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減塩の遵守度を確認するのは容易ではない
http://blog.m3.com/reed/20110819/___1_
の続編です。
減塩のエビデンスを考える
<2>栄養疫学的な考察とは
ハーバード公衆衛生大学院リサーチフェロー
今村文昭先生
メタ解析や総説などは,研究を集約して1つの結論を導くものではなく,既存のエビデンスの不確定性(ばらつき)や問題点を整理することも目的としている。
コクラン共同計画(Cochrane Collaboration)のグループが発表した減塩の効果に関するメタ解析の論文についても,その目的によるところが大きい。
今回は,メタ解析に含められたそれぞれの研究がどのようなものだったか,特に遵守度(compliance)について述べたい。
介入試験において遵守度は,その「有効性」と「効果」の検証で非常に重要な要素である。
今回のメタ解析では7つの臨床試験が解析対象とされた が,7つの研究がそれぞれ遵守度のassessmentを行ったとしている。
しかし,遵守度の検討を行ったということは,遵守度が期待通りだったというわけではない。
例えば,減塩の指導が施されたグループにおいて,対照群と比較して,血圧が有意に下がれば,遵守度が保持されたといってよいのだろうか。
もちろん「ある程度」は認められ全否定することはできないが,実際に期待される遵守度だったか否かは分からない。
例えば,塩分摂取量が平均約10gの国民に対し,介入群には野菜・果物の摂取と5g未満の塩分摂取を指導し,対照群には野菜・果物の摂取のみを指導したとする。
そして,1年半後,収縮期血圧が対照群に比べて2mmHg有意に減少していたとする(P<0.01)。
この効果は,「5g未満の塩分摂取を指導した効果」ではあるが,「5g未満の塩分摂取を1年半続けた効果」ではない。
言い換えれば,「効果」を検討したもので「有効性」を検討したものではない。
この「効果」と「有効性」の違いに大きく寄与しているのが遵守の程度である。
これらの数字はTrials of Hypertension Prevention(TOHP)と呼ばれる臨床試験で実際に得られたものである。
この臨床試験は1年半の栄養指導の成果を見た後,10年強,両群を追跡し,心血管疾患(CVD)の罹患率および死亡率の違いを検証した。
その結果は今回のメタ解析にも含まれている。
この研究では,24時間蓄尿により塩分の摂取量を推定し(24時間分の尿を取りナトリウムの排出量を測定),遵守度を確認したとされている。
それによる と,1年半の介入試験後で減塩は4.7g未満には及ばず平均6.5gほど,さらにその介入試験を終えた後は,遵守度の確認は質問票への回答(減塩を心がけているかなど)でのみ行われた。
TOHPおよびその後に行われたTOHPⅡでは,研究に参加した人数が併せて3,000人ほどであった。
2年ごとに病気が発症したかどうか追跡したと論文の著者らは述べている。
1回質問票を郵送して回収するだけでも数十万円かかり,当然,人件費なども要する。
追跡期間中の生体指標の測定などの遵守度を検証するなど,相当の障壁があることは想像に難くない。
「減塩」の研究ではなく「減塩指導」の研究と考えるべき
今回のメタ解析に含められた7つの研究のうち,Changらの研究を除いた6つの研究が,栄養指導による減塩の介入を行っており,被験者の遵守を食事摂取の調査やナトリウム排出量などで確認している。
<私的コメント>
「減塩」の研究ではなく「減塩指導」の研究と考えるべき・・・このタイトルが今回、筆者がいいたいすべてだと私なりに考えました。

尿中ナトリウムの濃度は,病態などの個人因子によっても日によってもばらつきがあるため, 必ずしも信頼できるものではない。
その不確定性を考慮しても,すべての試験群において塩分の排出量が減っていることから,対照群に比べてある程度の指導の効果があったことが確認できる。
しかし,その排出量の程度を量的に解釈すれば,期待されるほどの遵守度ではなかったケースがほとんどであることが分かる。
実際には,食事指導を伴う研究の被験者は,減塩の介入試験と知りながら,食事調査,検尿などを行うため(盲検化されていない),遵守度の確認にもバイアス が伴う可能性が考えられる。
このことから,今回のメタ解析は「減塩」の研究ではなく「減塩指導」の研究と考えるべきだろう。
報告されたメタ解析は1つ1つの解析に寄与する研究の数が少ないばかりでなく,1つ1つの研究でも「有効性」を知るには重篤な限界があったことが分かる。
当然ながら,減塩の生物学的な価値を知るメタ解析とはいえない。
そして,あくまで栄養指導のエビデンスであるから,例えばフィンランドやイギリスが実践している食品中の塩分濃度を下げる政策に関して,有効な知見を与えることはない〔2つの異なる総説の1人は,今年(2011年)2月に訪日し,減塩政策に関する講演を行ったDr. MacGregor氏である。
減塩指導に対する遵守度を数字で確認すれば,行われたメタ解析から「減塩」の効果が検討されたわけではないことが明白である。
しかしながら,公に発信された情報の多くはあたかも減塩の効果がないことを示すかのようであった。
エビデンスの正しい解釈がなされなかったことに原因があるが,「効果」と 「有効性」の違いについて,抄録に明確に記載するべきだったといえるだろう。
台湾のChangらの研究の素晴らしさと問題点
今回のメタ解析に含まれた台湾におけるChangらによる研究は, 退役軍人(Veterans)の過ごす複数の施設のうち,3つのキッチンにある塩を通常のもの,2つのキッチンでは低ナトリウム高カリウムの塩(醤油などの調味料を除く)に替えて追跡研究を行った。
1カ月かけてゆっくり入れ替えていることはイギリスの減塩政策に類似している。
この研究デザインの素晴らしいところは,試験対象の施設に滞在している限り,減塩の影響に従わざるをえないという点である。
こうした研究デザインで記憶に新しいのはNew England Journal of Medicineに報告された減量の研究であろう。
イスラエルにおいて研究者と軍隊が協力し合い,軍隊のカフェテリアの食事をランダムに分け,栄養摂取のコントロールを行ったもので,減量の知見に大きく貢献した。
高い遵守度を長期間(2年)保持することができた特異な例である。
視野を広げれば,発展途上国などでも集団レベルで農業政策,ワクチンや栄養素の サプリメントの介入試験など,集団を対象にして臨床試験が古くから実践されている。
ものにもよるが,組織のディレクター,地域のリーダーから協力が得られれば,高い遵守度が期待できる。
Changらの研究の問題点の1つは,高い遵守度が期待できるものの,遵守度の確認が試験開始3カ月に限られたものであったことが挙げられる。
試験群において,ナトリウムとクレアチニンの比が15%低下が認められているので,約8.2gの摂取量であれば,約7.0gに減少したと考えることができる。
他の研究と同様,推奨される減塩のレベルからすれば軽度といえる。
これはキッチンに備えた塩以外に,醤油や漬物などの摂取がナトリウムの摂取に寄与していることが影響しているためである。
4年強の追跡で,試験群でCVDの死亡率が有意に低下したが,どれほどの塩分摂取量の低下によるものか分からない。
またもう1つの問題点は,減塩の介入として普通の食塩を低ナトリウム高カリウムの塩に置き換えたことも挙げられる。
いうまでもなく減塩はある程度達成されたとはいえ,カリウムの摂取量が増加しているため,減塩の効果なのかカリウムの摂取の効果なのか分かりえない。
減塩の介入試験としては非常に価値のある研究ではあるが,この研究からも減塩の推奨レベルの効果が検証できたとまではいえない。
比に頼ったエビデンスの解釈には注意が必要
ところで,近年,塩分の摂取に関する研究で,ナトリウムの摂取とカリウムの摂取の両方に着目し,その比を取って疾患の罹患率との関係を検証する研究が複数,報告されている。
先日のArchives of Internal Medicineの論文もその1つである。
こうした比を計算して解析する方法は,生物統計学の領域では批判の対象となっているが,医学界には浸透していない。
Changらの研究のように,ナトリウムによる影響なのか,カリウムによる影響なのか,判断できないことが批判の1つの理由である。
比に頼ったエビデンス は,ナトリウムの摂取低減に特化した減塩の政策などを考える際には,当然,エビデンスの抽出における弊害となるため,解析,報告,解釈において研究者や読者は気を付けなくてはならない。
栄養学的な側面に着目して,減塩のメタ解析を解釈すれば,遵守の程度や,研究デザインのばらつきから,減塩そのものの医学的なエビデンスは皆無といってよい。
今回の論文の著者らが述べているように,効果的な介入の方法を探る研究,そして実践とその評価が必要といえるだろう。
出典 MT Pro 2011.8.16
版権 メディカル・トリビューン社
<きょうの一曲> J.S.バッハ ゴールドベルグ変奏曲
Glenn Gould Goldberg Variations 1955 & 1981: Var 1
http://www.youtube.com/watch?v=QQk1bQPXbOE&feature=related
2011.8.13 撮影 果樹園(ブドウ畑) 山梨県笛吹市にて
読んでいただいて有り難うございます。
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