戯れ言たれる侏儒
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北里研究所病院糖尿病センター・山田悟先生の記事で勉強しました。

高齢者の高コレステロール血症をどうするか
コレステロールについての残された難問

研究の背景:コレステロール治療の議論続き,新たな医学的根拠も発表
2010年以降,コレステロールの治療についてさまざまな議論がなされてきた。
そして,それにかかわるさまざまな医学的根拠は今もなお発表されているところである。
このたび,米国老年医学会雑誌に高齢者においては低コレステロールが心血管死以外の死亡の増加と関連していることを示す観察研究・ロッテルダム研究のデータが示された(J Am Geriatr Soc 2011; 59: 1779-1785)。
 
研究のポイント1:ロッテルダム市の住民を対象とした前向きコホート研究
ロッテルダム研究は,高齢者における慢性疾患の発症率や危険因子を検討する目的に行われている前向きコホート試験であり,1990年から93年にかけて,オランダ・ロッテルダム市のオンモールト地区の55歳以上の全住民に登録への協力が呼びかけられ,7,983人(住民の78%)が同意し,ベース ラインの採血を受けた。
 
今回の報告もその研究の一環としてなされたもので,2007年1月までの死亡を特定し,ベースラインでの脂質プロファイルと死亡率や死因との関係を見たものである。
採血を完了できた7,009人のうち,コレステロール値が極端に異常を呈する者〔総コレステロール(TC)>463mg/dL,HDLコレス テロール(HDL-C)>135mg/dLなど〕12人,心血管疾患の既往のある者717人,心血管疾患についての情報の取れなかった者433人,脂質低 下療法薬を内服している者93人を除外し,計5,750人(4人のずれが生じているが理由は不明;平均年齢68.8歳,女性62%)が解析の対象とされ た。
なお,ベースラインの採血は随時で実施されたため,TCおよびHDL-Cのみが測定され,トリグリセライド(TG)やFriedwald式から求める LDL-Cは解析項目としなかった。
 
中央値で13.9年のフォローアップがなされ,2,462人(42.8%)が死亡した。そのうち,807人(32.8%)が心血管疾患に関連した死亡であり,残る1,655人(67.2%)が心血管死以外の死亡であった。
 
研究のポイント2:高コレステロールは心血管死以外の死亡の低さと関連  
5,750人のベースラインでの特徴はのようなものであった。
 
photo
年齢・性で調整後の心血管死以外の死亡とTCの関係は,TCが38.61mg/dL(1mmol/L)上昇するごとに死亡率が12%減少していた〔ハ ザード比(HR)0.88,P<0.001〕。
HDL-Cと心血管死以外の死亡との間には統計学的な関係はなく,非HDL-Cコレステロール(TCから HDL-Cを減じたもの)が38.61mg/dL上昇するごとに死亡率が11%減少していた(HR 0.89,P<0.001)。
 
年齢層別に検討してみると,TCについては,38.61mg/dL高値であるごとに,65歳以上のすべてのグループで心血管死以外の死亡率が有意に低下しており,85歳以上のグループでは心血管死の死亡率が有意に低下していた。
同様にHDL-Cについては,55〜64歳のグループにおいての み心血管死以外の死亡率が低下しており,85歳以上のグループにおいてのみ心血管死の死亡率が低下していた()。
 
photo
山田先生の考察:生存者バイアスや低栄養患者の存在だけでは説明が難しいかもしれない
本研究はコレステロールが高くなるほど心血管死以外の死亡率が低下することを示したという点で,日本脂質栄養学会ガイドラインの主張の根拠にもなりうる内容になっている。
しかし,この研究結果を単純に解釈することには抵抗感を覚える。
 
例えば,生存者バイアスの存在である。
ベースラインの年齢ごとの特徴を見てみると,75歳以上になると症例数が少なくなっており,また,女性や非喫煙者 の比率が高くなっている。
このことは,75歳以上のグループではベースラインで死亡者が多く,特に男性や喫煙者での死亡者が多かったことを示唆する。
男性や喫煙者での死亡というと,考えやすいのは心血管疾患と呼吸器系疾患(悪性腫瘍)であり,このコホートは本来の母集団に比較して心血管系疾患や呼吸器系疾患に対して抵抗性がある集団となっているかもしれない。このことは糖尿病患者が19.1%,降圧薬内服者が47.7%も存在しながら85歳以上のグループ でTC値が上昇するごとに心血管死すら低下しているということにも合致する。
 
もう1つは,低栄養の関与である。ベースラインの特徴でも高齢になるほどコレステロール値が低下するとともにアルブミン値も低下している。
このことは高齢になるにつれて,生存者においてすら低栄養の問題が生じていることを示唆する。
本研究でもコレステロール値で三分位しての解析をしているが,その 際に正コレステロール血症と低コレステロール血症を区別していない。
低栄養患者が存在していればコレステロール値が高いほど予後が良いのも当然であり,高コレステロール血症の治療の必要性とは独立して考えねばならない。
 
ただし,症例数があまり減っておらず,コレステロールの平均値も55~64歳のグループとさほど変わっていない65~74歳のグループにおいても,TCが高くなるほどに心血管死以外の死亡が減っているというデータの解釈は,生存者バイアスや低栄養患者の存在だけでは説明が難しいかもしれない。
 
個人的には,「高コレステロール血症は動脈硬化性疾患の危険因子であり,(スタチン非投与下での)低コレステロール血症は低栄養のマーカーである。
いずれもよいことではない」と考えているが,「(スタチン投与中の低コレステロール患者を対象に,スタチンを中止して)コレステロールを上げることによって生命予後が良くなるかどうか」を検証するランダム化比較試験を(日本脂質栄養学会に)早く実施してもらいたいところである。
 
Morley氏のコメント:高齢者でも70歳代の再発予防にはスタチン使用を
ところで,この解釈の難しい論文を対象に,同じ号のJ Am Geriatr Soc2011; 59: 1955-1956)にeditorialが記載されていた。
これを執筆したセントルイス大学の老年学教室のJE. Morley氏が「(低栄養を発症しやすい)高齢者に対するスタチンの意義」についての意見を明確に述べていたのでご紹介したい。
1. 高齢者に対するスタチンの効果

(1)冠動脈疾患に対して

2つのメタ解析により60歳以上(J Gerontrol A Biol Sci Med Sci 2007; 62: 879-887)あるいは65歳以上(J Am Coll Cardiol 2008; 51: 37-45)においてスタチンの投与によって30~37%の冠動脈疾患死亡リスクの低下を見込むことができることが示されている。
また,PROSPER試験(Lancet 2002; 360: 1623-1630)においても70歳以上の高リスク高齢者を対象にプラバスタチン投与により冠動脈疾患の予防効果が示されている。
〔山田補足:なお,PROSPER試験では脳卒中の予防については示されなかったものの,HPS試験では冠動脈疾患のみならず脳卒中も予防されていた(Lancet 2002; 360: 7-22)〕

2)全死亡に対して
上記の2つのメタ解析において,スタチンの投与による15~22%の全死亡リスクの低下が示されている。PROSPER試験(Lancet 2002; 360: 1623-1630) においては全死亡率の低下は認められなかったものの,心血管疾患の既往のある高齢者に限定すると死亡率を低下させていた。
また,観察研究ではあるが Intermountain Heart Collaborative Studyにおいて,冠動脈疾患が血管造影に確認された集団では,80歳以上の超高齢者グループも含めて死亡率の低下が認められていた(J Am Coll Cardiaol 2002; 40: 1777-1785)。
(3)認知症に対して
認知症に対してスタチンが予防効果を持つというものから,中立的,あるいは認知機能障害を増悪させるかもしれないというものまで,さまざまなデータがある(J Alzheimers Dis 2010; 20: 737-747)。
(4)がんに対して
PRSOPER試験ではプラバスタチン群でがんが増加していたが,メタ解析ではそうした現象は認められなかった(Eur J Cancer 2008; 44: 2122-2132)。
 
2. 高齢者に対するスタチンの使用法
(1)70~80歳の人に対して
冠動脈疾患の既往のある患者の二次(再発)予防に対してはスタチンを使用すべきである。
しかし,The lower, the betterであるかどうかは不明なので,少量のスタチンが推奨される。
ただし,転倒やうつに対しての注意を要する。
 
一次(初発)予防としてのスタチンの使用を支持するエビデンスは存在しない。
 
(2) 80歳以上の人に対して
一般に80歳以上の患者にスタチンを使用することを勧める良好な医学的根拠はない。
ただし,観察研究からすると,冠動脈疾患の既往のある患者の二次(再発)予防にはスタチンを使用してもよいかもしれない。
 
80歳以上でスタチンを内服している患者にはLDLのサイズ測定をすべきである。その上でsmall dense LDLが優位である場合のみスタチンを継続すべきである。
 
出典  MT Pro 2012.1.12
版権  メディカルトリビューン社


<番外編>
2012.1.18に武田薬品が持続性AT1レセプターブロッカー
「アジルバ錠20mg・40mg」(アジルサルタン錠)の製造販売承認を取得。
http://www.takedamed.com/hpdr/rootDir/medicine/azilva/index.jsp?link=120118mail
http://www.takedamed.com/hpdr/rootDir/medicine/medicineDetail.jsp?MEDICINE_CODE=151

 
読んでいただいて有り難うございます。
コメントをお待ちしています。
その他
「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/
(「葦の髄から循環器の世界をのぞく」の補遺版
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
http://wellfrog4.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
http://wellfrog3.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21 http://wellfrog.exblog.jp/ 
(内科医向き)
「井蛙」内科メモ帖
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/
(「井蛙内科開業医/診療録」の補遺版)
があります。  
 
 

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