HDLコレステロールは数値とは独立して、その働きが動脈硬化に関連するCholesterol efflux capacity, high-density lipoprotein function, and atherosclerosis Khera AV, et al.
N Engl J Med 2011; 364: 127-135 http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1001689Cholesterol Efflux Capacity, High-Density Lipoprotein Function ... In Fight Against Heart Disease, Cholesterol Efflux Capacity May Be ... 執筆:甲谷 友幸 先生 栃木県厚生連 下都賀総合病院循環器内科
監修:苅尾 七臣 先生 自治医科大学内科学講座循環器内科学部門 主任教授
<概要>
マクロファージからコレステロールを排出するコレステロールの逆転送系は、HDLコレステロールの抗動脈硬化の作用機序として考えられている。本研究は、 健常者203名、冠動脈造影により冠動脈疾患を認めた442例と認めなかった351例について、マクロファージからコレステロールを排出する能力 (cholesterol efflux capacity)を評価した。
cholesterol efflux capacityと頸動脈内膜中膜複合体厚(intima-media thickness:IMT)との間には有意な逆相関がみられ、HDLコレステロール値で補正しても同様であった。また、cholesterol efflux capacityは冠動脈疾患の有意な負の予測因子で(1SD上昇あたりのオッズ比0.70、95%CI 0.59~0.83、p<0.001)、HDLコレステロール値を補正しても同オッズ比は0.75(95%CI 0.63~0.90、p=0.002)であり、さらにアポリポ蛋白A-I値を補正しても同様であった(同オッズ比0.74、95%CI 0.61~0.89、p=0.002)。
さらに、少数例のサブ解析では、メタボリックシンドロームの患者で12週間のピオグリタゾン投与によりcholesterol efflux capacityの増強がみられたが(ベースラインとの比較:p=0.02、プラセボとの比較:p=0.04)、別の高脂血症の患者集団に対する16週間のスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)投与ではcholesterol efflux capacityの増強はみられなかった。
マクロファージからのcholesterol efflux capacityは、HDLコレステロール値とは独立してIMTや冠動脈疾患に強い負の関連を示すことが明らかにされた。 <なぜmust-readなのか> HDLコレステロールはマクロファージからコレステロールを排出し肝臓へ戻し、抗動脈硬化的に作用する。HDLコレステロールが「善玉コレステロール」と呼ばれる所以である。 低HDLコレステロール血症が心血管イベントに関連するのは周知の事実であるが、HDLコレステロール値を特異的に上昇させる試みは今までのところ困難であった。HDLコレステロール値を上昇させる薬剤として、コレステロールエステル転送蛋白(CETP)阻害薬が注目されているが[1]、2007年に CETP阻害薬(torcetrapib[開発中止])投与により心血管イベントがむしろ増加したというセンセーショナルな結果となった[2]。一方で、 開発中の新しいCETP阻害薬anacetrapibの第III相臨床試験における安全性が昨年(2010年)報告されている[3]。 本研究では、HDLコレステロール値とは独立して、cholesterol efflux capacityがIMTや冠動脈疾患に関連することが示された。また、HDLコレステロール値はIMTとは直接の相関はみられなかった。マクロファージからのコレステロールを排出させる能力は、生理学的にLDLやHDLコレステロールレベルよりも直接的に抗動脈硬化に働くことが予想できる。低HDLコレ ステロール血症に対しては、単純にHDLコレステロールを増やすだけではなく、マクロファージからのコレステロールを排出させる能力を高めることが重要である可能性があり、今後の低HDLコレステロール血症への介入研究、とくにCETP阻害薬の薬理作用にとっては、本研究の結果は重要であろう。 スタチンの心血管イベント抑制における貢献は誰しも認めるところであるが、本研究ではスタチンは(症例数は少ないものの)cholesterol efflux capacityを改善はさせなかった。コレステロール代謝系での新しい概念によって、さらなる心血管イベントの抑制につながるのではないかと期待を抱か せる論文である。 文献 1)Brousseau ME, et al. N Engl J Med 2004; 350: 1505-1515. 2)Barter PJ, et al. N Engl J Med 2007; 357: 2109-2122. 3)Cannon CP, et al. N Engl J Med 2010; 363: 2406-2415.<私的コメント>
cholesterol efflux capacity(マクロファージからコレステロールを排出する能力)はどのようにして評価するのでしょうか。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1001689#t=articleMethods
には以下のような説明がありました。
しかし、難しくて私にはよくわかりません。Assessment of Cholesterol Efflux Capacity
Cholesterol efflux capacity was quantified in blood samples from the cohort of healthy volunteers as described previously.This assay quantifies total efflux mediated by pathways of known relevance in cholesterol efflux from macrophages (i.e., ATP-binding cassette transporter A1 [ABCA1] and G1 [ABCG1], scavenger receptor B1, and aqueous diffusion).
Each sample was run in triplicate, with a mean coefficient of variation of 4.3%. Values were normalized by dividing the efflux capacity of individual patients by the efflux capacity of a serum pool run with each assay.
Cholesterol efflux capacity in the coronary disease and pharmacologic-study cohorts was quantified with the use of a slightly modified method designed to increase throughput. J774 cells, derived from a murine macrophage cell line, were plated and radiolabeled with 2 μCi of 3H-cholesterol per milliliter. ABCA1 was up-regulated by means of a 6-hour incubation with 0.3 mM 8-(4-chlorophenylthio)-cyclic AMP. Subsequently, efflux mediums containing 2.8% apolipoprotein B–depleted serum were added for 4 hours. All steps were performed in the presence of the acyl–coenzyme A:cholesterol acyltransferase inhibitor CP113,818 (2 μg per milliliter). In a pilot study involving serum samples from 20 healthy volunteers, results from the original assay procedure and the modified method were strongly correlated (r=0.85).
Liquid scintillation counting was used to quantify the efflux of radioactive cholesterol from the cells. The quantity of radioactive cholesterol incorporated into cellular lipids was calculated by means of isopropanol extraction of control wells not exposed to patient serum. Percent efflux was calculated by the following formula: [(microcuries of 3H-cholesterol in mediums containing 2.8% apolipoprotein B–depleted serum−microcuries of 3H-cholesterol in serum-free mediums)÷microcuries of 3H-cholesterol in cells extracted before the efflux step]×100. All assays were performed in duplicate. To correct for interassay variation across plates, a pooled serum control from five healthy volunteers was included on each plate, and values for serum samples from patients were normalized to this pooled value in subsequent analyses. Additional studies that were performed to validate the measurement of cholesterol efflux capacity are described in the Supplementary Appendix.Cholesterol Efflux Capacity and Atherosclerosis
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1001689#t=letters
(To the Editorを読むことが出来ます)
いずれにしろ、興味深い論文と思いました。HDLに関して測定値の高低だけで論じることが、これからは虚しくなりそうです。 読んでいただいて有り難うございます。コメントをお待ちしています。 その他「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/(循環器専門医向き)ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy(一般の方または患者さん向き) 井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~http://wellfrog4.exblog.jp/井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15http://wellfrog3.exblog.jp/井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~http://wellfrog2.exblog.jp/井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21 http://wellfrog.exblog.jp/ (内科医向き) 「井蛙」内科メモ帖 があります。
異所性脂質蓄積という概念 日本人ではBMIが30以上の肥満者の割合が欧米に比べて低いにもかかわらず,糖尿病の有病率は欧米とほぼ同程度であることが報告されている。近年では予防医学的な概念からメタボリックシンドロームが登場し,特に日本人では,軽度肥満の段階から内臓脂肪の軽減を目指した生活習慣の是正と医学的介入が必要とされている。 そこで最近,益崎教授らが注目しているのが「異所性脂質蓄積(図2)」という概念だ。人間には,有事に備えてエネルギーを体内に保存する機能が備わっているが,日本を含むアジア地域の肥満者では,欧米人に比べて皮下脂肪組織の蓄積能力が弱い。そのため,軽度肥満の状態から,内臓脂肪組織や肝臓,骨格筋,膵臓,血管など,本来は脂肪が蓄積しない部分にたまりやすくなり,これが全身・臓器レベルでの血管病リスクを高めるという概念だ。こうした異所性脂質の蓄積が起こる場合,通常体重に比べて,耐糖能異常や高血圧,脂質異常症などの発症リスクが2倍に増加する。
こうした余分な脂肪が蓄積する理由には,インスリン分泌過多が挙げられる。沖縄県で増加が問題視されている肥満2型糖尿病に見られるように,インスリン分泌が過剰にもかかわらず,血糖値が下がらないインスリン抵抗性が惹起され,高インスリン状態が続くと異所性の脂質蓄積が進行するという機序が考えられるという。 遺伝子操作により脂肪組織への中性脂肪備蓄能力を軽減した遺伝性の肥満db/dbマウスを軽度肥満とし,超肥満のdb/dbマウスと野生型マウスの代謝解析を比較したところ,軽度肥満マウスでは,超肥満マウスよりも脂肪肝が悪化しており,血糖値も著しく上昇していることが示されている(図3)。 こうした軽度肥満マウスでは,皮下脂肪組織に備蓄できない余剰脂質(エネルギー)が脂肪筋や脂肪肝,脂肪血管となって異所性に蓄積し,局所組織での機能障害や炎症,インスリン抵抗性を惹起すると考えられる。同教授は「これは日本人で起こりやすい現象であり,内臓脂肪型肥満は異所性脂質蓄積を伴っていることが多い」と指摘する。この改善には,食事や運動療法など生活習慣の是正により,骨格筋細胞内の脂質は大きく減少し,インスリン抵抗性が改善することに加えて,高インスリン状態を引き起こさない薬剤による治療も必要とされる。 
待たれるインクレチン関連薬のエビデンス 最近では,わが国でもジペプチジルペプチダーゼ(DPP)-4阻害薬やグルカゴン様ペプチド(GLP)-1受容体作動薬といったインクレチン関連薬が臨床導入され,糖尿病治療にも変化がもたらされている。益崎教授によると,先に述べた肥満2型糖尿病が増えている昨今では,必要なときに効果的なインスリンの分泌を促すコンセプトの薬剤が求められており,血糖依存的な作用を示すこれらの新規の薬剤は,食後高血糖の急峻な上昇を抑制し,血糖変動のきめ細かな正常化を目指すのに適した選択肢であるという。 一方,これらの薬剤には使用上,注意すべき点もある。スルホニル尿素(SU)薬との併用時の低血糖リスクの軽減に配慮する必要があること,また,インスリン依存状態にある患者に対しては,インスリンからの切り替えによる高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスのリスクに注意する必要がある。そのため,「個々の患者の状態に適した薬剤選択をしっかり考える必要がある」と同教授。 野出教授も,既存の薬剤とは異なる新しい機序を持ち,体重を増加させず,何より低血糖の頻度が少ないことからも,これらの薬剤への期待は大きいという。 また,GLP-1受容体は中枢神経系や胃,心臓,肺などに発現しており,血糖低下作用以外の臓器保護作用を持つ可能性も示唆されている。しかし,同教授は 「こうした新規の薬剤は今後,有効性と安全性のエビデンスを確立していくべき段階にある」と指摘する。そこで同教授らは,DPP-4阻害薬のシダグリプチンに着目し,同薬の血管障害に対する効果を検討するPROLOGUE研究を開始。現在,患者を登録中だ(図4)。同研究では,シダグリプチン投与群と非投与群で,頸動脈エコーを用いて頸動脈内膜中膜複合体厚(IMT)を測定し,動脈硬化進展抑制効果を比較するとともに,心血管機能や血液バイ オマーカーに及ぼす影響も検討する予定であるという。同研究をはじめインクレチン関連薬の,特に日本人におけるエビデンスの蓄積が待たれる。
出典 Medical Tribune 2011.7.21
版権 メディカル・トリビューン社
<関連サイト>
糖尿病と冠動脈
糖尿病 ~ 血管障害
Fourth movement
2011.7.18撮影 茅野・長野から眺望した八ヶ岳