与すべきか,どのβ遮断薬をどの程度投与するかを問題提起 小西氏らはさらに,LVEF 40%以下,血行再建術の不成功,心室細動の合併のいずれかを有する患者を高リスク群,これらのいずれにも該当しない患者は低リスク群として,それぞれの 群でβ遮断薬の効果を見た。その結果,高リスク群だけでなく低リスク群(β遮断薬非投与群47例,β遮断薬投与群103例)においても,β遮断薬投与群ではβ遮断薬非投与群と比べて心疾患イベントの有意な発生率低下が認められた(19.1%対7.8%,図)。 報告した同氏は,単施設の後ろ向き解析であるため選択バイアスの可能性が否定できない点などを検討の限界としている。また,対象者のうち冠血行再建術を受けた患者や心不全,虚血性心疾患の既往者は数%と少なくなっており,AMIの一般集団として十分とは言い切れない点も考慮する必要があるとしている。その上で,「低リスクAMI患者に対してもβ遮断薬の必要性を提起する結果になった。多施設で前向きな研究を計画する際のたたき台となるのではないか」と次の展開に期待を寄せている。 また,β遮断薬の種類や用量についても新たな知見が提示された。β遮断薬は2種類投与されていたが,カルベジロールが91例に,ビソプロロールが80例に投与されており,両群の生存率,心疾患イベント非発生率に差はなく等しく有効だった。また,両群とも血圧や心拍数,LVEFの有意な低下が認められているが,LVEFやBNPについてはカルベジロール投与群の方がビソプロロール群よりも有意に改善していた。同氏は「試験期間における最小用量は,カルベジロールが現在使用されているのと同程度だったのに対してビソプロロールは倍量以上だった。実際に投与する際には割線を利用して最小用量の半量から開始し, 徐々に増量する場合もあるが,ビソプロロールの方が低用量での調整が難しかった点が影響しているのかもしれない」と考察している。 AMIの救命率は向上したとはいえ十分ではなく,今回の研究でもβ遮断薬非投与群では1割以上が1年以内に死亡している。β遮断薬は用量調整や副作用の 管理が難しい薬剤ではあるが,その後の心疾患イベントや死亡抑制効果につながるのであれば臨床的意義は非常に大きいといえる。 出典 Medical Tribune 2011.8.25版権 メディカル・トリビューン社 読んでいただいて有り難うございます。コメントをお待ちしています。 その他「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/(循環器専門医向き)ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy(一般の方または患者さん向き) 井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~http://wellfrog4.exblog.jp/井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15http://wellfrog3.exblog.jp/井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~http://wellfrog2.exblog.jp/井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21 http://wellfrog.exblog.jp/ (内科医向き) 「井蛙」内科メモ帖 があります。