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葦の髄から循環器の世界をのぞく
老境に入った内科開業医が、昔専門とした循環器科への熱い思い断ちがたく一人でお勉強した日記です。
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ARBが骨量を増加させる!?
戯れ言たれる侏儒
/ 2011.12.24 00:44 / 推薦数 : 1
ARBが骨量を増加させる!?
明らかになりつつあるレニン・アンジオテンシン系の骨作用
研究の背景:骨と血管には深い関係がある(骨-血管連関)
骨粗鬆症と動脈硬化性疾患はともに高齢者に多く,しばしば合併するのは日常的によく経験することである。
これは,さまざまな疫学調査でも裏付けられており,これらの疾患の病態間になんらかの関連が存在する可能性が想定されてきた。
近年の研究の進展により,動脈硬化巣の石灰化は受動的なカルシウム沈着ではなく,血管平滑筋などの間葉系細胞がRunx2,Msx2などの骨形成 に関連する転写因子を発現して,骨・軟骨細胞様細胞への形質転換を起こし,骨形成と類似した様式により,能動的に石灰化をもたらすことが明らかになりつつある。
また,破骨細胞形成に必須の因子であるRANKLが動脈石灰化を促進すること,そして内因性のRANKL阻害因子オステオプロテゲリン(OPG)が動脈石灰化を抑制することも示されており,破骨細胞形成にかかわる因子の関与も示唆されている。
逆に,心血管系因子の骨への作用も報告されている。
例えば,中枢神経系や血管内皮細胞から分泌されるC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)は内因 性骨伸長促進因子であり,その受容体B型グアニル酸シクラーゼ(GC-B)遺伝子の機能喪失型変異によりマロトー型遠位中間肢異形成症がもたらされる。
本症患者は,出生直後の骨格系には顕著な異常を認めないが,著明な骨伸長障害のため最終身長はー5SD以下となる。
また,血圧調節における中心的な内分泌系であるレニン・アンジオテンシン(RA)系の構成因子であるアンジオテンシン変換酵素(ACE),アンジ オテンシンⅡ1型(AT1)受容体,同2型(AT2)受容体などが骨の細胞に発現すること,アンジオテンシンⅡが骨芽細胞に作用してRANKLの産生を促進し,骨吸収を亢進させて骨量を減少させることなどが報告されている。
今回,国立長寿医療研究センターの兼子佳子氏らは,AT1a受容体遺伝子欠損マウスを解析し,RA系が骨代謝回転を抑制し骨量を減少させることを報告した(
J Bone Miner Res
2011; 26: 2959-2966
)。
研究のポイント:AT1a受容体欠損マウスでは骨代謝回転
が亢進して
骨量が増加
脛骨近位部海綿骨の骨密度をマイクロCTを用いて3次元的に測定したところ,25カ月齢雄のAT1a受容体遺伝子欠損マウス(−/−)では,同齢の雄野生型(+/+)マウスに比べてBV/TV(骨密度)が有意に増加していた(
図1
)。
同様に,12週齢雌AT1a受容体遺伝子欠損マウス(−/−)は同齢の雌野生型マウス(+/+)よりも脛骨近位部海綿骨のBV/TV(骨密度)が有意に高く,卵巣摘除により骨密度は低下しなかった(
図2
)。
脛骨骨幹端における骨形態計測の結果,骨吸収の指標である骨面当たり吸収面(ES/BS),骨面当たり破骨細胞面(Oc.S/BS),骨面当たり破骨細胞数(N.Oc/BS),骨形成の指標である骨面当たり類骨面(OS/BS),骨面当たり骨芽細胞面(Ob.S/BS),骨面当たり骨形成率 (BFR/BS)は,いずれも野生型マウス(+/+)に比べてAT1a受容体遺伝子欠損マウス(−/−)で有意に上昇しており,本遺伝子欠損マウスでは骨 代謝回転が亢進していることが示された(
図3
)。
考察1:RA系降圧薬が骨を増やす可能性
これは大変に興味深く,また臨床的にも重要な注目すべき成績である。
AT1a受容体欠損マウスでは,骨代謝回転が亢進して骨量が増える,ということは,AT1a受容体のシグナルを低下させるRA系降圧薬,すなわち直接的レニン阻害薬,ACE阻害薬,AT1受容体拮抗薬(ARB)が骨代謝に好ましい 作用を示す可能性があるからである。
一方,同じRA系薬でも,アルドステロン受容体拮抗薬は,ネガティブフィードバックの結果,AT1a受容体を活性化して骨代謝に悪影響を及ぼす可能性が懸念される。
しかし,その作用機序はなお謎に満ちている。
なんといっても,骨代謝回転が亢進しているにもかかわらず骨量が増える点が不思議である。
なぜなら, 閉経後骨粗鬆症に代表的されるように,骨代謝回転が亢進すると,ほとんどの場合,骨吸収が骨形成を上回って,骨量が減少するのが常だからである。
不勉強な わたしには,骨代謝回転が亢進して骨が増えるなどという状態は,成長期のモデリング骨か,骨損傷の治癒過程くらいしか思い浮かばない。
ということは,裏返 せばこれらの骨形成過程では,少なくとも局所のRA系が抑制されている可能性があるということなのであろうか。
本論文の成績では,RANKL/OPG比の上昇が骨吸収亢進の要因の1つであり,sclerostinの発現低下が骨形成促進機序の1つのようであるが,AT1a受容体とこれらの関係の詳細については,今後の課題である。
なお,本研究はAT1a受容体の全身的な遺伝子欠損マウスの成績であり,RA系の全身的な影響による可能性も否定はできない。
例えばRA系の亢進 により,交感神経系の活性化がもたらされるが,交感神経系の活性化は,骨代謝回転の亢進を伴う骨量減少をもたらすことが知られている。
となると,RA系の 抑制により,交感神経系が不活化されて,骨代謝回転が低下し,骨量が増加するという推測も成り立つ。
しかし,やはり骨代謝回転は合致しないのである。
また,AT1a受容体遺伝子欠損マウスでは,不思議なことに子宮重量が増加することも示されている。
卵巣摘除で骨量が減少しないことと併せて,こ のマウスではなんらかの女性ホルモン作用の促進機序があるものと推測される。
なお,何かと話題のセロトニンの関与は否定されている。
骨粗鬆症治療薬との関係はどうだろうか。
骨代謝回転を促進する点からは,窒素含有ビスホスホネート(N-BP)との併用により,N-BPの作用を 阻害する可能性が懸念される一方で,N-BPによる過度の骨吸収抑制が原因と考えられる顎骨壊死や非定型骨折を防止する可能性も考えられる。
選択的エスト ロゲン受容体モジュレーター(SERM)との関係も微妙である。
RA系阻害作用の結果,女性ホルモン作用が促進されるのであれば,SERMとの併用は少な くとも骨には有効ではないかもしれない。
RA系と女性ホルモンの関連がもう少し明らかになる必要がある。
私の考察2:骨という臓器の概念や人間の進化過程にまで関連か
それにしても,RA系の抑制がいかに生体の健康にとって重要なのか,目を見張るばかりである。
血圧が低下するのみならず,糖尿病発症抑制効果,さまざまな臓器保護効果,生命予後改善効果があり,さらには本論文に示されているように女性ホルモン作用は促進され,骨代謝回転が亢進して骨量が増加する。
さらに,AT1受容体遺伝子欠損マウスでの寿命延長効果も報告されている。
まるで生体を若返りさせているようである。
そもそも,いったいなぜRA系などという魔物をわれわれは背負うことになったのであろうか。
陸上生活に適応する上では必要不可欠であったのであろうが,少なくとも現代人には割が合わない。
われわれの孫やその孫くらいの時代には,さっさと退化していっていただきたいものである。
骨も陸上生活への適応に伴って進化してきたという点では,RA系と同様である。RA系と骨との関連のルーツは,そこにあるような気もするのであ る。
浅瀬や海岸に生息していた動物は,塩分摂取は充足しており,RA系は未発達であったが,まずは重力に抗するために,石灰化した骨を獲得しつつあったものと想像される。
その後,完全に海岸から離れた生活に適応するために,骨はますます強化され,RA系が進化してミネラルの乏しい環境に適応していったので あろう。
ただし,塩分摂取量によるRA系の変動と骨量との関連には若干の課題が残る。
塩分摂取の過多は,RA系を抑制する一方で,カルシ ウムバランスを負にして骨量を減少させることが示されているのである。
塩分摂取の多い環境は,海に近い場所であり,必ずしも強力な骨を必要としなかった可能性がある点からは,理解できる。
しかし,塩分摂取過多がもたらす結果は,本論文の成績と矛盾するように見えるのである。
おそらく塩分摂取とカルシウム代 謝との間には,別の機序が関与するものと考えられる。
また骨代謝には,RA系の全身的な作用よりも局所作用の方が重要なのかもしれない。
しかし,骨と血管の密接な関連が明らかになるにつれ,実は骨という臓器自体がもともと一種の血管なのではないかという想像(妄想?) にまで行き着く。
わたしが学生時代に使っていた教科書「標準組織学総論第2版」146ページには「血管の豊富な分布と血管を基本とした組織構築が,骨という組織の一大特徴である」とある。
皮質骨には血管を中心としたハヴァース系があって,それを取り巻くように骨が形成されるのである。
さらに妄想の羽を伸ばすと,長管骨はそれこそ生 理的に石灰化した大血管にも思えてくる。
血管はもともと石灰化するものなのかもしれない。
通常,骨外では血管の石灰化を抑制する機構が強力に働くが,加齢あるいは酸化ストレスなどにより,その機構が弱体化・破綻すると石灰化が進んでしまうということなのではないだろうか。
このように本論文のテーマは,骨という臓器の概念や人間の進化にまで及ぶ壮大な背景を持っているのである。今後の研究のさらなる進展が大いに楽しみである。
(がん研有明病院総合内科 中山耕之介先生)
出典 MT pro 2011.12.21
版権 メディカル・トリビューン社
<自遊時間>
ライトアップされた東京スカイツリー=23日夜、東京都墨田区、朝日新聞社ヘリから、堀英治撮影
http://www.asahi.com/national/update/1223/TKY201112230490.html
読んでいただいて有り難うございます。
コメントをお待ちしています。
その他
「葦の髄」循環器メモ帖
http://yaplog.jp/hurst/
(「葦の髄から循環器の世界をのぞく」の補遺版
)
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
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井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
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(「井蛙内科開業医/診療録」の補遺版)
があります。
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