戯れ言たれる侏儒
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減塩のエビデンスを考える
<1>栄養疫学研究の難しさ
ハーバード公衆衛生大学院リサーチフェロー
今村文昭先生
 
編集部から
今年(2011年)7月,コクラン共同計画のグループが減塩の効果に関するメタ解析の結果を発表した。
それによると,減塩により死亡や心血管疾患発症の有意な抑制効果は認められず,心不全患者では死亡リスクが上昇していた。
この結果をどのように解釈すべきなのか―。
減塩指導は生活習慣病対策の基本であるだけに,慎重な判断が求められる。

 
efficacy(有効性)とeffectiveness(効果)は異なる
コクラン共同計画(Cochrane Collaboration)のグループは,心血管疾患(CVD)の罹患率,死亡率および総死亡率に対する減塩の効果を検証し,メタ解析を行い報告した。
それは減塩の効果に疑問を投げかけるもので,海外では多くのメディアがそのセンセーションを報道した。
 
この研究はこれまでの知見を覆すものであったが,その内容を詳細に検討すれば,栄養疫学研究やメタ解析における研究の難しさ,解釈の多様さが潜在することが分かる。
 
その議論の前に,いわゆる医学的な効果には2種類あることを押さえておきたい。
1つは生物学的な効果,もう1つは実社会における効果である。

それぞれefficacy(有効性),effectiveness(効果)と呼ばれる。
メタ解析(meta-analysis)や系統的レビュー(systematic review)が,この有効性と効果とをどのようにえり分けているのか注目する必要がある。
 
時間や量的な部分を無視して塩分の摂取に関する「有効性」について,2つの仮説を挙げるとすれば,
1. 塩分の摂取が下がると,血圧が下がる
2. 塩分の摂取が下がると,CVDの罹患率が下がる
  ということができる。

「効果」については,
1. 塩分の摂取を(実生活で)下げれば,血圧が下がる
2. 塩分の摂取を(実生活で)下げれば,CVDの罹患率が下がる
 ということができる。
 

食事の因子について医学的な「有効性」を量的に知るには,被験者が定められた摂取量を確実に維持することが必要となる。
 
高い遵守度を維持するように研究デザインを組むことが鍵
栄養疫学研究の困難さは,手術や薬剤の有効性の検証と比べると容易に理解できる。
例えば,6,000人の高齢者に,ある施設に滞在してもらい,毎日3食提供する二重盲検ランダム化比較試験(randomized double-blinded controlled trial)を5年間行えば,おそらく仮説の検証としては妥当だろう。しかし,膨大な予算が必要とされる,そのようなデザインは不可能で,妥協案として, 例えば3食分提供して家と職場で食べてもらう,朝食分だけ提供して血圧の変化を検討する,長期の研究であれば食事のアドバイスをする,といった案が採用される。
 
こうして考えれば,減塩ダイエットの遵守度(コンプライアンス)にばらつきが生じやすいことが容易に想像できる。
不確定要素を踏まえ,どのようなアプローチで研究を実践し,どのような形で高い遵守度を維持するように研究デザインを組んだのかが重要な鍵となることが分かるだろう。
Changらが行った多施設における介入試験では,施設におけるキッチンを対象に減塩群と対照群とに分けて研究を行った。
施設に滞在している患者を対象に減塩ダイエットを行えば,相当の遵守度が期待できる。
糖尿病の臨床研究で有名なDPP(Diabetes Prevention Program)は,複数項目にわたる条件を満たす食事を実施してもらうよう介入を行い,メトホルミンの効果を上回る食事の効果を実証したものである。
興味深いことに,厳しい管理を行ったため,対費用効果の推定では介入群で相当の人件費を要したことが論文で述べられている。
 
対照群における食事内容もポイント
では,対照群にはどのようなダイエットを遂行してもらうことが適当だろうか。
薬剤の臨床試験のように,食事にはプラセボに相当するものを設けるのは困難である。
多くの国で一次予防の手段として塩分の摂取を制限すること(日本の食事摂取基準では10g,日本高血圧学会の勧告では6g)が推奨されている。
そのため,対照群ではその国の一般的な推奨を採用することが倫理的に妥当ということもできる。
しかし,それでは平均的国民が塩分の摂取量を下げた際の 「有効性」を知ることはできない。
研究デザインや対照群の設定で科学者としての力が問われる。
 
そして,定量的に有効性が認められた因子について,どのように実践すればどれほどの利益(健康・経済)を期待できるか検証するのが「効果」を検証する研究といえる。
例えば,日本では「減塩しょうゆ」「減塩みそ」などが出回っている。
果たして国民全体やレストランなどが,これらを購入すれば医学的な効果は得られるのだろうか。
仮に100%普及したとしても,調味料の摂取量の増減を調べなくては評価できない。
当然,「効果」を調べる研究では,評価する項目として生体指標などのアウトカムだけでなく,個人や集団の遵守度なども対象となる。
 
栄養疫学研究におけるメタ解析の役割とは
このように減塩を含め,栄養疫学研究ではデザインなど多くの項目にばらつきが生じやすい。
薬剤の臨床研究でさえ,集団や病態,投与量の違いなどが問題視され,多くの論文で議論されるのだから,食事の因子の問題となれば1つの論文にまとめられるものでない。
 
メタ解析や系統的レビューの意義は,そうしたばらつきの整理整頓にある。
「有効性」あるいは「効果」がどれほどなのかという医学的疑問の解決を試みるのも1つの目的ではあるが,それだけではなく今のところのエビデンスはどれほどの限界があるのか,そして今後どのような研究が必要なのか,というところを整理することも目的といえる。
 
メタ解析や総説の役割を医学的な唯一の結論を導くものと考えたり,臨床に直結するエビデンスの抽出に限定したりしてはいけない。
問題点や研究のばらつきを議論し,その中で「有効性」「効果」を1つのエビデンスとして提供するのが重要な役割なのである。
 
今回注目を浴びたコクラン共同計画のメタ解析も同様で,あくまでエビデンスの1つを提供したにすぎない。
減塩が疾患に及ぼす影響となると,長期的な研究では実践上の問題のために,どうしても遵守度を維持することが困難となり,真の「有効性」を図るのが困難となってしまう。
そのため「有効性」を検討しているのか「効果」を検討しているのかあいまいなところがあることは否定できない。
 
論文の考察で示されたのは「効果を支持するポジティブな見解」
実際に,今回のメタ解析の解釈では,遵守度を量的に判断することが欠かせない。
では,遵守度などを含め,今回のメタ解析は問題点に関する記述なども含めて,メタ解析本来の目的を果たしているのだろうか。
特に,考察部分の記述は的を射ていると思われる。Implications for practiceという部分を,簡単に訳したものを紹介したい。
 
「わたしたちの研究結果は,減塩が正常血圧,および高血圧の人に対し有効であるという所見(belief)と一致している。しかし,わたしたちのメタ解析や他の総説に紹介された研究では,減塩の実践は,血圧の減少や,尿へのナトリウム排出からすれば,比較的,穏やかなものである(modest)。 減塩についてはかなりの尽力が必要とされるが,循環器系疾患に対する多大な効果はそれほど期待できない。臨床医学や公衆衛生においては,より安価で実施可能(practicable)な介入が必要である」

 
このように論文の著者は,効果を支持するポジティブな見解を示しており,厳格な減塩の効果を検討したとはいえないことも記載されている。
この後にはImplications for researchとしてどのような研究が今後必要か紹介されている。
心不全患者に対する研究の必要性,持続的に減塩した結果を検証できる集団レベルの臨床試験の必要性を述べている。
物議を醸し出したものの,偏った議論などがない点については,的確な記述がされているのではないだろうか。言うまでもなく,論文は抄録だけではなく隅々まで読むことが求められる。
それは膨大な論文がすさまじいスピードで出版され続ける昨今,医師や研究者にとって悩ましいところだろう。
 
メタ解析の論文を読む際には,メタ解析に含められた研究のデザインなどに通じていると,その解釈が大きく異なることがある。
減塩に関するメタ解析もその例にたがわない。
 
出典 MT Pro  2011.8.15
版権 メディカル・トリビューン社

 
<番外編>
アボット、生体吸収型ステントを初めて日本人患者に留置
米アボットは16日、同社の完全生体吸収型ステント「ABSORB」が初めて日本人患者に留置されたと発表した。
同社が欧州、中南米、アジア太平洋 地域の約20カ国で実施している国際臨床試験「ABSORB EXTEND」で、初の日本人患者への治療は、神奈川県湘南鎌倉総合病院の齋藤滋副院長によって実施された。
同製品は生体内で加水分解される乳酸ポリマーでできたステントに、免疫抑制剤のエベロリムスをコーティングしてある。
血管を拡張し、心臓への血流が再開された後、約2年以内に体内に自然に吸収される。
すでに欧州でのCEマークを取得しており、その他の地域でも臨床試験を実施している。
出典 Care Net.com   2011.8.19

版権 化学工業日報社
http://www.carenet.com/news/det.php?nws_c=23436

 
 
 
 
2011.8.13撮影 昇仙峡・仙娥滝(山梨)
http://www.shosenkyo-kankoukyokai.com/b/
 
読んでいただいて有り難うございます。
コメントをお待ちしています。

その他
「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/
(循環器専門医向き)
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
http://wellfrog4.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
http://wellfrog3.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21 http://wellfrog.exblog.jp/ 
(内科医向き)
「井蛙」内科メモ帖 
があります。
 

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