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第22回国際高血圧学会/第18回欧州高血圧学会の記事で勉強しました。

メタアナリシス・ARBによる心筋梗塞のリスク増加は認められず
ここ数年,ARBが心筋梗塞のリスクを増すかどうかが論争になっていたが,ローマ大学ラ・サピエンツァ校(ローマ)のGiuliano Tocci氏は,最近の大規模臨床試験ONTARGET,PRoFESSまでを含め,11万人を超える対象でのメタアナリシスから,プラセボや他の降圧薬に比べて,ARBによる心筋梗塞リスクの有意な増加は認められなかったと指摘した。

薬剤別の比較でも有意差認めず
2004年,Verma,Straussらが,ARBにより心筋梗塞のリスク増加の懸念があるとの仮説を発表した後,8件のメタアナリシスが報告されたが,Straussらの2件を除くと,リスク増加は認められていないという。
 
Tocci氏らのグループも既に,2005年3月までのPubMedデータベースを用いて,1次評価項目,2次評価項目の一部として致死性/非致死性心筋梗塞の発症リスクに対するARBの有用性を評価した主要な多施設ランダム化対照試験11試験を同定,そのメタアナリシスにより,ARB群とプラセボ群または他の実薬群との間で,致死性/非致死性心筋梗塞の発症リスクに有意差は認められないことを報告している。
 
今回の解析対象試験は,ELITE I およびII,Val-HeFT,IDNT,RENAAL,OPTIMAAL,LIFE,VALUE,SCOPE,CHARM-AlternativeおよびPreserved,VALIANT,DETAIL,MOSES,E-COST,Jikei Heart Study,ONTARGET,PRoFESSの18試験。
 
ARB群5万5,344例とプラセボ,実薬を併せた対照群5万5,249例の比較では,対照群に対するARB群の心筋梗塞のオッズ比(OR)は,試験内分散のみを反映する固定効果モデルでの解析で1.019,試験内分散と試験間分散の両者を反映するランダム効果モデルでの解析では0.992であり,ともに両群間に有意差は認められなかった。
ただし,試験間には有意(P=0.0006)な不均一性が存在した。
新規に加わった症例数の大きいONTARGETのORは1.061,PRoFESSのORは1.032で,ともに対照群とARB群に有意差はなかった。
 
薬剤別の比較では,プラセボ(OR解析同順で0.990,0.948),利尿薬/β遮断薬(0.977,0.700), Ca拮抗薬(1.112,1.074),ACE阻害薬(ともに1.006)と,いずれも両群に有意差はなく,他の実薬群に対するARB+ACE阻害薬のORも0.993,0.986と,両群に有意差はなかった。
 
以上から,同氏は「ARBの投与を受けている患者において,心筋梗塞のリスクが増すとのエビデンスは認められなかった」と結論した。
 
なお,
昨年報告されたBlood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration(BPLTTC)のメタアナリシスによると,「冠動脈疾患」としての解析で,ACE阻害薬とARBによる血圧依存性の抑制効果は同等だが,他薬に比べてACE阻害薬には血圧非依存性に約9%のリスク減少が認められ,この点ではARBと有意差があったという。

出典 Medical Tribune 2008.8.7
版権 メディカル・トリビューン社

<関連サイト>
ここ数年間に、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が、心血管イベント・リスクを抱える患者の心筋梗塞リスクを上昇させるという報告が複数あった。カナダAlberta大学のMichael A McDonald氏らは、ARBの心筋梗塞リスクを評価するため、利用可能なすべてのエビデンスの系統的レビューを試みた。その結果、ARBと偽薬、ARBとアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の間で、心筋梗塞リスクに有意な差はないことが示された。詳細はBritish Medical Journal誌電子版に2005年9月29日に報告された。

 ACE阻害薬が、左心室機能不全のある患者、最近の心筋梗塞の既往歴がある患者、心血管リスクの高い患者の死亡率と有病率を下げることを示すエビデンスがある。理論上ARBは、ACE阻害薬に比べ、アンジオテンシンIIの作用を阻害する効果は高く、忍容性もより高いと考えられた。

 しかし、先の複数の臨床試験では優越性は示されず、逆に心筋梗塞リスクの上昇が示唆された。その結果、医療従事者と患者の間に、ARBの使用に対する不安が生じた。このところの、ロフェコキシブなどの一般的な処方薬の回収も、副作用に対する警戒意識を高めている。

 著者らは、ARBの心筋梗塞リスクを確認すべく、各種データベースから抽出した比較対照試験の系統的レビューを実施した。ARBを偽薬またはACE阻害薬と比較した試験19件、3万1569人の患者を分析。うち2件は高血圧、4件は真性糖尿病および糖尿病性腎症、10件は心不全、3件は心筋梗塞または虚血症状を経験して間もない患者が対象。ARBと偽薬を比較したのは11件(2万1062人)、ACE阻害薬との比較は9件(1万625人)だった。

 まず、偽薬と比較した試験では、1万656人がARB、1万406人が偽薬に割り付けられていた。ARB群の心筋梗塞発症者は436人(4.09%)、偽薬群では450人(4.31%)。ランダム効果モデルにおいて、ARBの使用と心筋梗塞リスク上昇との間に有意な関係は見られなかった(プールしたオッズ比0.94、95%信頼区間0.75-1.16)。固定効果モデルでも同様となった(0.95、95%信頼区間0.83-1.09)。

 ACE阻害薬との比較では、5406人がARB、5219人がACE阻害薬の投与を受けていた。ARB群では435人(8.05%)、ACE阻害薬群では433人(8.30%)が心筋梗塞を発症。ランダム効果モデル(1.01、95%信頼区間0.87-1.16)、固定効果モデル(1.00、95%信頼区間0.87-1.16)のいずれにおいても差は認められなかった。

 著者らは、大規模前向き試験などによって、この問題に関する情報が追加されるまでの間、今回の結果が、この種の薬剤の安全性に関する不安を緩和するだろう、と述べている。

 本論文の原題は「Angiotensin receptor blockers and risk of myocardial infarction: systematic review」。アブストラクトは、BMJ誌Webサイトの[こちらhttp://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/abstract/bmj.38595.518542.3Av2]で閲覧できる。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/200510/401685.html
日経メディカル オンライン 2005.10.5


アンギオテンシン受容体ブロッカーは心筋梗塞のリスクを増すか?
http://www.city-nakatsu.jp/hospital/digest1/digest200609/09_matsui.pdf


アンギオテンシン受容体阻害剤(ARB)に心筋梗塞のリスク
http://www.yakugai.gr.jp/attention/attention.php?id=62

 

 

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ONTARGETサブ解析

戯れ言たれる侏儒 / 2008.08.20 00:05 / 推薦数 : 0

「第22回国際高血圧学会/第18回欧州高血圧学会」で発表された「ONTARGETサブ解析」で勉強しました。
このONTARGETのサブ解析では非常に興味のある結果が得られました。
すなわちACE阻害薬+ARB併用療法によるいわゆる「RAS二重阻止」は腎障害を進行させる可能性があるということです。

たしかJIKEI HEART Studyでは多くの患者でこの「RAS二重阻止」がされていました。

ONTARGETサブ解析
ACE阻害薬+ARB併用療法    CKD患者で急性腎不全による透析が増加
心不全を伴わない心血管イベントの高リスク患者に対して,ACE阻害薬ramiprilとARBテルミサルタンの心血管イベント抑制効果に有意差はなかったものの,テルミサルタンのramiprilに対する非劣性を証明,一方,両者の併用療法がイベント抑制効果の増強をもたらすことなく有害事象の増加を招くことを明らかにした大規模臨床試験ONTARGETの発表は,記憶に新しい。
そのサブ解析では,ステージ3~4の慢性腎臓病(CKD)患者では,ramipril群に比べて併用群で急性腎不全による2か月以内の透析が増加したなどの新知見が判明した。

心血管イベント抑制は同等
主解析の対象は,心血管疾患の既往,臓器障害を伴う糖尿病のいずれかを有する55歳以上(平均年齢66.4歳)の高リスク患者2万5,620例。
エアランゲン大学病院(独エアランゲン)のRoland E. Schmieder氏によると,CKDのサブ解析では,このうち推算糸球体濾過量(eGFR)60mL/分/1.73m2未満(ステージ3~4)の6,249例をランダム化した。
 
1次評価項目の「心血管死+心筋梗塞+脳卒中+心不全による入院」の発生率は,1,000人・年当たりramipril群50.77,併用群51.58と両群に有意差はなく〔相対リスク(RR)1.01〕,Kaplan-Meier曲線でも主解析に比べて発生率は高かったものの,3群間に有意差はなかった。
 
次に,事前に設定された腎1次評価項目の「死亡+全透析+血清クレアチニン値の2倍化」は,ramipril群13.6%,テルミサルタン群13.5%,併用群14.6%で,ramipril群とテルミサルタン群に有意差はなかったが〔ハザード比(HR)1.00〕,併用群ではHR1.08と,リスクが有意(P=0.044)に増大した。
 
そこで,透析期間2か月超の慢性透析と,2か月以内の急性透析に分けて比較したところ,慢性透析は群間に有意差はなかったのに対し,急性透析のHRはテルミサルタン群1.47(P=0.2833),併用群2.10(P=0.024)となり,ramipril群に比べて前者で有意ではないが47%のリスク増大が,併用群で2.1倍の有意なリスク増大が確認された。

RAA系二重阻害は専門医監督下で
オックスフォード大学(英オックスフォード)のPeter Sleight名誉教授は,まず全例での主解析において,併用群ではramipril群に比べてSBPで約2mmHg降圧が優れたにもかかわらず,イベント抑制に反映されなかった理由を考察した。
 
同名誉教授は,心血管疾患の既往を伴う高齢の集団では,2mmHgの血圧低下が腎不全,低血圧などをより多く惹起し,腎血管の問題を生じた可能性を指摘。
体液量の枯渇した高齢者では,併用療法によるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の過度のブロックは危険かもしれない。今後,RAA系の二重阻害は,例外的に専門医の監督下でのみ実施されるべきだ」との解釈を示した。
 
一方,同名誉教授らが実施したベースラインのSBP値による層別化解析(対象2万5,595例)によると,1次評価項目の発生率は,SBPの上昇に伴って有意(P<0.0001)な増加が認められた。
脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA;1次評価項目には含まれない)で,こうした傾向はより顕著であり,一方,心筋梗塞,心血管死の発生率には,SBP値による有意な相違はなかった。
 
同名誉教授は「正常高値またはステージ1の高血圧患者では,SBPの低下による利益は主として脳卒中またはTIAの減少によるものであり,その他の転帰についての利益はほとんどないようだ」と結論した。

出典 Medical Tribune 2008.8.7
版権 メディカル・トリビューン社

 

 「Heart and Kidney - 私たちの近くにあるもの」
制作 Heart and Kidney制作委員会
(シオノギ製薬 配布物)

<関連サイト>
注目の降圧薬臨床試験 ONTARGET
http://blog.m3.com/reed/20080404/__ONTARGET
ONTARGETの結果を考察する
http://blog.m3.com/reed/20080412/ONTARGET_
糖尿病からみたONTARGET
http://blog.m3.com/reed/20080413/_ONTARGET
RAS二重阻止
http://blog.m3.com/reed/20071014/RAS_

厳格な降圧がもたらす心保護効果http://medical.nikkeibp.co.jp/all/special/micardis/ontarget/001.html
(ARBの心保護効果とACE阻害薬との併用による相乗効果が期待されるという内容でしたが、今回のONTARGETのサブ解析の結果では・・・)
RAS抑制による厳格な降圧がもたらす臓器保護
ミカルディスの大規模臨床試験ONTARGET
http://medical.nikkeibp.co.jp/all/special/micardis/ontarget/pdf/micardis_0220.pdf
(ここでも併用効果の期待が述べられていました) 

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新着のメディカル・トリビューンの記事からです。
製薬メーカー主催の座談会では、かなりバイアスのかかった話になっていることがあります。
しかし、多いに役に立つ内容やきらりと光る一言も述べられており、このバイアスに注意さえすれば無料で勉強ができます。
今回のタイトルは、かなり大上段にかまえたものです。
それは、この記事の前書きに
「日本や欧米のガイドラインで,冠動脈疾患(CHD)患者さんの降圧療法にはACE阻害薬を第一選択薬とし,ARBはACE阻害薬の不耐応例と位置付けられている。
一方,日本人を対象にしたHIJ-CREATE試験では,ARBはACE阻害薬に優るとも劣らないことが示された。そこで,ARBがCHD既往高血圧症患者さんの第一選択薬に位置付けられるのかについて討論していただいた。 」
と書かれているように、あたかもガイドラインに挑戦するようなタイトルだからです。
どのような座談会の展開になるのか、出席した教授の中に、はたして御用学者はいないかという観点からの読み方も一興かと思ってとり上げました。

話は変わりますが、ある学術講演会の後の懇親会で、昔在局中に一緒だったある先生からこんな話を聞きました。
「ある教授が、講演や座談会で、年間給料より多い謝礼を貰っていて、教授会で自粛するように言われたらしい」。
その話を聞いたとき、何が問題なのかよくわかりませんでした。
先生方はどのように思われますか?
思い起こせば、「週刊朝日」でもそのようなことが一時期とりあげられていました。

Round Table Discussion 座談会
ARBをCHD既往高血圧症例の第一選択薬に位置付けられるのか?
The Heart Institute of Japan-Candesartan
Randomised trial for the Evaluation in Coronary Artery Disease
    
熊本大学大学院医学薬学研究部 生体機能薬理学 教授
 光山 勝慶 氏(司会) 
旭川医科大学第一内科 教授
 長谷部 直幸 氏
名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学 教授
 室原 豊明 氏 
大阪大学大学院医学系 研究科臨床遺伝子治療学 教授
 森下 竜一 氏
群馬大学大学院医学系研究科 臓器病態内科学 教授
 倉林 正彦 氏(発言順)


ARBの動脈硬化への影響とそのメカニズム
光山(司会) 
わが国では,生活習慣の欧米化に伴い冠動脈疾患(CHD)が著しく増加しています。
近年,薬剤溶出ステント(DES)の登場によりステント内の再狭窄は減少しましたが,生命予後は改善できないことが報告されており,CHDの二次予防として薬物療法の重要性があらためて注目されています。
このようななか,昨年開催された第80回米国心臓協会学術集会(AHA2007)で,アムロジピンと同等の降圧が認められているカンデサルタンを用いて(図1),日本人CHD既往高血圧症患者さんを対象にしたHIJ-CREATEが発表になりました。


本日は,HIJ-CREATEの結果を踏まえて,CHD患者さんにおけるARBの位置付けについて議論したいと思います。

長谷部 
現在,CHD既往高血圧症患者さんの降圧療法にRA系抑制薬を用いることが一般的になっていますが,その背景には,数々の大規模臨床試験があります。
その歴史はACE阻害薬のSAVEから始まり,HOPE,EUROPA,PEACE,そしてARBのOPTIMAAL,VALIANTと続きます。
欧米ではCHD既往高血圧症患者さんの二次予防ガイドラインで,ACE阻害薬を第一選択薬としていますが,それはこれらのエビデンスに基づいています。

室原 
私は,ARBはACE阻害薬と同様にCHD既往高血圧症患者さんに有用だと考えています。
動脈硬化の進展に大きくかかわる炎症をいずれの薬剤も抑制するからです。
一方,PCI後の再狭窄の抑制は,動物実験ではARB,ACE阻害薬ともに報告されていますが,再狭窄に関連した成績が臨床で認められているのはARBのみです。
例えば,ARBのカンデサルタンを用いたOGAKI Studyでは,冠インターベンション(PCI)施行6か月以上経過後に有意狭窄がないことを確認した患者さんの心血管系イベント(CVD)の発症を有意に抑制しました。
血管内超音波(IVUS)を用いた検討でも,カンデサルタンを用いた降圧療法によりステント留置例の新生内膜の増殖を抑制することを認めています(図2)。


また,PCI後は,骨髄由来の平滑筋前駆細胞の沈着によるプラークの蓄積と不安定化が生じますが,カンデサルタンはそれらを抑制することが認められています。
日本人CHD既往高血圧症患者さんの再発抑制が証明されていることや平滑筋前駆細胞の沈着の抑制からもカンデサルタンに対する期待が高まります。

森下 
動脈硬化病変におけるRA系活性化は,健常人の血管と異なっています。
梗塞箇所などの炎症部位では,キマーゼの大きな産生源であるmast cellの発現が亢進し,ACEによらないアンジオテンシンII(A II)の産生が増加します。
したがって,動脈硬化病変が進めば進むほどACE阻害薬が効きにくい可能性が高いのです。
また,血管病変において平滑筋細胞の増殖を抑制したりNOの産生を亢進するなど,血管に対し保護的に働くA II type2(AT2)受容体は,動脈硬化が進行するほど発現が亢進します図3)。


このことからもAT1-Pathwayを抑制しAT2-Pathwayを活性化させるARBの有用性がうかがえます。
つまり,
高血圧症や糖尿病,脂質異常症の罹病期間が長い動脈硬化が進行している症例,あるいは脳・心血管系イベントの既往がある症例ではARBを選択する利点がたくさんあると思います。
 
血管だけでなく,膵臓のβ細胞でもAT2受容体の関与は大きいと思います。
高血糖により膵臓に酸化ストレスが加わると,膵臓においてもA II type1(AT1)受容体の発現が亢進します。
それにより線維化が進行すると,AT2受容体の発現が亢進することがわかっています。
このことからも膵臓への影響,血糖に対する影響もARBのほうが強いと考えられます。
しかし,糖尿病の新規発症を抑制した試験成績のあるARBもあれば,そのような試験成績のないARBがあることも事実です。
このことからもAT1受容体を強力に長時間ブロックすることが重要なのです。
HIJ-CREATEでは,標準治療群の71%にACE阻害薬が投与されていたにもかかわらず,カンデサルタンが糖尿病の新規発症を63%有意に抑制しました。
降圧薬は,骨格筋の血流改善を介してインスリン抵抗性を改善しますが,カンデサルタンは,インスリン分泌顆粒やミトコンドリアを正常化し,インスリン分泌も改善することが報告されています図4,5)。


CHD患者さんで一番問題になるのは,降圧療法中に糖尿病を発症すると,その糖尿病が次の病変を作ることです。

CHD患者さんの再発抑制のためには,ARBを用いた降圧療法が最適だと思います。

ARBの投与量と降圧目標
光山 
腎機能低下例では,全身のRA系が著しく活性化しているため,RA系抑制薬が大きなメリットをもたらします。
HIJ-CREATEでは,CKD症例のCVD発症をカンデサルタン群が21%有意に抑制しました。
詳細は発表されていませんが,標準治療群にACE阻害薬投与例が多く含まれていた可能性がありますが,この結果は何が影響したのでしょうか。

長谷部 
RA系抑制薬は,A II抑制により腎保護が期待できます。
しかし,CKDのように腎機能が障害されると,糸球体,尿細管等に腎保護的に作用するAT2受容体の発現が増強するので,その結果としてカンデサルタンが奏効した可能性があります。
また,ACE阻害薬はブラジキニン濃度を上昇させることが知られていますが,腎機能低下例では,ブラジキニンがメサンギウム細胞の増殖を促進するため,腎機能をさらに悪化させる可能性も指摘されています。
これは,CHD患者さんの腎機能と投与薬剤別に予後を検討したAPPROACH試験の結果からも指摘できます。
これらを総合的に考えると,特に腎機能が低下したCHD患者さんの降圧療法はARBを選択することは妥当であろうと思われます。

室原 
CASE-Jで,カンデサルタンはアムロジピンと同等の降圧を示したうえで,CKD症例の腎イベントを57%低下,特に高齢者やCHD等の既往例の腎機能低下を大きく抑制しました。さらに,有意ではありませんがCKD症例のCVD発症を22%抑制したことから,腎機能低下例であっても予後を改善することが期待されます。
末梢血管レベルでACEを介さないA IIもブロックする点で,ARBが優れているのでしょう。

倉林 
HIJ-CREATEでは,治療開始時から血圧が十分コントロールされていたこともあり,平均投与量が5mg/日と用量が非常に少なかったことも特徴だと思います。
腎機能改善作用は用量に依存し,一直線に尿蛋白が減少すると報告されています。
したがって,忍容性を確かめながら可能であれば,保険で認められた最大用量までARBを使い,それでも降圧が不十分なときに初めてCa拮抗薬を加えていく治療が大切だと思います。

光山 
降圧療法中であっても,外来血圧,家庭血圧ともコントロールできているのは,わずか20%でしかなく,その一方で十分量の投薬,多剤併用がなされていないと報告されています。
降圧目標を達成するためにもまずは十分量のARBを使う必要があるということですね。
しかし,CHD患者さんは血圧が低すぎるとかえってイベント発現率があがる「Jカーブ」が指摘され,どこまで血圧を下げるべきか議論されています。

長谷部 
確かにJカーブは存在します。
しかし,これは原因ではなく結果を表していると思います。

つまり,心機能の低下と動脈硬化の進展による低血圧状態の結果として悪化した予後を見ているのです。
収縮期血圧の低下はポンプ機能の低下,拡張期血圧の低下は動脈硬化の進展を反映しています。
すなわち,血圧低値を示す患者さんは,降圧の結果として低値に到達したのではなく,もともとイベント発生リスクの高い方が血圧低値なのです。
また,われわれの検討では高血圧症合併狭心症患者さんでは拡張期血圧が低いほど冠動脈病変は重症です。
その一方で,冠動脈疾患治療後の心臓死,心筋梗塞などの重篤なイベント発生は,拡張期血圧が低いほど低率でした。CHD患者さんであっても,血圧は下げられるところまできっちりと下げることが必要だと考えています。

CHD既往高血圧症治療におけるARBの位置付け
倉林 
DESの登場により再狭窄は減少しましたが,生命予後は改善しておらず,今後の課題です。
COURAGE試験では,狭心症患者さんにPCIを実施しなくても,最適な薬物療法により生命予後を改善することが報告され,薬物療法の重要性が示されました。
DESで再狭窄を予防し,薬物療法で新規病変を予防することが最適なCHD治療だと思います。
またCHD患者さんは,PCI施行時だけでなく,その後のフォローでも造影剤を使うため,特に腎機能を保持することが望まれます。
CASE-Jで,カンデサルタンはCHD既往高血圧症患者さんの腎機能低下を大きく抑制したことからも,CHD既往高血圧症患者さんにはARBをfirst choiceにすべきだと思います。

長谷部 
HIJ-CREATEの患者背景を見ると,PCIが83%,冠動脈バイパス術(CABG)12%と,冠血行再建術が95%も施行されています。
これは,これまでのRA系抑制薬の臨床試験と異なり,日本の冠動脈疾患治療の実態を反映しているものと言えます。今後の日常診療に,HIJ-CREATEという日本人のエビデンスが非常に参考になるでしょう。

室原 
今回のHIJ-CREATEでは,「ARBをCHD既往高血圧症例の第一選択薬に位置付けられる」ことが示され,むしろ長期的な臓器保護という立場からCHD患者さんの降圧療法にはカンデサルタンを使うのがよいと思います。
CHD患者さんの予後を考えると,糖尿病の新規発症を抑制すること,腎機能低下例で有用なことはきわめて大きな意義があり,将来予想される糖尿病やCKD患者数の増加を考えると,ARBによる降圧療法は非常に有用であると思います。

森下 
十分な臓器保護作用を得るためには,より強くA IIを抑える必要がありますが,ACE阻害薬は,日本人は咳が出やすいという理由から海外に比べて用量が非常に少なく,その量は1/3~1/4程度です。
したがって,日本の承認用量でACE阻害薬が海外の臨床試験と同じ効果が得られるかは疑問が残ります
投与量を考えてもARBが降圧薬のfirst choiceに適していると思います。

光山 
DESが登場してもCHD患者さんの長期予後に関してはまだ解決には至っていませんが,今日のディスカッションでARBは長期予後改善の点でも有用な治療法として十分期待できることがわかりました()。

 

出典 Medical Tribune 2008.7.24
版権 メディカル・トリビューン社

 

<コメント>
文中に
「PCI後の再狭窄の抑制は,動物実験ではARB,ACE阻害薬ともに報告されていますが,再狭窄に関連した成績が臨床で認められているのはARBのみです。」
とあります。
大規模臨床試験は現実的には、残念ながら製薬メーカーの資金的援助がされて行われているのが現状です。
高薬価のARBに対して、低薬価のACEIは大規模臨床試験が行いにくい事情が(国内では)あります。
さらには、相対的に旧世代に属するACEIで、同じような臨床試験が行われているかどうかが問題だと思われます。
両者で再狭窄に関連した試験が行われており、ACEIではnegative、ARBではpositiveという結果が出て初めてARBの優位性が証明されるはずです。
もしACEIでこのような試験が行われていなければ欠席裁判ということになります。
実際にはどうなんでしょうか?
 

明日から少し夏休みをとらせていただきます。

 

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きょうは「肥満者や高齢者の心血管系イベントに対する一次予防・二次予防」について勉強しました。

 

特別企画
Round Table Discussion
日本人の心を護る
虚血性心疾患から心不全の発症を防ぐ

近年増加している,肥満者や高齢者の心血管系イベントに対する一次予防・二次予防について,薬剤溶出性ステントの使用経験も含め,循環器専門医の意見を伺った。

小川 久雄 氏(司会)
 熊本大学大学院循環器病態学教授
境野 成次 氏 
 天草地域医療センター循環器科医長
菊田 浩一 氏 
 新別府病院循環器科部長
角田 等 氏 
 熊本大学大学院循環器病態学
松村 敏幸 氏 
 労働者健康福祉機構熊本労災病院 循環器科部長
下村 英紀 氏 
 福岡徳洲会病院循環器科部長
岡 秀樹 氏 
 健康保険人吉総合病院循環器科部長
宮本 信三 氏 
 健康保険八代総合病院循環器内科部長
坂本 知浩 氏 
 済生会熊本病院循環器科
(発言順)

小川 
近年わが国では,肥満者や高齢者が著しく増加しています。この方たちは,糖尿病や高血圧の発症リスクを高め,ひいては,心血管系イベント(CVD)や心血管死を増やすため,大きな問題となっています。
 
そこで本日は,”肥満者や高齢者のCVDをいかに防ぐか?”について,考えてみたいと思います。
 
はじめにCVDの一次予防のあり方について伺いましょう。

メタボリックシンドロームの一次予防は血圧管理から
境野 
メタボリックシンドローム(MetS)の構成因子には,血圧高値,耐糖能異常,脂質代謝異常がありますが,基盤を成すのは肥満(内臓脂肪蓄積)であり,CVDの一次予防は,内臓肥満に伴うインスリン抵抗性がポイントになると思います。
これには,運動と体重管理が重要ですが,現実的には,肥満の方で最初に発症しやすい高血圧を,CVDの発現抑制が認められているARBを用いて厳格にコントロールするようにしています。
ARBの糖尿病新規発症抑制にも期待しています。

菊田 
肥満者は,内臓脂肪の蓄積により,インスリン抵抗性や,TNF-α・PAI-1の発現増加,抗動脈硬化作用をもつアディポネクチンの低下などが起こり,CVDが発現しやすい状態にあります。
また肥満者では,インスリン抵抗性や脂肪細胞の肥大化により,アンジオテンシンII(AII)の産生が亢進しています(図1)。
CVD抑制のためには,血圧を厳格にコントロールすることが最も重要であると考えています。
薬剤による治療介入を行う場合,降圧効果に差がないのであれば,患者さんの病態により適している薬剤,肥満者のようにAIIが亢進した状態が予めある場合にはARBを用いた降圧療法が最適だと考えます。

高齢者の冠危険因子に応じた降圧療法
小川 
高齢者のCVDの発現抑制についてはいかがでしょうか。

境野 
一般的なCVDのリスク因子は高齢者でも同じですが,高齢者では加齢に伴い腎機能が低下し,血圧が上昇している症例が多い点で異なります。
腎機能低下は血圧上昇を招き,逆に血圧上昇は腎機能低下をもたらすという,高齢者はまさにこの悪循環のなかにいることが予想されます。
CASE-Jでは,カンデサルタンが腎機能の悪化を特に高齢者で大きく抑制することを認めました。
高齢者の降圧療法においても,カンデサルタンをベースに用いることが適切だと考えています。

CVDと慢性腎臓病の一次予防
小川 
CVDのリスク因子として慢性腎臓病(CKD)が注目されていますね。

角田 
肥満をベースとするMetSの方,特にその構成因子保有数が増えるに従い,CKDのリスクが高まります(図2)。
腎機能障害は,糖尿病以上に,CVDの発現に最も大きく寄与する因子であることがCASE-Jで示されており,高血圧治療において腎機能を保っていくことは非常に重要です。
CKDは腎疾患というより,むしろ動脈硬化性疾患としてとらえ,われわれ循環器専門医が積極的にCKDの重要性を認識していくべきだと思います。
CKDを発症している方では,すでに全身の動脈硬化が進行していますが,CKDはさらに動脈硬化を進行させ,逆に動脈硬化はCKDを悪化させるという悪循環を形成します。
CKDを発症すると,血圧は130/80mmHg未満,LDLコレステロール120mg/dL未満と,通常の目標値より厳しくコントロールしていかなければなりません。
より早期にCKDを発見し,治療介入していくことが大切です。

松村 
CKDはCVDの明らかなリスク因子ですが,それだけではなく,CVD後の治療や予後にも影響します。
例えば冠インターベンション(PCI)を実施する際,腎障害がある方では,造影剤1つ使うにしても造影剤腎症を懸念し,細心の注意を払わねばなりません。
さらに,CKD患者さんでは,治療薬剤の選択肢が狭くなります。このような理由から,腎保護を意識した治療は非常に重要ですが,腎保護を臨床的に実感することは困難です。
したがって,カンデサルタンのように,日本人で腎機能障害の進行抑制が認められている薬剤を中心に用いています。

下村 
カンデサルタンは,安定した降圧効果に加え,CKDの進行抑制や,糖尿病の新規発症抑制もCASE-Jで認められており,リスク因子の管理,CVDの抑制により効果的であると考えています。

CVDの二次予防を目的としたリスク管理
小川 
続いて,糖尿病合併高血圧症患者さんに対するインターベンション,二次予防について伺いたいと思います。

下村 
糖尿病合併高血圧症患者さんは腎機能低下例が多いので,造影剤の使用量を極力少なくして造影剤腎症の予防に努めています。
再狭窄は薬剤溶出性ステント(DES)の登場により減少したものの,生命予後は改善されていないため,生命予後の改善には,新規病変のイベントを抑制していかなければなりません。
そのためには,薬剤介入によって血圧・血糖を厳格にコントロールしていく必要があります。
また,糖尿病患者さんは全身性の動脈硬化を有しているため,PCI施行前に脳血管,腎血管,末梢血管をきちんと評価したうえでインターベンションを行うよう心がけています。

岡 
糖尿病患者さんの冠動脈はびまん性に病変があるうえに従来のベアメタルステント(BMS)を使用したインターベンションでも再狭窄率が高いため,再狭窄抑制効果の高いDESの使用を念頭に置きます。
ただ,DESは長期にわたる強力な抗血小板療法が必要であるため,当院では抗血小板薬の忍容性を確認したうえで使用する方針としています。
また,PCI後の再発抑制のために,薬剤療法のみならず,運動療法や食事療法も含めた包括的心臓リハビリテーションを積極的に行っています。

境野 
二次予防のためには,血圧,血糖,脂質とも一次予防より厳格な管理が必要ですので,積極的に薬剤による治療を行っています。
当院ではPCI後のフォローは実地医家の先生方にお願いしていますので,実地医家の先生方とのコミュニケーションにも力を入れています。

角田 
私も,二次予防のためにはリスク因子の厳格な管理が必要だと考えます。
血圧にはARBまたはACE-I,血糖管理にはチアゾリジン系薬剤,脂質管理には水溶性スタチンといった,エビデンスのある薬剤を中心に選択しています。
そして,二次予防でも生活習慣の改善,特に運動をしっかり行うことが大切だと思います。

デバイスの選択と二次予防
小川 
ESの使用頻度と効果についてはいかがでしょうか。

菊田 
当院では約7割でDESを使用しています。
DESを使用した場合,PCI後6か月以降の冠動脈造影で再狭窄はほとんど認めず,責任病変を治すということだけを考えれば非常に有効です。
しかし,DESでは遅発性ステント血栓症のリスク軽減のため,長期にわたり抗血小板薬を服用しますが,抜歯や手術をする場合には抗血小板薬を中止すべきか非常に悩みます。PCI時,DESを用いるかBMSを用いるかは,冠動脈だけでなく,患者さんの全身状態と社会的状況をみて選択するのが大事だと思います。

宮本 
急性冠症候群(ACS)にDESは保険適用外ですので,DESの使用頻度は各施設のACSの割合や,elective PCI(ePCI)の件数の比率によって影響を受けると思います。
当院では,ACSが約3割を占め,その患者さんにはBMSを使っていますが,ePCIでは,術前に薬剤の副作用などを説明し,ほぼ100%DESを使っています。

松村 
当院のDES使用頻度は8割ぐらいです。再狭窄はDESのほうが少ないため,コスト面でもDESが優勢だと考えています。ACSに対するDESの使用に関しては,今後の大きな課題であると考えています。

DES後のカンデサルタン投与の意義を探る4Cトライアル
小川 
最後に,PCI後降圧療法を必要とする患者さんにカンデサルタンを投与する意義についてご意見をお聞かせください。

坂本 
心筋梗塞後は,心機能低下や心不全の発症が懸念されます。
カンデサルタンは慢性心不全患者を対象にしたCHARMで,心筋梗塞の発症を抑制することが示されており,PCI後の心機能が低下した患者さんに,カンデサルタンを使う意義があると考えます。
さらに糖尿病がある場合,再発リスクが約2.6倍高まることがFinnish studyで示されています。
ARBに糖代謝の改善が期待できることからも,PCI後のフォロー薬にカンデサルタンを用いる意義は非常に大きいと考えます。
Ogaki研究では,PCI後6か月以上が経過し,心電図異常を認めないなど,症状が安定した患者さんにカンデサルタンを投与した結果,2年間でCVDの再発をほぼ半減しました(図3)。
この研究では,PCI後の再狭窄を免れた症例を対象としているという点が,再狭窄リスクの減少が期待されるDES使用者と共通しており,DES使用例の予後を予測できるものです。現在進行中の4C トライアルでは,DES使用例の降圧療法や心不全治療を必要とする患者さんを対象に,従来治療にカンデサルタンを追加する群としない群に分け,カンデサルタンの有効性を検討しています(図4)。
2,200例の登録を目標としており,現在,全国38施設のご協力をいただき,約650例の登録をいただいておりますが,まだまだ多くの先生方のご協力が必要です(表1)。
ご興味のある先生は,熊本大学循環器内科ホームページ(
http://www.kumadai-junnai.com/「→RCTへのお誘い」)をご覧いただくか,私どもにご連絡いただき,一緒に本研究にご参加いただきたいと思います。

小川 
DES使用例に対する介入試験は,報告が非常に少なく,インパクトの大きい試験になると期待しています。
本日は,PCIを専門とする先生方から,「肥満者,高齢者のCVDの一次予防,二次予防には,CVDのリスク因子を発症させないこと,発症している場合には厳格にコントロールしていくことが重要である」ことをお話しいただきました。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?phrase=OGAKI&perpage=0&order=0&page=0&id=M4047761&year=2007&type=allround
(図表については、上記のサイトでご確認ください)

出典 Medical Tribune 2007.11.22
版権 メディカル・トリビューン社

<コメント>
あまりにも盛りだくさんな内容で、テーマが絞り込まれていないような印象を受けました。
結局はARB,しかもスポンサーのカンデサルタンという結論なのでしょうか。

以下は武田薬品から配布されたOGAKI Studyのパンフからです。

 

 

三塩清巳 「阿蘇外輪山」 油彩10号
http://page17.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/v64675852 

 

読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。
他に
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
「井蛙内科/開業医診療録(2)」
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特別企画
座談会
「わが国の心血管系イベントの抑制はどこまで可能か?」

高齢化の進行と肥満・メタボリックシンドロームの増加が著しいわが国において,心血管系イベントの克服を目指し,薬物療法や薬剤溶出性ステントなどのデバイスの選択法について,循環器専門医の意見を伺った。

小川 久雄 氏(司会) 熊本大学大学院循環器病態学教授
石原 正治 氏 広島市立広島市民病院循環器科部長
金谷 法忍 氏 石川県立中央病院副院長
木村 一雄 氏 横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター教授
斎藤 能彦 氏 奈良県立医科大学第1内科学教授
坂本 知浩 氏 済生会熊本病院循環器科医長
高野 仁司 氏 日本医科大学循環器内科学
水野 杏一 氏 日本医科大学循環器内科学教授
(五十音順)

CVDの一次予防を目指して

肥満・メタボリックシンドロームとアンジオテンシンII
小川 
高齢者ならびに肥満・メタボリックシンドロームが急増しています。
これはわが国の社会的な問題であると同時に,心血管系イベント(CVD)の克服を目指す私たち循環器医の前に大きく立ちはだかる障壁でもあります。
そこで,本日は,積極的な冠インターベンション(PCI)などにより,多数の冠動脈疾患患者さんを診ていらっしゃる先生にお集まりいただき,現代のCVDの一次・二次予防のあり方について,意見を交わしたいと思います。
 
はじめに,肥満・メタボリックシンドロームの病態とCVDとの関係について伺います。

水野 
最もポピュラーなのが,インスリン抵抗性という概念だと思います。
インスリン抵抗性により生じる高インスリン血症は,Na再吸収の促進や交感神経の活性化,レニン・アンジオテンシン(RA)系の亢進,血管平滑筋の増殖などにより,CVDの重大なリスクである高血圧を惹起させます。
また,インスリン抵抗性は糖代謝ならびに脂質代謝を障害するため,高血糖のみならず,高中性脂肪血症を引き起こします。
一方,肥大化した脂肪細胞から分泌されるさまざまなアディポサイトカインや,それによるアンジオテンシンII(A II)の活性化が,最近注目されています。
これは「メタボリックドミノ」という概念で,肥満がインスリン抵抗性を惹起させ,高血圧,脂質異常症,糖尿病などが起こるという考えですが,A IIの活性化がインスリン抵抗性を増悪させます。
実際,A IIを抑制するカンデサルタンが,糖尿病などの発症を抑制することが,臨床試験で明らかにされています。
いずれにしても,その中心となるインスリン抵抗性の治療を念頭に置くことが大切だと思います。

小川 
インスリン抵抗性が重要だけれども,最近では,肥満者にみられるA IIの活性化も重視されるべきとの非常に興味深いお話でした。
高血圧症を対象にカンデサルタンとアムロジピンとで予後を検討したCASE-Jでは,カンデサルタンが肥満高血圧症患者の全死亡リスクを低下させました。
これも,今のお話と関連するのでしょうか。

斎藤 
A IIの前駆物質であるアンジオテンシノーゲンのmRNA量は,肥満の程度と相関します。
つまり,肥満であるほどRA系は亢進していると考えてよいでしょう。
そして,RA系はCVDの発症におけるさまざまなステップで関与しています(図1)。

ですから,CASE-Jの結果は,肥満者がCVDを発症する過程において,RA系が重要な役割を果たしていることを,あらためて認識させる結果であったと思います。

高齢者の重大なCVDリスクは高血圧
小川 
高齢者についてはいかがでしょう。

木村 
心筋梗塞発症後48時間以内に登録したJACS研究の約3,000例のデータベースから,心筋梗塞患者の背景を調べると,糖尿病は45~65歳に多く,脂質異常症あるいは喫煙者は,さらに若い人に多いことがわかりました。
一方,高血圧だけは,男女とも加齢とともに増加します(図2)。
OASIS Studyでも同様の結果です。
つまり,高齢者では高血圧がCVDのリスクとしてきわめて重要かもしれません。

金谷 
私も,高齢者のCVDには肥満が少なく,高血圧が多いと感じています。
循環器疾患で一番問題視しているのは,突然死と急性心筋梗塞,そして心不全の増悪です。
高齢者では左室拡張能が低下していますから,特に心不全,そして発作性心房細動を含めた心房細動を意識して,高血圧の治療に臨む必要があると思います。
以前は,spasmを考慮してCa拮抗薬を第一選択薬としてきましたが,心房細動や心不全をより重視すべき現代においては,ARBを選択することが多くなってきています。

肥満や高齢者に多いCKDとCVDの関係
小川 
高齢者では,腎機能の低下も問題となります。
最近,慢性腎臓病(CKD)がCVDのリスクとして注目されていますが,CKDなど,腎機能低下がなぜCVDのリスクになるのでしょうか。

斎藤 
腎疾患と心疾患との関係は,近年「心腎連関」として注目されておりますが,CKDからCVDが発症する詳細なメカニズムは,まだ解明されていません。
ただ,高血圧の臓器合併症の1つに腎硬化症があり,同時に高血圧はCVDの原因ともなります。
つまり,腎臓を悪くする高血圧関連因子が,同時に心臓や血管をも悪くしている。
そして,腎臓の血管病としての表現型がCKDであり,心臓の血管病の一部がCVDであると考えてもよいと思います。
 
また,肥満者では,蛋白尿陽性や糸球体硬化症が多く,その発現には,A IIなどの液性因子の関与が指摘されており,それが,CVDの発症にも関与しているのでしょう。
さらに,腎機能が低下すると貧血になります。
貧血があると,虚血性心血管イベントや心不全などの発症頻度も高くなるので,貧血の関与も見過ごせません。

金谷 
腎機能障害の存在自体が,動脈硬化の進展を示唆しているのだと思います。
そして,腎機能低下例は,たとえPCIが成功しても院内死亡率が高いことを含め,予後が非常に悪いので,二次予防を考慮するうえでも,腎機能を高く保持できる一次予防を心がけるべきだと思います。

小川 
CASE-Jでは,カンデサルタンによる降圧療法で,CKD患者の腎障害の進行リスクは半減することが明らかになりましたね。

高野 
高血圧全般を対象に,ARBが腎障害の進展抑制を検討した成績と高く評価しています。
RA系の亢進や,高血糖により産生されるAGE(最終糖化産物)の増加は,腎における酸化ストレスの亢進や糸球体内圧の上昇を来し,糸球体障害を起こします。
一方,ARBは腎での酸化ストレスマーカーである尿中8-OHdGを低下させます(図3)。
この抗酸化作用は,糸球体障害が軽症なときほど,効力が発揮されます。
ですから,糖尿病性腎症を伴う高血圧症に対しては,できるだけ早期からARBを投与したほうがよいでしょう。

CVDの二次予防のために
見逃せない糖尿病/耐糖能障害合併高血圧
小川 
続いてCVDの二次予防について考えたいと思います。
特にリスクの高い,糖尿病合併高血圧症について留意している点をお話しください。

石原 
PCI後の重大な問題点の1つであった再狭窄は,薬剤溶出性ステント(DES:Drug-Eluting Stent)の登場によりほぼ解決しました。
だからこそ,現在では,新規病変に対する二次予防の重要性が注目されています。
そのうえで重視すべきは,糖尿病を含む耐糖能異常の存在です。
PCI施行例で,既に糖尿病と診断されている患者は25%程度です。
しかし,経口ブドウ糖負荷試験を行うと,残りの20%に糖尿病を,30%に耐糖能異常を認めます。
つまり,耐糖能正常例は,わずか25%です。
3~5年と,長期的視野に立った場合,耐糖能異常から糖尿病を発症する方もいるでしょう。
たとえ糖尿病を発症しなくても,耐糖能異常の方は糖尿病と同様に血管障害が進行していきますから,しっかりと対応しなければいけません。
 
糖尿病もしくは高齢。
これらを合併している高血圧症に対し,ARBなどのRA系抑制薬が長期予後を改善させることは明らかです。
また,カンデサルタンは,膵β細胞機能の低い日本人においても,糖尿病の新規発症を半減させることがCASE-Jで示されているので,PCI後の二次予防に重要な役割を果たすと期待しています。

木村 
最も大切なことは生命予後の改善です。
糖尿病合併高血圧症では,血糖値と血圧の両者を厳格にコントロールすることがまず重要です。
その際,二次予防が可能な薬剤を選択すべきです。
血糖降下薬では,ピオグリタゾンを選択します。
そして,降圧薬では,インスリン抵抗性を改善し,腎機能障害の発症・進展を抑制するカンデサルタンなどのARBが望ましいと思います。

DESの登場が長期予後に注目を集めた
小川 
DESが登場して約3年が経過しましたが,使用頻度とその効果はいかがですか。

水野 
私が以前勤めていた日本医科大学千葉北総病院では,約70%にDESを使用していました。
しかし,病変長が3.5mm以上で非糖尿病の場合や急性心筋梗塞に対しては,ベアメタルステント(BMS)と差がないとの報告もあり,徐々に見直されてきたと思います。
また,DES後の再狭窄率は10%以下と低いのですが,長期予後は改善しないということは共通の認識になっていると思います。

金谷 
当院の使用頻度は70~75%くらいで,糖尿病のびまん性病変や小血管病変,多枝疾患などにDESを積極的に使用しています。

水野先生のお話の通り,長期予後が変わらない点,それに関連する遅発性ステント血栓症の問題なども含めて見直しが必要かもしれません。
いずれにしても,長期予後を見据え,患者サイドに立ったデバイスの選択が必要です。

石原 
私たちは90%以上にDESを使用しています。
従来より,安定狭心症に対するPCIの予後改善効果は,明確でありませんでした。

ですから,再狭窄を抑制するからといって,予後の改善にDESが有効だとは思えません。
ただ,今までは,頻度の高い再狭窄ばかりが注目されてきましたが,DESの登場で,本来重要な二次予防が注目されるようになったことはよい傾向だと思います。

高野 
私たちも待期例の90%以上にDESを使用しています。
急性心筋梗塞には,保険適用の点だけでなく,患者背景が明らかでないことや,将来手術が必要となる可能性,そして,抗血小板薬の投与期間が不明であることからも,BMSを使っています。

金谷 
PCI施行24,410例の院内死亡率および長期予後に関して興味深い成績が,Mayo Clinicから報告されています。
1979~2004年を4つの時代に分けると,DESが登場した後期の群では,何度もPCIを繰り返しているハイリスク症例が多いにもかかわらず,初期の群よりも生存率,再狭窄率ともに改善されています(図4)。
つまり,DESはハイリスクの冠動脈疾患に対して,有効な治療法として位置づけられ,その使用意義は高いことを忘れてはいけないと思います。

DES後の降圧療法にカンデサルタンを選択する意義
小川 
DESによっても,長期予後は変わらないとのことですが,それでは,二次予防として,どのような治療,特に薬物療法を行っていくべきでしょうか。

坂本 
先ほど来のお話にあるように,DESによって再狭窄率は激減しても,長期予後に対する問題の解決には至っていません。
これは,海外のメタ解析の結果だけでなく,日本のj-Cypher Registryの結果からも明らかです。
このことは,発症したCVDは全身血管病の一部と捉え,新規病変の形成をいかにして予防するかが重要で,血圧や血糖値などのリスク因子を厳格に管理しなければいけないことを意味します。
 
それでは,DES使用例に対して,どのような薬物療法が推奨されるのか。
それを考えるうえで非常に興味深い成績が,近藤先生らが報告されたOgaki Studyです。
PCI後6か月以上が経過し,心電図異常を認めないなど,症状が安定した降圧療法を必要とする患者にカンデサルタンを投与すると,その後2年間のCVDの発症リスクがほぼ半減しました(図5)。
この成績は,再狭窄リスクがきわめて低くなった状態,すなわち,DES使用例の予後を推測できる成績です。
 
そこで,DESによる治療を受けた患者(高血圧症や慢性心不全を伴う)を対象とし,従来治療にカンデサルタンを追加する群としない群に分け,カンデサルタンの有効性を検討する4Cトライアルを企画しました(図6)。
2,200例の登録を目標としており,現在,全国38施設のご協力をいただき,約600例の登録をいただいておりますが,まだまだ多くの先生方のご協力が必要です(表1)。
詳細は熊本大学循環器内科のホームページ(
http://www.kumadai-junnai.com/「→RCTへのお誘い」)に掲載されていますので,ご興味のある先生はそちらをご覧いただくか,私どもにご連絡いただき,共同研究者となっていただいて,一緒に本研究を成功させたいと思います。

小川 
DES施行例に対する介入試験は,まだ報告がないので非常に興味深いですね。
本日は,PCIを専門とする先生方から,PCIだけではCVDを防ぐことはできない。
CVDの再発を防ぐためにも,「一次予防の治療の段階で,再発のリスクとなる糖尿病やCKDを起こさない治療が重要である」という非常に興味深い,そして貴重なお話をいただけました。

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?phrase=OGAKI&perpage=0&order=0&page=0&id=M4042741&year=2007&type=allround
出典 Medical Tribune 2007.10.18
版権 メディカル・トリビューン社

(図表については、上記のサイトでご確認ください)

 

<自遊時間>
私には2年になる医学生の息子がいます。
中高6年間は遠隔地で寮生活を送っていましたが、有難いことに現在は自宅から通学してくれています。
この寮生活が問題で、長い間、世間から隔絶されていたためか何となく日常会話の中でもピントがずれています。
この前は燻製(くんせい)と剥製(はくせい)の区別がつかなくて会話が成り立ちませんでした。

その息子が昨夜、大学の友人と全国規模の花火大会にでかけていきました。
息子「行ってきます」
私「気をつけて行ってらっしゃい」
息子「おっと、忘れ物。双眼鏡どこ?」
私「・・・」

そこそこの大学に入ってくれたので、学力が劣っているとは思えないのですが、一般常識をどうやって身につかせるか頭を悩ませています。
勿論、教養課程といってもそんなことは大学では教えてはくれません。
このままでは、臨床医は無理で基礎の研究者が向いているのかなとも思っていますが、勉強は余り好きでもないみたいだし・・・。

 

読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。
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ふくろう医者の診察室
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(一般の方または患者さん向き) 
「井蛙内科/開業医診療録(2)」
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昨日の続きです。

ARBによる血管保護について
堀内 
続いてバルサルタンによる血管保護の問題に移りたいと思います。
森下先生、よろしくお願い致します。

森下 
我が国において望月正武先生らが実施された大規模臨床試験JIKEI  HEART Studyでは、バルサルタン群で解離性大動脈瘤のリスクが81%有意に減少しました
(Mochizuki S et al. Lancet 2007;369:1431-1439)。
この成績は、我々の実験結果を裏付けるものとなりました。

堀内
その実験結果についてご紹介願います。

森下
ウイスターラットを使った腹部大動脈瘤モデル(elastase
infused model ) を作成して検討したところ、同モデルでは高血圧が転写因子NFκBやetsの増加を介して腹部大動
脈瘤を進展・増悪に関与していることが分かりました(Shiraya
S et al. Hypertension 2006; 48:628-636)。
さらに同モデルを使った検討では、血圧に影奪を及ぼさない投与量のバルサルタンが、非投与の場合に比べて有意に腹部大動脈瘤のサイズを減少させました。
その作用機序には、バルサルタンの持つMMP(matrix metalloproteinase)やNFκBなどの発現抑制効果が関与するとのデータも得ています。

Dzau
しかし腹部大動脈瘤と解離性大動脈瘤では病因がかなり違うのではないでしょうか。

森下
大動脈瘤は最終的に解離に到ると考えられます。

Dzau
マウスによる検討で、ARBがマルファン症候群の大動脈瘤を予防したことも報告されていますね(Habashi
JP et al. Science 2006; 312:117-121)。
 
森下
ARBは腹部大動脈瘤と解離性大動脈瘤の両方に関与しているNFκBの優れた阻害薬だと思います。
我々は、NFκBが脳動脈瘤形成に関与しているとの成績も報告しました(Aoki et al. Circulation 2007;116:2830-2840)。

Dzau
それは非常に興味ある報告です。

堀内
JIKEI  HEART Studyで得られた解離性大動脈瘤の成績は、従来治療(Ca拮抗薬、ACE阻害薬、β遮断薬など)にARBを加えて得られたものでした。
解離性大動脈瘤の薬剤選択に関して、Dzau先生はどうお考えですか?

Dzau
解離性大動脈瘤の治療には、従来からβ遮断薬が使われてきました。
しかしその後、ACE 阻害薬の登場に伴い次第にACE 阻害薬の単独使用も行われるようになりました。
しかし、JIKEI  HEART Studyでは臨床におけるARB追加の有用性が示され、基礎研究でもマルファン症候群における大動脈瘤予防のデータが示されたわけですから、解離性大動脈瘤に対するβ遮断薬 + RA系阻害薬併用の有用性を基礎研究から裏付ける作業が必要とされています。
 

ARBの糖尿病新規発症抑制作用をめぐって
堀内 
大規模臨床試験においてバルサルタンが糖尿病新規発症を抑制するとの報告が相次いでいます。
これは肥満、インスリン抵抗性あるいはこれらと関連したメタボリック・シンドロームにおけるAT1受容体ブロックの重要性を示していると思いますが、伊藤先生、バルサルタンの持つ糖尿病新規発症抑制作用に関してお話しいただけますか。

伊藤
これまでのRA系阻害薬による糖尿病新規発症抑制の成績は、すべてサブ解析のデータです。
しかし現在、耐糖能異常症例にバルサルタンを使った大規模臨床試験NAVIGATORが進行中です。
NAVIGATORでは心血管疾患既往または危険因子を有する耐糖能異常の約1万例を対象に、バルサルタンと速効型インスリン分泌促進薬ナテグリニド(2×2形式)による糖尿病進展抑制効果や心血管イベント抑制効果をプロスペクテイブに比較検討しています。両薬剤ともに食後高血糖を抑制すると思います。
しかし、バルサルタンはインスリンを低下させるのに対して、ナテグリニドはインスリン分泌を促進させます。
NAVIGATORではこうした作用機序の異なる薬剤が使われているので、糖尿病新規発症に関与する病態の違いを知ることもできるのではないかと期待しています。
     
Dzau
ナテグリニドの作用時間は短いので、血中インスリンを上昇させないことも考えられるのではないでしょうか。
       
伊藤
ナテグリニドは膵β細胞を刺激するためその機能を弱める可能性が考えられます。
ARBのように膵β細胞保護作用はありません。
これまでのサブ解析でARBが糖尿病の新規発症を抑制した
機序には、血流改善によるインスリンのデリバリー改善だけでなくARBの持つ膵β細胞保護作用(インスリン分泌の改善:膵リモデリング)が関与しているのかも知れません。
非常に興味のある点です。
 
Dzau
アンジオテンシンⅡ(AⅡ)が脂肪細胞の分化を抑制して脂肪細胞を大型化させ、悪影響を及ぼすという仮説(Sharma AM Hypertension 2002;40:609-611)をどう思いますか?

伊藤
Dzau先生らはバルサルタンを使って、間葉幹細胞のAT2受容体が脂肪細胞の分化を抑制することを報告なさいましたが(Matsushita K et al. Hypertension2006;
48:1095-1102)、脂肪細胞の分化についてはAT1受容体
を介する作用も考えられ、話は非常に複雑です。
いずれにせよSharmaの仮説は、臨床的には明確な結論がまだ得られていないと思います。
 
RA系研究の今後の課題(ARBの新しい可能性)
堀内
では最後にRA系研究の今後の課題について話し合いたいと思います。
Dzau先生、いかがでしょうか?

Dzau
本日話題になったマルファン症候群や解離性大動脈瘤におけるRA系の役割やARBの占める位置については、さらに研究が進むでしょう。
メタボリック・シンドロームでも同様のことが言えると思います。
また、ARBの脳卒中予防と関連して、脳梗塞サイズ縮小、認知機能改善や痴呆予防などの問題も将来の課題として残されています。
そして、それらの機序として、やはりARBの持つAT2受容体刺激の意義を確かめなくてはなりません。
私は特に間葉幹細胞におけるAT2受容体の機能に興味があります。

伊藤
代謝の分野では、現在、脂肪細胞が話題ですが、多くの研究者が神経系を介したinterもtissuecommunication
の代謝における意義に興味を示しています。AⅡは神経系
にも影響を与えるので、inter - tissue communicationのAⅡによる制御は重要と思われます。

森下
我々は最近、アミロイドβを脳質内に注入して作成したアルツハイマー病のマウスモデルの認知機能障害が、
ARB投与で改善されることを報告しました。
一方、やはりアルツハイマー病のマウスモデルを使った検討で、種々の降圧薬の中でも唯一バルサルタンだけが脳のβアミロイド蛋白値を低下させると同時に、空間学習能力を改善させたとの報告が出ました(図5)。

 

 


今後、臨床で検証していく必要があると思います。
さらに、AT1受容体ノックアウトマウス(卵巣を摘出した閉経後モデル)を使った我々の基礎研究から、ARBが破骨細胞の活性化を抑制するとのデ一夕が得られています(Shimizu H et al. FASEB J 2008; Feb6:18256306(P,SE,B,D))。
これはARBによるRA系抑制が、骨粗しょう症に有用であることを示唆するデータだと思います。

Dzau
いずれもARBの今後の可能性を考える上で、興味深いですね。
スタチンのようにARBにも多彩なpleiotropic effectsがあるように思います。
今後、基礎研究の成果を臨床試験で裏付けることが大切です。

楽木
RA系に関しては、プロレニン受容体、ACE2、Ang-(1-7)なども話題になっており、研究面でも新しい展開が期待できます。

Dzau
RA系研究にはまだ多くの可能性が残されていると思います。
RA系に対する興味は尽きることがありません。

堀内
本日はDzauを囲んで有意義な時間を過ごすことができました。
Dzau先生、”Dzauラボ”の皆さん、ありがとうございました。

Dzau
私は皆さんのようなスタッフを持ったことを非常に誇りに思っています。
ありがとう。

出典 Nikkei Medical 2008.7
版権 日経BP社

 

 

<関連サイト>
心腎連関 その1(1/2)
http://blog.m3.com/reed/20080320/1
ARBによるCV Continuum阻止の試み
http://blog.m3.com/reed/20080716/1
オルメサルタンのRA系抑制の新展開
http://blog.m3.com/reed/20080609/_RA_
心血管病を考慮した高血圧治療
http://blog.m3.com/reed/20080531/1
組織レニン
http://blog.m3.com/reed/20070914/1
(Dzau先生に関するエピソードも紹介しています)

<コメント>
最後のくだり(師弟愛)は感動すら覚えます。

Dzau先生は、たしかデューク大学におみえになると聞いています。

先日帰ってきましたが、医学部6年生のわが子が、短期留学先の選定で留学前に迷っていました。
候補はペンシルバニア大学、デューク大学、ジョンズホプキンス大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校など。
いずれも錚々たる大学です。
ちょうど、Dzau先生がデューク大学にみえるということを知ったので(http://blog.m3.com/reed/20070914/1)、生の姿がみえるということで勧めたことを思い出しました。
(結局はジョンズホプキンス大学に留学しました)

話がちょっととびます。
大腸がんの進行度分類にデューク分類というのがあります。
きょうのきょうまでデューク大学の分類と思っていました。
本当はデュ-クス博士が論文に発表したもので、ただしくはデュ-クス分類というようです。

とても恥ずかしい気持ちです。何故なら留学前のわが子にとくとくとデューク大学とデューク分類について話していたからです。

ジョンズホプキンス大学といえば何といってもウイリアム・オスラー博士でしょうが、日本人とのかかわりでいえば、私は故佐川喜一先生(元Johns Hopkins大学教授、Authur C Guytonの後継者として循環生理学を発展させた日本人)、国立循環器病センター研究所長 菅 弘之先生、九州大学 砂川 賢二先生の熱い師弟愛を思い出さずにはいられません。
ちょうどきょうのDzau先生達のような。

<参考>

ガイトン臨床生理学
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2000dir/n2380dir/n2380_07.htm
“やまもも”言いたい放題(「濃い人間関係」)
http://www5b.biglobe.ne.jp/~yamamomo/kaihobox/kaiho012.html
ポストゲノム研究におけるフィジオーム-(統合生理学)研究の必要性
http://wwwsoc.nii.ac.jp/psj/opn/65-4-1.html
九州大学 砂川 賢二
http://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K002448/index.html

 

読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。
他に
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
「井蛙内科/開業医診療録(2)」
http://wellfrog2.exblog.jp/?2008.5.21
「井蛙内科/開業医診療録」~2008.5.21 
http://wellfrog.exblog.jp/ 
があります。 

 

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ARBについては、最近AT2受容体への刺激作用が注目されています。
いわゆるAT1受容体の強力な(宣伝文句ではダブルアンカードメインとか高親和性とかいっています)ブロックとのDualEffectというわけです。
AT受容体のブロックが強力であればあるほど、あぶれたATⅡがAT2受容体を、より刺激するという理屈のようです。

ARBはAT2受容体刺激薬であると広言する先生も現れてきています。
このAT2受容体の働き(作用)については、私自身十分理解出来ていたというわけではありません。
学術講演会にでかけても、さらっと軽く紹介されるぐらいで、
活字でもなかなかいい説明がみつかりません。

そんな中、わかりやすい図(以下の文中の図2)の載った記事が目に留まりました。

 

レニン・アンジオテンシン系研究の現在と今後の課題

レニン・アンジオテンシン(RA)系研究の進歩には著しいものがあるが、研究の最前線で大きな牽引力を発揮してきたのがVictor J・ Dzau氏である。
そのDzau氏の研究室には、日本から多くの若い研究者が参加して重要な研究成果を報告し、帰国後は我が国の第一線で研究・診療を続けている。
今回は、そうした”Dzauラボ”に参加した日本人スタッフの先生方にお集まりいただき、ARBの話題も含めてRA系研究の現状と今後の、課題をめぐって話し合っていただいた。

 

基礎研究と臨床成績の両方から証明されたCardiovascular Continuumの意義
堀内
本日の日本人メンバーは、かつて米国のDzau先生の研究ラボに留学した”Dzauラボ”"のスタッフでした。
こうした形で我々の米国における恩師と討論の場を持てることを非常にうれしく思います。
まずDzau先生から、RA系研究の現状をめぐってコメントしていただきたいと思います。

Dzau
私がRA系の研究を始めたのは1950年代末から1960年代前半のことです。
1980年にはレニン蛋白に対する純粋な抗体の作成に成功しました。その後、私は組織RA系にも輿味を持つようになり、局所組織におけるアンジオテンシノーゲンmRAの存在を証明した最初のグループの一員となりました。
 
このようなRA系の基礎研究の途上で、1989年には
Eugene Braunwald先生と協力して、Cardiovascular
Continuum(心血管系イベントの連続性)という概念を作成し、高血圧などの生活習慣病から始まり、やがて心筋梗塞や心不全を発症して死亡に到る一連の心血管イベントの連鎖が存在すること、その連鎖にはRA系が深く関与しているとの考えを表明しました。
このCardiovascular Contmuumの概念は1991年に論文にまとめたのですが(Dzau V.  Braunwald E,Am Heart J 1991;121:1244-1263)、 当時は、Cardiovascular  Continuumの存在そのものをめぐって賛否両論がありました。
しかしその後、ARBなどのRA系阻害薬を使った大規模臨床試験において、RA系の亢進がいかに密接に脳・心・腎などの臓器障害に関与しているかが証明されています(図1)。


 
そして、我々が基礎研究を前進させればさせるほど、Cardiovascular ContinuumにおけるRA系の役割の重要性が示されるといった状況にあります。
この状況はさらに深まるものと思えます。
我々のラボは、1993年、本日の司会の堀内先生を含めた日本人スタッフの協力を得てAT2受容体のクローニングにも成功しました(Mukoyama M et aL J Bio lCheml 993;268; 24539-24542)。
AT2受容体刺激は、生体に良い影響を与えるのではないかと私は考えています。
いつの日にか、、AT2受容体刺激薬による治療も可能になるのではないかと、RA系の臨床での新しい展開に私は非常に大きな期待を寄せているのです。

ARBによるAT1受容体ブロックとAT2受容体刺激の意義
堀内 
数あるARBの中でもバルサルタンは、AT1受容体に対する選択性が高いことが分かっています(表1)。

 


また、AT1受容体やAT2受容体のノックアウトマウスを使った
我々の基礎研究から、バルサルタンはAT1受容体ブロックに加えて、今、Dzau先生が話題になさったAT2受容体刺激というDual sEffectにより、効果を発揮していることが示唆されました(図2)。

Dzau
ヒトではどうなのか、まだ余り詳しいことは分かっていませんね。

堀内 
患者から得られたDCA(方向性冠動脈腫瘍切除術)サンプルを入手して検討したところ、ヒト冠動脈においてもAT1I受容体と同様にAT2受容体の発現も認められましたから(図3)、臨床でも同じことが言えるのではないかと考えています。

ARBによる高齢者高血圧の治療をめぐって
堀内
では続いて、ARBによる高齢者高血圧治療について取り上げたいと思います。

楽木
ESH/ESC(欧州高血圧学会,欧州心臓病学会)による高血圧管理ガイドライン2007では、高齢者の収縮期高血圧に対しては利尿薬とCa拮抗薬を選択することを推奨しており、RA系阻害薬は含まれていません(European Heart Jounal 2007;28:1462-1536)。
これに対して我が国の高血圧治療ガイドライン(JSH)2004
では合併症のない場合の高齢者高血圧に対する一次薬
としてCa拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、少量の利尿薬が挙げられています(図4)。

 

高齢者高血圧におけるARBやACE阻害薬の降圧効果は既に立証されています。
我が国で実施されたハイリス高血圧を対象にARBとCa拮抗
薬アムロジピンの有用性を比較した大規模臨床試験
CASE-J (4,728例、平均年齢63.8歳)では、両薬剤とも
に良好な降圧効果を示しました。70歳代ではARBで
137/75mmHg、Ca拮抗薬で136/74mmHg、80歳代でも各々138/74mmHg、137/73mmHgまでの降圧を達成しています。
高齢者においても、両薬剤で副作用に差は認められませんでした。
この結果から、ARBは高齢者高血圧に対しても非常に有用な薬剤であると考えられます。
 
Dzau 
CASEJでは65歳以上の高齢者はどの位の比率だったのですか?
 
楽木 
約半数を占めていました。

出典 Nikkei Medical 2008.7
版権 日経BP社

 

<追加>

m3.comのブログ「世迷い独り言」でお馴染みの森下竜一先生は、AT1受容体遮断とAT2受容体刺激の重要性について、ある座談会で次のようなコメントをしてみえます。

AT1受容体もAT2受容体も同じ7回膜貫通型なのですが,AT1受容体は昇圧や血管平滑筋細胞の増殖促進などに関与するのに対して,AT2受容体は逆に血管平滑筋細胞の増殖抑制や血管内皮の拡張に関与するなど善玉の働きをしています。
ARBはAT1受容体遮断とAT2受容体刺激の作用がありますから,この2つの作用によって生体をよい方向に導いているわけです。
ARBがAT1受容体を遮断する結果,血中で増加したAIIがAT2受容体と結合してAT2受容体を刺激すると考えられます。
血管保護作用の強いARBはAT2受容体刺激作用も強いと思います。

出典 Nikkei Medical 2008.7
版権 日経BP社

 

<自遊時間>
暑い毎日が続きます。
昨日の土曜日はひょっとして今年一番の暑さだったかも知れません。
そんな中、某メーカーの、カルシウム拮抗剤と心腎連関の講演会を聴きに行きました。
ARBが全盛の中、ある意味新鮮に聴くことが出来ました。
CKDが主体だったので、出席者もなじみの循環器関係の先生が少なく、ある意味でこれまた新鮮でした。
懇親会で乾杯の音頭をとった昔の研究室の後輩(現、某病院院長)は唯一の知っている先生ということで、自分の年を再認識した次第です。
彼とはつい話がはずみ、懇親会を最後に後にしたのは、我々二人。
会場前に居並ぶ数多くのMRさんの見送りを受けて、ちょっぴり恥ずかしい思いをしました。

都会生活のおかげで、毎週のように(?)講演会に無料(しかも懇親会付き)で参加。

ブログのネタさがしの取材とはいえ、こんな快適な医者暮らしでは僻地での診療生活は思いもつきません。

 

読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。
他に
ふくろう医者の診察室
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(一般の方または患者さん向き) 
「井蛙内科/開業医診療録(2)」
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前回の
PRoFESS 血小板療法の比較(2008.7.18)
http://blog.m3.com/reed/20080718/PRoFESS
___
に続きPRoFESSに関する記事で勉強しました。

テルミサルタン群とプラセボ群、脳卒中再発抑制において有意差なし
PRoFESSの結果-脳卒中再発予防効果
カナダ マクマスター大学教授のSalim Yusuf氏

2008年5月、フランスのニースで開催された第17回欧州脳卒中学会(ESC2008)のLarge clinical trials のセッションで、脳卒中再発予防の評価を目的とした大規模臨床試験PRoFESS(Prevention Regimen For Effectively avoiding Second Strokes)の結果が発表された。

まず、抗血小板療法に関する結果が報告され、続いてテルミサルタンとプラセボを比較した結果が、カナダ マクマスター大学教授のSalim Yusuf氏によって発表された。

これまでの大規模臨床試験によって、降圧療法は、脳卒中の再発を抑制することが示されている。

例えば、PROGRESS(Perindopril Protection Against Reccurrent Stroke Study)では、ACE阻害薬と利尿薬の併用を4年間行うことで、収縮期血圧は9mmHg低下し、脳卒中再発抑制が示された。

また、HOPE(Heart Outcomes Prevention Evaluation Study)では、ハイリスク高血圧患者にACE阻害薬が4.5年間投与され、3mmHgの降圧によって脳卒中再発抑制が示されている。

そこでPRoFESS試験では、追跡期間2.4年(中央値)という早期の段階での脳卒中再発抑制が検討された。

比較されたのは、テルミサルタン(Telmi群)の1万146例とプラセボ(Plac群)の1万186例。
1次アウトカム