スピロノラクトンについては、中等症〜重症(NYHA分類でクラスIIIまたはIV)の収縮期心不全患者の全死因死亡と心血管イベントによる入院を減らすとの報告があります。
エプレレノンも、左室収縮機能障害と心不全を合併した急性心不全患者の全死因死亡と心血管イベントによる入院のリスクを低減することが示されています。
こう したデータに基づき、中等症〜重症の慢性収縮期心不全患者と、心筋梗塞に心不全を合併した患者に対する鉱質コルチコイド受容体拮抗薬の投与が推奨されています。
2010年11月14日のNEJM誌電子版に、エプレレノンを、標準治療と共に軽症の慢性収縮期心不全患者に用いると、偽薬に比べ死亡リスクと入院リスクの有意な低減がみられることが明らかにされました。(EMPHASIS-HF)
<参考> NM online 2010.12.7きょうは慢性心不全治療の最新の知見について勉強しました。
エプレレノンやスピロノラクトンにエビデンス続々
軽症患者に対する予後改善効果への期待大アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬の効果が認められ始めたことで、慢性心不全の治療はここ10数年で大きく様変わりした。最近では、治療薬のラインナップに新たに加わったアルドステロン拮抗薬が、生命予後を改善するといったエビデンスも明らかになってきた。
2010年11月、標準治療を受けている軽症の慢性心不全患者にアルドステロン拮抗薬の一種であるエプレレノンを追加投与すると、プラセボ群に比べ死亡率と入院率が有意に低下することが、二重盲検無作為化比較試験EMPHASIS-HFの結果から明らかになった。
降圧薬として広がりつつあるアルドステロン拮抗薬は、主に副腎皮質で産生されるホルモンであるアルドステロンが、腎臓などに存在する鉱質コルチコイド受容体と結合するのをブロックする。これにより、降圧を促進するとともに、腎臓遠位尿細管からのナトリウムの再吸収と水の再吸収を抑制する。
ACE阻害薬やARBを長期投与されている心不全患者のうち、一度抑制されたアルドステロンの産生が再び亢進した状態(アルドステロンブレイクスルー)にある患者は1割以上、研究によっては約半分にも達しているといわれ、さらに予後不良であるとされる。心不全に対する詳細な作用機序は明らかになっていない が、アルドステロン拮抗薬にはこの状態を改善する効果があるとみられている。
冒頭で紹介したEMPHASIS-HFの対象は、55歳以上で、ニューヨーク心臓協会(NewYork Heart Association)による重症度分類(NYHA分類)でクラスII(表)に該当する比較的軽症の心不全患者。
標準治療として、ACE阻害薬とARB のいずれか、または両方とβ遮断薬を併用し、推奨される用量または最大耐用量が投与されていることを条件とした。エプレレノン投与群とプラセボ群で心血管死亡または心不全による入院の割合、全死因死亡の割合などを比較したところ、エプレレノン投与群の方が有意に少なかった(図1)。
図1 EMPHASIS-HFの結果(出典:N Engl J med 2011; 364: 11-21.)
対象は、55歳以上で、ニューヨーク心臓協会による重症度分類でクラスIIに該当する比較的軽症の心不全患者。左室駆出率(1回の拍動で心臓から送り出さ れる血液の割合。正常な左室駆出率は約60%)が30%以下か、または30%以上35%以下で心電図のQRS間隔が130m秒超であることを条件とした。
さらに、標準治療として、ACE阻害薬とARBのいずれか、または両方とβ遮断薬を併用し、推奨される用量または最大耐用量が投与されていることとした。
エプレレノンは、開始用量を25mg/日とし、最高50mg/日まで増量して投与。
その結果、心血管死亡または心不全による入院の割合は、エプレレノン投 与群で18.3%、プラセボ群で25.9%。
全死因死亡はエプレレノン投与群で12.5%、プラセボ群で15.5%だった。
心血管死亡はエプレレノン投与群で10.8%、プラセボ群で13.5%。
全死因死亡または心不全による入院の確率は、それぞれ19.8%と27.4%。
心不全による入院とすべての入 院も、エプレレノン投与群で有意に少なかった。
同試験は追跡期間の中央値が21カ月になった時点で、エプレレノンの優位性が明らかになったとして中止されている。
慈恵医大循環器内科主任教授の吉村道博氏は、「標準治療にエプレレノンを加えると、過去に報告のあった重症の慢性心不全群のみならず、軽症群においても死亡率が有意に低下したという同試験の結果は、非常にインパクトが大きい」と評価する。
北大循環器内科教授の筒井裕之氏は、「EMPHASIS-HF以前に行われた臨床試験RALESの対象は、軽い労作でも息切れや疲労感などの症状がある NYHA III度以上の重症な患者だった。エプレレノンは、外来患者のほとんどを占めるNYHA I〜II度といった比較的軽症の患者にも効果が期待できる」と話す。
米国では、エプレレノンは心筋梗塞後のうっ血性心不全の治療薬として既に使用されているが、日本での適応は高血圧症のみ。とはいえ、高血圧を合併した軽症の心不全患者には使用可能で、その意義は極めて高いといえそうだ。 現在、エプレレノンの心不全の適応取得に向けて治験が進められている。
国内でも予後改善効果認める研究
国内でも、アルドステロン拮抗薬の心不全への効果を検討した研究JCARE-CARDの結果が明らかになっている。使用されたのは、国内で唯一、心不全への適応があるスピロノラクトンだ。
慢性心不全の増悪により入院した患者2675人のうち、左室駆出率が40%以下の患者と弁膜症の患者を除外した946人を対象に、退院時にスピロノラク トンを投与していたかどうかで2群に分け、平均2.4年追跡した。その結果、スピロノラクトンを投与した群は、非投与群に比べ、全死亡リスクが約38%低 下し、心臓死のリスクも約48%低下していた(Am Heart J 2010; 160: 1156-62.)。
研究班の主要メン バーである北大循環器内科教授の筒井氏は、「RALESやEMPHASIS-HFのようなランダム化比較試験(RCT)は治療薬剤のエビデンスとして重要だが、合併症が少ない限られた患者が対象で、実臨床での患者像を必ずしも反映していないというデメリットがある。しかし、日本人患者を対象としたこの前向き観察研究の結果により、実臨床でもアルドステロン拮抗薬が慢性心不全患者の予後の改善に有効であることが分かった」と話す。
腎機能障害の患者に注意
慢性心不全治療において、エプレレノンやスピロノラクトンは、ACE阻害薬またはARB、β遮断薬といった既存のラインナップに追加投与される可能性が高そうだ。既存の利尿薬と入れ替えて使用する選択肢もあるが、「うっ血のコントロールにはフロセミドなどのループ利尿薬が効果が高いため、アルドステロン拮抗薬との併用を選択することが多い」(筒井氏)からだ。
副作用としては、まず注意すべきなのが高カリウム血症。エプレレノンに関しては、高血圧症を適応とした添付文書で、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者、クレアチニンクリアランス50mL/分未満の重度の腎障害の患者などは投与禁忌。心不全での適応が認められた場合にも、腎障害を持つ患者は、適応を慎重に判断する必要がありそうだ。
一方、スピロノラク トンも、高カリウム血症を誘発するリスクが高いことから、急性腎不全患者への投与は禁忌とされている。また、スピロノラクトンは鉱質コルチコイド受容体へ の選択性が低く、女性化乳房や月経異常といった内分泌系の副作用の発生頻度が少々高い。なお、エプレレノンはより選択的に鉱質コルチコイド受容体に結合するため、内分泌系の副作用の発生頻度は低いと考えられている。
注目される拡張不全型心不全
慢性心不全は、左室駆出率(EF)が低下する収縮不全型心不全と、EFの低下を認めない拡張不全型心不全に分けられる。
拡張不全型は、EFがほぼ正常値に 保たれているために見落とされがちだが、予後が不良で、薬物治療の効果があまり得られないことなどが複数の研究から示され、最近注目を集めている。
欧米では、拡張不全型の中でも、高血圧や心房細動などの合併症が影響しているとみられる患者が増えているとの報告がある。
また、国内の前向き観察研究 JCARE-CARDの対象となった慢性心不全患者の原因疾患においても、左室駆出率(EF)<40%と定義した収縮不全群では、虚血性心疾患と拡張型心 筋症が多くの割合を占め、EF≧50%と定義した拡張不全群では、高血圧が44%と最も多くを占めた(図2)。
高血圧が拡張不全型心不全のリスク因子である理由は明らかになっていないが、高血圧状態の持続により左室が肥大し、それにより左室の拡張機能障害が生じる ほか、血管抵抗性の増大、レニン・アンジオテンシン(RA)系や交感神経系の活性化など、様々な要因が関与して発症すると考えられている。
筒井氏は、「息切れ、呼吸困難、疲労感、むくみといった臨床症状のほか、高齢者(特に女性)、高血圧、心房細動などの既往が拡張不全型心不全のリスクファクターと考えられる。高血圧のコントロールを厳格に行うことが発症・重症化を防止する上で重要だ」と話す。
拡張不全型心不全は、息切れ、労作時呼吸困難、疲労感、むくみ、体重増加などの臨床症状が収縮不全型に比べて顕著でないことが多いため、疑わなければ診断できない。
「拡張不全型の場合、一見自覚症状がなくても、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を測定すると高値で、そこで拾い上げられるケースは少なくない。一般 的にBNP値が100pg/mLを超えると心不全の疑いが強いが、拡張不全型であれば80pg/mL程度でも心不全が疑われるので、診断に当たっては他疾 患の除外も含め注意が必要だ」と筒井氏は注意を促している。
最近では、海外、国内ともに、拡張不全型心不全患者を対象とした大規模臨床 試験が行われるようになってきた。
海外では現在、左室駆出率45%以上の拡張不全型心不全患者に対するスピロノラクトンの効果を検討するランダム化比較試 験TOPCATが行われている。
国内では、Ca拮抗薬であるニフェジピンが拡張不全型心不全患者の予後を改善するかどうかを検討する非盲検無作為化群間並 行比較試験DEMANDが10年から始まった。
11年末まで被験者を募集し、4年間のフォローアップが行われる予定だ。
出典 NM online 2011.2.16版権 日経BP社 <関連サイト> アルドステロン拮抗薬と重症心不全
http://blog.m3.com/reed/20090126/1アルドステロン拮抗薬と重症心不全
http://blog.m3.com/reed/20090108/1AHA 2010で発表のEMPHASIS-HF試験
http://blog.m3.com/reed/20101122/AHA_2010_EMPHASIS-HF_
アルドステロン拮抗薬と心不全
http://blog.m3.com/reed/20101209/1EMPHASIS-HF,「21カ月で終了」は妥当か
http://blog.m3.com/reed/20101226
その他 「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/ (循環器専門医向き)ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy(一般の方または患者さん向き) 井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~http://wellfrog4.exblog.jp/ 井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15http://wellfrog3.exblog.jp/井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~http://wellfrog2.exblog.jp/井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21 http://wellfrog.exblog.jp/ (内科医向き) 「井蛙」内科メモ帖 http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/ があります。
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