第34回日本高血圧学会での島田和幸会長による会長講演「高齢者高血圧の研究」の記事で勉強しました。
地域医療の現場から高齢者高血圧を追究
第34回日本高血圧学会で島田和幸会長は「高齢者高血圧の研究-地域医療の現場から」と題する会長講演(座長=高知医科大学・小澤利男名誉教授)を行った。
米タフツ大学リサーチフェローを経て,1981年以降高知医科大学(現高知大学)老年病科で10年,次いで自治医科大学で20年にわたり,高齢者高血圧にフォーカスした研究の軌跡を語り,高齢者高血圧の治療が極めて今日的な問題であることを示した。
高齢者血圧の規定因子は構造的要因が優位
高知医科大学に赴任した1980年代前半,加齢に伴う心拍出量の減少は必ずしも一様ではなく,日常活発に活動している高齢者では心拍出量は意外にも維持されていることがCirculationに報告され,生理的加齢変化の考え方に大きな変革がもたらされた。
当時提唱されたsuccessful agingの概念は,個々人の生活習慣や生活環境によって老化が左右されることを示し,島田会長にとって,従来加齢変化と考えられていた多くの現象を根本から見直す契機となった。
それにはまず,心血管系の正常加齢変化とは何かを明らかにしなければならない。
高知県の地域住民ボランティアを正常対象者とし て,精力的な研究が開始された。
まず,同大学の理工学系の研究者らとの共同研究を通じて生物統計学の手法を取り入れ,地域ボランティアの測定値を基に,年齢,調圧反射機能,SBP,血漿カテコールアミンの相関関係を検証。
大動脈硬化が起こると,頸動脈内の圧受容体が血管壁の張力変化を感知しにくくなり,結果として交感神経が亢進し,血圧上昇の一因となることを証明した。
すなわち高血圧の病態は,神経・液性循環調節因子よりも,心血管系が肥大し,血管が硬くなるという構造的要因が加齢とともに優位になることが明らかになった。
実際に健康若年者と健康老年者を比較すると,心係数や末梢血管抵抗に大きな変化は見られない。
しかし健康高齢者と高血圧高齢者を比較すると,後者で末梢血管抵抗係数や左室重量係数が有意に増加する。
当時,60歳以上を対象とした研究はほとんどなく,一連の成果をHypertensionに報告すると,“much needed data”と高い評価を受けた。
同会長は,高齢者高血圧の研究について「高齢者の究極のテーマは,老いてなおいかに健やかさを保つかであり,心拍出量が何%低下したかではなくて,最大の関心は脳卒中にだけはなりたくないということだ」と指摘。研究のフォーカスは,高齢者高血圧による臓器障害,特に心疾患以上にQOLに深刻な影響をもた らす脳血管障害となった。
同会長は,MRIを導入して高血圧の高齢者における無症候性脳血管障害の定量的な解析を開始した。
この試みは全国でも初の試みであり,同時にこの時 期,24時間血圧計が臨床で使えるようになったため,いち早く血圧日内変動と脳血管障害の関連を追究し,dipper,non-dipperの概念を提唱。
ラクナ梗塞の数は夜間の血圧降下が少ないnon-dipperで有意に多いことを1992年にHypertensionに報告。「
脳卒中は夜間の血圧低下によって発症する」という当時の定説を覆した。
1991年に自治医科大学に赴任後は,日本各地で地域医療に従事する同大学出身者と連携して,高齢者高血圧と脳卒中の関連をさらに広範に追究していった。
超高齢者,要介護老人の降圧治療をどうするか
当時,兵庫県淡路島の診療所に在勤していた苅尾七臣氏(現自治医科大学循環器内科主任教授)は,島田会長との共同研究を通じて,夜間の血圧が過度に低下するextreme-dipperもnon-dipperと同様に無症候性脳血管障害が増加していることを報告。
その後,起床直後に血圧が急上昇する morning surge群で無症候性脳梗塞の頻度が有意に高い(P=0.02)ことを見いだし,同会長と共著でCirculationに報告した。
これらの長年にわたる先駆的な研究の蓄積から,現在は外来以外の血圧が重要であることが周知となっている。自治医科大学関連グループが約1,000例の 高血圧患者で外来血圧と家庭血圧を調べたところ,外来・家庭のいずれでも高血圧の範ちゅうに入る例が38%,外来血圧のみ高い白衣高血圧が18%,外来は 正常だが家庭血圧が高い仮面高血圧が23%,いずれの血圧も正常値を示すものが21%だった。
同会長は現在,約2万例の高血圧患者を対象とする前向き観察 研究HONEST studyを進めており,降圧薬の投与を開始した症例で外来血圧と家庭血圧を測定し,心血管イベントの発症との関連を調べている。
同会長は同試験の意義に ついて,現在の診療形態において家庭血圧をどう理解し臨床に組み込むか,示唆となる研究と位置付ける。
心血管イベントの予防のために,高齢者高血圧をどう治療すべきか。
最近,米国心臓病学会財団(ACCF)/米国心臓協会(AHA)指針は,80歳以上でもSBPは140mmHg未満とするが,忍容性を考慮して140~145mmHgも許容される。
同時にgeneal health conditionもサポートすべきとした。
同会長は,これは非常に重要なメッセージであるとして,「地域医療にとって切実な問題である超高齢者や要介護 老人の降圧治療をどうするかなど,定量的なルールを明確にすべき問題は少なくない」と結んだ。
出典 Medical Tribune 2011.11.12版権 メディカル・トリビューン社
女性のHDL-C低値で心房細動発症リスクが有意に増大東北大学循環器内科教授・下川 宏明 Circulation Journal編集長のコメント大規模な健康診断データを利用した本研究において,HDL-Cの低値が女性でのみ,心房細動発症の危険因子であることが示唆されました。LDL-C高値では逆相関も示唆されたことから,このcholesterol paradoxに関する今後の検証が期待されます。 脂質値と心房細動発症の関係は未確立 心房細動の患者数は2000年の時点で約72万人に上り,増加傾向は今後も続くと指摘されている。そうした中,高血圧,糖尿病,心不全や冠動脈疾患が発 症に関与することが明らかになり,血圧や血糖など動脈硬化性疾患危険因子の管理が,心房細動の発症予防にもつながることが分かってきた。一方,脂質代謝に 関しては心房細動発症との関係が十分に明らかにされていなかった。そこで,新潟大学第一内科循環器学分野の渡部裕氏らは,住民健診のデータから脂質代謝と 心房細動発症リスクの関係を検証した。その結果,女性におけるHDLコレステロール(HDL-C)低値では心房細動発症リスクが上昇していた。一方で,LDLコレステロール(LDL-C)高値では発症リスクが低下傾向にあるなど,脂質代謝全般での一貫した結果は示されなかった(Circ J 2011; 75: 2767-2774)。 LDL-C値では予想と相反する結果に 渡部氏らの調査は,新潟県内の住民健診に基づいたもので,県内約25万人の健診データのうち,1996~98年(登録時点)に空腹時血糖値を測定しており,それ以降2005年までに1回以上毎年連続して健診を受診した者を対象に解析した。また,登録時点での心房細動既往例や,ペースメーカ植え込み例,脂 質異常症治療薬服用例は除外した。 解析対象は2万8,449例で,平均年齢は59歳,女性が約65%(1万8,644例)を占めた。追跡期間の4.5年間で265例(全体の0.9%)が 心房細動を発症。年齢調整後の発症率は2.07/ 1,000人・年で,女性の1.39/1,000人・年に対して男性では3.28/1,000人・年と高率だった。 動脈硬化性疾患ガイドラインに準じた脂質基準値で心房細動発症率との関係を見たところ,総コレステロール(TC)値220mg/dL未満群に比べて 220mg/dL以上群では心房細動発症率が有意に低かった(P=0.001)。また,LDL-C値140mg/dL未満群に比べて140mg/dL以上 群では有意に発症率が低かった(P=0.004)。しかしLDL-C値については,降圧薬服用例や糖尿病,冠動脈疾患患者を除いた解析では有意差が示されず,LDL-C低値による心房細動発症リスクの上昇には他の危険因子も影響していることが示唆された。 同氏は,心血管疾患の危険因子として確立されているLDL-C高値が心房細動発症リスクにも関係すると推測していたが,結果はそれに反するものだった。 これまでの報告でもLDL-C値と心房細動発症リスクの関係について一貫した答えが得られていないため,同氏は,この解析のみから結論を導くことはできないと強調する。しかし,ある程度確立した知見としてLDL-C低値と脳出血リスク上昇も示されていることから,「LDL-Cには適正値があり,高値がすべての心血管リスクの上昇に結び付いているわけではないのではないか」と考察している。 HDL-C値,女性で強い相関示すが男性で認めず HDL-C値については,40mg/dL以上群に比べて40mg/dL未満群で有意に発症率が高くなっており(図),この両群間の差は,降圧薬服用例や糖尿病,冠動脈疾患患者を除いた場合にも認められた。一方,トリグリセライド(TG)値については150mg/dL以上群と150mg/dL未満群で同等の発症率だった。
さらに,男女別で脂質値と心房細動発症リスクの関係を見たところ,女性ではHDL-C 40mg/dL未満群のハザード比(HR)が2.86で40mg/dL以上群に比べて有意なリスク上昇〔95%信頼区間(CI)1.49~5.50〕が示されたが,男性ではHR 1.35(95%CI 0.77~2.38)で有意差は示されなかった(表)。
渡部氏は,HDL-C値の低下に伴う心臓への悪影響や,抗炎症薬やスタチンによる心房細動の進展抑制の報告もあることから,今回の解析で示された HDL-C低値と心房細動発症リスク増大の関係については,ある程度一貫性のある成績であると考察している。ただし,脂質値と心房細動発症の関係について は不明な点も多く,今回の調査はあくまでも1つのコホートで示された結果であり,治療介入がリスク低下につながるかどうかは新たな知見が必要と慎重な解釈を促している。出典 Medical Tribune 2011.12.22版権 メディカルトリビューン社 <私的コメント>このサイトhttp://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtnews/2011/M44511021/で紹介された「研究者の横顔」もちょっといいですね。 読んでいただいて有り難うございます。
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