戯れ言たれる侏儒
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糖尿病とLDL-C/HDL-C

戯れ言たれる侏儒 / 2011.02.28 00:57 / 推薦数 : 0
糖尿病の早期動脈硬化をLDL-C/HDL-Cが鋭敏に予測
日本人2型糖尿病患者における早期の動脈硬化リスク予測には,LDLコレステロールとHDLコレステロールの比(LDL-C/HDL-C),および総コレステロールとHDL-Cの比(TC/HDL-C)が,簡便かつ鋭敏な指標となることを,大阪大学内分泌・代謝内科学の片上直人氏らが明らかにした。
LDL-C/HDL-Cは,LDL値よりも鋭敏に頸動脈プラークリスクを示し,LDL-C値が正常範囲でもこの比が1.79以上では,リスクが2倍以上に高まっていたという。
検討結果は,Atherosclerosis〔2011; 214(2): 442-447〕に掲載された。
 
LDL-C値だけでは難しい脂質異常の評価
血清脂質値そのものではなく,LDL-C/HDL-CやTC/HDL-C,トリグリセライド(TG)/HDL-C,あるいはTC値からHDL-C 値を引いた非HDL-C値の方が動脈硬化性疾患の評価に有用とする報告は,ここ数年,世界中で相次いでいる。
スタチン治療によってLDL-C/HDL-C が3.0から2.1に改善すると,プラーク面積が有意に退縮するとしたNichollsらによる報告(JAMA 2007; 297: 499-508)はその1つだ。
いずれも,診療ガイドラインに反映されるほどエビデンスが確立されたとはまだいえない段階だが,わが国においても,心血管疾患患者ではLDL-C高値は 必ずしも多くなく,むしろTGやアポリポ蛋白が高値で,HDL-C低値の方が多いといった指摘は以前からあり,LDL-C/HDL-Cや非HDL-C値の意義を確認する研究報告が待たれている。
「実際,LDL-C値をできるだけ低下させることが最も重要だという報告がある一方で,HDL-C値が低ければLDL-C値が正常であっても心血管イベン トリスクは上昇するともいわれている。とりわけ,糖尿病患者は非糖尿病患者に比べ,LDL-CだけでなくTGやVLDL,カイロミクロンレムナントといった脂質値の上昇,HDL-C値の低下が見られることが多く,脂質異常が及ぼす影響はLDL-C値だけでは評価できないのではないかという考えが以前から あった」と片上氏は背景を説明する。
研究では,LDL-C値正常範囲の検討も念頭に置いた。
日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは,糖尿病患者における一次予防のLDL- C目標値を120mg/dL未満,二次予防で100mg/dL未満としているが,欧米では糖尿病に他の危険因子がある場合,一次予防から100mg/dL 未満としているためだ。


非HDL-C値も早期動脈硬化リスク指標にならず
片上氏らが検討対象としたのは,明らかな動脈硬化のない2型糖尿病患者で脂質異常症治療薬非投与の934例(男性71.7%,平均年齢59.6歳)。
脂質パラメータの平均値はTC 187mg/dL,HDL-C 57mg/dL,LDL-C 108mg/dL,TG 115mg/dLだった。早期動脈硬化の指標である頸部内膜中膜複合体厚(IMT)は平均0.865mmで,頸動脈プラークは396例(42.4%)に認 められた。
単変量解析でIMTと各脂質パラメータの関連を検討したところ,HDL-C値やLDL-C/ HDL-C,TC/HDL-Cの3項目ではIMT上昇と有意な関連が認められたが,TC値やTG値,LDL-C値,非HDL-C値では関連が認められな かった。
多変量解析でも同じ3項目のみがIMT上昇の有意な因子だった。
TC/HDL-CおよびLDL-C/HDL-Cの上昇は,頸動脈プラークのリスク とも正相関しており(順にオッズ比1.34,1.54,ともにP<0.001),これら2つの比が早期動脈硬化の指標として有用と考えられた。
さらにLDL-C値およびLDL-C/HDL-Cを5分位に分けて,頸動脈プラークリスクとの関連を検討したところ,LDL-C値は多因子を調整すれば 有意な因子となるが,単独では関連しないことが分かった。
一方のLDL-C/HDL-Cは,多因子を調整しなくても3分位から有意にリスクが上昇していた ()。

 

図表
 
また,TG 400mg/dL以上の2例を除く932例のうち,現行ガイドラインで脂質異常はないと見なされる465例について,LDL-C値およびLDL-C /HDL-Cで3分位に分けて同様の検討を行ったところ,LDL-C/HDL-Cが1.79を超えると頸動脈プラークリスクが2.06倍に上昇することが 分かり,脂質異常がない患者についても再評価が必要な可能性が示唆された。

阪大大学院内分泌・代謝内科学 片上直人氏のコメント

脂質パラメータの比率が動脈硬化の指標になることは,推定されることではあるがまだ確立されたエビデンスはない。
今回の研究では,日本人2型糖尿病患者において,LDL-C/HDL-CとTC/HDL-Cが早期の動脈硬化に一番強く関連しており,TCなどに比べ鋭敏な予測マーカーとなることが分 かった。
特に,脂質異常のない患者でもLDL-C/HDL-CやTC/HDL-Cが2.0前後からリスクの上昇が認められたことは示唆的だ。
例えば,LDL-C値が119mg/dL,HDL-C値が40mg/dLの症例は,現行ガイドラインの管理目標を達成していることになるが,LDL-C /HDL-Cは3.0となる。
こうした症例のLDL-C/HDL-Cを2.0未満に管理することでIMTの進行が抑制されれば,大きな意義があるだろう。
今後さまざまな介入試験が行われることを期待したい。


 
 
紫山潟の白山  鬼頭鍋三郎  1963年作
 http://monta-alumi.cocolog-nifty.com/photos/meiga/img227.html
 
その他
「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/
(循環器専門医向き)
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
http://wellfrog4.exblog.jp/
 井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
http://wellfrog3.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
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(内科医向き)
「井蛙」内科メモ帖 
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/  
があります。   










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CTOの治療選択

戯れ言たれる侏儒 / 2011.02.27 00:20 / 推薦数 : 2
第24回日本冠疾患学会での合同シンポジウム「CTO治療を見直す」の記事で勉強しました。
 
CTOの治療選択
PCIの成功率上昇も現時点ではCABG優位

国内の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行数のうち慢性完全閉塞性病変(CTO)が占める割合は1割程度とされる。
デバイスや技術の進化か ら,PCIの手技的成功率はCTOに対しても8割程度と報告されているが,冠動脈バイパス術(CABG)では予後の改善までエビデンスとして確立されているのに対して,PCIでは長期成績でそれらが示されていないことから,欧州のガイドラインでは現在でもCABGが標準治療となっている。
東京都で開かれた第24回日本冠疾患学会(会長=東邦大学医療センター大森病院循環器内科・山崎純一教授,同院心臓血管外科・小山信彌教授)の合同シンポジウム「CTO治 療を見直す」〔座長=星総合病院(福島県)・木島幹博病院長,榊原記念病院(東京都)心臓血管外科・高梨秀一郎部長〕では,外科・内科医が集いCTOの治療戦略について報告した。
 
まずは外科側のCTOの治療戦略です。
外科
PCIでは高難度の病変,CABGでは最も高い開存率示す

京都府立医科大学大学院心臓血管外科学の夜久均教授は,外科の側から見たCTOの位置付けを整理した。
国内外の臨床成績から,CABGによるCTOへの良好な成績が示されており,昨年改訂された欧州のガイドラインにおいてもCTOにはCABGが推奨されているとした。

SYNTAXでCTOへのCABG優位な結果示される
CTOへのCABGによる血行再建術は,死亡率や主要脳・心・血管イベント(MACCE)リスクの低減効果が実証されている。

このCTOに対するPCI施行の特徴としては,表1のように,単純病変に比べて難易度が高く,施行時間が長くなることから,患者への負荷,さらに不成功の場合は予後の悪化が懸念される。
 
 
これに対して,CABGでは非CTOと技術的に変わりがなく,また,グラフト開存性は非CTOに比べてむしろ良好であることが明らかにされている。
実際に,欧州で行われたPCIとCABGのランダム化比較試験(RCT)SYNTAXの3年目の成績では,病変部位や狭窄度,分岐部の有無といった解剖学的重症度を表すSYNTAXスコアとPCI群のMACCE発生率が正の相関を示していたのに対して,CABG群ではむしろスコアが高い方でMACCE発 生率は低くなっていた。
SYNTAXスコア23以上では,両群間に有意差をもってCABGのMACCE発生リスクが低い結果が示されている。

 
高度狭窄病変では完全血行再建はほぼ100%
国内成績はどうか。
夜久教授は,自施設の単独CABGの長期追跡結果を解析し,CTOの成績を概観した。
1998~2009年に同施設でCABGが行われたのは1,023件で,そのうち約6割の671例は治療後早期に血管造影が施行されており,6カ月以降に実施された症例も395例あった。
病変タイプの傾向としては,単独病変が減少傾向にあり,複合病変の割合が近年増加してきていた。
病変タイプと吻合領域から見た開存率を比較検討すると, 左冠動脈前下行枝(LAD)のCTO病変が遠隔成績も含めて100%と最も良好な成績であった。
他領域も含めたCTO病変全体の遠隔期開存率は91.2% であるが,同教授は「多枝病変で複数のグラフトを使用する場合,優先順位が下がる右冠動脈に静脈グラフトが使用された点などが影響している」と分析した。
なお,昨年秋に改訂された欧州心臓学会(ESC)冠血行再建術ガイドラインでは,複雑血管病変の治療指針はCABGがクラスⅠの推奨度となっているのに対し,PCIは「エビデンスや一般的な意見で有用性が否定され,時には有害である」とするクラスⅢとなっている(表2)。
これらは最も高いエビデンスレベルによって支持されている。
 
 
また,同ガイドラインではCTOへのPCI施行は,経験豊富な術者がおり,心臓外科手術が実施できる施設に限定している。
循環器内科医・インターベンショニスト・外科医によるハートチームでの安全性と有効性を熟慮した上での治療選択の重要性についても言及している。
同教授は「90%以上の高度狭窄で質の良い動脈グラフト選択が可能であれば,CABGではほぼ100%の割合で長期開存率が望める」と強調し,外科内科合同のハートチームで,治療選択を考えていくべきであると述べた。


外科
PCIの症例選択は慎重に

冠血行再建術の治療選択決定は,内科・外科合同のディスカッションによって決められることが望ましいが,国内ではいまだ循環器内科がゲートキー パーとなる場合が多いのが現状だ。
東京医科歯科大学大学院心臓血管外科の荒井裕国教授は,治療選択が適切に行われていなかったために,患者の予後が悪化す る恐れもあることを指摘し,CTOへのPCI選択は慎重に行うべきであると強調した。
重症例へのCABGが非重症例へのPCIより予後良好
荒井教授はまず,2007~09年に同大学で実施された冠血行再建術のうち,CTOを含む単独CABG,PCI施行例を後ろ向きに解析した()。

 
 
患者背景は,CABG実施患者の重症度が高かったものの,CABGの方が高率に完全血行再建されていた。
また,CABGのグラフト閉塞は静脈グラフトを用 いた1件のみで,動脈グラフトを用いたCABGでは全例開存していた。
MACCE発生リスクも,PCI群の発生率は39.9%とCABG群の14.8%に 比べて高かった。
同教授は,この結果がSYNTAXのレジストリーアームと同様であった点を指摘。
SYNTAXのレジストリーアームにはRCTの対象とならない重症例が 含まれており,PCI群には合併症や適切なグラフトがないためにCABGが実施できなかった患者が,CABG群にはPCIが不可能な複雑病変やCTOの患 者が含まれていた。
このような患者背景についても,同大学の検討と一貫性のある結果であったと説明した。                              
強行なPCI選択がCABGにも影響
次に荒井教授は,解剖学的難易度の高いCTO病変に対してPCIが選択された症例を提示し,CTOへの冠血行再建術について慎重な治療選択を喚起した。

1例目は,胸痛で受診した際に多枝に狭窄が認められたが,薬物治療によって経過観察されていた58歳の症例だった。
5年後に再び狭心症を発症し,右冠動 脈にCTOが認められたため順行性アプローチでPCIが施行されたが不成功に終わった。
後日,逆行性アプローチで再施行されたが,その際にLADの中隔穿 通域で完全閉塞となり,左室不全に陥ってしまったが,この段階で外科に紹介されてきたという。患者はPCI施行ごとに自覚症状がより悪化していき,外科手 術を経てようやく「PCIを実施する前の状態に戻った」と訴えたという。
2例目は,透析歴5年,糖尿病や閉塞性動脈硬化症の合併もあり,SYNTAXスコア45と解剖学的にもPCIでは難易度が高い65歳の症例。
CTOを含 み計11本のステントが5回のPCIで留置されるも血行再建が得られずに外科に紹介されてきた。
外科手術の際には,良好なグラフトが得られず非常に難渋し たという。
同教授は「グラフトの質と吻合部位の確保がCABGの生命線」と強調。
不適切な治療選択は,PCIによる血行再建が得られないだけでなく,その 後に行われることになるCABGの治療の質も下げると指摘した。
最後に,同教授は「PCIは標的血管に介入するのに対してバイパス術は全体の血流を修復するものであり,戦略が全く違う。CTOへのオフポンプCABGは安全性が高く,遠隔期まで高い心臓保護効果が得られる」と締めくくった。
 
次に内科側のCTOの治療戦略です。

内科
逆行性アプローチで手技的成功率は上昇
PCIにおいてCTOが高難度の病変である背景には,血管が完全に閉塞されているため,術者が血管内の走行を確認できない点が挙げられる。
しかし,薬物溶出ステント(DES)の登場やCTOへの手法の確立などから,近年,手技的成功率は向上してきている。
北海道社会保険病院心臓血管センターの五 十嵐康己部長は, 2009年の多施設後ろ向きデータから,「逆行性アプローチが採用されるようになったことで手技的成功率は上昇してきている」と報告した。

新たなアプローチ法を模索する動き
五十嵐部長はまず,国内の調査結果から,CTOの中でも特に
(1)屈曲した血管
(2)石灰化が強い病変
(3)収縮した血管
—の場合に成功率が低くなると説明した。
しかし近年,冠動脈CTの精度が向上し,CTO内部の情報が得られるようになった点や,CTOに対して手技的な限界があった順行性アプローチに加えて逆行性アプローチを採用するようになったため,成功率は向上してきているという。
一方で,逆行性アプローチはワイヤによる穿孔,破裂や側枝の動脈の傷害など,特徴的な合併リスクも高いという。
国内第一人者によるCTOへのPCI症例224例が検討されたCART Registryでは,手技的成功率が92%で死亡は1例のみ, MACCEの発生率も4例のみ(1.8%)という良好な成績が示された(JACC Interv 2009; 2: 1135-1141)。

そこで,このような良好な成績がより多くの術者を含む検討でも得られるかどうかが,より大規模なレジストリー調査によって調べられた。
 
多施設の検討でも84%の手技的成功率
調査には国内27施設が参加し,2009年に行われた待機的PCIの1万4,381件が登録された。

そのうちCTOは1,542件あり,全体の約1割を 占めた。このCTOのうち,逆行性アプローチで行われたのは378件あった。
また, PCI施行が2回目以降だったCTOは3割超を占めた。
病変部位については右冠動脈が6割,左前下行枝が3割で左冠動脈主幹部は1.3%だった。
その結果,手技的成功率は84.1%で心血管死は0,Q波心筋梗塞が1例のみと重篤な合併症はほとんど見られなかった。
しかし,造影剤の使用量は 315mL,施行時間は3時間20分と,通常のPCIよりもそれぞれ多くなっていた。
また,経過を詳細に見ると,ガイドワイヤが通過した症例は8割,カ テーテルも通過した症例は7割で,手技的成功率84.1%のうち14%程度は逆行性アプローチから順行性アプローチに移行しての成功例であったことが分かった。
以上の結果から,五十嵐部長はCTOの手技的成功率は高くはなってきているものの,逆行性アプローチなどにはまだ課題が残されているとした。
一方で,このレジストリー調査後にCTOの逆行性アプローチに適したデバイスが登場していることを紹介。
PCIによるCTOの治療成績は,この2009年データから飛躍的に向上する可能性があると期待を示した。

 
3施設からPCIの成績を報告
現在日本で実施されているPCIのうち,CTOが占める割合は1割程度といわれている。
その治療戦略方針や戦略は施設によって異なる。
同シンポジウムでは,3施設からCTOの治療成績が報告された。

長期開存率では非CTOよりCTOで有意に劣る
埼玉県立循環器呼吸器病センター循環器科の武藤誠部長は,わが国で最初に登場したDESであるシロリムス溶出ステント(SES)を用いて行われたCTOへのPCIの中長期成績を報告した。

検討の対象は80歳未満の待機的施行症例で,2004~07年にPCIが施行された病変。再試行病変の場合は除かれ,1,097例1,455病変が登録された。
そのうち,血管造影による診断は,施行後8カ月以降に全体の83%が受けていた。
CTOが151病変と非CTOが1,291病変あった。
CTOと非CTOについて比較したところ,CTOは心筋梗塞既往が多く,ステント長,ステント数も有意に増大していた。
一方,分岐部や入口部,および石灰化病変は有意に少なかった。
臨床結果については,標的血管不良回避率が非CTO群と比べてCTO群で有意に高く,非CTO群5.7%(追跡期間1,424日)に対してCTO群 14.6%(同1,318日)だった。
また,約1年半後の50%超再狭窄回避率は,非CTO 12.1%に対してCTO 24.0%とやはりCTO病変で有意に多かった。
これらの結果から,同部長は,SESによるCTOへの長期的な有効性においては懸念があり,他のDESやCABGとの比較検証が必要とまとめた。                              
手技的成功率は上昇も再狭窄の課題残る
昭和大学内科学循環器内科部門の濱崎裕司講師は,DESが登場し,レトログレードアプローチも導入されるようになった近年のCTO成績を報告した。

まず,2006~10年に同科で施行されたCTOへのPCI症例174例について検証したところ,初回成功は158例で90.8%だった。
不成功例のう ち7例は再試行され,6例が成功したため,最終的な成功率は94.3%だった。
そのうち,直近1年間に絞って52例を検証すると,初回成功率は94.2% となっており,初回不成功例で成功した症例を合わせると,最終的な成功率は96.2%にまで向上した。
一方,再狭窄や閉塞率を検討したところ,再狭窄率は22.3%,閉塞率は8.3%となっていた。
ベアメタルステント(BMS)よりもDESで再狭窄率は 低下していたが,DESでも20%弱の再狭窄率が確認された。
また,再血行再建術の施行率は32.4%だったが,このうち再血行再建が行われたのは57% だった。
以上の結果から,同講師は,CTOに対するPCIはデバイスの改良や手技の改善で高い手技的成功率が期待できる一方,DESの登場によってもCTOにおける再狭窄の問題は残されているとした。
成功例に限定すれば非CTOとそん色ない慢性成績
心臓血管研究所病院(東京都)からは,循環器科の船田竜一氏が報告した。同院はCTOへのPCIは患者背景や心機能情報から心筋バイアビリティがある場合とされており,その治療戦略は順行性アプローチが基本であるが,ワイヤ通過が困難な症例は逆行性アプローチへの移行を検討し,診断造影により順行性から のワイヤが通過困難と予測されるような症例に対しては,初めから逆行性アプローチを検討することもあるとしている。

同院でのCTOに対するPCIの初期成功率は2009年で85%と上昇傾向にある。
同氏は今回,DES留置が成功したCTOと非CTOの患者の遠隔期成績を比較検討した。
対象は2004年5月~10年6月に施行したCTO 198例(260病変)と非CTO 1,106例(2,788病変)で,患者背景としては男性の割合がCTO群で有意に多くなっていた。
病変背景についてはCTO群では左冠動脈前下行枝病変 が少なく,右冠動脈病変が多かった。ステント長はCTO群で有意に長かった。
施行後6年間の遠隔成績については,心血管死がCTO群0.5%に対して非CTO群1.5%,再血行再建率はCTO群7.3%に対して非CTO群 6.1%で,有意差は認められなかった。同氏は,CTOの手技成功率向上の鍵として「診断造影の適切な読影により順行性か逆行性アプローチを選択する」点 を挙げ,慢性期治療成績が非CTO病変と同等であることからも,「安全性が担保できればCTOのPCI治療は臨床的意義がある」とまとめた。


高度狭窄病変への逆行性アプローチに適したデバイスが登場
CTOなどの高度狭窄病変では,狭窄部位や蛇行した血管に対するガイドワイヤの通過性および操作性の維持が求められる。
2010年1月に上市されたASAHI Corsair(アサヒコルセア)は,このような高度狭窄病変に対してガイドワイヤの操作性を維持することを念頭に,従来のカテーテルよりも柔軟な先端チップが取り入れられ,屈曲部への追従性が増した。
視認性も向上したため,選択的な造影や手技時間短縮に貢献すると期待されている。
五十嵐部長は,このデバイスの登場により,CTOの治療成績が飛躍的に向上する可能性があるとしている。
 
 
 
出典 MT pro 2011.2.17                                       版権 メディカル・トリビューン社
 

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2型糖尿病における脳・心・腎イベント抑制のためのアプローチについて,スタチン治療の重要性に焦点を当てた討議の記事で勉強しました。
 
 
糖尿病患者は,冠動脈疾患(CHD)や脳卒中などの脳・心血管イベントの発症率が高く,LDLコレステロール(LDL-C)は重要なリスク因子の1つであることから,適切な脂質管理が極めて重要である。
LDL-C低下作用に優れるアトルバスタチン(リピトール®)は,大規模臨床試験により糖尿病患者を対象に,近年,脳・心イベント抑制および腎保護作用が検討されてきた。

 

2型糖尿病における脳・心・腎イベント抑制のためのアプローチ     ースタチン治療の重要性ー
日本で増加する糖尿病および糖尿病性腎症
小田原 
本日は,2型糖尿病における脳・心・腎イベント抑制のためのアプローチと題して,糖尿病を合併した高コレステロール血症患者に対するスタチン治療の重要性についてディスカッションしていきたいと思います。
最初に日本の糖尿病および糖尿病性腎症の実態についてご紹介させていただきま す。
 
日本の糖尿病患者は増加の一途をたどっており,その数は2007年時点で890万人,耐糖能異常や空腹時高血糖を含めると2,210万人に達すると報告されています。
また,透析患者も年々増加傾向にあり,その原疾患は1998年以降,糖尿病性腎症が慢性糸球体腎炎を抜いて第一位となっています(図1)。



 

糖尿病患者はCHDや脳血管疾患などの大血管合併症のリスクが高いこともよく知られています。
わが国では従来,欧米に比べてCHDの発症率が低いといわれてきましたが,国内の2型糖尿病に対する大規模介入試験JDCS(Japan Diabetes Complications Study)によると,糖尿病患者は日本人の一般的傾向と異なり,脳卒中よりもCHDの合併率が高くなっています()。



Betteridge 
糖尿病患者におけるCHDの最大のリスク因子はLDL-CであることがUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)をはじめとする疫学研究で明らかにされています。
特に糖尿病患者は,動脈硬化惹起性の強いsmall dense LDLの増加が特徴的であり,さらに血管内皮機能の低下など動脈硬化の進展しやすい基盤を有しています。
したがって,糖尿病においてはLDL-Cを適切に管理することが極めて重要と考えられます。
 
 
糖尿病患者の脂質管理に対するスタチン治療のエビデンス:早期介入が重要
小田原 
近年,糖尿病患者の心血管イベント一次予防または二次予防におけるスタチンの有用性がさまざまな大規模臨床試験で検討されています。
中でも代表的なものが,Betteridge先生らにより行われたCARDS(Collaborative AtoRvastatin Diabetes Study)試験です。
 
Betteridge 
CARDSは,スタチンで初めて2型糖尿病患者のみを対象としてアトルバスタチンの一次予防効果を検討した試験です。
心血管イベントの既往歴がなく,LDL-C 160mg/dL以下のリスク因子を有する2型糖尿病患者2,838例をアトルバスタチン10mg群またはプラセボ群のいずれかに割り付け,脳卒中を含む主要心血管イベント発症抑制を検討しました。
小田原 
さらに,スタチンは糖尿病患者の腎機能に好影響をもたらす可能性も示唆されていますね。
 
Betteridge 
CARDSにはステージ3の慢性腎臓病(CKD)患者が34%,アルブミン尿を有する患者が21.5%含まれていました。
そこでわれわれはCARDSのサブ解析として,CKD合併/非合併例において,心血管イベントの抑制効果に加えて,推算糸球体濾過量(eGFR)に 対する影響,特にアルブミン尿の有無別にeGFRに対する影響を検討しました。
糖尿病患者の腎機能に対するアトルバスタチンの影響を見た試験としては,ほかにTNT(Treating to New Targets)のサブ解析があり,CKD合併/非合併例においてeGFRに対する影響が検討されています。
しかし,スタチンはすべての糖尿病患者に対してベネフィットをもたらすわけではありません。
糖尿病患者に対するスタチン治療は,軽症~中等症のCKD合 併例には有用でも,透析を必要とするような末期腎不全に至ってからでは手遅れと考えられます。
おそらく,透析患者は血管石灰化,心肥大,心筋繊維化などのさまざまな危険因子を有するため,脂質異常を是正するだけでは予後改善効果が得られにくいのでしょう。
 
小田原 糖尿病患者の脂質管理は,手遅れにならないよう早期からスタチン治療を開始することが重要といえますね。

 

 

アトルバスタチンに見られる早期効果
小田原 
アトルバスタチンは,急性冠症候群(ACS)を対象とした大規模臨床試験において,早期からの心血管イベント抑制作用の発現が検討されていますね。

Betteridge (アトルバスタチンの早期効果について)
MIRACL(Myo-cardial Ischemia Reduction with Aggressive Cholesterol Lowering)やその後のPROVE IT-TIMI22(Pravastatin or Atorvastatin Evaluation and Infection Therapy-Thrombolysis in Myocardial Infarction 22)では,ACSに対するアトルバスタチンを用いた数カ月の積極的脂質低下療法による心血管保護作用が検討されています。
同様の早期効果はCARDSでも検討されています。
 
小田原 
スタチンの早期効果はクラスエフェクトと考えてよいのでしょうか。
 
Betteridge 
とても興味深い問題です。
早期効果については,スタチンによって異なる研究が示されていますので,スタチンの種類によって特異的である可能性もあります。
 
小田原 
その機序についてはいかがですか。
 
Betteridge 
かつて家族性高コレステロール血症の治療として行われていた部分的回腸バイパス術などの外科的療法では,早期からのベネフィットは認められませんでした。
したがって,早期効果の発現にはLDL-C低下以外のなんらかの作用が関与していると考えられます。
 
平野 
その候補の1つに,抗炎症作用が考えられます。例えばアトルバスタチンは,炎症マーカーであるCRPを著明に低下させます。
ただしCRPはLDL-C低下作用を介しても改善されるため,多面的作用の良い指標とはならないのが難点です。

 

 

腎保護におけるスタチンの多面的作用
小田原 
スタチンにはLDL-C低下作用に加えて,抗酸化,抗炎症,血管内皮機能改善などの多面的作用があることも知られています。
 
平野 (スタチンの腎保護作用の機序)
コレステロール値と腎機能低下の間には相関関係があり(図2),LDL-Cの低下は腎障害の改善をもたらすことが知ら れています。
しかし,スタチンの腎保護に多面的作用が関与しているか否かは明らかにされていません。
そこでわれわれは,スタチンによるLDL-C低下作用 が認められない動物種であるラットを用いて,多面的作用を介した腎保護について検討しました。

 
 

5/6腎摘により作製したCKDモデルラットに高コレステロール食を負荷すると,著明なコレステロール値の上昇と腎障害が認められました。
このラットに スタチンを投与した結果,コレステロール値の低下を来すことなく,クレアチニンクリアランスの上昇ならびに尿蛋白の減少が見られ,腎組織ではマクロファー ジ浸潤や脂質沈着が抑制されて糸球体硬化および間質繊維化が改善されました。
以上の知見から,スタチンの腎保護作用には,LDL-C低下作用と多面的作用の双方が関与していると考えられます。

 

糖尿病合併高コレステロール血症患者ではスタチンによる厳格なLDL-C管理を
小田原 
糖尿病患者に対する脂質管理には,スタチンによる治療が必要と考えられますね。
 
Betteridge
糖尿病患者におけるLDL-C管理の在り方
おっしゃる通りです。
特にメタボリックシンドロームを合併している糖尿病患者の脂質管理に対しては,スタチンの使用が推奨されます。

平野 
通常の2型糖尿病患者に加えて,アルブミン尿を有する2型糖尿病患者の脂質管理に対するスタチン治療は必要でしょうか。

Betteridge 
もちろんです。
ほかに細小血管病変を有する患者,透析導入に至っていないGFR高度低下例に対する脂質管理も,スタチン治療の対象になると思います。

Betteridge (
LDL-Cをどこまで下げるか)
英国では糖尿病患者のLDL-C管理目標値は2mmol/L(約80mg/dL)です。
ただし個人的には,二次予防の場合はLDL-C低下率50%あるいは70mg/dL以下を目標とするのが望ましいと考えています。
 
小田原 
最近,Sattarらは13件のさまざまなスタチンの大規模臨床試験に関して,スタチン治療による糖尿病の新規発症リスクを検討したメタ解析を報告しています。
 
Betteridge 
同研究では,255例に対して4年間スタチン治療を行った場合の糖尿病の発症について検討されています。
しかし,ス タチンの心血管イベント抑制作用と比較すれば,糖尿病発症のリスクは高くありません。
したがって,心血管リスクの高い患者に対する脂質管理には,従来通り スタチンを使用するのが望ましいと考えます。
 
また,この問題にはスタチンの用量も関係していると思います。
実際,CARDSでは,アトルバスタチン10mg/日が耐糖能に対して悪影響を与えないこ とを検討しています。
そのため,低用量のスタチンを使用している日本では,耐糖能への影響についてはそれほど考慮しなくてもよいと考えます。
 
小田原 
少なくとも現時点では,糖尿病の悪化を理由にスタチン治療を控える必要はなく,それを上回るベネフィットが期待できるということですね。

 
出典 Medical Tribune  2011.2.17
版権 メディカル・トリビューン社

 

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遺伝子マーカーの有用性を疑問視
19件の研究の遺伝子解析で関連認められず

これまでの研究で,キネシン様蛋白質(KIF)6における特定の遺伝子多型が,冠動脈疾患(CAD)の予測因子であることが示唆されている。
しかし,スタンフォード大学心血管医学科のThemistocles L. Assimes助教授らが,19件の症例対照研究に登録されたCAD患者のデータを解析したところ,同多型とCADとの関連は認められなかった。
詳細はJournal of the American College of Cardiology(2010; 56: 1552-1563)に発表された。

今回の知見は,アテローム動脈硬化の遺伝的リスクを評価する主要なアッセイの有用性を疑問視するものである。

多型保有によるCADリスク増大はない
Assimes助教授らは今回,CAD患者1万7,000例と対照3万9,369例のデータを解析し,KIF6遺伝子におけるTrp719Arg多型の保有がCADリスク増大の指標となるか否かについて検証した。
その結果,同遺伝子多型とCADとの間に関連は認められなかった。
研究責任者で,同大学同学科のThomas Quertermous教授は「今回の知見は,これまでに展開されてきたTrp719Arg多型の保有とCADリスク増大との関連をめぐる議論の最終結論 といえる。今回の研究は極めて大規模なものであったため,同多型とCADとの間に有意な関連性が存在していれば,検出されていたはずである」と述べている。

筆頭研究者のAssimes助教授も「KIF6遺伝子多型に関するこれまでの研究は規模が小さかったため,結論を導き出すには不十分であった」としている。
これら初期の研究では多型を保有することによるリスクの増大は22~55%とされていたが,「今回の研究では,欧州起源の人種ではリスク増大の可能性 がほとんどゼロに近く,最大に見積もってもせいぜい2%程度であることが示された」と述べている。
 
今回の研究では,CAD患者群と対照群の“遺伝的指紋”の検査データを世界中の研究グループから収集した。
ほとんどは欧州起源の人種のデータで,非欧州系人種のデータは少なかったが,後者でも関連は認められなかった。
 
今回の研究には科学者や臨床医,行政関係者など130人超が携わっており,研究機関としては欧州と北米の70を超える施設が参加した。
 
今回の知見は,KIF6遺伝子における特定の多型の保有を理由に心筋梗塞リスクを指摘された患者にとって朗報である。
Quertermous教授は「遺伝子検査の結果について,それほど心配する必要はない。特定の多型の保有のみを理由に薬物療法を受けている患者は,服薬の必要性について再検討するよう主 治医に相談すべきである」としている。
 
遺伝子マーカーの臨床応用は慎重に
なお,今回の知見からは,KIF6遺伝子におけるTrp719Arg多型の有無によって,スタチン系薬に対する患者の反応性を判定できるか否かに関しては,それを検討するためにデザインされた研究ではないため肯定も否定もできないという。
 
Assimes助教授は「KIF6多型保有者でスタチン系薬に対する反応性が高いことを最初に示した観察研究は,同薬を服用していない同多型の保有者で は非保有者と比べCADリスクが著明に高いという前提に基づいて行われた。
したがって,今回の知見を考慮すると,同マーカーのスタチン系薬に対する反応性 を予測する能力にも疑問が残る」と指摘。
 
「この問題を直接検討する大規模な試験が実施されるまで,わたしの場合は遺伝子検査で同多型を保有していなかった という理由でスタチン系薬処方をやめない」としている。
 
遺伝子解析の分野で20年以上研究を続けてきたQuertermous教授は「今回の研究が投げかける大きなメッセージは,遺伝子マーカーを用いて医療指針を立てる際には,より慎重な姿勢が必要であるということだ」と指摘している。
 
同教授は「10年前のヒトゲノム配列の解読後に蓄積されてきたヒト遺伝子情報を活用したいという研究者の欲求は理解できる。
それはわたし自身も長年待ち 続けてきたものだからだ」とした上で,「こうした欲求の裏には,コレステロール高値や喫煙,糖尿病,高血圧など既知のアテローム動脈硬化危険因子で は,CAD発症率の個体差を半分ほどしか説明できないことが関係していると考えられる。疾患発症に重要な遺伝子やその近傍にある遺伝子における先天的な多 型と,他の未確認の有害な環境因子を組み合わせることにより,リスクの個体差を説明できると期待されている」と説明している。
 
Assimes助教授は「CAD発症の予測精度を向上させるために遺伝学の活用が特に重要である理由は,心筋梗塞リスクの低下に有効な薬剤には異なる複数のクラスが存在するためである。しかし,実臨床への適用には慎重な姿勢が求められる。これまでの経験から,遺伝子多型とCADなどの一般的な疾患の間の正相関については,大規模人口で一貫して観察されない限り信用できないと感じている」と述べている。
 
この点について,Quertermous教授も「既に相関の検証が終わっている遺伝子マーカーは10個以上あるが,これらについても臨床応用を支持する エビデンスは不足している」と指摘する一方で,「近い将来,より多くの遺伝子マーカーが発見されれば,この状況は変化していくだろう」と今後の研究に期待を寄せている。

 
出典  MT Pro 2011.2.24
版権  メディカルトリビューン社 
 
<関連サイト>

What is KIF6?
http://elcamino.dnadirect.com/content/kif6-for-statins/patient-articles/index.html
■KIF6 is a gene. Its job is to make a protein involved in moving things around inside a cell. In 2008, a group of researchers found that a very common variation in the KIF6 gene seems to increase a person's chance for heart disease. The reason for the increased risk isn't known.

 
 

 
 
<きょうの一曲>
Vitali Chaconne - Full Orchestra [Sarah Chang]
http://www.youtube.com/watch?v=Jlcca97wow4&feature=related


 
 

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LMT分岐部病変PCI治療戦略

戯れ言たれる侏儒 / 2011.02.24 00:19 / 推薦数 : 0
LMT分岐部病変PCI治療戦略の最新知見を報告
分岐部病変は経皮的冠動脈インターベンション(PCI)症例全体の2~3割にまで増え,特別なケースではなくなった。
しかし,治療後の心筋梗塞,血栓症などは明らかに高率で,他の病変とは異なる慎重な対応が今なお求められる。第24回日本冠疾患学会の内科パネルディスカッション「分岐部病変治療を考える」(座長=新東京病院・中村淳副院長,佐賀大学循環器・腎臓内科・挽地裕診療准教授)で,左冠動脈主幹部(LMT)の分岐部病変を中心に,PCI治療戦 略に関する最新知見が報告された。
 
~LMT分岐部プラークの分布~ 90%がLMT~LAD含む
熊本大学大学院循環器病態学の辻田賢一氏らは,血管内超音波(IVUS)所見に基づいてLMT分岐部のプラーク分布を分類すると,大半のプラーク は側壁側,特にLMT~左前下行枝(LAD)に認められることを報告。

同大学病院循環器内科の臨床で採用している,LMTからLADにかけての single crossover stentingを基本とするLMT治療戦略の妥当性を示唆した。

 
carinal regionには存在せず
LMT分岐部病変の形態学的分類として,従来CAG所見に基づくMedina分類などが用いられてきた。

しかし,CAG所見に基づく分類は「分岐部のプ ラークの分布や形態学的特徴を正確に反映していない」と,辻田氏は指摘。
例えば,定量的CAG(QCA)による最小血管径(MLD)とIVUSによる MLDには大きなばらつきが見られる。
また,LADから引いたIVUS所見による最小血管内腔面積(MLA)と左回旋枝(LCX)から引いたIVUS所見によるMLAが1mm2以上異なる症例は26%も認められた。
 

そこで同氏らは,LMT病変のPCIに際してLMT分岐部をLAD,LCXの双方からIVUSで観察し,プラーク分布を検討した。
140例の所見から,プラーク分布は7パターンに分かれた。
そのうち,分岐部の側壁側,特にLMT~LADに分布するパターンが90%を占めることが分かった。
側壁対側の carinal regionにはプラークは存在しなかった。
 

同科の臨床では,LMTからLADにかけてのsingle crossover stentingを基本的な治療戦略とし,良好な成績を得ているが,分布パターンの知見は「戦略の妥当性を解剖学的に証明したものと考えられた」と同氏。
「われわれが提唱したIVUSによる新しい分岐部プラーク分類を用いることにより,LMTのPCI治療例の予後向上が望まれる」と結んだ。


~Crush stenting~ 特にLMT病変で慎重に施行
分岐部病変に対するステント手技の1つであるCrush stenting。

さまざまな利点があるが,野崎徳洲会病院(大阪府)心臓センター循環器科の奥津匡暁部長は,特にLMT病変では再血行再建率が高く,慎重に行うべき手技と位置付けた。

4年のフォローでTVR 46%
ステントの一部をクラッシュして,もう1本のステントと組み合わせ,分岐部の側枝と本幹にまたがる形で留置するCrush stentingは,2003年から行われるようになった。

手技が簡単,側枝閉塞のリスクが低い,2ステントでも本幹の拡張制限が少ない,シロリムス溶出ステント(SES)からのドラッグデリバリー性に優れる,再現性が高いなどの利点(表1)があったことから,一時期広く普及した。
 
 
 
ただし,final kissing balloon technique(KBT)が困難,provisional stentingとしては不向きなどの問題もあり,現在は多様なステント手技の1つとされるが,イタリアや韓国では今なお積極的に実施され,良好な成績も報告されている。

奥津部長らは,2004年4月~06年2月に,りんくう総合医療センター市立泉佐野病院(大阪府)でCrush stentingを行った66例(平均年齢65歳)67病変(LMT病変43%)の成績をまとめた。

平均約4年のフォローアップで,主要心血管イベント (MACE)は29%,標的血管再血行再建(TVR)も29%。特にLMT病変ではMACE,TVRとも46%と高率に認められた(表2)。
 
 
 
同部長は「LMT病変に対するCrush stentingは慎重に行うべき」と結論した。


~冠血流予備量比による生理学的評価~
分岐病変の把握に有用

和歌山県立医科大学循環器内科の赤阪隆史教授は,冠血流予備量比(FFR)を用いた生理学的評価が,PCI前・中・後の分岐部病変の把握に非常に有用だと強調した。

要治療病変を事前に正確判断
分岐部病変の評価は,一般に冠動脈造影(CAG)所見に基づいて行われている。

しかし,赤阪教授は,定性的なCAG所見だけに頼った分岐部病変の治療 は,責任病変同定の限界,不要なPCI増加,不十分な治療での終了,予後悪化などの問題を招く可能性が高いと指摘した。
実際に,CAGで有意狭窄と判断された病変のうち,FFRで有意狭窄と判定された病変は30%にも満たないことが報告されている。
また,PCI後の評価においては,CAG所見に基づく場 合,分枝残存病変を過大評価する危険性がある。
こうしたことから同教授は,血管壁情報を含め,分岐部の病変を正確に把握するために,IVUS,マルチスラ イスCT(MDCT)などによる解剖学的評価が望まれるとした上で,FFRによる生理学的評価の有用性を示唆した。
 

同教授は「分岐部のPCIでは,プラークシフトなどを予測するために画像検査,特にIVUSやMDCT,さらにOCT(近赤外線を用いた光干渉断層法) は有用だが,事前に治療しなければならない病変があるかどうかを正確に判断するためには生理学的な評価が大事。FFRはその手段としてはもちろん,PCI 中・後も含め,分岐部病変の評価に非常に有用だ」と述べた。


~carinal regionの標的血管~
プラークの存在は危険

LMT分岐部病変のPCIで起こりうる側枝の狭窄・閉塞には,拡張時のプラークの移動(plaque shift;PS)が関与すると考えられている。

新古賀病院(福岡県)心臓血管センターの川崎友裕センター長らは,CTで標的血管のcarinal regionにプラークが認められる場合にPSのリスクが高い可能性を示唆した。

全般的にはまれな部位
分岐部病変に対するPCIでは,本幹を拡張した際に,側枝が突然,狭窄または閉塞することがある。

とりわけLMT分岐部病変のPCIで側枝閉塞を起こし た場合は,治療成績を大きく低下させてしまう。
側枝狭窄・閉塞に関与するPSのリスクを予測できれば,分岐部PCIの安全性を高められる。
 

川崎センター長らは,PSを起こした症例のPCI前の各背景因子やCT所見を非PS症例と比較し,PS予測の可能性を検討した。
 

対象は,2006年1月~10年4月にMDCTを行い,1カ月以内にLMT分岐部病変に対してPCIを実施した67例(平均年齢68.7歳)。
PSを, ステント留置後,側枝に90%以上の狭窄が生じた場合,または米国心臓学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)分類で2段階以上狭窄が進んだ場合と定義したところ,67例中32例(47.8%)がPS症例だった。
 

PS群と非PS群で,冠危険因子,診断名,PCI因子,病変因子(分岐角度,%プラーク面積など)には有意差がなかった。
しかし,プラークの位置を調べると,PS群は非PS群に比べ,全般にプラークが分布することの少ないcarinal regionの標的血管側に存在する頻度が有意に高かった。同部位にプラークが認められた場合は,側枝狭窄・閉塞のリスクが高い可能性があるとした。
 
<自遊時間>
先生方には所属学会から多くの学会誌が届いていると思います。
中には、「開封せずにゴミ箱へ」という先生もお見えではないでしょうか。
しかし、執筆者はもちろんのこと編集者や査読される先生方には大変な負担と努力が強いられている筈です。
坂本二哉先生が編集長だったころの「日本心臓病学会誌」の編集後記を読むことを毎号楽しみにしてみえた先生方も多かったのではないでしょうか
そこには血の滲むような苦労話が、漢文の素養を織り交ぜた名文で書かれていました。
私も本文は読まずとも、坂本先生の編集後記は必ず読ませていただいて日本語の勉強をさせていただいた学会員の一人です。
坂本先生とは昨日紹介したAPCCが台北で行われた際に、レセプションで隣席に座らせていただくという幸運な機会を得させていただいた思い出があります。
 
さて、最近届いた日本内科学会誌もちょっと面白そうだったので紹介させていただきます。
もちろん先生方のお手元にはもう届いているでしょうが。

 

 

 

 

 

 

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兵庫県立尼崎病院の佐藤幸人先生の書かれた記事はしばしば当ブログで引用させていただいております。
この佐藤先生の行われているユニークな心不全の外来治療の記事が目に留まりました。
 
慢性心不全患者への外来点滴療法 薬剤の使い分けと低用量がカギ
慢性心不全患者は病態の急性増悪が致命的になる可能性が高いが、標準治療が奏効しない患者に対してはなかなか打つ手がない。
そんな中、兵庫県立尼崎病院では、増悪前に薬剤を間欠的に外来で投与し、重症化を食い止めようという取り組みを行っている。
 
兵庫県立尼崎病院では、入退院を繰り返している重症の慢性心不全患者に対して、外来点滴療法を実施している。
通常は増悪後に入院下で行われる心不全治療薬の点滴を、患者が外来に通院して行うものだ。
重症化防止のために行われる慢性心不全の治療は、通常、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬の投与となる。
それでも急性増悪を来した場合、薬物療法としては、入院下で血管拡張薬強心薬PDE阻害薬カテコラミンなど)を投与するのが一般的だ。
 
尼崎病院の外来点滴療法は、それらの薬剤を心不全の増悪前に間欠的に投与することで、重症化を食い止めようという試み。
同病院循環器内科部長の佐藤幸人氏 は、外来点滴を始めた理由について、「慢性心不全が徐々に重症化し、末期ともなると運動耐容能が低下する。そのため、低栄養状態や感染症を引き起こし、患 者の生活の質は著しく低下する。同時に、急性増悪により入退院を繰り返すため、莫大な治療費がかかる。これらの問題を少しでも改善し、患者の負担を軽くす る手段がないか考えた結果、外来での点滴療法に行き着いた」と話す。
最近では、経済的な理由や、看病する人がいないなどの理由で入院が困難である人も少なくなく、外来点滴の必要性をますます実感しているという。
対象はNYHA分類でIII度〜IV度の重症患者
同病院は、15年ほど前から外来点滴療法を開始。
これまで20数人の患者に対し実施してきた。
外来点滴の対象としているのは、ニューヨーク心臓協会 (NewYork Heart Association)による重症度分類(NYHA分類)でIII度またはIV度の状態が続く重症の心不全患者のうち、本人や家族の同意が得られた人。
ただし、高度の腎機能障害がある患者は、外来点滴の対象外としている。
透析導入の必要があり、外来点滴と維持透析の併用は時間的拘束が大きく、患者や家族の負担を減らすというコンセプトから外れるためだ。
高度の大動脈弁狭窄症がある患者も、外来点滴に用いる強心薬が虚血や致死性不整脈を誘発するリスクがあるため、対象としていない。
 
外来点滴は週1〜2回、1回につき約4時間かけて行う。外来点滴の重要なポイントは、低用量で行うこと。
同病院での平均投与量は、ナトリウム利尿ペプチドであるカルペリチドは0.033μg/kg/分、PDE阻害薬であるオルプリノンは0.11μg/kg/分、カテコラミンであるドブタミンは 3.3μg/kg/分。
一般に、急性増悪時に入院下で治療する場合は、カルペリチドは0.1〜0.2μg/kg/分、オルプリノンは0.4μg/kg /分、ドブタミンは5μg/kg/分(最大で20μg/kg/分)程度まで増量可とされており、それと比較するとかなり低用量だ。
高用量のカテコラミンの使用により不整脈が増加したなどの報告もあるため、「外来では安全性の担保のためにも、低用量で行うことが重要」と佐藤氏は強調する。
低用量を厳守しているため、これまで点滴中の不整脈の増加、血圧変動による中止はないという。
また、もう一つのポイントとして佐藤氏が挙げるのが、薬剤を使い分けることだ。
過去に外来点滴の効果を検討した研究で用いられていた薬剤は主にカルペリチドだが、同病院では、患者の収縮期血圧に応じて、カルペリチド、オルプリノン、ドブタミンを使い分けている(図1)。
 
 
 
「低血圧の患者にカルペリチドを使用すれば、かえって病態を悪化させる可能性があるため、一律に同じ薬剤を用いるべきではない」と佐藤氏。
点滴中は安全性の担保のため、血圧、酸素飽和度、心電図をモニタリングし、不整脈の有無や血圧の変動をチェックする。
点滴の頻度や入院治療への移行の検討については、単純X線像や点滴の前後に測定する尿量と体重、自覚症状改善の度合いなどを踏まえて判断する。
週1〜2回の点滴で効果がない場合は、入院治療への切り替えを強く勧めて いる。
外来点滴治療の設備は至ってシンプルだ。
専用の部屋は設けず、外来化学療法室のオープンスペースに、点滴用のベッドを2床確保している。
専従スタッフはおらず、外来化学療法室の看護師がほかの患者とともに様子を見ている。
外来点滴で急性増悪入院も大幅減
こうした取り組みの結果、外来点滴療法の施行前後で患者の1カ月当たりの入院日数は約6割減少し、1カ月にかかる医療費(保険点数)も約半分に減少(図2)。
 
 
 
入院した場合でも、1回当たりの在院日数は短くなったという。
末期心不全患者が対象であり、延命効果についてははっきりとしないが、患者の経済的な 負担が減り、家族と過ごせる時間も得られて喜んでもらうことが多いという。
外来点滴は、今のところほかの病院に広がるところまではいっていない。
佐藤氏はその理由について、「経験がないため、医師や看護師などの医療スタッフや必要設備をどう配置すればいいか分からず、安全性に対しても漠然とした不安があるからではないか」と分析する。
ただ、これまで問題は生じておらず、最近では、「当院での取り組みとその成果を知った他の病院の医師から、『ぜひやってみたい』という声も聞くようになった」と佐藤氏。
尼崎病院では最近、血圧が保たれており急性増悪を繰り返すには至っていない、やや軽症の心不全患者に対する外来点滴も試みている。
ワンポイントで実施する、より短 期間・短時間での介入(硝酸イソソルビドの外来点滴)において、入院を回避できた例を経験しているという。
「介入の必要性がないような 心不全患者に外来点滴を行うことは意味がないが、従来の適応よりもやや軽症の患者にもメリットがあるのであれば、適応範囲についてはさらに検討していきた い」と佐藤氏は話している。
 
出典 NM online 2011.2.18
版権 日経BP社
 
<私的コメント>
「標準治療が奏効しない患者 」が対象となるとのことですが、多くの標準治療ではβ遮断剤が使用されていることと思います。
PDE阻害薬やカテコラミンの使用は、β遮断剤による心不全治療とは180度治療コンセプトが違うと思われます。
こういった場合にはβ遮断剤は斬減後中止してスイッチするのか、または併用するのか。
そのあたりはどうなのでしょうか。
また、心不全へのナトリウム利尿ペプチド、PDE阻害薬やカテコラミンの間欠的少量投与はについてエビデンスはあるのでしょうか。
もう一つ、点滴の際のボリューム負荷はどのように配慮されているのでしょうか。

 
 

<自遊時間>
昨日、ニュージーランドで大規模な地震が発生したというニュースが飛び込んで来ました。
随分昔の話になりますが、APCC(アジア太平洋心臓病学会)という学会がオークランドで開催されて学会発表したことがありました。
もちろん半分観光目的ということで、クライストチャーチ市内のハグレイ公園でゴルフをしたことやクライストチャーチ大聖堂の観光も楽しい思い出です。
しかし、このクライストチャーチ大聖堂が崩壊した映像を見て驚いたのはもちろんですが、わが子のことに思いを馳せてしまいました。
実はわが家庭には、大学を休学して現在ロンドンに語学留学している子がいます。
その子に「1月からニュージーランドにでも留学先を変えてみたら。クライストチャーチなんかはとてもいい街だからどう? 」と勧めていたのです。
結局、本人の意思を尊重した結果、ロンドンにそのままいます。
「老いては子に従え」

 

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スピロノラクトンについては、中等症〜重症(NYHA分類でクラスIIIまたはIV)の収縮期心不全患者の全死因死亡と心血管イベントによる入院を減らすとの報告があります。
エプレレノンも、左室収縮機能障害と心不全を合併した急性心不全患者の全死因死亡と心血管イベントによる入院のリスクを低減することが示されています。
こう したデータに基づき、中等症〜重症の慢性収縮期心不全患者と、心筋梗塞に心不全を合併した患者に対する鉱質コルチコイド受容体拮抗薬の投与が推奨されています。
2010年11月14日のNEJM誌電子版に、エプレレノンを、標準治療と共に軽症の慢性収縮期心不全患者に用いると、偽薬に比べ死亡リスクと入院リスクの有意な低減がみられることが明らかにされました。(EMPHASIS-HF)
<参考> NM online 2010.12.7
きょうは慢性心不全治療の最新の知見について勉強しました。
 

エプレレノンやスピロノラクトンにエビデンス続々
軽症患者に対する予後改善効果への期待大

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬の効果が認められ始めたことで、慢性心不全の治療はここ10数年で大きく様変わりした。
最近では、治療薬のラインナップに新たに加わったアルドステロン拮抗薬が、生命予後を改善するといったエビデンスも明らかになってきた。

2010年11月、標準治療を受けている軽症の慢性心不全患者にアルドステロン拮抗薬の一種であるエプレレノンを追加投与すると、プラセボ群に比べ死亡率と入院率が有意に低下することが、二重盲検無作為化比較試験EMPHASIS-HFの結果から明らかになった。


降圧薬として広がりつつあるアルドステロン拮抗薬は、主に副腎皮質で産生されるホルモンであるアルドステロンが、腎臓などに存在する鉱質コルチコイド受容体と結合するのをブロックする。
これにより、降圧を促進するとともに、腎臓遠位尿細管からのナトリウムの再吸収と水の再吸収を抑制する。

ACE阻害薬やARBを長期投与されている心不全患者のうち、一度抑制されたアルドステロンの産生が再び亢進した状態(アルドステロンブレイクスルー)にある患者は1割以上、研究によっては約半分にも達しているといわれ、さらに予後不良であるとされる。

心不全に対する詳細な作用機序は明らかになっていない が、アルドステロン拮抗薬にはこの状態を改善する効果があるとみられている。

冒頭で紹介したEMPHASIS-HFの対象は、55歳以上で、ニューヨーク心臓協会(NewYork Heart Association)による重症度分類(NYHA分類)でクラスII()に該当する比較的軽症の心不全患者。

 

 
標準治療として、ACE阻害薬とARB のいずれか、または両方とβ遮断薬を併用し、推奨される用量または最大耐用量が投与されていることを条件とした。
エプレレノン投与群とプラセボ群で心血管死亡または心不全による入院の割合、全死因死亡の割合などを比較したところ、エプレレノン投与群の方が有意に少なかった(図1)。
 
 
 
図1 EMPHASIS-HFの結果(出典:N Engl J med 2011; 364: 11-21.)

対象は、55歳以上で、ニューヨーク心臓協会による重症度分類でクラスIIに該当する比較的軽症の心不全患者。左室駆出率(1回の拍動で心臓から送り出さ れる血液の割合。正常な左室駆出率は約60%)が30%以下か、または30%以上35%以下で心電図のQRS間隔が130m秒超であることを条件とした。
さらに、標準治療として、ACE阻害薬とARBのいずれか、または両方とβ遮断薬を併用し、推奨される用量または最大耐用量が投与されていることとした。

エプレレノンは、開始用量を25mg/日とし、最高50mg/日まで増量して投与。
その結果、心血管死亡または心不全による入院の割合は、エプレレノン投 与群で18.3%、プラセボ群で25.9%。
全死因死亡はエプレレノン投与群で12.5%、プラセボ群で15.5%だった。
心血管死亡はエプレレノン投与群で10.8%、プラセボ群で13.5%。
全死因死亡または心不全による入院の確率は、それぞれ19.8%と27.4%。
心不全による入院とすべての入 院も、エプレレノン投与群で有意に少なかった。

同試験は追跡期間の中央値が21カ月になった時点で、エプレレノンの優位性が明らかになったとして中止されている。



慈恵医大循環器内科主任教授の吉村道博氏は、「標準治療にエプレレノンを加えると、過去に報告のあった重症の慢性心不全群のみならず、軽症群においても死亡率が有意に低下したという同試験の結果は、非常にインパクトが大きい」と評価する。

北大循環器内科教授の筒井裕之氏は、「EMPHASIS-HF以前に行われた臨床試験RALESの対象は、軽い労作でも息切れや疲労感などの症状がある NYHA III度以上の重症な患者だった。エプレレノンは、外来患者のほとんどを占めるNYHA I〜II度といった比較的軽症の患者にも効果が期待できる」と話す。

米国では、エプレレノンは心筋梗塞後のうっ血性心不全の治療薬として既に使用されているが、日本での適応は高血圧症のみ。

とはいえ、高血圧を合併した軽症の心不全患者には使用可能で、その意義は極めて高いといえそうだ。
現在、エプレレノンの心不全の適応取得に向けて治験が進められている。

 
国内でも予後改善効果認める研究
国内でも、アルドステロン拮抗薬の心不全への効果を検討した研究JCARE-CARDの結果が明らかになっている。使用されたのは、国内で唯一、心不全への適応があるスピロノラクトンだ。
 

慢性心不全の増悪により入院した患者2675人のうち、左室駆出率が40%以下の患者と弁膜症の患者を除外した946人を対象に、退院時にスピロノラク トンを投与していたかどうかで2群に分け、平均2.4年追跡した。
その結果、スピロノラクトンを投与した群は、非投与群に比べ、全死亡リスクが約38%低 下し、心臓死のリスクも約48%低下していた(Am Heart J 2010; 160: 1156-62.)。

研究班の主要メン バーである北大循環器内科教授の筒井氏は、「RALESやEMPHASIS-HFのようなランダム化比較試験(RCT)は治療薬剤のエビデンスとして重要だが、合併症が少ない限られた患者が対象で、実臨床での患者像を必ずしも反映していないというデメリットがある。しかし、日本人患者を対象としたこの前向き観察研究の結果により、実臨床でもアルドステロン拮抗薬が慢性心不全患者の予後の改善に有効であることが分かった」と話す。


 
腎機能障害の患者に注意
慢性心不全治療において、エプレレノンやスピロノラクトンは、ACE阻害薬またはARB、β遮断薬といった既存のラインナップに追加投与される可能性が高そうだ。

既存の利尿薬と入れ替えて使用する選択肢もあるが、「うっ血のコントロールにはフロセミドなどのループ利尿薬が効果が高いため、アルドステロン拮抗薬との併用を選択することが多い」(筒井氏)からだ。

副作用としては、まず注意すべきなのが高カリウム血症。エプレレノンに関しては、高血圧症を適応とした添付文書で、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者、クレアチニンクリアランス50mL/分未満の重度の腎障害の患者などは投与禁忌。

心不全での適応が認められた場合にも、腎障害を持つ患者は、適応を慎重に判断する必要がありそうだ。

一方、スピロノラク トンも、高カリウム血症を誘発するリスクが高いことから、急性腎不全患者への投与は禁忌とされている。

また、スピロノラクトンは鉱質コルチコイド受容体へ の選択性が低く、女性化乳房や月経異常といった内分泌系の副作用の発生頻度が少々高い。
なお、エプレレノンはより選択的に鉱質コルチコイド受容体に結合するため、内分泌系の副作用の発生頻度は低いと考えられている。


注目される拡張不全型心不全
慢性心不全は、左室駆出率(EF)が低下する収縮不全型心不全と、EFの低下を認めない拡張不全型心不全に分けられる。

拡張不全型は、EFがほぼ正常値に 保たれているために見落とされがちだが、予後が不良で、薬物治療の効果があまり得られないことなどが複数の研究から示され、最近注目を集めている。

欧米では、拡張不全型の中でも、高血圧や心房細動などの合併症が影響しているとみられる患者が増えているとの報告がある。
また、国内の前向き観察研究 JCARE-CARDの対象となった慢性心不全患者の原因疾患においても、左室駆出率(EF)<40%と定義した収縮不全群では、虚血性心疾患と拡張型心 筋症が多くの割合を占め、EF≧50%と定義した拡張不全群では、高血圧が44%と最も多くを占めた(図2)。
 
 
 
高血圧が拡張不全型心不全のリスク因子である理由は明らかになっていないが、高血圧状態の持続により左室が肥大し、それにより左室の拡張機能障害が生じる ほか、血管抵抗性の増大、レニン・アンジオテンシン(RA)系や交感神経系の活性化など、様々な要因が関与して発症すると考えられている。

筒井氏は、「息切れ、呼吸困難、疲労感、むくみといった臨床症状のほか、高齢者(特に女性)、高血圧、心房細動などの既往が拡張不全型心不全のリスクファクターと考えられる。高血圧のコントロールを厳格に行うことが発症・重症化を防止する上で重要だ」と話す。

拡張不全型心不全は、息切れ、労作時呼吸困難、疲労感、むくみ、体重増加などの臨床症状が収縮不全型に比べて顕著でないことが多いため、疑わなければ診断できない。

「拡張不全型の場合、一見自覚症状がなくても、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を測定すると高値で、そこで拾い上げられるケースは少なくない。一般 的にBNP値が100pg/mLを超えると心不全の疑いが強いが、拡張不全型であれば80pg/mL程度でも心不全が疑われるので、診断に当たっては他疾 患の除外も含め注意が必要だ」と筒井氏は注意を促している。

最近では、海外、国内ともに、拡張不全型心不全患者を対象とした大規模臨床 試験が行われるようになってきた。
海外では現在、左室駆出率45%以上の拡張不全型心不全患者に対するスピロノラクトンの効果を検討するランダム化比較試 験TOPCATが行われている。
国内では、Ca拮抗薬であるニフェジピンが拡張不全型心不全患者の予後を改善するかどうかを検討する非盲検無作為化群間並 行比較試験DEMANDが10年から始まった。
11年末まで被験者を募集し、4年間のフォローアップが行われる予定だ。

出典 NM online 2011.2.16

版権 日経BP社
 
 
<関連サイト>
アルドステロン拮抗薬と重症心不全
http://blog.m3.com/reed/20090126/1
アルドステロン拮抗薬と重症心不全
http://blog.m3.com/reed/20090108/1
AHA 2010で発表のEMPHASIS-HF試験
http://blog.m3.com/reed/20101122/AHA_2010_EMPHASIS-HF_
アルドステロン拮抗薬と心不全
http://blog.m3.com/reed/20101209/1
EMPHASIS-HF,「21カ月で終了」は妥当か
http://blog.m3.com/reed/20101226

 

 

 

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新機序の利尿薬「トルバプタン」の使い方
心不全患者の低ナトリウム血症に効果

慢性心不全の管理において、うっ血や浮腫のコントロールに利尿薬は必須だが、長期間使用すると効果が軽減してしまう患者も少なくない。
また、合併症として低ナトリウム血症などが生じることも多い。そんな中、昨年12月に、心不全の適応としては国内初のバソプレシンV2受容体拮抗薬が登場した。
既存の利尿薬とは異なる作用機序のこの薬は、既存薬でコントロールが不十分な体液貯留や低ナトリウム血症への効果が期待されている。

慢性心不全治療においてしばしば問題となるのが、低ナトリウム血症だ。
低ナトリウム血症とは、血清ナトリウム濃度が135mEq/L以下に低下する状態を指し、悪心、食欲低下、傾眠、無欲状、精神不穏、痙攣などを生じる。
体液の過剰貯留、腎不全などにより引き起こされる。

 低ナトリウム血症の原因は大きく3タイプに分けられるが(図1)、慢性心不全患者における低ナトリウム血症は、体内の水分が過剰となり、ナトリウム濃度が相対的に低くなることから生じると考えられる。
 
 
 
低ナトリウム血症の発症頻度は決して少なくなく、心不全入院例の約3分の1が低ナトリウム血症だったという報告もある。
さらに、多くの研究から、低ナトリウム血症患者は生命予後が良くないことも分かってきた。

 
また、利尿薬を 長期間使用していると効果が表れにくくなり、低ナトリウム血症とうっ血・浮腫への対応が難しくなる場合がある。
そうしたケースでは、ループ利尿薬の増量や、経口から持続静注への切り替え、ループ利尿薬とサイアザイド系利尿薬の併用などで対応するが、それでも効果がない重症患者には、時間をかけて緩やかに 除水を行う持続的血液濾過透析(CHDF)を施行するのが一般的だ。

 
ただ、CHDFは長時間持続して除水を行うことができ循環動態が 不安定な患者でも適用可能な半面、出血やコストなど患者の負担も大きい。
また、CHDFなどでいったんは症状が改善しても、再度すぐにうっ血が生じ、短期間で体重が急増してしまうなど、管理に難渋するケースは少なくない。


 
水分のみを体外に排出
 
そんな中、低ナトリウム血症とうっ血・浮腫の改善効果が期待されているのが、2010年12月に登場した新機序の利尿薬、バソプレシンV2受容体拮抗薬(一般名トルバプタン)。
効能・効果は、「ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な心不全における体液貯留」とされている。
 
バソプレシンは脳下垂体後葉で産生され、V2受容体に結合して体液を保持する性質を持つ抗利尿ホルモン。
既存の利尿薬の多くは、ナトリウムと水双 方の排出を促すが、トルバプタンはバソプレシンと拮抗して水の再吸収を抑制し、水分のみを体外へ排出する(図2)。
ナトリウムなどの電解質量に影響を与え ないことが、大きな特徴だ。
心不全の治療でよく用いられるループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬を服用しても体液貯留のコントロールが困難な患者が適応となる。
具体的には、重症心不全患者や罹患年数が長い患者、利尿薬が既に高量投与されている患者などが心不全増悪を来した場合に、適応となる可能 性が高い。

 図2 利尿薬の作用機序
 
国内第3相試験では、他の利尿薬を投与しても体液貯留が認められるうっ血性心不全患者110人に、トルバプタン15mgまたはプラセボを1日1回、7日間 経口投与した。トルバプタン投与群ではプラセボ群と比べて有意な体重減少が認められ、体重減少は投与翌日から投与期間を通じて継続した(図3)。
また、最 終投与時における心性浮腫に伴う頸静脈怒張、肝腫大、下肢浮腫などが改善した。
 

図3 国内第3相試験におけるトルバプタンの臨床成績(添付文書より)
 

利尿効果強く、腎不全と血栓塞栓症に注意
ただし、投与に当たっては注意も必要だ。
血清ナトリウム濃度が急激に上昇すると、神経 障害(橋中心髄鞘崩壊症)を来す可能性がある。そ
のため、添付文書では、トルバプタンの投与による橋中心髄鞘崩壊症や急激な利尿効果によ る脱水症状のリスクを挙げ、入院下で投与を開始、再開するよう求めている。
また、投与を開始もしくは再開した日は、投与後4〜6時間後、および8〜12時 間後に血清ナトリウム濃度を測定し、その後も週に数回程度を目安に測定するよう求めている(下表)。

 
 トルバプタンの投与上の注意点(添付文書より)

本剤は水排泄を増加させるが、ナトリウム排泄を増加させないことから、他の利尿薬と併用して使用する。

投与初期は、過剰な利尿に伴う口渇などの副作用が表れる可能性があるので、患者の状態を観察し、体重、血圧、脈拍数、尿量等を頻回に測定する。口渇、脱水などが表れた場合には、水分補給を行うよう指導する。

投与開始後24時間以内に水利尿効果が強く発現するため、少なくとも投与開始4 〜6時間後および8〜12時間後に血清ナトリウム濃度を測定する。投与開始翌日から1週間程度は週に数回測定し、その後も投与を継続する場合には、適宜測定する。

血清ナトリウム濃度125mEq/L未満の患者に投与した場合、急激な血清ナトリウム濃度の上昇により、橋中心髄鞘崩壊症を来すおそれがあるため、24時間以内に12mEq/Lを超える上昇が見られた場合は、投与を中止する。

本剤の水利尿作用により循環血漿量の減少を来たし、血清カリウム濃度を上昇させるおそれがあるため、投与中は血清カリウム濃度を測定する。

めまいなどが表れることがあるので、転倒に注意する。自動車の運転など、危険を伴う機械を操作する際には注意させる。

 
トルバプタンの重要な副作用として挙げられているのは、急激な利尿作用により循環血液量が減少し、血液濃縮を来した場合に起こり得る腎不全と血栓塞栓症 だ。
そのため、重篤な腎障害や冠動脈疾患・脳血管疾患の患者は慎重投与の対象とされている。「
トルバプタンは利尿効果が大きいので、慢性心不全の急性増悪 には有効だが、慢性期にどう使うかは今後の検討課題である。

脱水、高ナトリウム血症や高カリウム血症の有無など、患者の病態に応じて投与を判断する必要もある。
他の利尿薬との併用が推奨されていることもあり、既存薬の代替薬として単剤で長期的に投与するというよりは、短期集中的にワンポイントで使う位置づけになりそうだ。
 

出典  NM online 2011.2.17(一部改変)

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昨日は
ARB同士の試験
http://blog.m3.com/reed/20110219/ARB_

で、また先日は
ロサルタン・カンデサルタンと心不全患者の全死亡
http://blog.m3.com/reed/20110119
 
でARB同士を比較した試験をとりあげました。
きょうは、この試験を北里研究所病院糖尿病センター・山田 悟先生が解説した記事で勉強しました。
 
ARBの予後改善効果に差異はあるのか?
カンデサルタンとロサルタンのhead to headの比較試験から
研究の背景:糖尿病合併高血圧症で処方機会が多いARB,効果に相違はあるのか
糖尿病合併高血圧症の第一選択薬とされるレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬だが,ACE阻害薬には咳のような副作用があるため,アンジ オテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が処方されることが多い。
このたび,心不全患者が対象ではあるが,カンデサルタンとロサルタンのhead to headでの比較試験の結果がJAMA(2011; 305: 175-182)に掲載された。

ポイント1:5,139人を対象とした前向きのコホート試験(非RCT)
スウェーデンでは,2003年から心不全患者登録システムが稼働され,病院では心不全で入院した患者を退院時に,診療所では心不全での初回受診時に,患者を登録することになっている。
2009年12月の時点で3万254人が登録されており,登録時にカンデサルタンの投与を受けていたカンデサルタン コホート2,639人とロサルタンの投与を受けていたロサルタンコホート2,500人(計5,139人)とが生存率によって比較されることとなった。
バル サルタンをはじめとする他のARBについては登録患者数が少ないことから解析対象とされなかった。
 
処方選択に当たってのバイアス(選択バイアス)や交絡因子の影響を避けるため,propensity score※を 用いた調整や,登録年次,心不全の発症からの期間,心不全の重症度〔ニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類〕,左室駆出率(LVEF)などによる層別化が行われた。
5,139人の平均年齢は74±11歳で,39%が女性,9.7%が喫煙者であった。
また,56%程度に虚血性心疾患が,13.5%程度 に拡張型心筋症が,2.3%程度に肥大型心筋症が,19.4%程度に弁膜症が合併していた。
ベースラインでの臨床的特性のいくつかは両コホートで差異が認 められたが,propensity scoreを用いて調整をするとその差異はほとんど消失していた。
 
ポイント2:カンデサルタンコホートの方が生存率が高かった
中央値563.0日の観察期間においてカンデサルタンコホート2,639人中441人が死亡し,中央値640.5日の観察期間においてロサルタンコホート2,500人中888人が死亡した。
 
これをエンドポイントである生存率としてKaplan-Meier曲線に示したのが図1である。

 
 
 
登録後1年で の生存率は,カンデサルタンコホートで90%,ロサルタンコホートで83%であり,登録後5年での生存率は前者で61%,後者で44%であって,両者には 有意差があった(P<0.001)。
また,さまざまなモデルで調整してもハザード比0.70でカンデサルタンコホートの方が全死亡率が低かった。
これを,LVEF 40%未満,40%超で分類しても両コホートの生存率には有意差があった。
収縮能の低下したLVEF 40%未満の群では,カンデサルタンコホートの1年および5年での生存率は91%と68%,ロサルタンコホートの1年および5年生存率は82%と44%で あり(P<0.001),収縮能の維持されたLVEF 40%超の群でも,カンデサルタンコホートの1年および5年生存率は91%と54%,ロサルタンコホートの1年および5年生存率は86%と50%であり, いずれも有意差が認められた(図2)。

 
 
 
LVEFのほか,登録年次,性別,年齢,血中Cr濃度,NYHA心機能分類,糖尿病の有無,アルドステロン拮抗薬の有無,ACE阻害薬の有無,目 標投与量に対する実投与量の比率で層別解析してもいずれも同様の結果であった。
ただし,β遮断薬の有無では相違があり,β遮断薬あり群でもカンデサルタン の方が死亡率が低かったのであるが,β遮断薬なし群ではより顕著にカンデサルタンの死亡率が低くなっていた。
 
山田先生の考察:観察研究に対する著者らの姿勢に共感
この論文の著者らはpropensity scoreで調整し,選択バイアスや既存の交絡因子についての考慮をしても,なおカンデサルタンの生存率がロサルタンよりも高く,心不全患者の生命予後に対してロサルタンよりもカンデサルタンの方が勝っている可能性が示されたと述べている。

その差異が生じる機序として,論文の著者らはカンデサルタンの方がアンジオテンシンⅡ1型(AT1)受容体に結合しやすく,乖離しにくいことを挙げている。
内服をしなかった日の血圧については,ロサルタンは完全に血圧が元来のレベルに復するもののカンデサルタンでは前日の内服の持ち越し効果があることが以前から知られており(Am J Hypertens1999; 12: 1181-1187),昨年にはカンデサルタンの方がロサルタンよりも新規の心不全発症に対して予防的であるとの報告もなされている(J Hum Hypertens2010; 24: 263-273)。
こうした点からは,カンデサルタンは真にロサルタンよりも生存率を改善できるのかもしれない。

また,今回の観察研究で得られたロサルタンを対照にしたカンデサルタンの効果(死亡率に対するハザード比0.70)が,プラセボを対照とした介入試験であるCHARM-overall試験(Lancet2003; 362: 759-766) での成績(死亡率に対するハザード比0.90,P=0.032)よりも良かったことについては,ランダム化比較試験(RCT)において行われるような厳格 で濃密な管理では,プラセボ群でも治療効果が生じるというstudy worldが存在し,本研究は日常臨床というreal worldでのカンデサルタンの効果を示したものであると著者らは説明している。
しかし,疑いの目で見れば,本研究はRCTではなく,未知の交絡因子の影響を完全には否定できない。
また,一般にはプラセボに対して (CHARM-overall)よりもロサルタンに対して(本研究)治療成績が良いということも納得し難い。
こうした点を考えると,「カンデサルタンはロサルタンよりも生存率を改善できるかもしれないが,結論は出せない」というのが今の時点での了解事項となろう。
 
実際,この論文の著者らも結論として「われわれの知見は,カンデサルタンがロサルタンよりも低い死亡率に関連していることを示唆している。しか し,臨床方針の決定にはこの観察された関連を支持するエビデンスを待つべきである。理想的にはRCTにおいて異なるARBが互いに検証されるべきである。 われわれの知見を他の大規模な心不全患者登録システムにおいて確認することも重要かつおそらく実行しやすいことである」と述べている。最近,観察研究だけで大上段に結論を振りかざす方たちにうんざりしていたわたしだけに,こうしたさまざまな調整を加えつつも結論としては控えめな論文著者たちの言葉には大いに共感を覚えるものである。

    
propensity scoreとは,さまざまな因子を基に求められたその治療法が選択される確率のことである。
あるコホートと別のコホートをpropensity scoreで調整すると,結果として予後規定因子が両コホートでそろってきやすくなる。
そのため,観察研究であるにもかかわらずRCTのような検討をする ことができるようになるものと考えられている。
出典 MT pro 2011.1.25
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ARB同士の試験

戯れ言たれる侏儒 / 2011.02.19 00:21 / 推薦数 : 0
「ロサルタンとカンデサルタンで,心不全患者の全死亡率に差がある」という論文が今年(2011年)1月にJAMAに発表されました。
 

Association of candesartan vs losartan with all-cause mortality in patients with heart failure. JAMA2011;305:175-182
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/21224459
 
ロサルタン・カンデサルタンと心不全患者の全死亡
http://blog.m3.com/reed/20110119/1

最近、日本医事新報に桑島巌先生が大規模臨床試験の解釈の仕方について連載されています。
山崎力先生(東大)や植田真一郎先生(琉球大学)達も同様の啓蒙活動を精力的にされているので有名です。
しかし、私のような開業医には、文献を深く読む時間は到底ありません。
大規模臨床試験は、しばしば結果をまるごと鵜呑みに仕勝ちですが、「循環器トライアルデータベース 」の(真実が語られている)辛口(?)コメントを参考にする姿勢は持ち続けたいと思っています。

「循環器トライアルデータベース 」
http://circ.ebm-library.jp/trial/index_top.html
サブグループ分析の真の目的とは 

http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/archive/201102-1
 
 
最近、日本医事新報に桑島巌先生が大規模臨床試験の解釈の仕方について連載されています。
山崎力先生(東大)や植田真一郎先生(琉球大学)達も同様の啓蒙活動を精力的にされているので有名です。
しかし、私のような開業医には、文献を深く読む時間は到底ありません。
大規模臨床試験は、しばしば結果をまるごと鵜呑みに仕勝ちですが、「循環器トライアルデータベース 」の(真実が語られている)辛口(?)コメントを参考にする姿勢は持ち続けたいと思っています。
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きょうは、東京大学大学院臨床疫学システム講座教授の山崎力,同准教授の小出大介,同大学院22世紀医療センター健康医科学創造講座の興梠貴英の3氏が,試験デザイン上の問題点や結果が臨床にもたらす影響などについて語り合った鼎談の記事で勉強しました。 
 
 
ARB同士の試験は「センセーショナルな部分が独り歩き」
東大・山崎力氏らが試験デザイン上の問題点などを語る

今年(2011年)1月,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)のロサルタンとカンデサルタンで,心不全患者の全死亡率に差があることがJAMA(2011; 305: 175-182)に発表された。
 
未知の交絡因子が2~3割違えば有意差消失
小出 (試験デザインについて)

今回の研究で使用されているpropensity score※は, コホート研究を含む既存データを使った研究で,変数間のばらつきを調整するためによく用いられている。
 
※ さまざまな因子を基に求められたその治療法が選択される確率のこと。
あるコホートと別のコホートをpropensity scoreで調整すると,結果として予後規定因子が両コホートでそろってきやすくなる。
そのため,観察研究であるにもかかわらずRCTのような検討をする ことが可能になると考えられている
 
 
この手法を使うと背景因子をそろえることができるものの,多変量解析を行うときに欠損値(missing data)があると変数をすべて取り込むことができない。
今回のものは一般診療から生まれたデータなので,左室駆出率(LVEF)だけで647件もの欠損値が認められており,その他の変数についてはどれだけ欠損値があるかも分からない。
そこで,多変数を基にした仮想データを挿入するmultiple imputation(N=10)を用いているが,あまりに欠損値が多いと,この方法では実際のデータを使いながらデータ全体が仮想化してしまう。

 
興梠 
imputationでどれだけ正確に推測されているのかが分からない点も問題だろう。

 
小出 
propensity scoreを使っても,そこに入っていない変数,例えば社会経済的な因子など未知の交絡因子まで調節できるわけではない。
その点については著者も考察で述べている。
やはり,背景因子や未知の要因までも調整可能なランダム化比較試験(RCT)の結果を待って判断すべきだろう。


興梠 (カンデサルタンの方が薬理作用が強いことを理由に挙げている点について)
ARBはどの薬剤もおしなべて同等で,ロサルタンとカンデサルタンの間に心不全について体感できるほどの差はないと思う。

 
興梠(LVEFで647件の欠損値が出ていることについて)
試験期間を考慮すると,心不全の患者ならばどこかのタイミングでLVEF検査をしているはず。
なぜこれほどの欠損値が出ているのか分からない。


小出 (propensity scoreの信頼性について)

RCTに比べて信頼性が落ちるものの,リアルワールドであることや費用,手間などを考慮すると,こうした研究は大事なデザイン だと思う。
今後も活用すべきだろう。
ITの進歩とともに既存データベースなどが整備されてきたので,それを利用して疫学的な研究をしようという動きが広 まっている。


 
例えば,アルコールは「百薬の長」などといわれているが,本当に良いのか疑問を持ってしまう。
というのも,科学的には血圧を上昇させ肝機能を悪化させる。
なぜ良いのかが明確でない。
疫学研究に良い結果が出ているが,さまざまな交絡因子をすべて排除することはできないため,別の要因が影響している可能性は否定できない。
飲酒する人は元気な健康人であり,病弱な人,がんの人は飲酒する気にもならないだろう。
このように,コホート研究 には限界がある。
今回の研究はかなり工夫して行っているとは思うが…。
 
小出 
論文には,それぞれの群で未知の交絡因子が含まれる割合別のハザード比を出しているが,ロサルタンに不利な未知の交絡因子で 2~3割程度の違いがあると有意差は消失してしまっている。
1つの未知の交絡因子で2~3割以上の違いが生じていることはあまりないかもしれないが,複数の未知の交絡因子でさらに交互作用などがあると,背景として大きく違ってくる可能性があると思われる。
 
山崎 
論文の考察では,今回の結果がCHARM試験のプラセボに対するカンデサルタンの成績より良くなっていることを指摘しているが,確かにこれはありえない。
必ず未知の交絡因子が含まれており,ロサルタンに不利なものが2~3割を占めている可能性もある。
 
カンデサルタン群が有利な補正とは
小出 (両薬の投与量について)
確かに,ロサルタン群で目標投与量の76%(38mg/日)以上に達している割合が約8割に上っているが,カンデサルタン群の目標投与量76%(約24mg/日)達成率は3割程度となっている。
 
 
ELITE試験とELITEⅡ試験がロサルタン50mg/日,CHARM試験がカンデサルタン32mg/日を投与しており,今 回の研究ではこれを最大用量と仮定している。しかし,実際の日本での最大用量はロサルタン100mg/日,カンデサルタン12mg/日だ。
今回の目標投与量76%達成率は実投与量を反映しているかもしれないが,達成率の違いを補正してしまっているところに問題がある。
この要素を補正すると,より低用量のロサルタン群とより高用量のカンデサルタン群を比較することになってしまう。ロサルタン38mg/日服用群とカンデサルタン24mg/日服用群の比較を行っているようなものだ。
そうなれば当然,高用量のカンデサルタンの方が有利になるだろう。
心不全患者に対するARBの効果に用量依存性があることは,ロサル タン150mg/日と50mg/日を比較したHEAAL試験で証明されている。
 
興梠 
この補正によって今回の結果が引っ張られていることは否めないと思う。
服薬遵守率も明記されていない。
 
山崎 
これらのことから,この論文は研究者の意図を感じる。インパクトがあると言えばあるが,この論文結果で世の中の治療法が変わるとはとても思えない。
 
小出 
propensity scoreによって辛うじて有意差が消失したものの,ACE阻害薬の併用率が異なる点も気になる。
 
ロサルタン群に「とんでもない症例」が含まれていた可能性
興梠 
そもそも,比較開始直後から両群の生存率に差が出ていることがおかしい()。
薬剤の投与とは関係のないところでこの差が生じているのではないか。
 
小出 
ELITEⅡ試験では1年後死亡率が11.7%だったが,今回はロサルタン群の生存率が1年間で17%も落ちている。
 
山崎 
CHARM試験が発表される前後で分けて解析してもいるが,もともとの症例に差があった可能性は否めない。
ロサルタン群にとんでもない症例が含まれていたり,より重症の患者が多かったと考えるのが妥当だろう。
抗血小板薬ならばまだ分かるが,降圧薬やスタチンは服薬直後から心血管 イベントを抑制する薬剤ではない。
興梠 
比較開始直後から生存率に差が出ているというのは,対象としている患者が異なる可能性を示唆している。
 
小出 
論文の考察では,心不全診断の正確性を問題として挙げていた。
また,治療ターゲットが心不全なのか高血圧なのか,それとも糖尿病なのか,それによっても変わってくる。
 
山崎 
前向きの研究ではないし,前向きの行動でもない。
データベース化するときに作為があったとは思えないが,個々の診断基準に違いがあるのかもしれない。
ただ,考察はきちんとされているし,自分たちの有利な内容に終始するわけではなく,研究の限界もきちんと明記されている。
論文そのものはフェアな内容になっていると思う。
しかし,考察をきちんと読む人は少なく,「ロサルタン群で心不全患者の全死亡率が1.43倍」というセンセーショナルな部分だけが独り歩きしてしまう。
上っ面だけでとらえるのは良くない。
 
小出 
疑問に思ったことをまず,既存のデータで解析するというのはあってよいと思うし,propensity scoreは有効な手段。
それを入り口として,良い感触を得たならばRCTを行い,そこでさらに結論がはっきりするだろう。
 
山崎 
propensity scoreの限界を知った上で用いることが重要だし,論文の読者もそれを知るべきだと思う。
それと,今回の結果を受けてのRCTは行われないだろう。
それは,両薬にこれほどの差があるとは誰も本気で思っていないからだ。
研究としては非常に面白いが,臨床的な根拠がなく,当然ながらインパクトは低いと思える。
 
興梠 
観察データを使った研究の読み解き方をみんなに啓発するきっかけになったという意味では,良い論文だろう。
          (小島 領平)
出典  MT Pro 2011.2.18
版権  メディカルトリビューン社 

 

 

その他
「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/
(循環器専門医向き)
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
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 井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
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井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
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井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21
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「井蛙」内科メモ帖 
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があります。  
 
 

 

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