戯れ言たれる侏儒
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< 心血管疾患発症と血中CETP活性 | メイン | 血管内皮細胞および中枢神経系とアルドステ... >

無症状の僧帽弁閉鎖不全症(MR)、その中でも一般的な弁尖逸脱の僧帽弁形成術についての症例検討の記事で勉強しました。
僧帽弁逸脱症は昔はなかった概念です。
いまや「一般的な」弁膜症ということで、時代の流れを感じます。
 
弁尖逸脱への僧帽弁形成術  外科手術は勧められるか
症例
60歳,男性。健康診断で心雑音を指摘される。
息切れや動悸などの症状はなく,現在も定期的にジョギングを楽しんでいる。
心電図は洞調律だが,心エコー検査で重度MR(逆流弁口面積0.46cm2)が認められる。
心機能正常〔左室駆出率(LVEF)68%〕,心拡大もなし〔左室拡張末期径(LVDs)54mm,収縮末期径30mm〕。
 
無症状でも重度の逆流では予後不良
自覚症状がまるでなく,胸に聴診器を当てることさえなければどこにも病気の深刻さをうかがわせる異常所見は見当たらない,このような症例で手術は本当に必要でしょうか。
 
この症例が手術を受けずにいた場合にたどる自然予後を考えてみましょう。
メイヨー・クリニックのSaranoらは,無症状MRの456例の自然予後を報告していますが,逆流弁口面積0.4mm2以上と逆流が最も強く,外科治療を選択しなかった群では,5年生存率が58.9%でした(図1)。
同じ年齢(平均63歳),性(男性63%)の一般米国人口の5年生存率は78%ですので,重度MR患者では,たとえ無症状であっても生存率は明らかに不良であることが示されました。
さらに,5年以内の心臓死が全体の3分の1以上あり,心臓死や心不全,心房細動などの心臓合併症の発症は過半数に上りました。
 
図表
 
そのため,無症状の重度MR症例の84%が,追跡中に死亡または外科手術が必要となったと報告しています。
つまり今回提示したような症例が手術をすることなく5年間生き延びている可能性は16%のみでした。

いまだ議論の残る外科治療のタイミング

では,すぐに手術を行った方がいいのでしょうか。
米国心臓病学会のガイドラインによると,無症状の重度MRの手術適応は,軽度~中等度心機能低下 (LVEF 30~60%, LVDs 40mm以上)があればクラスⅠ,心房細動や肺高血圧の出現があればクラスⅡaとなっています。
その一方で,合併症もなく心機能が正常であっても,外科医が90%以上の確率で弁形成が可能であると判断すればクラスⅡaとなっています。
つまり今回のような症例には,症状や心機能低下を待つ“保存的アプロー チ”と,早急に外科医にコンサルトし,弁形成が可能と判断されればすぐに手術を行う“早期手術アプローチ”の2通りの選択肢が提示されているのです。
 
どちらのアプローチが良いか,ガイドラインでは言及されていません。
過去に行われた比較試験では,いずれも早期手術を選択した方が心臓死や心血管イベントが少ないとされています〔Circulation 2009; 119: 797, J Thorac Cardiovasc SurgJTCS) 2009; 138: 1339〕。
しかし,保存的アプローチでも経過観察を厳密に行い症状や心機能低下があればすぐに手術を行うことで,一般人口と同等の生存率が得られたとの報告もあります(Circulation 2006; 113: 2238)ので,どちらが良いのかはまだ結論が得られていません。
弁形成 vs. 弁置換,成績は弁形成術の方が良好
外科治療といっても,手術成績は一様ではありません。逆流の原因となっている病変部を修復する弁形成術と,自己弁を取り除いて人工弁を移植する弁置換術がありますが,前述のSaranoらは,弁置換術に比べて弁形成術の方が,短期・遠隔期ともに優れていると報告しました。
特に遠隔期生存率は,弁形成術群の生存率が一般人口と全く同等であるのに比べ,弁置換術群の生存率は明らかに低下しています(図2)。
 
図表
 
重度MRでは,無症状でも自然予後が非常に悪いと伝えましたが,適切な時期に弁形成術を施行すれば一般人口と同等なレベルまで生命予後は改善するのです。
しかし,弁置換術を施行してしまうと,生命予後は悪いままとなり,元に戻ることはありません
こうした成績の差には,いくつかの原因が考えられます。
 
弁置換術では腱索の多くを切除します。
本来収縮能のある弁輪には硬い人工弁が入り,弁輪収縮能は失われます
これらが心機能悪化を引き起こし,弁置換患者は術後の心不全再発が多いとされています。
また,人工弁は現在でも完ぺきなものはなく,塞栓症や感染,ワルファリン服用に伴う出血合併症といった人工弁関連合併症も年2~3%程度で発症します。
 
僧帽弁形成術は隔期成績も良好
僧帽弁形成術はどのように行われるのでしょうか。
弁尖逸脱とは,弁尖の伸展や腱索の断裂・延長により,収縮期に弁尖が左房側に落ち込み,前尖と後尖の間で十分な接合が得られなくなることです。
僧帽弁形成術は,逸脱弁尖の矯正と弁輪形成術といった2つの手術手技から成ります。
まず逸脱した弁尖の矯正には2 通りの方法があり,伸びた弁尖を切除し縫合する弁尖切除術と,新たな腱索を移植して弁尖の高さを矯正する人工腱索移植術があります(図3)。
後尖病変に弁尖切除術を,前尖病変に人工腱索移植術を行うことが一般的です。
いずれの方法を行った場合にも,人工弁輪を弁輪部に縫着する弁輪形成術が追加されます。
 
図表
 
弁輪形成術は,拡張した弁輪を縫縮することが本来の目的ですが,手術操作を行った弁尖や腱索に加わる負荷を軽減する効果もあるとされ,弁輪拡大の有無にかかわらず,弁輪形成を併施するのが現在では一般的です。
 
僧帽弁形成術は,現在の心臓血管手術の中では比較的安全性が高い手術と考えられています。
2008年度日本胸部外科学会学術調査によると,僧帽弁置換術の在院死亡率が4.50%,大動脈弁置換術では2.84%ですが,僧帽弁形成術の在院死亡率は1.34%となっています。
 
僧帽弁形成術の効果はどのくらい長持ちするのでしょうか。
クリーブランド・クリニックのGillinovらは,僧帽弁形成術の術後10年間の再手術回避率は93%と報告しています(JTCS 1998; 116: 734)。
またトロント総合病院のDavidらは,術後12年間の再手術回避率が94%と報告していますが,病変部位によっても違いがあり,後尖病変では96%の回避率でしたが,前尖病変では88%と若干再発が多いと報告しています(JTCS 2005; 130: 1242)。
全体として見れば術後10年以内に再発し,手術が必要となる可能性は10%に満たないという結果でした。
 
まだまだ実施率の低い僧帽弁手術
最後に残念な報告が1つ。
これまで見てきたように,MRは生命予後に直接影響を及ぼす悪性疾患ですが,適切な時期に外科治療を実施することで目覚ましい治療効果が得られる疾患ともいえます。
エビデンスレベルの高い前向きランダム化比較試験がなされていないことは問題ですが,蓄積されたデータに基づきガイドラインでは明確な治療指針も提示されています。
しかし,最近の米国の報告では,ガイドラインで手術適応と判断されるMR症例のうち,実際に手術が行われたのはわずか53%にすぎませんでした(JACC 2009; 54: 860)。
この状況はわが国でも変わらないと思われるので,ガイドライン遵守率の向上が今後の課題といえます。
(帝京大学心臓血管外科・真鍋 晋 講師)
 
出典 Medical Tribune 2011.7.28
版権 メディカル・トリビューン社
 
<関連サイト>
僧帽弁閉鎖不全症
http://www.geocities.jp/shin_zou_geka/mrtop.htm
僧帽弁逸脱症
http://www.gik.gr.jp/~skj/Vhd/mvp.php3
僧帽弁疾患
http://mymed.jp/di/ctn.html
心臓手術体験記 (僧帽弁閉鎖不全症弁形成術)
http://comebackheart.blog14.fc2.com/
僧帽弁閉鎖不全症⑧
http://www.youtube.com/watch?v=Fx1Ik9tgMBQ&feature=related
Mitral valve prolapse
http://en.wikipedia.org/wiki/Mitral_valve_prolapse
■Early studies estimated a prevalence of 38% among healthy teenagers; with improved echocardiographic techniques and clear diagnostic criteria, the true prevalence of MVP is estimated at 2-3% of the population.
■The condition was first described by John Brereton Barlow in 1966,hence called BARLOW'S SYNDROME too.and was subsequently termed mitral valve prolapse by J. Michael Criley.
■Current ACC/AHA guidelines suggest that early repair of mitral valve, performed in centers of surgical excellence, should be considered even in patients without symptoms of heart failure.
■Symptomatic patients, those with evidence of diminished left ventricular function or left ventricular dilatation need urgent attention.
What is the treatment for mitral valve prolapse?
http://www.medicinenet.com/mitral_valve_prolapse/page4.htm#4whatis
■The vast majority of patients with mitral valve prolapse have an excellent prognosis and need no treatment.
For these individuals, routine examinations including echocardiograms every few years may suffice.
■Since valve infection, endocarditis, is a rare, but potentially serious complication of mitral valve prolapse, patients with mitral valve prolapse are usually given antibiotics prior to any procedure which can introduce bacteria into the bloodstream.
These procedures include routine dental work, minor surgery, and procedures that can traumatize body tissues such as colonoscopy, gynecologic, or urologic examinations.
■Because of the success of valve repair, it is being performed earlier in patients with mitral regurgitation, thus reducing the risk of abnormal heart rhythms and heart failure.
Mitral valve prolapse Treatments and drugs
http://www.mayoclinic.com/health/mitral-valve-prolapse/DS00504/DSECTION=treatments-and-drugs
Mitral Valve Prolapse 2d 3d echo
http://www.youtube.com/watch?v=T5686ZYCjRs&feature=related
 
 
<きょうの一曲> ニュルンベルグのマイスタージンガー序曲
フルトヴェングラー、ニュルンベルグのマイスタージンガー序曲
http://www.youtube.com/watch?v=CBeMGGN-U0c&feature=related
(私的コメント;ハーケンクロイツが掲げられるている演奏会場での フルトヴェングラーを見るのは辛いものがあります。執拗に聴衆を映していてナチスの施策が伺える貴重な映像です。)
 
フルトヴェングラー、ニュルンベルグのマイスタージンガー序曲 1951年
http://www.youtube.com/watch?v=N7T73EhA79s&feature=related
(私的コメント;戦後のフルトヴェングラーの演奏です。先生方はもう生まれていましたか?)
 
ニュルンベルクのマイスタージンガーより第一幕への前奏曲
http://www.youtube.com/watch?v=MYXFp5O75Ow&feature=related
( 私的コメント;ご存知の先生方も多いと思いますが、指揮者のシノーポリはパドヴァ大学で精神医学を学んだドクターです。2001年4月20日、ベルリン・ドイツ・オペラでヴェルディの歌劇「アイーダ」を指揮中、心筋梗塞で倒れ54歳で急逝しています。)
 
ワーグナー 楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲 ノリントン、L・C・P
http://www.youtube.com/watch?v=hLOmoIVPsnU&feature=related
(私的コメント;新解釈の随分軽いワーグナーです。)
 
 
読んでいただいて有り難うございます。コメントをお待ちしています。
その他
「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/
(循環器専門医向き)
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
http://wellfrog4.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
http://wellfrog3.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21 http://wellfrog.exblog.jp/ 
(内科医向き)
「井蛙」内科メモ帖 
があります。 

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コメント一覧

chenと申します。
2010年8月まで、非常に健康で運動が趣味ですので、運動していました。下旬になり期外収縮が出ましたので、
精査したところ、僧帽弁閉鎖不全であることが分かり、
重度(Ⅳ度)でしたので、2011年1月にポートアクセスで手術しました。5月の連休に調子が芳しくないので、精査したところ、再逆流(交連部)しており、Ⅲ度に戻っていました。主治医は、手術せずに経過観察と言われましたが、Ⅲ度以上が手術適応があるので、7月に同じくポートアクセスで再手術をしました。逆流は、Ⅰ度になりましたが、弁口面積が、1.3になりました。症状、良い日もあれば、悪い日もあり、今後のことも含めて色んな意見を聞きたいのですが、もしよろしければ、連絡アドレスでもいただけないでしょうか?もちろん、こちらから伺って、御高診していただきたいと考えています。
50歳開業医です。
written by Chen / 2012.01.17 15:53
Chen 先生。

コメントを拝読させていただきました。
主訴が期外収縮ということでしたが、術後に期外収縮は改善したのでしょうか。
「調子が芳しくない」症状の主たるものは期外収縮による動悸でしょうか、それとも呼吸困難などの心不全症状でしょうか。
「非常に健康で運動が趣味」であったのが、手術によって運動能力が落ちてしまったような文面ですので、そのあたりはいかがでしょうか。
血中BNP、CTRなどの諸データの経過は悪化していますでしょうか。
結局は主治医にしっかり相談する(説明を受ける)ことが肝要だと思いますが。
written by 戯れ言たれる侏儒 / 2012.01.17 19:17

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