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胸部大動脈瘤は何cmから外科手術が勧められるか胸部大動脈瘤の罹患率は欧米を中心に過去数年で大幅に上昇しています。スウェーデンの報告では,過去15年間で罹患率が男性は52%,女性が28%に上昇し,手術件数は男性で7倍,女性で15倍も増えています(Circulation 2006: 114; 2611)。人口の高齢化とともに,CTの普及による発見機会の増大が原因であると考えられ,わが国でも同様の状況といえます。またこの間に,外科治療も目覚ましい発展を遂げています。前述の報告では,過去15年間で胸部大動脈瘤手術の手術死亡率が25%から13%とほぼ半減しました。さらに近年では,下行大動脈を中心にステントグラフト内挿術が導入され,外科手術の成績が不良であった緊急症例や重症例でも比較的良好な成績を挙げています。 瘤径6cm超でリスクが急激に増大 動脈瘤は原則として自然退縮することなく,拡張を続けます。ただ,拡張速度は平均すると比較的緩やかで,1.0mm/年程度です。そのほか,動脈瘤の拡張にはいくつかの特徴があります。瘤径拡張速度は一般に個人差が大きく,部位によって差があり(上行大動脈で0.7mm/年,下行大動脈では1.9mm /年),瘤が大きくなるほど速度も指数関数的に増大するとされています。そのため動脈瘤の拡張は予測が難しく,症例に応じて半年または1年ごとの経過観察 が推奨されています。 エール大学のDavisらは,胸部大動脈瘤症例721例の自然予後を報告しています(Ann Thorac Surg 2002; 73: 17)。死亡,破裂,解離といった重篤なイベントの1年当たりの発症頻度を,瘤の大きさごとに計測した(図) ところ,1年以内に破裂するリスクは,瘤径が6cm以上でも3.7%とそれほど高くはありません。しかし,破裂だけでなく,死亡,解離も含めて,そのいずれかが起こる確率で見ると,15.6%まで上昇します。有害事象の発症頻度は瘤径が6cmを超えたところで,急激に増大します。では瘤が6cmを超えるまで 待っていてもよいのでしょうか。
現行のガイドラインは5.5cm以上で手術 米国心臓病学会のガイドラインでは,最大径5.5cm以上を手術適応としています(ClassⅠ,レベルC)。動脈瘤はゆっくりと成長し,その間も一定頻度で危険な合併症は生じています。Davisらのデータでは,瘤径が合併症のリスクが急増する6cmになるまで手術を延ばすと,経過観察中に症例の 31%が破裂または解離を発症してしまいます。また破裂した動脈瘤の瘤径の中央値は6cmであったとも報告されています。よって,重篤な合併症リスクが急 増する6cmまで待つのではなく,合併症リスクが手術リスクを上回る,瘤径5.5cmを手術適応と定めています。また瘤径の拡張速度は個人差が大きく予測が難しいため,経過観察する場合も必ず半年または1年ごとに検査を行い,5.0mm/年以上の速度で瘤径が拡大している場合には,5.5cm以下の大きさ でも手術を検討すべきであるとしています(ClassⅠ,レベルC)。 待機手術の安全性高いが破裂例は注意 では手術はどの程度安全に施行できるのでしょうか。大動脈瘤手術は瘤の部位によって術式が異なり,手術死亡率や合併症の発症も術式ごとに若干差が見られます。手術は前方アプローチ(胸骨正中切開)と,側方アプローチ(左開胸手術)に大別されます(表)。 2008年の日本胸部外科学会学術調査によると,待機手術の場合は,大動脈瘤手術の手術死亡率がおおむね2~4%と低く,胸腹部大動脈瘤は6.9%とやや 高くなっています。一方,破裂性大動脈瘤に対する緊急手術では手術死亡率はいずれも20%程度もあり,約5倍も高くなります。待機的に手術を行うことがいかに大事であるかがうかがわれます。
また大動脈瘤手術では生命予後以外に脳神経合併症の発症が問題とされてきました。エール大学の報告では待機手術での発症頻度は低く,前方アプローチ(基部,上行,弓部置換術)手術の脳梗塞発症率は3.0%,側方アプローチの対麻痺発症率が7.6%でした。よって待機手術であれば,こうした合併症を起こすことなく退院できる可能性は94%もあり,安全性は比較的高いと考えられます。遠隔期生存率も良好で,胸部大動脈瘤手術症例全体の5年生存率は72.5% と良好であり,いったん手術を乗り切れば,その後の経過は極めて安定していることが分かります。 下行大動脈ではステントグラフト内挿術が普及 胸部大動脈瘤に対するカテーテルインターベンションによるステントグラフト内挿術はわが国でも既に広く普及しています。2008年に年間823件のステントグラフト内挿術が行われており,開胸による下行大動脈置換術の609件を既に上回っています。 対象は,ほとんどが主要分枝のない下行大動脈領域であり,枝付きステントや非解剖学的バイパス術の併施が必要な弓部や胸腹部大動脈領域はまだ一般的ではありません。適応は,外科手術の場合と同じですが,ステントグラフト内挿術では一定の解剖学的な条件を満たさなければなりません。具体的には,瘤の前後に ステントを圧着固定させるための健常な部位(Landing zone)が十分にある(長さ20mm以上,径38mm以下)ことと,ステントグラフトを運ぶためのアクセスルートが十分である(20~24Frシースが 挿入可能)ことの2点です。短期成績に関してはおおむね良好です。胸部大動脈瘤ではいまだ外科手術とのランダム化比較試験は行われていませんが,後ろ向き 比較試験のメタ解析では,手術死亡,脳神経合併症のいずれにおいてもステントグラフト治療群の方が良好でした(J Vasc Surg 2008; 47: 1094)。ただ遠隔期の治療成績はいまだ十分に明らかにされていません。特に,より普及の早かった腹部大動脈のステントグラフト内挿術ではエンドリーク による再治療が有意に多かったことが報告されており,しばらくは慎重な適応が必要であると考えられます。 ◇ 胸部大動脈瘤の外科治療は,心臓血管分野で治療成績が最も向上した分野の1つです。特に待機手術の手術リスクは過去十数年で半減しており,今では90% 以上の確率で合併症なく退院できるまでに治療の安全性は向上しています。しかし,ひとたび動脈瘤が破裂してしまうと,緊急手術を行っても手術リスクは今なお高いままです。こうした治療成績が十分に理解され,正しい時期にできるだけ多くの患者さんが治療を享受できるようにしていくことが今後の課題であると考 えられます。 出典 Medical Tribune 2011.6.22
版権 メディカル・トリビューン社 <私的コメント> 以前から何回も書きましたが、欧米の「5.5cmを超えたら手術適応」という考えが体格の異なる日本人にそのまま当てはまるものかいつも疑問です。それとも5.5cmという絶対値が体格によらず流体力学的に意味があるのでしょうか。
また性差はどうなのでしょうか。胸部大動脈の部位による差や形状の差や拡大速度も関係しそうです。 <関連サイト> Dダイマーと腹部大動脈瘤
http://blog.m3.com/reed/20110307/D_
腹部大動脈瘤とステント
http://blog.m3.com/reed/20080621/1
ステントグラフト治療
http://blog.m3.com/reed/20080331/1
胸部大動脈疾患に新ガイドライン
http://blog.m3.com/reed/20100721/1
腹部大動脈瘤の危険因子
http://blog.m3.com/reed/20090531/1
ステントグラフト内挿術(EVAR)
http://blog.m3.com/reed/20110118/_EVAR_
腹部大動脈瘤の危険因子http://blog.m3.com/reed/20090531/1
腹部大動脈瘤の血管内修復術
http://blog.m3.com/reed/20091207/1
腹部大動脈瘤の成長率
http://blog.m3.com/reed/20100221/2
Health in Man 試験
http://blog.m3.com/reed/20071211/Health_in_Man__
腹部大動脈瘤の手術適応 ~ 成長速度の重要性
http://blog.m3.com/reed/20110528/2
大動脈瘤の進展抑制とAT2受容体シグナル
http://blog.m3.com/reed/20110717/_AT2_1 読んでいただいて有り難うございます。 コメントをお待ちしています。 その他 「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/ (循環器専門医向き) ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy (一般の方または患者さん向き) 井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~ http://wellfrog4.exblog.jp/ 井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15 http://wellfrog3.exblog.jp/ 井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~ http://wellfrog2.exblog.jp/ 井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21 http://wellfrog.exblog.jp/ (内科医向き) 「井蛙」内科メモ帖 があります。
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