戯れ言たれる侏儒
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第52回日本脈管学会総会(2011年10月20日~22日)で発表された、「救急外来で見逃された急性大動脈解離患者の臨床的特徴の検討」という演題(演者 横浜市立みなと赤十字病院循環器内科・倉林 学先生)記事で勉強しました。
 
大動脈解離「誤診」低いCT施行率
誤診の予測因子は、「歩いて来院すること」と「前胸部痛」
急性大動脈解離は、救急外来で見逃しや誤診されることが少なくない。
今回、救急外来で見逃された急性大動脈解離患者の臨床的特徴を検討した。
誤診率は16%で、CT施行率や画像検査施行件数が有意に低かった。
また、「歩いて来院すること」と「前胸部痛」 が有意な誤診の予測因子であった。
鑑別診断には細心の注意を払い、少しでも急性大動脈解離を疑った場合は、躊躇せずに画像検査を行うことが重要である。
 
 
急性大動脈解離は、CT、経食道心エコー、MRIなどの画像検査で正確に診断できると言われているが、救急外来での初期評価で見逃されたり、急性冠症候群などと誤診されたりすることが少なくない。
今回、我々は救急外来で見逃された急性大動脈解離患者の 臨床的特徴を検討した。
 
対象・方法
2005年4月から2010年3月までの5年間に当院救急外来を受診して、最終的に急性大動脈解離と診断された患者が124人いた。
そのうち、他院で診断後に搬送された13人と、外傷に伴う大動脈解離の2人を除いた109人(Stanford A:42人、Stanford B:67人)を後向きに検討した。
救急外来の初期評価の終了時までに診断がつかなかった群を「誤診群」、診断された症例を「正診群」と定義した。
年齢、性別、症状、来院手段、身体所見、既往歴などの臨床的所見と、血液検査(WBC、CRP、CK、Dダイマー)、心電図、胸部レントゲンなどの検査所見、救急外来で施行された画像診断検査の種類と数、手術施行率や院内死亡率などの臨床経過を両群で比較検討した。
また、誤診の予測因子を多変量解析で検討した。
 
結 果
109人中、17人(16%)で誤診が生じた。
誤 診群17人は、急性冠症候群(10人)、他の心血管疾患(3人)、腹部疾患(3人)、脳梗塞(1人)と誤診された。誤診群では正診群に比べて、前胸部痛の ある患者(71% vs. 41%、p=0.025)と、歩いて来院した患者(29% vs. 10%、p=0.042)が多く、胸部レントゲンでの縦隔拡大の頻度(25% vs. 55%、p=0.023)が低かった。
その他の臨床的所見や検査所見では、両群で有意差がなかった。
救急外来で施行された画像診断検査に関しては、誤診群では正診群に比べて、CTの施行率は有意に低く(41% vs. 100%、p<0.001)、患者ごとの画像検査施行件数も有意に少なかった(0.82±0.81 vs. 1.53±0.52、p<0.001)。
大動脈解離に対する緊急手術施行率(29% vs. 37%、p=0.349)と院内死亡率(18% vs. 15%、p=0.520)は両群で有意差がなかった。
多変量解析では、「歩いて来院すること」が最も強い誤診の予測因子であった(オッズ比 4.777、95%CI 1.267-18.007、p=0.021)。
また、「前胸部痛」も有意な誤診の予測因子であった(オッズ比 3.465、95%CI 1.061-11.314、p=0.040)。
 
少しでも疑った場合は画像検査を
急性大動脈解離の症状の種類や程度は様々で、診断は難しい。
救急外来において“Walk-in patient”は軽症とみなされがちであるが、その中にも大動脈解離などの重篤な疾患の患者が含まれており、トリアージを含めて初期診療をする医療従事 者は細心の注意が必要である。
また、大動脈解離は時に無痛性であることがあり、胸部レントゲンにおける縦隔拡大、身体所見における血圧の左右差や移動性の疼痛などの典型的な所見を示さない患者も少なくない。
さらに、大動脈解離は、大動脈から分岐するいかなる分枝でも閉塞を来たし得る疾患であり、脳、脊髄、 心臓、血管、呼吸器、消化器、腎、四肢などのあらゆる疾患と類似した臨床症状や検査所見を示し得るので、他疾患との鑑別が困難なことがある。
Dダイマーは、上昇していなければ大動脈解離を否定できる有用な除外診断マーカーではあるが、Dダイ マーの上昇は多岐の疾患で生じるので、特定の疾患を診断するには至らない。
平滑筋ミオシン重鎖のような、急性大動脈解離の診断における感度、特異度ともに高いバイオマーカーは、一般臨床ではまだ用いることはできない。
急性大動脈解離を疑った場合には、感度も特異度も高い造影CTなど画像検査を行うことが重要であり、それにより見逃しを減らすことができると思われる。
(Journal of Cardiology. 2011; 58; 287-293に掲載予定)
http://www.m3.com/academy/report/article/144995/
 
 
<番外編 その1> PL顆粒、クラリスロマイシン(CAM)とQT延長
http://medqa.m3.com/doctor/showMessageDetail.do?messageId=103222
 
<番外編 その2> 血圧は低すぎても、脳卒中再発
http://www.m3.com/news/THESIS/2011/11/25/11765/?portalId=mailmag&mm=EA111125_111&scd=0000163094
文 献:Ovbiagele B et al.Level of Systolic Blood Pressure Within the Normal Range and Risk of Recurrent Stroke.JAMA. 2011;306(19):2137-2144.
http://jama.ama-assn.org/content/306/19/2137.abstract
非 心原性虚血性脳卒中患者2万330人を対象に、最大血圧(SBP) と脳卒中再発リスクの関連を多施設試験の事後観察分析で評価。脳卒中再発リスクと、正常値内で非常に低い(<120mmHg)、高い (140-<150mmHg)、非常に高い(≧150mmHg)群が再発性脳卒中のリスク増加と関連していた。
 
<関連サイト>
急性大動脈解離 SGで良好な遠隔成績
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtnews/2011/M44270171/
従来は,Stanford A型には緊急の人工血管置換術,同B型で破裂,臓器虚血などの合併症を持たない場合には保存的治療,合併症を有する場合には手術が必要とされていた。しかし近年,合併症を有するB型に対して,SG内挿術の有用性が広く認識されつつある。
また,A型でも手術困難例に実施する施設も見られるようになった。
■札幌医科大学救急集中治療部・第二外科の栗本義彦准教授らは,破裂,臓器虚血などの合併症を有するDeBakey Ⅲ型急性大動脈解離に対して,中枢側エントリー閉鎖目的の緊急SG内挿術を行い,術後早期だけでなく,中期においても良好な成績が得られたと報告した。
■大阪大学大学院心臓血管外科学の吉田卓矢氏らは,合併症のないB型急性大動脈解離のうち,遠隔期大動脈拡大高リスク症例に対して,SG内挿術が良好な初期成績と遠隔期の大動脈拡大防止効果をもたらしたことを報告した。
■埼玉医科大学国際医療センター心臓血管外科の朝倉利久准教授らは,A型急性大動脈解離に対する新しい治療法として,部分弓部置換術(HAR)の循 環停止時に下行大動脈へSGを内挿する術式「open stent-graft変法」を開発。簡便,安全に行えること,術後中期における下行大動脈径拡大を有意に抑制することを明らかにした。
 
~大血管疾患診断上のポイント~ 瘤や解離では血管壁性状に注意
http://yaplog.jp/hurst/archive/208
■急性期の大動脈解離の診断では,正確に分類をした上で臓器虚血の有無を確認することが重要。
■通常,解離が上行大動脈に存在するStanford A型では緊急手術を行うが,同B型でも臓器虚血や切迫破裂の合併例では手術を検討する。
■解離腔の状態(偽腔開存型解離/血栓閉鎖型解離)やulcer-like projection(ULP)の有無(血流が内腔から外腔に入るポイントの有無)も確認すべきである。
■血栓閉鎖型解離の場合は単純CTで三日月形の高吸収域を呈する解離腔内血腫が認められ,予後は比較的良好だが,ULPがあれば再解離に注意すべきである。
また,偽腔開存型解離では,真腔が圧排されて虚血が生じる恐れがあるため,解離部位などの確認が重要となる。
■慢性期の大動脈解離では,大動脈径が拡大する場合に手術適応がある。
 
<自遊時間> 
例年、インフルエンザワクチンを接種に来院する50代の女性。先日も接種のために来院されました。
「先生、2回目の手術のため今年入院しました」。
この方はもともとマルファン症候群があって以前にも胸部大動脈解離の手術歴があります。
こういったケースではすぐに診断がつくため誤診することはないはずです。
今回はSatnford Aでかつ大動脈弁に解離が及ん大手術だったようでしたがすっかり回復した様子でした。
 
読んでいただいて有り難うございます。
コメントをお待ちしています。
その他
「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/
(「葦の髄から循環器の世界をのぞく」の補遺版
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
http://wellfrog4.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
http://wellfrog3.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21 http://wellfrog.exblog.jp/ 
(内科医向き)
「井蛙」内科メモ帖
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/
(「井蛙内科開業医/診療録」の補遺版)
があります。   
 

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胸部大動脈瘤は何cmから外科手術が勧められる
胸部大動脈瘤の罹患率は欧米を中心に過去数年で大幅に上昇しています。
スウェーデンの報告では,過去15年間で罹患率が男性は52%,女性が28%に上昇し,手術件数は男性で7倍,女性で15倍も増えています(Circulation 2006: 114; 2611)。
人口の高齢化とともに,CTの普及による発見機会の増大が原因であると考えられ,わが国でも同様の状況といえます。
またこの間に,外科治療も目覚ましい発展を遂げています。
前述の報告では,過去15年間で胸部大動脈瘤手術の手術死亡率が25%から13%とほぼ半減しました。
さらに近年では,下行大動脈を中心にステントグラフト内挿術が導入され,外科手術の成績が不良であった緊急症例や重症例でも比較的良好な成績を挙げています。
 
瘤径6cm超でリスクが急激に増大
動脈瘤は原則として自然退縮することなく,拡張を続けます。
ただ,拡張速度は平均すると比較的緩やかで,1.0mm/年程度です。
そのほか,動脈瘤の拡張にはいくつかの特徴があります。
瘤径拡張速度は一般に個人差が大きく,部位によって差があり(上行大動脈で0.7mm/年,下行大動脈では1.9mm /年),瘤が大きくなるほど速度も指数関数的に増大するとされています。
そのため動脈瘤の拡張は予測が難しく,症例に応じて半年または1年ごとの経過観察 が推奨されています。
 
エール大学のDavisらは,胸部大動脈瘤症例721例の自然予後を報告しています(Ann Thorac Surg 2002; 73: 17)。
死亡,破裂,解離といった重篤なイベントの1年当たりの発症頻度を,瘤の大きさごとに計測した() ところ,1年以内に破裂するリスクは,瘤径が6cm以上でも3.7%とそれほど高くはありません。
しかし,破裂だけでなく,死亡,解離も含めて,そのいずれかが起こる確率で見ると,15.6%まで上昇します。有害事象の発症頻度は瘤径が6cmを超えたところで,急激に増大します。
では瘤が6cmを超えるまで 待っていてもよいのでしょうか。
 
図表
現行のガイドラインは5.5cm以上で手術
米国心臓病学会のガイドラインでは,最大径5.5cm以上を手術適応としています(ClassⅠ,レベルC)。
動脈瘤はゆっくりと成長し,その間も一定頻度で危険な合併症は生じています。
Davisらのデータでは,瘤径が合併症のリスクが急増する6cmになるまで手術を延ばすと,経過観察中に症例の 31%が破裂または解離を発症してしまいます。
また破裂した動脈瘤の瘤径の中央値は6cmであったとも報告されています。
よって,重篤な合併症リスクが急 増する6cmまで待つのではなく,合併症リスクが手術リスクを上回る,瘤径5.5cmを手術適応と定めています。
また瘤径の拡張速度は個人差が大きく予測が難しいため,経過観察する場合も必ず半年または1年ごとに検査を行い,5.0mm/年以上の速度で瘤径が拡大している場合には,5.5cm以下の大きさ でも手術を検討すべきであるとしています(ClassⅠ,レベルC)。
 
待機手術の安全性高いが破裂例は注意
では手術はどの程度安全に施行できるのでしょうか。
大動脈瘤手術は瘤の部位によって術式が異なり,手術死亡率や合併症の発症も術式ごとに若干差が見られます。手術は前方アプローチ(胸骨正中切開)と,側方アプローチ(左開胸手術)に大別されます()。
2008年の日本胸部外科学会学術調査によると,待機手術の場合は,大動脈瘤手術の手術死亡率がおおむね2~4%と低く,胸腹部大動脈瘤は6.9%とやや 高くなっています。
一方,破裂性大動脈瘤に対する緊急手術では手術死亡率はいずれも20%程度もあり,約5倍も高くなります。
待機的に手術を行うことがいかに大事であるかがうかがわれます。
 
図表
 
また大動脈瘤手術では生命予後以外に脳神経合併症の発症が問題とされてきました。
エール大学の報告では待機手術での発症頻度は低く,前方アプローチ(基部,上行,弓部置換術)手術の脳梗塞発症率は3.0%,側方アプローチの対麻痺発症率が7.6%でした。
よって待機手術であれば,こうした合併症を起こすことなく退院できる可能性は94%もあり,安全性は比較的高いと考えられます。
遠隔期生存率も良好で,胸部大動脈瘤手術症例全体の5年生存率は72.5% と良好であり,いったん手術を乗り切れば,その後の経過は極めて安定していることが分かります。
 
下行大動脈ではステントグラフト内挿術が普及
胸部大動脈瘤に対するカテーテルインターベンションによるステントグラフト内挿術はわが国でも既に広く普及しています。
2008年に年間823件のステントグラフト内挿術が行われており,開胸による下行大動脈置換術の609件を既に上回っています。
 
対象は,ほとんどが主要分枝のない下行大動脈領域であり,枝付きステントや非解剖学的バイパス術の併施が必要な弓部や胸腹部大動脈領域はまだ一般的ではありません。
適応は,外科手術の場合と同じですが,ステントグラフト内挿術では一定の解剖学的な条件を満たさなければなりません。
具体的には,瘤の前後に ステントを圧着固定させるための健常な部位(Landing zone)が十分にある(長さ20mm以上,径38mm以下)ことと,ステントグラフトを運ぶためのアクセスルートが十分である(20~24Frシースが 挿入可能)ことの2点です。
短期成績に関してはおおむね良好です。胸部大動脈瘤ではいまだ外科手術とのランダム化比較試験は行われていませんが,後ろ向き 比較試験のメタ解析では,手術死亡,脳神経合併症のいずれにおいてもステントグラフト治療群の方が良好でした(J Vasc Surg 2008; 47: 1094)。
ただ遠隔期の治療成績はいまだ十分に明らかにされていません。
特に,より普及の早かった腹部大動脈のステントグラフト内挿術ではエンドリーク による再治療が有意に多かったことが報告されており,しばらくは慎重な適応が必要であると考えられます。
 

 
胸部大動脈瘤の外科治療は,心臓血管分野で治療成績が最も向上した分野の1つです。
特に待機手術の手術リスクは過去十数年で半減しており,今では90% 以上の確率で合併症なく退院できるまでに治療の安全性は向上しています。
しかし,ひとたび動脈瘤が破裂してしまうと,緊急手術を行っても手術リスクは今なお高いままです。
こうした治療成績が十分に理解され,正しい時期にできるだけ多くの患者さんが治療を享受できるようにしていくことが今後の課題であると考 えられます。
 
出典 Medical Tribune  2011.6.22
版権 メディカル・トリビューン社

 
<私的コメント>
以前から何回も書きましたが、欧米の「5.5cmを超えたら手術適応」という考えが体格の異なる日本人にそのまま当てはまるものかいつも疑問です。
それとも5.5cmという絶対値が体格によらず流体力学的に意味があるのでしょうか。

また性差はどうなのでしょうか。
胸部大動脈の部位による差や形状の差や拡大速度も関係しそうです。
 
<関連サイト>
Dダイマーと腹部大動脈瘤
http://blog.m3.com/reed/20110307/D_

腹部大動脈瘤とステント
http://blog.m3.com/reed/20080621/1

ステントグラフト治療
http://blog.m3.com/reed/20080331/1

胸部大動脈疾患に新ガイドライン
http://blog.m3.com/reed/20100721/1

腹部大動脈瘤の危険因子
http://blog.m3.com/reed/20090531/1

ステントグラフト内挿術(EVAR)
http://blog.m3.com/reed/20110118/_EVAR_

腹部大動脈瘤の危険因子
http://blog.m3.com/reed/20090531/1

腹部大動脈瘤の血管内修復術
http://blog.m3.com/reed/20091207/1

腹部大動脈瘤の成長率
http://blog.m3.com/reed/20100221/2

Health in Man 試験
http://blog.m3.com/reed/20071211/Health_in_Man__

腹部大動脈瘤の手術適応 ~ 成長速度の重要性
http://blog.m3.com/reed/20110528/2

大動脈瘤の進展抑制とAT2受容体シグナル
http://blog.m3.com/reed/20110717/_AT2_1

 

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その他
「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/
(循環器専門医向き)
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(一般の方または患者さん向き) 
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
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井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
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AT2受容体シグナルはERKを阻害して大動脈瘤の進展を抑制する
Angiotensin II type 2 receptor signaling attenuates aortic aneurysm in mice through ERK antagonism
Habashi JP, et al.
Science 2011; 332: 361-365 

http://www.sciencemag.org/content/332/6027/361
執筆:真田 昌爾 先生  大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学
監修:小室 一成 先生  大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学 教授   
<概要>
常染色体優性遺伝を示すMarfan症候群は、微小線維の構成成分fibrillin-1のヘテロ変異により生じるとされる。
すでに著者らは、同症候群患者の多くにみられるfibrillin-1のEGF(上皮増殖因子)様ドメインのヘテロ変異(Fbn1C1039G/+)をマウスに再現すると、同症候群の表現型がよく再現され、TGF(トランスフォーミング増殖因子)-βシグナルが増強することを見出していた。アンジオテンシンII(AII)は、大動脈瘤を進展させることが知られているが、1型(AT1)および2型(AT2)受容体の相対的な関与は不明のため、本報告では、上記のMarfan症候群モデルマウスにてAT1およびAT2の修飾が大動脈病変の進展に及ぼす影響を評価した。

まず、同モデルにて大動脈壁弾性板の分断と中膜肥厚、大動脈基部径の拡大、ならびに生命予後の悪化を認めたが、加えてAT2受容体を欠損させるとこのような変化はさらに進展し、生命予後はさらに悪化した。
次に、同モデルにてAT1選択的阻害薬ロサルタンを投与すると、このような変化の進展は抑制されたが、進展を完全に抑制するためには選択的AT2刺激が不可欠であった。
AT1、AT2の両方を理論的に阻害しうるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬エナラプリルは、進展抑制効果が不完全であった。
ロサルタンとエナラプリルは、ともに大動脈の古典的TGF-βシグナル経路の増強を抑制したが、ロサルタンは加えてAT2刺激の持続によりTGF-βによるERKの活性化も抑制した。
 
<なぜMust-readなのか>
あらゆる疾患の研究において、優れた成果を得るには、当の疾患をなるべく正確に反映させたモデル系が不可欠である。
本報告は、変異遺伝子が特定されたMarfan症候群の病態を高度に再現したモデルマウスを用いて、AIIと病態進展との関連を示しており、その下流シグナルにおけるAT2とERKの新しい位置づけを示したことは注目すべき点であり、一方で、後半部分は臨床的に大きなインパクトをもつ治療介入研究とも位置づけられる。
前半に示されたFbn1C1039G/+変異とAT2-/-変異が大動脈壁構築および病的表現型に及ぼす影響の部分は、病型に及ぼすAT2刺激欠如の関与を矛盾なく示しているうえ、遺伝子変異で生命予後が低下する様子も示され、ほぼ完全な形の報告となっている。

一方、後半で触れられたもう一つのトピック(AT1、AT2受容体の治療における選択性およびいかなるシグナルがその差異を担うか)の探索の部分については、AT2シグナルによるERKの抑制という新しいターゲットを提示した一方でデータに穴のある部分が多いようにも思われる。

従来の数多くの報告から、AIIシグナルは全体として増殖性シグナルを担うと考えられ、著者らもAT1受容体シグナルは増殖促進、アポトーシス抑制、線維化促進という、AII自体によって引き起こされる生理作用の主軸を担い、AT2受容体シグナルはその逆の生理作用をもつと説明し、それを支持する論文は多い。
本論文では、たとえばFigure 2と3からは、ロサルタンが大動脈径をむしろ減少させ、ERKシグナルをほぼ完全に遮断しており、ロサルタンの治療効果はほぼ完璧なことが期待される。
し かし一方で、ロサルタンを投与した際の組織写真が示されておらず、またロサルタン投与時の生存曲線の変化も示されていない点に疑問が残り、必ずしも示され た結果と一致しなかった可能性も考えられる。
また、本論文にてエナラプリルはAIIの産生阻害薬との位置づけで用いられているが、マウスでもヒトと同様にキマーゼの作用でAIIの産生は完全には抑えられないと報告されていることから、著者らの提示するメカニズムを証明するためには、まずAII自体の作用を抑制するためにレニン阻害薬を用い、ま たAT2受容体刺激作用の有用性をさらに鋭く証明するためにロサルタン(AT1受容体結合作用がAT2受容体の1,000倍)に加え、よりAT1選択性の高いテルミサルタン(同 3,000倍)、カンデサルタン(同 10,000倍)、オルメサルタン(同 12,500倍)、バルサルタン(同 30,000倍)などの薬剤の効果、さらに選択的AT2刺 激や特異的ERK阻害の作用が、薬理学的あるいは病理組織学的に、ロサルタンの効果と比較して期待通りの序列が得られるか観察する必要がある。
さらに臨床 的に重要なのは、万が一予測通りにはならなくても、各薬剤の副次的な効果が統合されてより包括的・直接的な治療効果を反映する予後の評価、たとえば生存曲 線の評価であり、その点は薬剤投与下にも是非検討されなければならないと思われる。
本論文は、結論の確証を示すことや、その臨床応用に向けた道筋を示すためにどのようなデータの緻密性が要求されるかなどを考察するうえで、比較的荒削りな状態といえるが、それに勝るとも劣らない新規性のある興味深い結論を真摯に導き出した、面白い一報である。

http://www.univadis.jp/Services/CardioPro/Pages/mustreadarticles1106_02.aspx
 
 

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~腹部大動脈瘤の手術適応~ 瘤径に加え成長速度も重視すべき
腹部大動脈瘤は無症候に増大し,破裂する恐れがあるが,確立した薬物治療はなく,手術適応の見極めが重要になっている。
わが国のガイドライン(大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン2006年改訂版)では,米国の指針にならって最大瘤径が男性で5.5cm超,女性で5cm超の場合にクラスⅠの手術適応としている。
しかし,これまで日本人のデータが十分に検討されていなかったことから,今回,東京医科大学血管外科の渡部芳子氏らは,同科において経過観察を行っていた患者のデータを解析した。
その結果,瘤径のカットオフ値は男性でも5.0cmが妥当と考えられたが,それ以下の場合でも瘤の成長速度を考慮に 入れるべきとした。
 
瘤径4.0cm以上,成長速度0.3cm/年は手術の可能性高い
渡部氏の検討の対象は,1999~2009年にCTを2回以上撮影した124例。
同科では,瘤径5.0cm以上の場合や成長速度が0.5cm/年以上の場合に手術適応としているため,瘤径5.0cm未満や手術高リスク,または手術拒否の患者が含まれた。対象の平均年齢は73.7歳,平均追跡期間は3.0 年だった。
 
観察期間中に他病死が10例あり,瘤の破裂により死亡した症例はなかったが, 26例は手術施行に至った。
そのうち開腹術は20例で,6例についてはステントグラフト内挿術が施行された。
 
観察開始時の瘤径を0.5cmごとに区切って成長速度と手術施行の有無を見たところ,4.9cm以下では成長速度は遅かったが,5.0cm以上では0.3~0.5cm/年と速くなっていた。
また,4.0cm以上では5年以内の手術施行率が高かった()。
 

図表
同氏らはさらに,瘤径5.0m超となるか成長速度が0.5cm/年であった症例を増大群とし,非増大群と2群に分けて比較したところ,増大群が34.2%であった。
増大群は平均0.34cm/年の成長速度で,3cm台から0.3cm/年以上を呈した。
 
以上の結果から,同氏は「腹部大動脈瘤の瘤径が4.0~5.0cmであっても,成長速度が0.3cm/年以上で手術リスクが低い患者では手術を考慮してもよいのではないか」とした。
 
出典 Medical Tribune 2011.5.26
版権 メディカルトリビューン社
 
<私的コメント>
AAAの手術適応が、瘤径に加え成長速度も重要であるというのは別に目新しい知見ではなく、ごく常識的な結論と思われます。
 
Surgery is usually recommended for patients who have aneurysms bigger than 2 inches or 5.5 cm across and aneurysms that are growing quickly. 
http://www.nlm.nih.gov/medlineplus/ency/article/000162.htm
 
誰しもが疑問に思うことは、体格によって瘤径の許容範囲が変わる筈だということです。
メタボ健診の腹囲の正常値が 身長差が全く考慮されないのは、一般の人でも分かることです。
こんな滑稽なことが何故ゴリ押しされるのでしょうか。
私は、ある講演で斯界の重鎮のT大のK教授にこのことについて質問したことがあります。
その返答はまったく納得のいくものではありませんでした。
想定通りでしたが、学会側に都合のいい返答しかされないのです。
 
さて、この記事で「米国の指針にならって最大瘤径が男性で5.5cm超,女性で5cm超の場合」と書かれています。
このことは非常にショッキングでした。
これって、裏をかえせば「米国人と日本人の体格が同じだ 」といっていることになります。
今頃になって、「男性でも5.0cmが妥当」という結論もどうでしょうか。
男性と女性が同じというのも変じゃないでしょうか。
CTで大動脈径を計測して、(体格を考慮せず)一律5.1cmになるまで様子をみていいというのもどうかと思うのですが。
 

 

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PARTNER

戯れ言たれる侏儒 / 2011.02.14 00:06 / 推薦数 : 0
PARTNER(Placement of Aortic Transcatheter Valves)の記事で勉強しました。
 

<目的>
症候性の重度大動脈弁狭窄患者のうち,加齢や左室機能障害,合併症のため外科手術のリスクが高い患者では大動脈弁置換術が行われない。

このような高リスク 大動脈弁狭窄患者に対する低侵襲性の新治療法として,経カテーテル的大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)*がある。
手術不適応,もしくは手術リスクが高いにもかかわらず手術適応と判断された高リスク大動脈弁狭窄患者において,TAVIの有効性を標準治療と比較する。
一次エンドポイントは次の2つ:1年後の全死亡;全死亡+再入院の複合エンドポイント。
本報は手術不適応症例の結果。
* 本邦では2010年に高度医療として承認された。
 
<デザイン>


無作為割付け,多施設(21施設,うち17施設は米国),intention-to-treat解析。
 
<期間> 
跡期間は1.6年(中央値)。

登録期間は2007年5月11日~2009年3月16日。 
 

 
<対象患者>

58例。
症候性の高リスク*重度大動脈弁狭窄症**で,大動脈弁置換術不適応患者。 

* Society of Thoracic Surgeons[STS]スコア≧10%(0~100%で高値ほど手術リスクが高い) ,** 大動脈弁弁口面積<0.8cm2,平均大動脈弁圧較差≧40mmHg,最高大動脈弁通過血流速度≧4.0m/秒
除外基準:二尖または非石灰化大動脈弁,急性心筋梗塞(AMI),血行再建術を要する重度の冠動脈疾患,EF<20%など。

■ 患者背景:平均年齢(TAVI群83.1歳,標準治療群83.2歳),男性(45.8%, 46.9%),STSスコア(11.2, 12.1),NYHA心機能分類III~IV度(92.2%, 93.9%),冠動脈疾患(67.6%, 74.3%),MI既往(18.6%, 26.4%),インターベンション歴(CABG:37.4%, 45.6%;PCI:30.5%, 24.8%;バルーン大動脈弁形成術:16.2%, 24.4%),脳血管疾患(27.4%, 27.5%),末梢血管疾患(30.3%, 25.1%),COPD(41.3%, 52.5%;p=0.04),クレアチニン>2mg/dL(5.6%, 9.6%),心房細動(32.9%, 48.8%;p=0.04),永久ペースメーカー(22.9%, 19.5%),肺高血圧(42.4%, 43.8%),高度石灰化大動脈(19.0%, 11.2%)。
心エコー所見:弁口面積(0.6cm2, 0.6cm2),平均大動脈弁圧較差(44.5mmHg, 43.0mmHg),EF(53.9%, 51.1%),中等症~重症の僧帽弁逆流(22.2%, 23.0%)。 
 

 
<治療法>

TAVI群(179例)と通常治療群(179例)にランダム化。
TAVI群:ウシ心膜弁とバルーン拡張機能を備えたステンレス製フレームを用いたデバイスを使用。
手技は,全身麻酔下で経食道エコーガイド下にて実施。標準的バルーン大動脈弁形成術により大動脈弁を拡張後,経大腿アプローチにて病変部 に人工弁を留置した。
手技中はheparin,手技後6か月間はaspirinとclopidogrelを投与。

標準治療群:バルーン大動脈弁形成術を中心とする標準治療を実施。 
 

 
<結果>

中間報告
[手技成績]

TAVI 群:ランダム化からTAVI施行までの時間は6日(中央値)。
TAVI非実施は6例で,うち2例は死亡,2 例は経大腿アクセス不成功,2例は弁輪径拡大のため手技断念。
手技中~手技後24時間に2例が死亡し,3例が脳卒中を発症したが,緊急心手術を要した症例 はなかった。

標準治療群:実施された手技の内訳は,バルーン大動脈弁形成術63.7%(ランダム化後30日以内);20.1%(30日以降),大動脈弁置換術6.7%,左室心尖部から下行大動脈までの導管+大動脈弁置換術2.8%,試験参加施設外でのTAVI 2.2%。
[一次エンドポイント:全死亡,全死亡+再入院]

全死亡率はTAVI群が標準治療群に比べて有意に低かった(Kaplan-Meier解析:30.7% vs 50.7%:ハザード比0.55;95%信頼区間0.40~0.74, p<0.001)。

全死亡+再入院の複合エンドポイントもTAVI群のほうで有意に抑制された(42.5% vs 71.6%:0.46;0.35~0.59, p<0.001)。

[二次エンドポイント:脳卒中,血管合併症,NYHAクラス,置換弁の機能など]

1年後の生存例におけるNYHA III~IV度の症例は,TAVI群のほうが低かった(25.2% vs 58.0%, p<0.001)。

30日後のmodified Rankinスコア≧2の神経障害を伴う脳卒中(5.0% vs 1.1%, p=0.06),主要血管合併症(16.2% vs 1.1%, p<0.001)はTAVI群の方が多かった。
TAVI実施後の1年間に弁機能の低下(心エコー上の狭窄または逆流)は認められなかった。
 

 
<結論>

外科手術不適応の重症大動脈弁狭窄患者において,TAVI群は標準治療群よりも脳卒中および主要血管イベントのリスクが高かったにもかかわらず,全死亡,全死亡+再入院,心症候を有意に抑制した。

 
<コメント>
成人大動脈弁狭窄症で弁の石灰化が高度な例では,第一選択の治療法は大動脈弁置換術である。

大動脈弁狭窄症での経皮的バルーン大動脈弁形成術は術後早期か ら弁閉鎖不全や再狭窄などを生じ,外科手術より長期予後は不良と考えられている。

PARTNERにおいては,経カテーテル的大動脈弁置換術が検討された。 

対象者は平均年齢で83歳と高齢者であったが,生存期間において好成績が得られた。


しかしながら,大動脈弁置換術は80歳台でも十分に行うことができるので,年齢だけが経カテーテル的大動脈弁置換術を選択する理由にはならない。

生存期間のみでなく被験者のQOLや,特に術者のlearning curveは考慮されるべきであろう。
 
中野 明彦  群馬大学医学部附属病院循環器内科  

中村 哲也  群馬大学医学部附属病院臨床試験部

永井 良三  東京大学大学院医学系研究科循環器内科


 
<出典> 

循環器トライアルデーラベース

http://circ.ebm-library.jp/trial/doc/c2003355.html

 
 

 
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見逃されている大動脈弁狭窄症患者の症状
最近のNew England Journal of Medicineから「手術ができない重症な大動脈弁狭窄症(AS)患者のうち,従来の内科的治療では1年生存率50.7%,1年心関連死亡率44.5%」という悲惨な調査結果が報告された。
わが国でも高齢化の進展および動脈硬化性疾患の増加に並行して,高齢者のASが確実に増えている。
本症を放置すれば予後は極めて不良だが,時機を逃さず 大動脈弁置換術(AVR)を実施すれば予後が改善される。
このことをしっかりと認識し,日々の診療に当たることが大事である。
本対談では,手稲渓仁会病院 心臓血管センター センター長の村上弘則氏と大阪市立大学大学院循環器病態内科学准教授の室生卓氏から,わが国での未治療AS患者の現状と,1人でも多くのAS患者を救うために何ができるのかについて,お話いただいた。
Leon MB, et al. N Engl J Med 2010; 363(17): 1597-1607
 
高齢化によるAS患者増加の実態
村上 
以前はリウマチ性のASが主流でしたが,最近では高齢化を背景に動脈硬化が強く関連する硬化性ASがそれに置き換わっています。
当科で診断された新規硬化性AS患者は軽症も含め2000年度に29人でしたが,2006年度には105人へと急増しています(図1)。
食生活の欧米化によって,高齢者にも動脈硬化が増えており,それと関連している硬化性ASもまた,高齢者を中心に増加を続けているのだと思います。
 
 
村上 
残念ながら,未診断で放置されている患者さんがかなり多く存在するものと推測されます。
また,診断されながらも適切なフォローがされ ていないケースもあると思います。
ASは高齢であっても安全に手術が可能で,時機を逃さずに手術できれば良好な予後が期待できます。
それにもかかわらず, 治療はもとより確定診断さえなされず放置されている現状は,残念でなりません。
 
室生 
何故,AS患者が未診断・未治療で放置されているのか。
それをどう解決していくべきなのか。
本日は一緒に考えていきたいと思います。
その前に,重症なAS患者がどの程度手術を受けているか,そしてASを放置することのリスクについて再確認しておきます。
まず,当院では1995年1月から2007年4月に重症ASと診断された269例を調査したところ約50%しか手術を受けていませんでした。
そして,手術が必要ながらも手術を受けなかった患者群の5年生存率は28%であり,手術を受けた群の85%に比べて非常に不良でした(図2)。
もちろん,全身状態が悪かったり,認知症などで手術を受けることができない場合もありますが,それでも重症ASの予後は極めて悪いと言えます。
この結果からも適切な時機にAVRを行えば予後が改善するAS患者も多いと言うことができます。

 

図表
 
村上 
われわれの施設では,2000年1月から2006年12月に手術が必要な重症AS患者を調査したところ,約3割しか手術を受けていませんでした。
理由としては年齢,拒否,合併症などが挙げられます。
 
 
なぜAS患者が放置されてしまっているのか?
村上 
AS患者が増加する一方で,適切な診断・治療がなされていない今の状況に対して,早急な対策が求められています。その対策を講じるに当たっては,まずASが放置されている理由を知っておくべきです。
 
室生 
まず,医師も含め医療者側のASに対する認識が低いことが原因ではないかと感じています。
われわれの反省からですが,循環器内科医でもASは確実に進行している疾患という認識が少し足りない気がします。
軽症であった患者さんが気付いたときにはかなり重症に進行していたということもあり ます。
また,循環器を専門としないプライマリケア医の先生方に関しては,ASの現状に即した正しい情報が行き届いていない,というのも原因の1つではないかと感じています。
われわれが学生のころは,「弁膜症はこれから減る」と教えられたものですが,現実は全く逆になっているのですね。
 
村上 
患者さん側はどうでしょうか。
患者さんの意識の問題も見逃すことはできません。
高齢になれば,当然のごとく息切れくらいは起こすよう になります。
それが実際にはASの症状だったとしても,本人には判断がつきませんから,年齢相応の変化だと勝手に判断して自ら生活を制限します。
このよう に,患者さんが症状を自覚していない場合,医師でも容易にこれを見抜けません。
つまり,問診で高齢者のASを見つけることは難しく,結果としてASが放置 されているのが現状です。
本当に症状があるかどうかを明らかにするためにも日常生活に即した丁寧な問診を心がけることが必要です。
 
 
聴診することがAS診断の第一歩
室生 (ASの診断を早期に確定するには)
まずは,循環器内科医を含め他科,プライマリケア医の先生方にも,高齢者の硬化性ASは増えているという事実を踏まえ,次の点をあら ためて認識していただきたいと思います。
(1)Listen:
ASは聴診(心雑音の聴取)で比較的容易に診断できるので,高齢者であれば,まず聴診をする
(2)Ask:
患者さんがASの症状を自覚していない場合も多いので,本当に症状があるか日常に即した丁寧な問診をする(3)Explain:
タイミング が重要であるので,手術機会を逃すと予後が悪いことをしっかりと患者さんに説明する
(4)Follow:
ASは確実に進行するので,無症候でも定期的に しっかりフォローする—。
 
以上の“AS診断4カ条”をぜひとも念頭に置いていただきたいと思います。
その上で,普段から生活習慣病などでフォローしておられる高齢患者に対して, 聴診を欠かさないよう強くお勧めします。
特に,動脈硬化性疾患を有する高齢者では,ASも高率に潜在していますから聴診が必須となります。
 
村上 
重要なご指摘です。
昨今は聴診を省略する場面も増えていますが,室生先生のおっしゃる“AS診断4カ条”を念頭に置きながら,高齢患 者には必ず聴診を行うようにしていきたいですね。
ASの聴診ポイントとして,「一般的に全胸部の広範囲に荒々しい収縮期雑音を聴取し,しばしば鎖骨部や頸 部に放散を認めること」を挙げておきます。
 
 
地域における医師同士の連携が重要
室生 
プライマリケア医の先生方には,多くの患者さんを救うために,未診断のASを早期に発見していただくことが大変重要です。
そのために も循環器専門医がプライマリケア医の先生方へ,現状に即した情報提供をすることがとても大切です。また,総合病院であれば,院内他科に働きかけることも必 要だろうと思います。
村上先生のご施設では,院内で初めてASを指摘される患者さんは多いですか。
 
村上 
院外から紹介されてくるのと同等もしくはそれ以上の割合の患者さんが院内で見つかっています。
その多くは一般的な循環器疾患でフォ ローアップ中の患者さんが,新規にASを発症した場合です。
それ以外にも,整形外科・外科などでなんらかの手術が計画された際に,術前検査で心雑音を指摘され,ASと診断されることも少なくありません。
院内で見つかるASの約3割が,術前検査に絡んだケースです。
ASが原因で本来の手術が受けられないということもありますので,他科においても早期にASを発見することは重要だと思います。
それと,高齢者では腎機能低下を来している方が多いので,腎臓内科の 先生がASを見つけるケースもまれではありません。
 
室生 
われわれの施設でも,術前検査で異常が認められ,循環器内科にコンサルされ受診してASが見つかるケースは確かにあります。
ただし, 手術を控えて精査するような場合ではASを見つけられますが,通常の診療ではやはり見逃しているケースが多いと言わざるをえません。
循環器専門医,他の専 門医,プライマリケア医を問わず,日常診療で高齢者を診ている先生は,今一度,ASを再認識すべきですね。
 
ところで,われわれは大学全体で定期的な勉強会を行っています。
大学の医師はもちろん,近隣の関連病院,開業医などの先生方にお集まりいただき,各科持 ち回りでテーマを決めています。
このような機会でASについて話し合うのも有用であると思います。
いつも患者さんを紹介していただいている先生方とは循環 器内科として別途ミーティングも行っていますし,今後もこのような活動の充実を図りたいと思います。
 
村上 
われわれの施設では近隣の先生方を対象に各エリアで勉強会を行っています。
ASのテーマを取り上げながら情報交換をする中で,聴診の 重要性を再確認しています。
また,フォローアッププログラムというのがあり,患者さんにフォローアップが必要な場合,必要に応じてご紹介いただいた先生に 次のフォローアップのタイミングを伝えています。
診療情報の共有にもなり,より確実なフォローアップを行うことができています。
 
 
聴診でASを疑ったら心エコー検査へ
室生 
地域での取り組みはとても大事ですね。
ところで,高齢者を診ておられる先生方が,聴診でASを疑う心雑音を聴取したとします。
もし,その先生が循環器専門でなかった場合,どうすべきでしょうか。
 
村上 
心雑音を聴取してASを疑ったら,まず心エコーを備えている最寄りの施設へ検査を依頼して,確定診断と重症度判定を行うことが大切です。
循環器専門クリニックでも総合病院でも構いません。
とにかく一度は専門医の診断を仰ぐことが,予後を損なわないために重要です。
 
室生 
「ASはさほど進行しない」,「症状が出現するまで大丈夫」などと認識されている先生方も少なくないと思いますので,それは本当に重要ですね。
心雑音を聴取してASを疑ったら,まず心エコーで病態把握を行ってから治療方針を立てるべきです。
 
村上 
循環器専門医の立場としては,病態把握のための検査を行うことは,決して迷惑ではありません。
 
室生 
「雑音があります。心エコー検査をしてください」と紹介状を書いていただくだけで結構です。
実際にASがなくても,まずはご紹介いただきたいですね。検査をすることで,患者さんとそのご家族は安心されますので。
 
村上 
普段から病診連携や診診連携を図っていれば,紹介の敷居は下がるでしょうし,ASのやりとりを通じて連携がさらに深まります。
勉強会などで顔を合わせた者同士であれば,連携もスムーズでしょう。地域ぐるみの連携が求められます。
 
 
QOL向上のための適切な手術タイミング
室生 (手術適応に関して)
心エコー検査の結果を踏まえ,主治医の先生と専門医が話し合い,軽症または中等症ならば 経過観察もしくは内科的治療が行われます。
その一方で,手術機会を逃さないために,適応判断をどう考えればよいのかが問題になります。
 
村上 
まずASが重度の場合,症状があればもちろん,症状がなくても心機能が低下すれば手術適応となります。
まだ結論には至っていません が,今後検討すべき課題として,高齢者において上記の基準で手術をしたのでは遅すぎる場合があります。
最近では,ASを心不全リスクと考えるようになっていますから,重症になる前の段階で待機的に手術した方が,予後改善のみならずQOLの維持・向上にもつながる可能性があります。
すなわち,心エコー検査で 大動脈弁圧較差,大動脈弁口面積を測定し,年齢や体表面積,合併症といった患者背景も含め,総合的に判断して手術タイミングを考えるべきです。
 
室生 
今,お話のありました高齢者への手術適応の問題ですが,当施設では主に70歳代の患者さんが手術を受けています。村上先生は年齢のファクターをどのようにお考えですか。
 
村上 
今は平均寿命も延びましたから,80歳代であっても適応があれば積極的に手術し,それで日常生活に復帰できる患者さんも珍しくなくな りました。
手術は安全ですし,予後は良好です。そうした経験から,80歳代という年齢だけで適応除外することはしていません。
むしろ当施設では,80歳代 の手術が増えています。
 
室生 
10年先の日本の状況を見るようですね。
 
 
ASは進行性疾患,フォローアップが大切
室生 
軽症から中等症であれば手術の必要はありませんが,ASは進行性の疾患であるため,心エコーでフォローアップする必要があります。
どのくらいの頻度で行うべきとお考えですか。
 
村上 
状況によりますが,おおむね年齢もしくは重症度で判断し,70歳代で中等症以下ならば年1回の心エコー検査でよいと思います。
一方,80歳代もしくは重症ASならば,より頻繁にフォローする必要があります。
 
室生 
フォローが遅れ,既に手遅れといった患者さんを経験したことがありますが,何か対策をされていますか。
 
村上 
われわれは,先ほど紹介させていただきましたフォローアッププログラムを利用し,院内の地域連携室に協力を仰いでいます。
診断のつい た患者さんを登録しておけば,地域連携室から定期的に主治医の先生と患者さんへ連絡されます。
このシステムにより,病態悪化の見落としをなくしています。
地域ぐるみで医師の連携が取れている状況が望ましく,地域連携室がその橋渡しをしてくれています。
 
 
疾患を理解していただくこと
それが,患者さんを救うこと
室生 
ASは軽症であれば一生涯手術が必要ない場合もありますが,重症であれば手術のタイミングが重要になってきます。
この手術機会を逃さないためには患者さんへの説明がとても重要です。
この点について村上先生はどのようにお考えですか。
 
村上 
医師からの説明は極めて重要ですね。
手術が必要な場合でも,話し方によっては,「もう年ですから手術は結構です」となりかねません。
重要なことは,
(1)珍しい病気ではなく最近増加している病気であること
(2)ASは進行性の病気であるため定期的なフォローアップが非常に大事であること
(3)手術が必要になっても適切なタイミングで行えば手術は安全に行われていること
(4)手術によって予後は改善し日常生活に復帰できること
—を折に触 れ説明しておくことが大切です。
 
 
室生 
わたしは重症ASの患者さんに対しては,「悲観する必要もないが,楽観してもいけない」と言っています。
客観的に,手術の必要性と得 られる利益を説明します。
心エコーでのフォローアップと,患者さんへの説明がしっかりとできていれば,それぞれの患者さんに合った手術のタイミングを逃さずに済みます。
 
 
AS患者を救うためにわたしたちができること
村上 
最後に,AS患者を取り巻くすべての医師が“AS診断4カ条”をあらためて振り返り,より多くの患者さんを救うために取り組んでいただくことを期待しています。
 
 
 
 
出典 Medical Tribune 2011.1.27
版権 メディカルトリビューン社
 
 
 
 

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湘南鎌倉総合病院は,2010年9月に移転(鎌倉市内)し,15階建て542床の新施設として生まれ変わった。
3.0テスラMRI,高精度放射線治療専用機X線トモセラピー,320列マルチスライスCTといった最新の高度医療機器に加え,屋上にはヘリポートも備えた。
また,同院は全国でもまだ少ないという血管造影装置を備えたハイブリッド手術室を県内で初めて導入。腹部および胸部大動脈破裂例の開腹,開胸手術にも対応する高レベルの清潔度を実現した。


以上の紹介で始まるEVAR(Endovascular aneurysm repair)に関する記事で勉強しました。

 

湘南鎌倉総合病院/低侵襲な腹部大動脈瘤EVARなど積極的に取り組む
■腹部大動脈瘤は95%が腎動脈下に発生し,その形状は紡錘瘤,嚢状瘤の2つに分けられる。

■破裂の危険要因は,女性,高血圧,慢性肺疾患,動脈瘤破裂の家族歴,急速拡大(>5mm/年),嚢状瘤とされている。

■わが国では,2008年に女性の死因第10位に大動脈瘤・大動脈解離が初めて入った。
60歳以上の5%に発症が見られ,破裂した場合は90%が死に至るとされている。
腹部大動脈瘤を呈している患者はその75%が無症状である。
超音波検査によるスクリーニングが有用である。

■最も大動脈瘤は急激に拡大することが少ないため,検査に急を要することはあまりない。
そのため,人間ドック健診や住民健診など,定期的な超音波検査による発見が重要になると指摘する。

■EVARは開腹手術と比較して、手術時間,集中治療室(ICU)在室期間,絶飲食期間,入院期間が有意に短く,出血量,輸血量も有意に少ないなど,その低侵襲性が示されている。

出典 Medical Tribune 2011.1.13
版権 メディカルトリビューン社

<EVAR 関連記事>
腹部大動脈瘤の内視鏡的手術は安全
出典 Medical Tribune 2004.10.21
版権 メディカルトリビューン社
■EVARの短期的な結果としては,動脈瘤の径が大きくても適用を誤らなければ安全であり,臨床試験として,あるいは条件が整ったうえでの試みとしてはEVARを施行する正当性が得られた。
ただし,今回の短期的な好成績が長期間持続するとは限らない。
今回の結果はEVARを今後続けても支障はないとの免罪符にすぎず,腹部大動脈瘤の現行治療法を一変させるものではない。

EVARの中期成績は開腹手術と同等
出典 MT Pro 2010.12.9
版権 メディカルトリビューン社
■東京慈恵会医科大学外科・血管外科の石田厚講師らは,自験例の検討結果から,AAAに対するSG(ステントグラフト)を用いたEVARは,SG関連合併症対策の必要性はあるものの,開腹手術と同等の早期・中期成績が得られていることを示した。
■AAA患者約1,200例の開腹術とEVARのランダム化比較試験であるEVAR1では,中央値6年以上の追跡の結果,開腹術に比べて,EVARの手術死亡率は有意に低いものの,長期的な総死亡率と動脈瘤関連死亡率には差がないこと,またEVAR群にはSG関連合併症と再介入が有意に多く,治療費が高くなることが報告された。
■国内のEVAR症例数は年々増加し,年間約2,000例に施行されている。
■EVAR術後はエンドリーク・脚閉塞に対し追加治療を要した症例があるため,生涯にわたる画像検査が必要不可欠である。
さらに長期耐久性に関して今後の経過を見守る必要がある。

 

腹部大動脈瘤に対する血管内治療の成績
EVAR 1, 2試験から
出典 MT Pro 2010.4.15
版権 メディカルトリビューン社
■近年開発された血管内治療は,経血管的に動脈瘤をステントグラフトでカバーして動脈瘤内への血流を遮断し,動脈瘤を縮小させる方法である。
手術と比較して侵襲が少ない一方で,長期予後は不明であった。
■今回発表されたEVAR 1試験では,腹部大動脈瘤治療に関して血管内治療と外科手術との比較が,EVAR 2試験では内科治療との比較が長期にわたって行われた。

EVAR 1試験
Endovascular versus Open Repair of Abdominal Aortic Aneurysm
The United Kingdom EVAR Trial Investigators
N Engl J Med 2010; 362:1863-1871
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0909305

EVAR 2試験
Endovascular Repair of Aortic Aneurysm in Patients Physically Ineligible for Open Repair
The United Kingdom EVAR Trial Investigators
N Engl J Med 2010; 362:1872-1880
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0911056

 

■腹部大動脈瘤について,EVAR 1試験では血管内治療は外科手術と比較した場合,手技中の生命に与えるリスクは少ないが,長期成績は再インターベンションが多く,不安定であった。
しかし,デバイスのさらなる開発により,長期成績がよくなる可能性が残っている。
■外科手術に適応のない患者を対象としたEVAR 2試験では動脈瘤による死亡は,血管内治療により内科治療と比較すると著明に改善した。
総死亡では両群間に有意差が認められなかったが,そもそも合併症が多く手術適応がない患者を対象としたために,8年もフォローすると,多くの人が寿命を迎えたと判断され,これは当然のことと考えられる。
■2つの試験結果を合わせて考えると,(1)合併症が多くて外科治療の適応にならない患者には血管内治療を推奨,
(2)外科手術の適応となりうる患者では,血管内治療のメリット(手技中の死亡が少ない),デメリット(長期には再インターベンションが多くなり,長期生存率は手術と同等)を説明して,いずれか選択
―という考えでよいと思われる。
しかし,デバイスの開発によっては,長期予後も血管内治療のほうがよくなる可能性がある。
(EVAR試験は腹部大動脈瘤が対象)

~IFU外症例に対するEVAR~
術後1年成績はIFU内症例と同等
出典 Medical Tribune 2010.12.9
版権 メディカルトリビューン社
■低侵襲性に優れるSG治療が広がる中で,IFU(instruction for use)外症例にもEVARが試みられている。
山口県立総合医療センター外科の善甫宣哉診療部長らは,自験例の検討結果から,IFU外症例のうち,proximal neck(PN:腎動脈起始部から瘤頭側端)の解剖学的適応条件を満たさない,いわゆるchallenging neck症例に対するEVAR後1年の治療成績は,IFU適合症例とほぼ同等であることを示した。
■IFU外症例に対するEVAR適応の妥当性について結論するには長期成績を待つ必要がある。

第51回日本脈管学会
EVAR後の瘤径にネック長,エンドリークが関連
出典 Medical Tribune 2010.12.9
版権 メディカルトリビューン社
■腹部大動脈瘤(AAA)に対するEVARが保険適用となり,3年が経過した。
名古屋大学血管外科の山本清人講師らは,自験例を対象にEVAR術後の瘤径縮小に関連する因子について検討。
「EVAR後の瘤径の縮小にはネック長とエンドリークが関連していた。瘤径縮小を得るにはエンドリークの観察と管理が重要」と述べた。
 

その他
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(循環器専門医向き)
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PARTNER試験

戯れ言たれる侏儒 / 2010.09.30 00:44 / 推薦数 : 0

経カテーテル的大動脈弁留置術が大動脈弁狭窄症の生命予後を改善
PARTNER試験から

研究の背景:根本的治療は外科手術だが,高齢者では適応に困ることも
大動脈弁狭窄症は軽症の場合は経過観察可能な疾患である。
しかし加齢とともに進行し,労作時の胸痛や心不全などの症状が発症し始めると急激に病状が悪化してゆき,放置すれば致命的経過をたどる。
現在まで根本的治療は外科手術しかなく,合併症の多い高齢者では手術適応に困ることもしばしばある。

カテーテルを用いて生体弁を大動脈弁の病変部に留置する経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)は2002年に初めて報告されたが,著しい速さで手技の改良が行われ,良好な長期予後も見込めるようになってきた。
N Engl J Med9月22日オンライン版に掲載されたPARTNER試験は,欧米の21施設で外科手術の適応でないと判断された重症の大動脈弁狭窄症患者を対象に,TAVI群と経皮的大動脈弁バルーン形成術を含む従来治療群(非TAVI群)を比較した最初の多施設試験である。


研究のポイント:総死亡率,心血管死亡率が著明に減少
外科手術が適応でないと判断された大動脈弁狭窄症患者358例を対象として,TAVI群179例と非TAVI群179例に割り付けられた。
デバイスはウシ生体弁を使用したEdwards SAPIEN heart valve systemを用いた。
手技は全身麻酔下に経食道エコーガイド下で行われ,大動脈弁バルーン形成術によって大動脈弁を拡大した直後に続いて行われた。
大動脈弁輪が著明に拡大しているためにTAVIを断念した症例は2例であった。

TAVIの手技に直接起因する24時間以内の死亡は1.1%,脳卒中は1.7%であったが,緊急手術は認められなかった。

1次評価項目の1年後の総死亡率はTAVI群で有意な改善が認められた(TAVI群30.7% vs. 非TAVI群50.7%,ハザード比0.55,95%CI 0.40~0.74,P<0.001;図1)。
心血管死亡率もTAVI群で有意に改善した(TAVI群20.5% vs. 非TAVI群44.6%,ハザード比0.39,95%CI 0.27~0.56,P<0.001;図2)。

 



 

1年後生存した患者において,TAVI群ではニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類III+IV度の患者の割合が非TAVI群よりも有意に低率であった(TAVI群25.2% vs.非TAVI群58.0%, P

 一方,30日後の脳卒中(TAVI群 5.0% vs.非TAVI群1.1%, P=0.06),血管合併症(TAVI群16.2% vs.非TAVI群1.1%, P<0.001)については,TAVI群で多く認められた。TAVI群の生体弁としての機能(大動脈弁弁口面積,大動脈弁圧較差)は1年後も保たれた。1年後,中等度以上の大動脈弁閉鎖不全はTAVI群で4.2%,非TAVI群で15.2%であった。
佐藤先生の考察:重症合併症の多い患者で非常に良好な成績だが,脳卒中の増加が問題
TAVIによる大動脈弁狭窄症治療が,従来治療と比較して,生存率を著明に改善させることを報告した最初の試験である。
従来,合併症のために手術適応がないと判断された高齢者では内科治療を行うのみであったが,当然予後は悪い。本治療は,そのような合併症のある患者において,有効な治療手段の1つであることが判明した。
なお,従来治療群には経皮的大動脈弁バルーン形成術も含まれたが(過去の既往も含めると83.8%),従来治療群の1年後死亡率は50%であるので,TAVIを続いて行わない限り,バルーン形成術単独治療に予後改善効果は期待できないと思われる。

今回の試験で驚嘆すべきは,患者群は平均年齢83歳であり,背景因子として冠動脈疾患合併(70%)や冠動脈バイパス術(CABG)などの冠動脈治療後(40%),脳血管疾患合併(27%),末梢血管合併(30%),慢性閉塞性肺疾患(COPD;50%),腎不全合併(5~9%)の割合が著明に高い,非常に重症の合併症の多い患者群が対象であったことである。
しかも,術前のNYHA心機能分類は90%以上の患者がNYHA ⅢまたはⅣ度であり,患者の20%は過去にバルーンによる大動脈弁形成術を受けていた。

さらに,術前の大動脈弁弁口面積は0.6cm2と,デバイスを通過させるのにも困難が予想されるほど小さかった。
また,非TAVI群では1年後,結果として大動脈弁置換術を行った患者が9.5%,バルーン形成術を行った患者が37%であったが,TAVI群ではそれぞれ1.1%,0.6%であった。
感染性心内膜炎の合併もTAVI群と非TAVI群で差が認められていない。 

では,この治療法は外科手術全般に置き換わるのだろうか。
今回,問題となった点は脳卒中がTAVI群で多く認められた点である。
デバイスが小型になり,脳血管の保護デバイスが改良されるなどによって,この点がクリアできれば第一選択としての治療法になる可能性もある。
しかし,当面はこの合併症が見られるために,「合併症のために外科手術の適応がなく,従来の内科治療では予後改善の期待できない患者」が対象になると思われる。

出典 MT pro 2010.9.28
版権 メディカルトリビューン社

 

<関連サイト>
経カテーテルでの弁置換術
http://blog.m3.com/reed/20100726/1

 

<きょうの一曲>
モーツァルト/ピアノ・ソナタ第9番 全楽章/演奏:仲田 みずほ
http://www.youtube.com/watch?v=VLBWndHMdpw


モーツァルト : ピアノ・ソナタ 第8(9)番 ニ長調 / Sonate für Klavier Nr.8 D-Dur K.311
http://www.piano.or.jp/enc/dictionary/composer/mozart_a/001282.html
モーツァルト:ピアノソナタ第9番 ニ長調 K 311
http://www.yung.jp/yungdb/op.php?id=911
モーツァルト ピアノ・ソナタ第9番ニ長調K.311
http://www7a.biglobe.ne.jp/~hainn-hitorigoto/m-090mozart.html

 

楢原健三 『富士山景』 リトグラフ
http://www.komorebi.co.jp/item_photo/h0317_02.jpg

 

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早期診断・治療で救命可能を広く訴える
米国心臓学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)が中心となって胸部大動脈疾患(thoracic aortic disease;TAD)の臨床ガイドラインを作成した。
これにはTADの診断や治療に関する最新の推奨が盛り込まれているだけでなく「早期診断と早期治療を行えば救命できる」という力強いメッセージが医師と患者に向けて発信されている。
同ガイドラインはJournal of American College of Cardiology(JACC,2010; 55: e27-e129)とCirculation(2010; 121: e266-e369)に発表された。

背景に治療の進歩とエビデンスの集積
ガイドライン作成委員会の委員長を務めたTriHealth社(オハイオ州シンシナティ)のLoren F. Hiratzka博士は「TADを早期に診断し,治療することができれば,まだ状態が安定している段階で,外科的治療あるいは血管内修復の適応となる患者の特定が可能となる。疾患が安定しているときに治療したほうが,急性期の破局的状況にある大動脈瘤破裂や大動脈解離の治療よりも成績ははるかに良好だ」と述べている。

同ガイドラインは,米国胸部外科学会(AATS),米国放射線学会(ACR),米国脳卒中協会(ASA),心血管麻酔学会(SCA),心血管造影・インターベンション学会(SCAI),インターベンショナルラジオロジー学会(SIR),米国胸部外科医学会(STS),血管内科学会(SVM)が共同で作成したもの。

米国救急医学会(ACEP)と米国内科医学会(ACP)の代表も執筆委員会に参加した。

共同研究者でミシガン大学(ミシガン州アナーバー)心血管センターのKim A. Eagle所長は「近年の科学的および臨床的進歩が,大動脈解離や大動脈瘤を含むTADの臨床ガイドライン作成への原動力となった」とし,「現在,TADの遺伝的素因に関する理解が深まり,この領域での知見が集積されつつある。非侵襲的な画像診断法も急速に進歩し,薬剤療法は格段によくなっている。麻酔下での開胸手術の技術も劇的に進歩し,患者によってはカテーテルを用いた侵襲性が最も低い血管内治療で対処可能になってきた」と説明している。


症状ベースの診断は困難
大動脈瘤は大動脈の一部が膨張し,その部位の血管の直径が50%以上拡張した状態である。
これに伴い大動脈壁は非常に薄くなるが,大動脈瘤を有する患者は瘤が破裂するまで無症状であることも少なくない。

大動脈解離では大動脈の内膜が裂けることにより血液が中膜に侵入し,その結果つくられる偽腔を介して血液が流れる。
この偽腔には全身からの血液供給の一部が流れ込むことになる。
古典的な症状に,胸,背中,肩,腹部に生じる突然の激痛がある。しかし,明確な症状を呈さない患者も多く,診断が困難なこともある。

大動脈破裂の場合は大動脈壁の3層がすべて破裂し,体内で大量出血する。

TADの危険因子には,
(1)コントロール不良の高血圧
(2)加齢
(3)男性
(4)動脈硬化
(5)血管に障害を与える炎症性疾患
(6)結合組織の脆弱化をもたらすマルファン症候群などの遺伝性疾患
-がある。

大動脈二尖弁を有する者も大動脈瘤のリスクが高い
また,
妊娠,重量挙げなど身体に過度の負担をかけるもの,コカイン使用などは大動脈解離リスクを上昇させることが知られている。


家族歴の重要性を強調
TADに家族性が認められる傾向にあるという点は特に重要で,家族歴の聴取は,未診断のTAD症例の発見に重要な手がかりとなる。
患者は大動脈瘤や大動脈解離,あるいは破裂の家族歴についてだけでなく,原因不明の突然死の家族歴についても医師に伝える必要がある。
Eagle所長は「家族歴は非常に重要だ。心血管虚脱(cardiovascular collapse)は心筋梗塞だけでなく,突然で破局的な大動脈解離によって生じることもあるからだ」と述べている。

ガイドラインの要点は以下の通り。
(1)TADの発見および将来リスクの評価には,CT,MRI,場合によっては超音波を用いて胸部大動脈の画像検査を試みるべきで,胸部X線撮影のみでは不十分である

(2)TADリスクを伴う遺伝性疾患を有する患者は,診断時に画像検査で大動脈のサイズを評価し,その後は定期的にフォローアップ検査を受けるべきである

(3)大動脈二尖弁の患者に対しては,大動脈が拡大していないかどうかの評価を行う

(4)急性大動脈解離の症状は心筋梗塞などの胸痛と似ており,しばしばそれが迅速な診断の妨げとなることがあり,その結果,救命治療が遅れる可能性がある。
医師は病歴や家族歴,疼痛の種類やパターンを聴取し,患者を診察する際,大動脈解離を念頭に置くべきである

(5)上行大動脈に解離が及ぶ場合は致死的で,外科的治療を要する

(6)胸部下行大動脈の解離は,生命を脅かす合併症がなければ,血圧や心拍を管理する薬剤で治療が可能なことも多い。
薬剤治療にはこのほか,血中コレステロール値を下げるためにスタチン系薬が追加されることもある

(7)胸部下行大動脈の解離や大動脈瘤に対しては,最も侵襲性の低い手技である血管内治療が選択肢となる患者もいる

(8)胸部大動脈瘤あるいは解離,もしくは大動脈二尖弁を持つ患者の近親者は全員,心血管専門医の診察を受け,画像検査で大動脈のサイズを測定し,無症候性疾患の有無を確認すべきである


社会的な治療体制の構築訴える
Hiratzka博士は,高リスク無症候性患者や,そのなかでも特に家族歴を理由に施行される画像検査に対して,すべての保険会社が支払いに応じるわけではないことを指摘し,「画像検査によって救命できる可能性があるのだから,新しいガイドラインによってこの状況が変わることを期待する」と強調している。

患者集団と専門家集団の非営利連合であるTAD同盟を招集した米国マルファン財団のCarolyn Levering理事長は「大動脈疾患を有する者は,診断されて治療を受ければ,長く生きることができる。TAD同盟を招集したのは,幅広い国民キャンペーンにより医学認識を広め,新しいガイドラインの効果を最大限に拡大するためだ」としている。

出典 MT pro 2010.7.15
版権 メディカルトリビューン社

 


<番外編>
APPROACH
The Assessment on the Prevention of Progression by Rosiglitazone on Atherosclerosis in Diabetes Patients with Cardiovascular History

目的
心血管疾患既往を有する2型糖尿病患者において,インスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジンジオン系薬剤rosiglitazoneの冠動脈アテローム性動脈硬化進展に対する効果をスルホニル尿素(SU)薬のglipizideと比較する。
一次エンドポイントはインターベンションを施行していない冠動脈におけるアテローム容積率(PAV)の変化。
#コメント
2型糖尿病が心血管イベントの大きな危険因子になっていることは周知のことであり,随伴する高コレステロール血症や高血圧の治療がイベント抑制に有効であることは多くの臨床試験から明らかにされている。
一方,血糖コントロールによるイベント抑制については十分な有効性が示されていなかったが,近年メトホルミンやαグルコシダーゼ阻害薬(GI)などのインスリン分泌亢進型でない薬剤の有効性が示されている。
そこで,インスリン感受性亢進型のチアゾリジン(TZD)に期待が寄せられている。
ところが,最近のrosiglitazone(ROSI)を用いた試験のメタ解析では,むしろROSI使用群で心筋梗塞の危険度が高まるということから問題となっているところである。
一方のpioglitazone(PIO)ではPROactiveという試験で,サブ解析ながら有効性を示している。
本論文では,ROSIの問題を克服すべくIVUSによるイメージ試験でROSIとSU剤の比較試験を行っているが,やはりROSIの有効性を示すことができなかった。
いくつかの問題があるものと思われる。確かにROSI群で若干のプラーク容積の減少がもたらされたものの,有意性が示しえなかった。
検出力の問題があるかもしれない。
いずれにしてもTZDの効果が抗炎症,内皮機能の改善というところにあるとすれば,大規模な心血管イベントに対する本格的な臨床試験を行うしかないのではなかろうか?
ただし,様々な確立された治療法が出てきた現状ではイベント発症率が低下しており,この手の試験は困難であり,方法論を検討する必要があるであろう。

(帝京大学・寺本民生教授)
結論
アテローム性動脈硬化を合併した2型糖尿病患者において,glipizideと比べたrosiglitazoneの有意な冠動脈アテローム性動脈硬化の進展の抑制効果は認められなかった。
http://circ.ebm-library.jp/trial/doc/c2003242.html

 


2010.7.18撮影 晴天、暑い1日でした。
(国立新美術館 オルセー美術館展2010)

 

<自遊時間 その1>
2010年7月20日、アポロ11号による人類初の有人月面着陸成功から41年が経過しました。
つまり1969年7月20日の出来事です。
その時、先生方はどんな思い出がありますか。
まだ生まれてみえない先生もきっといるんでしょうね。

 

Adamo - À demain sur la lune (1969)
http://www.youtube.com/watch?
v=oTyZ0IM8ivw&feature=related


CARAVELLI~ADEMAIN SUR LA LUNE~明日は月の上で
http://www.youtube.com/watch?v=e_8aT1CGWr0


FRANK POURCEL-A Demain Sur La Lune  フランク・プゥルセル~明日は月の上で
http://www.youtube.com/watch?v=sCOyzY8KBOc&feature=related


<自遊時間 その2>
昨夜遅くたまたま「救命医ハンク」というドラマをTVで観ました。
早い展開に思わず最後まで観てしまいました。
なかなか面白そうです。
ちょっとハマってしまいました。

 

救命医ハンク セレブ診療ファイル [全12話]
http://www.wowow.co.jp/pg/detail/060470001/

 

その他
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井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
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 井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
http://wellfrog3.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/ 
(内科医向き)
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CTOに対する血管内治療

戯れ言たれる侏儒 / 2009.09.09 00:07 / 推薦数 : 0

CTOについては

慢性完全閉塞(CTO)
http://blog.m3.com/reed/20070919/1
j-CypherとJ-CTO
http://blog.m3.com/reed/20090320/j-Cypher_J-CTO
でもとりあげました。

きょうは第15回日本血管内治療学会でのCTOに関するパネルディスカッションの記事で勉強しました。

CTOに対する血管内治療はどこまで進んだか
血管内治療領域では,治療手技の進歩や器具の改良により,従来難しいとされてきた慢性完全閉塞(CTO)に対してもカテーテル治療が施行されるようになっている。
しかし,血管内治療の急速な普及とともに,適応の拡大に伴う問題点も指摘されている。
東京都で開かれた第15回日本血管内治療学会(会長=慶應義塾大学放射線科学・栗林幸夫教授)のパネルディスカッション「タフなCTOには,こうして立ち向かえ」(座長=日本医科大学循環器内科・水野杏一教授,日本大学放射線科・高橋元一郎教授)から,冠動脈,大腿膝窩動脈,腸骨動脈についての報告を紹介する。

 

〜冠動脈〜 事前の十分な検討で適切な選択を
冠動脈CTOに対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の成功率は依然として術者の技量に依存する部分が少なくないとされる。
大阪警察病院心臓センター循環器科の松尾浩志氏は「CTOに対するPCIの適応については事前に十分検討を行う必要がある」と指摘した。

#MSCTとガイドワイヤが寄与
松尾氏は冒頭,「高い穿通性を有するガイドワイヤといった器具の発達,逆行性アプローチなど手技の習熟により,CTOに対するPCIの初期成績は大きく改善した」と説明。
さらに,薬剤溶出ステント(DES)の登場により再狭窄が大幅に減少し,長期開存が望めるようにもなった。
 
しかし,CTOへのPCIでは通常のPCIとは異なる合併症(冠動脈穿孔や偽腔形成など)が起こるケースがある。
どうしても手技時間が長くなるため,造影剤の量が多くなることによる造影剤腎症,放射線照射量が増えることによる皮膚障害なども同氏らは実際に経験しているという。
 
同氏は「CTOに対するPCIの成功率は,依然として術者の技量に依存する部分が少なくない。昨今施行されている逆行性アプローチに関しても,経験豊富な施設はいまだに多くない。したがって,CTOに対するPCIの適応については十分検討する必要がある。適切な選択が行われ,成功した場合にこそ,患者に症状や予後の改善といった恩恵がもたらされる」との考えを示した。
 
同院では現在,順行性アプローチにより成功率を上げることを目指している。
術前に冠動脈造影CT(マルチスライスCT:MSCT)を施行するが,その利点は,
(1)閉塞部位の走行が3次元的に捉えられる
(2)閉塞部位より末梢の血管構築が把握できる
(3)閉塞長・血管径とともに病変性状もわかる
―ことで,治療戦略を決めるうえでの判断材料になるという。
 
例えば,左前下行枝のCTO症例は部分的に高度石灰化が見られ,末梢血管の血流もほとんどないと判断,慎重に治療を実施した。

最初,ガイドワイヤはEEL intermediateを用いたが,途中で石灰化に阻まれ,Miracle 3.0に変更。マイクロカテーテルもFinecrossからTornusに替えて進め,ステント留置に成功した。
 
同院ではCTOの成功率が今年は9割超と年々上昇しているが,同氏はその背景にあるものとして,冠動脈造影CTの導入とワイヤ選択の変化を挙げた。
ちなみに,病理学的にはCTOの約3割で閉塞内部に順行性のマイクロチャネルが存在するとされている。
同チャネルは最小のもので0.3mm程度だが,現在は直径0.25mmのガイドワイヤもあり,再開通させることができるという。
 
最後に,同氏は「MSCTにより,造影剤の入る腔だけでなく閉塞した血管や周囲の構造物も同時に描出されるため,術前に難易度を予測したり使用デバイスを選択したりすることが可能となる。MSCTの時間分解能や空間分解能がさらに向上すれば,CTOのPCI成功率もより高まることが期待できる」と締めくくった。

〜大腿膝窩動脈〜
1次開存率は不良のため,適応は慎重に
独立行政法人国立病院機構金沢医療センター(石川県)心臓血管外科の笠島史成氏は,大腿膝窩動脈CTOに対するステント留置術について「現時点では初期成績はよいが長期成績は悪い。
1次開存率も不良のため,末梢動脈疾患の管理に関する国際的ガイドライン(TASC)分類のB型病変であっても適応は慎重にすべき」と述べた。

TASC B・C型病変で開存率低い
同科で大腿膝窩動脈の閉塞病変にステント留置を行ったのは50例。Fontaine分類ではII度が約8割と多く,足関節上腕血圧比(ABPI)は平均0.46と低下していた。
病変長は平均55.6mmで,TASC分類ではB型病変が半分を占めた。
ステントは時期によって異なり,今回の検討ではWallstentが最も多かったが,最近はより新しいSMARTステントを使用しているという。
ガイドワイヤはRadifocusを基本とし,必要に応じて4Fストレートカテーテルを用いる。
どうしても貫通できない場合にのみ,内膜下血管形成を試みる。前拡張は3〜4mmのバルーンで低圧で行い,ステントは正常血管より1〜2mm大きいものを留置する。
 
中略
 
以上から,笠島氏は「1次開存率はやはり不良で,TASC分類のA型病変はまだ成績がよいが,B型病変,C型病変は悪い。したがって,B型病変であっても適応は慎重に決めるべき。C型病変に関しては救肢目的以外には適応はないのではないか」と指摘したうえで,「重要なのは,閉塞部位を通過させる手技ではなく,適応の見極めや合併症の回避,術後の厳重な経過観察である」と結んだ。

 

〜腸骨動脈〜
Pull-through法の併用で高い成功率
1980年代後半から腸骨動脈CTOに対して積極的に血管内治療を行ってきた奈良県立医科大学放射線科の吉川公彦教授は「pull-through法の併用により高い成功率が得られている」ことを明らかにした。

C・D型病変でも安全,確実に施行
血管内治療を実施した腸骨動脈CTO 166例(168病変)の分析では,病変長は平均10cmで,TASC分類で見るとB型病変30%,C型病変24%,D型病変46%と,長い区域の閉塞例が半数近くを占めていた。
 
ガイドワイヤの貫通法には,
(1)逆行性に進める
(2)cross-over法で順行性に進める
(3)順行性に進め反対側からの(逆行性)ガイドワイヤをつかみ取るpull-through法
―という3種類のテクニックがある(図)。

中略
 
ステント留置後の5年累積開存率は,1次開存率が88.7%,2次開存率が97.6%で,吉川教授は「長期的に見ても腸骨動脈の場合は十分な成績が得られている」との考えを示した。
 
合併症としては,初期の症例で塞栓症が3%に起こっていたが,これらはウロキナーゼ動注や血栓吸引により対応できているという。
 
同教授は「腸骨動脈CTOに対するステントを用いた血管内治療は,pull-through法の併用により高い成功率が得られ,TASC分類C・D型病変でも安全かつ確実に治療できることが示唆された」と結論。ただし,総大腿動脈病変を合併している例に関しては,外科手術とステント治療の併用が適応であろうと付言した。

出典 MT pro 2009.9.3
版権 メディカル・トリビューン社

<きょうの一曲> "LULLABY OF BIRDLAND"
Chris Connor - "LULLABY OF BIRDLAND"
http://www.youtube.com/watch?v=KkiVkinGx8U&hl=ja


http://www.upopvocal.com/lullaby.html

#米のジャズ歌手、クリス・コナーさん死去
ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)によると、クリス・コナーさん(米国の女性ジャズ歌手)が8月29日、がんのため米ニュージャージー州で死去、81歳。
ミズーリ州出身。スタン・ケントン楽団に参加した後、独立。恋に焦がれる女心をハスキーな声で切々と歌って人気を博し、50年代から60年代にかけて活躍した。
「バードランドの子守唄(うた)」などが代表曲として知られる。
一時は舞台から遠のいたが、80年にカムバックを果たし、03年のアルバムが最後となった。
http://www.asahi.com/obituaries/update/0902/TKY200909020186.html
出典 asahi.com 2009年9月2日13時34分
版権 朝日新聞社
<コメント>
医学生時代、下宿で何度もレコードを擦り切れるほど聴いていました。
私にとって懐かしいジャズ歌手です。

 

その他
ふくろう医者の診察室
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 「井蛙内科/開業医診療録(3)」2008.12.11~
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があります。

 

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