CKD患者でもLDL-c降下薬はイベントリスクを低減9000人超を対象とした無作為化試験SHARPの結果慢性腎臓病(CKD)患者にスタチンを投与すると、CKDではない患者と同様に心血管リスクが低下するのだろうか。この疑問に基づき無作為化試験を行った英Oxford大学のColin Baigent氏らは、進行したCKD患者にシンバスタチンとエゼチミブを投与してLDL-コレステロール(LDL-C)値を低下させる治療は安全で、アテローム性動脈硬化イベントを有意に減らせることを明らかにした。論文は、Lancet誌2011年6月25日号に掲載された。 腎疾患のない人々においては、スタチンを投与してLDL-C値を下げると心筋梗塞、虚血性脳卒中のリスクが低下し、冠動脈血行再建術の必要性も下がることが示されている。だが、心血管リスクが上昇している中等症から重症のCKD患者にも同様の利益が見られるかどうかは不明だった。 今回行われた二重盲検無作為化試験SHARPは、そうしたCKD患者に対するシンバスタチンとエゼチミブの併用の有効性と安全性を評価することを目的として行われた。 著者らは、腎機能が低下している患者に高用量のスタチンを投与すると筋障害リスクが上昇するという報告に基づき、低用量のスタチンでLDL-Cを約1mmol/L下げることを目標として、介入群にはシンバスタチン20mg/日とエゼチミブ10mg/日を併用した。心筋梗塞および冠動脈血行再建術を経験していない40歳以上のCKD患者で、これまでに検査で1回以上、血清クレアチニンまたは血漿クレアチニンが、男性で150μmol/L(1.7mg/dL )以上、女性では130μmol/L(1.5mg/dL)以上になった人々9270人(平均年齢62歳)を登録。うち3023人は維持透析を受けていた。この試験は当初、シンバスタチン+エゼチミブ、シンバスタチン、偽薬の3通りの治療に患者を割り付けたが、1年経過した時点でシンバスタチン群の患者をシンバスタチン+エゼチミブまたは偽薬に再割り付けしていた。結果的に、4650人がシンバスタチン+エゼチミブ(介入群)、4620人が偽薬(対照群)の投与を受けた。評価指標は初回の主要なアテローム性動脈硬化イベント(非致死的心筋梗塞、冠疾患死亡、非出血性脳卒中、あらゆる動脈血行再建術)とした。分析はintention-to-treatで行った。ベースラインで23%が糖尿病で、15%に狭心症、脳卒中、末梢血管疾患などの血管疾患歴があった。ベースラインのLDL-c値は2.8mmol/Lだった。追跡期間は4.9年(中央値)になった。 介入群で割り付け薬またはそれ以外のスタチンを使用していた患者は、1年目の終わりが77%。4年目の終わりは68%だった。対照群でスタチンを使用していた患者はそれぞれ3%と14%だった。割り付け後26〜31カ月では介入群71%と対照群9%で、この時点のLDL-C値は、介入群ではベースライン から1.00mmol/L低下、対照群では0.15mmol/L低下しており、両群間の差は0.85mmol/L(SEは0.02)だった。追跡期間中に主要なアテローム性動脈硬化イベントを経験したのは、介入群の526人(11.3%)と対照群の619人(13.4%)で、率比は 0.83(95%信頼区間0.74-0.94、ログランク検定のP=0.0021)となり、介入によるイベントリスクの17%減少が示された。主要な血管イベント(主要なアテローム性動脈硬化イベント+非冠動脈関連心臓死亡+出血性脳卒中)は、介入群701人(15.1%)と対照群814人(17.6%)に発生、率比は0.85(0.77-0.94、P=0.0012)になった。主要な冠動脈イベント(非致死的心筋梗塞または冠疾患死亡)は介入群213人(4.6%)と対照群230人(5.0%)で、率比は 0.92(0.76-1.11、P=0.37)。このうち非致死的心筋梗塞の率比は0.84(0.66-1.05、P=0.12)、冠疾患死亡は率比 1.01(0.75-1.35、P=0.95)で、いずれも有意差がなかった。介入群における非出血性脳卒中の率比は 0.75(0.60-0.94、P=0.01)、虚血性脳卒中の率比は0.72(0.57-0.92、P=0.0073)と有意なリスク低下を示した。出 血性脳卒中については率比1.21(0.78-1.86、P=0.4)で有意差はなかったが、あらゆるタイプの脳卒中は率比 0.81(0.66-0.99、P=0.04)で差は有意だった。動脈血行再建術施行も率比は0.79(0.68-0.93、P=0.036)で有意差を 示した。サブグループ解析でも、介入の影響は全体の分析結果と同様であることが示唆された。透析患者と透析を受けていない患者の間にも差は見られなかった。あらゆる重症度の筋障害はまれで、両群間の差は有意ではなかった。加えて、介入群に肝炎や胆石、癌のリスク上昇は認められなかった。非血管疾患による死亡リスクの上昇もなかった(介入群668人〔14.4%〕、対照群612人〔13.2%〕、P=0.13)。介入は腎疾患の進行には有意な影響を及ぼしていなかった。ベースラインで透析を受けていなかった6247人のうち、維持透析を開始、または腎移植を受けた患者は介入群33.9%と対照群34.6%で、率比は0.97(0.89-1.05、P=0.41)だった。広範な進行CKD患者へのシンバスタチンとエゼチミブの併用は安全にLDL-C値を低下させ、主要なアテローム性動脈硬化イベントのリスクを下げることが示された。 (大西淳子 医学ジャーナリスト)原文 The effects of lowering LDL cholesterol with simvastatin plus ezetimibe in patients with chronic kidney disease (Study of Heart and Renal Protection): a randomised placebo-controlled trialhttp://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2811%2960739-3/abstract 出典 NM online 2011.7.5版権 日経BP社
<私的コメント>
シンバスタチン(日本での商品名;リポバス)は米国ではZocor(Merck/Schering-Plough)として発売されており、FDAでは80mgまで認可されています。
しかし2010.3に、最大用量で横紋筋融解症の発症が多いという警告がFDAから出されました。 国内での最大使用量が20mgですから、80mgはかなりの高用量ということになります。
さて、今回の結果についてですが、意地悪く解釈すれば CKDという概念が、ある意味で否定されかねない結果ともいえます。
何故なら、CKDに一定の臨床的意味があるのならLDL−C降下剤が無効の方が好都合だからです。
発表者の初期の予想(期待)はどうだったのでしょうか。
「同様の利益が見られるかどうかは不明だった」だけでは面白くありません。
このあたりも発表者はきちんと考察に書いているのでしょうか。
いささか興味のあるところです。
また、シンバスタチンは脂溶性とはいえ一部に腎排泄もあるはずです。
CKD患者でシンバスタチンやエゼチミブの血中濃度が高かった(効果が出やすかった)ということはないのでしょうか。
ご存知のように、スタチンには水溶性と脂溶性の2種類があります。
水溶性はメバロチン、脂溶性はリポバス・リピトール・ローコール・リバロです。
肝細胞は、水溶性でも脂溶性でも細胞内に取り込みますが、肝臓以外の一般的な各種臓器・筋肉の細胞には脂溶性しか取り込みません(細胞膜は脂質でできている為、水溶性スタチンは通過しにくい)。
スタチンはコレステロールの合成阻害をすると同時にCoQ10の合成も阻害します。
このCoQ10はミトコンドリアでのATP産生に重要な補酵素として働きます。
生体内で一番ATPが作られ、消費される組織は筋肉です。
脂溶性スタチンは筋肉にも取り込まれCoQ10の合成が阻害されATP産生が抑えられる為に筋肉痛・筋炎・横紋筋融解症が起こる原因の一つと考えられています。
また、虚血性心疾患を持っている人が脂溶性スタチンを服用するとATP産生が抑えられ心臓のポンプ機能が低下する可能性があります。
高脂血症患者にスタチンを使用する最終目的は、血中コレステロールを下げることではなく、循環器疾患の危険因子である動脈硬化を防止し、虚血性心疾患の発生を予防することといえます。
しかし、血中コレステロールを下げることを目的にスタチンを使用すると心疾患を予防するという本来の目的を見失う可能性があります。
余談になりますが、スタチンによる筋肉痛に対してユビキノンを投与したところ2~3日で筋倦怠感は消失し、筋炎の再発が防止できたという報告もあるようです。
スタチン投与中に起こる筋肉症状にはノイキノン(ユビデカレノン・CoQ10)が有効かも知れません。
脂溶性スタチンにはノイキノンを併用、という考えはあるのでしょうか。
<参考>
水溶性と脂溶性スタチン
http://blog.livedoor.jp/ketamai/archives/51643092.html
http://blog.livedoor.jp/ketamai/archives/51643106.html
<関連サイト>ZETELD:スタチン+ゼチーア>スタチン増量http://intmed.exblog.jp/10065401/ゼチーア錠10mghttp://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2189018F1027_1_07/2189018F1027_1_07?view=body健康成人男性(外国人8例)に14C-エゼチミブカプセル20mgを単回投与したとき,投与後240時間までの放射能排泄率は糞中に78%,尿中に11%であった。
健康成人男性(各6例)に本剤10,20,40mgを単回投与したとき,投与後72時間までのエゼチミブ(非抱合体)としての尿中排泄率は0.05%未満であり,尿中総エゼチミブ(非抱合体+抱合体)排泄率は8.7%~11%であった。シンバスタチン 腎排泄 13%FDA Drug Safety Communication: Ongoing safety review of high-dose Zocor (simvastatin) and increased risk of muscle injuryhttp://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/PostmarketDrugSafetyInformationforPatientsandProviders/ucm204882.htm
<番外編>
エゼチミブに関しては、担当MRが「閉経後の女性には効果が低い」と言い切っていました。
そんなことは講演会でも聞いたことはありません。
添付文書にも出ていません。
その間の事情に詳しい先生には是非コメントをいただきたく思います。
<2011.7.7追加>
件のMRさんが今日の昼、別件で来院しました。
このこと(「閉経後の女性には効果が低い」件)を再度確認しました。
「閉経後でも肥満傾向の女性なら効果はある」という返事。
よく勉強しているMRさんなので、私は彼のいうことを信用していますが、一度関連した文献でも取り寄せようか、と思っているところです。
この論文( SHARP試験)についてはCare Net.comでも紹介されていました。
慢性腎臓病に対するLDL-C低下療法、動脈硬化イベントを低減
■慢性腎臓病は心血管疾患のリスクを増大させるが、その予防についてはほとんど検討されていない。
■スタチンを用いたLDLコレステロール(LDL-C)低下 療法は、非腎臓病患者では心筋梗塞、虚血性脳卒中、冠動脈血行再建術施行のリスクを低減させるが、中等度~重度の腎臓病がみられる患者に対する効果は明ら かではないという。
■ 著者は、「シンバスタチン20mg/日+エゼチミブ10mg/日は、進行性の慢性腎臓病を有する広範な患者において、高い安全性を保持しつつ主なアテロー ム性動脈硬化イベントの発生率を有意に抑制した」と結論し、「腎臓病のない集団と同様に、LDL-C値低下の絶対値に基づくイベント低下率は年齢、性別、 糖尿病、血管疾患の既往、脂質プロフィールにかかわらず同等であったことから、SHARP試験の結果は慢性腎臓病のほとんどの患者に適応可能と考えられ る」と指摘している。
http://www.carenet.com/news/det.php?nws_c=22665
があります。
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