戯れ言たれる侏儒
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< CABG と動脈グラフト | メイン | フラミンガム・リスク評価モデルの簡略版 >

見逃されている大動脈弁狭窄症患者の症状
最近のNew England Journal of Medicineから「手術ができない重症な大動脈弁狭窄症(AS)患者のうち,従来の内科的治療では1年生存率50.7%,1年心関連死亡率44.5%」という悲惨な調査結果が報告された。
わが国でも高齢化の進展および動脈硬化性疾患の増加に並行して,高齢者のASが確実に増えている。
本症を放置すれば予後は極めて不良だが,時機を逃さず 大動脈弁置換術(AVR)を実施すれば予後が改善される。
このことをしっかりと認識し,日々の診療に当たることが大事である。
本対談では,手稲渓仁会病院 心臓血管センター センター長の村上弘則氏と大阪市立大学大学院循環器病態内科学准教授の室生卓氏から,わが国での未治療AS患者の現状と,1人でも多くのAS患者を救うために何ができるのかについて,お話いただいた。
Leon MB, et al. N Engl J Med 2010; 363(17): 1597-1607
 
高齢化によるAS患者増加の実態
村上 
以前はリウマチ性のASが主流でしたが,最近では高齢化を背景に動脈硬化が強く関連する硬化性ASがそれに置き換わっています。
当科で診断された新規硬化性AS患者は軽症も含め2000年度に29人でしたが,2006年度には105人へと急増しています(図1)。
食生活の欧米化によって,高齢者にも動脈硬化が増えており,それと関連している硬化性ASもまた,高齢者を中心に増加を続けているのだと思います。
 
 
村上 
残念ながら,未診断で放置されている患者さんがかなり多く存在するものと推測されます。
また,診断されながらも適切なフォローがされ ていないケースもあると思います。
ASは高齢であっても安全に手術が可能で,時機を逃さずに手術できれば良好な予後が期待できます。
それにもかかわらず, 治療はもとより確定診断さえなされず放置されている現状は,残念でなりません。
 
室生 
何故,AS患者が未診断・未治療で放置されているのか。
それをどう解決していくべきなのか。
本日は一緒に考えていきたいと思います。
その前に,重症なAS患者がどの程度手術を受けているか,そしてASを放置することのリスクについて再確認しておきます。
まず,当院では1995年1月から2007年4月に重症ASと診断された269例を調査したところ約50%しか手術を受けていませんでした。
そして,手術が必要ながらも手術を受けなかった患者群の5年生存率は28%であり,手術を受けた群の85%に比べて非常に不良でした(図2)。
もちろん,全身状態が悪かったり,認知症などで手術を受けることができない場合もありますが,それでも重症ASの予後は極めて悪いと言えます。
この結果からも適切な時機にAVRを行えば予後が改善するAS患者も多いと言うことができます。

 

図表
 
村上 
われわれの施設では,2000年1月から2006年12月に手術が必要な重症AS患者を調査したところ,約3割しか手術を受けていませんでした。
理由としては年齢,拒否,合併症などが挙げられます。
 
 
なぜAS患者が放置されてしまっているのか?
村上 
AS患者が増加する一方で,適切な診断・治療がなされていない今の状況に対して,早急な対策が求められています。その対策を講じるに当たっては,まずASが放置されている理由を知っておくべきです。
 
室生 
まず,医師も含め医療者側のASに対する認識が低いことが原因ではないかと感じています。
われわれの反省からですが,循環器内科医でもASは確実に進行している疾患という認識が少し足りない気がします。
軽症であった患者さんが気付いたときにはかなり重症に進行していたということもあり ます。
また,循環器を専門としないプライマリケア医の先生方に関しては,ASの現状に即した正しい情報が行き届いていない,というのも原因の1つではないかと感じています。
われわれが学生のころは,「弁膜症はこれから減る」と教えられたものですが,現実は全く逆になっているのですね。
 
村上 
患者さん側はどうでしょうか。
患者さんの意識の問題も見逃すことはできません。
高齢になれば,当然のごとく息切れくらいは起こすよう になります。
それが実際にはASの症状だったとしても,本人には判断がつきませんから,年齢相応の変化だと勝手に判断して自ら生活を制限します。
このよう に,患者さんが症状を自覚していない場合,医師でも容易にこれを見抜けません。
つまり,問診で高齢者のASを見つけることは難しく,結果としてASが放置 されているのが現状です。
本当に症状があるかどうかを明らかにするためにも日常生活に即した丁寧な問診を心がけることが必要です。
 
 
聴診することがAS診断の第一歩
室生 (ASの診断を早期に確定するには)
まずは,循環器内科医を含め他科,プライマリケア医の先生方にも,高齢者の硬化性ASは増えているという事実を踏まえ,次の点をあら ためて認識していただきたいと思います。
(1)Listen:
ASは聴診(心雑音の聴取)で比較的容易に診断できるので,高齢者であれば,まず聴診をする
(2)Ask:
患者さんがASの症状を自覚していない場合も多いので,本当に症状があるか日常に即した丁寧な問診をする(3)Explain:
タイミング が重要であるので,手術機会を逃すと予後が悪いことをしっかりと患者さんに説明する
(4)Follow:
ASは確実に進行するので,無症候でも定期的に しっかりフォローする—。
 
以上の“AS診断4カ条”をぜひとも念頭に置いていただきたいと思います。
その上で,普段から生活習慣病などでフォローしておられる高齢患者に対して, 聴診を欠かさないよう強くお勧めします。
特に,動脈硬化性疾患を有する高齢者では,ASも高率に潜在していますから聴診が必須となります。
 
村上 
重要なご指摘です。
昨今は聴診を省略する場面も増えていますが,室生先生のおっしゃる“AS診断4カ条”を念頭に置きながら,高齢患 者には必ず聴診を行うようにしていきたいですね。
ASの聴診ポイントとして,「一般的に全胸部の広範囲に荒々しい収縮期雑音を聴取し,しばしば鎖骨部や頸 部に放散を認めること」を挙げておきます。
 
 
地域における医師同士の連携が重要
室生 
プライマリケア医の先生方には,多くの患者さんを救うために,未診断のASを早期に発見していただくことが大変重要です。
そのために も循環器専門医がプライマリケア医の先生方へ,現状に即した情報提供をすることがとても大切です。また,総合病院であれば,院内他科に働きかけることも必 要だろうと思います。
村上先生のご施設では,院内で初めてASを指摘される患者さんは多いですか。
 
村上 
院外から紹介されてくるのと同等もしくはそれ以上の割合の患者さんが院内で見つかっています。
その多くは一般的な循環器疾患でフォ ローアップ中の患者さんが,新規にASを発症した場合です。
それ以外にも,整形外科・外科などでなんらかの手術が計画された際に,術前検査で心雑音を指摘され,ASと診断されることも少なくありません。
院内で見つかるASの約3割が,術前検査に絡んだケースです。
ASが原因で本来の手術が受けられないということもありますので,他科においても早期にASを発見することは重要だと思います。
それと,高齢者では腎機能低下を来している方が多いので,腎臓内科の 先生がASを見つけるケースもまれではありません。
 
室生 
われわれの施設でも,術前検査で異常が認められ,循環器内科にコンサルされ受診してASが見つかるケースは確かにあります。
ただし, 手術を控えて精査するような場合ではASを見つけられますが,通常の診療ではやはり見逃しているケースが多いと言わざるをえません。
循環器専門医,他の専 門医,プライマリケア医を問わず,日常診療で高齢者を診ている先生は,今一度,ASを再認識すべきですね。
 
ところで,われわれは大学全体で定期的な勉強会を行っています。
大学の医師はもちろん,近隣の関連病院,開業医などの先生方にお集まりいただき,各科持 ち回りでテーマを決めています。
このような機会でASについて話し合うのも有用であると思います。
いつも患者さんを紹介していただいている先生方とは循環 器内科として別途ミーティングも行っていますし,今後もこのような活動の充実を図りたいと思います。
 
村上 
われわれの施設では近隣の先生方を対象に各エリアで勉強会を行っています。
ASのテーマを取り上げながら情報交換をする中で,聴診の 重要性を再確認しています。
また,フォローアッププログラムというのがあり,患者さんにフォローアップが必要な場合,必要に応じてご紹介いただいた先生に 次のフォローアップのタイミングを伝えています。
診療情報の共有にもなり,より確実なフォローアップを行うことができています。
 
 
聴診でASを疑ったら心エコー検査へ
室生 
地域での取り組みはとても大事ですね。
ところで,高齢者を診ておられる先生方が,聴診でASを疑う心雑音を聴取したとします。
もし,その先生が循環器専門でなかった場合,どうすべきでしょうか。
 
村上 
心雑音を聴取してASを疑ったら,まず心エコーを備えている最寄りの施設へ検査を依頼して,確定診断と重症度判定を行うことが大切です。
循環器専門クリニックでも総合病院でも構いません。
とにかく一度は専門医の診断を仰ぐことが,予後を損なわないために重要です。
 
室生 
「ASはさほど進行しない」,「症状が出現するまで大丈夫」などと認識されている先生方も少なくないと思いますので,それは本当に重要ですね。
心雑音を聴取してASを疑ったら,まず心エコーで病態把握を行ってから治療方針を立てるべきです。
 
村上 
循環器専門医の立場としては,病態把握のための検査を行うことは,決して迷惑ではありません。
 
室生 
「雑音があります。心エコー検査をしてください」と紹介状を書いていただくだけで結構です。
実際にASがなくても,まずはご紹介いただきたいですね。検査をすることで,患者さんとそのご家族は安心されますので。
 
村上 
普段から病診連携や診診連携を図っていれば,紹介の敷居は下がるでしょうし,ASのやりとりを通じて連携がさらに深まります。
勉強会などで顔を合わせた者同士であれば,連携もスムーズでしょう。地域ぐるみの連携が求められます。
 
 
QOL向上のための適切な手術タイミング
室生 (手術適応に関して)
心エコー検査の結果を踏まえ,主治医の先生と専門医が話し合い,軽症または中等症ならば 経過観察もしくは内科的治療が行われます。
その一方で,手術機会を逃さないために,適応判断をどう考えればよいのかが問題になります。
 
村上 
まずASが重度の場合,症状があればもちろん,症状がなくても心機能が低下すれば手術適応となります。
まだ結論には至っていません が,今後検討すべき課題として,高齢者において上記の基準で手術をしたのでは遅すぎる場合があります。
最近では,ASを心不全リスクと考えるようになっていますから,重症になる前の段階で待機的に手術した方が,予後改善のみならずQOLの維持・向上にもつながる可能性があります。
すなわち,心エコー検査で 大動脈弁圧較差,大動脈弁口面積を測定し,年齢や体表面積,合併症といった患者背景も含め,総合的に判断して手術タイミングを考えるべきです。
 
室生 
今,お話のありました高齢者への手術適応の問題ですが,当施設では主に70歳代の患者さんが手術を受けています。村上先生は年齢のファクターをどのようにお考えですか。
 
村上 
今は平均寿命も延びましたから,80歳代であっても適応があれば積極的に手術し,それで日常生活に復帰できる患者さんも珍しくなくな りました。
手術は安全ですし,予後は良好です。そうした経験から,80歳代という年齢だけで適応除外することはしていません。
むしろ当施設では,80歳代 の手術が増えています。
 
室生 
10年先の日本の状況を見るようですね。
 
 
ASは進行性疾患,フォローアップが大切
室生 
軽症から中等症であれば手術の必要はありませんが,ASは進行性の疾患であるため,心エコーでフォローアップする必要があります。
どのくらいの頻度で行うべきとお考えですか。
 
村上 
状況によりますが,おおむね年齢もしくは重症度で判断し,70歳代で中等症以下ならば年1回の心エコー検査でよいと思います。
一方,80歳代もしくは重症ASならば,より頻繁にフォローする必要があります。
 
室生 
フォローが遅れ,既に手遅れといった患者さんを経験したことがありますが,何か対策をされていますか。
 
村上 
われわれは,先ほど紹介させていただきましたフォローアッププログラムを利用し,院内の地域連携室に協力を仰いでいます。
診断のつい た患者さんを登録しておけば,地域連携室から定期的に主治医の先生と患者さんへ連絡されます。
このシステムにより,病態悪化の見落としをなくしています。
地域ぐるみで医師の連携が取れている状況が望ましく,地域連携室がその橋渡しをしてくれています。
 
 
疾患を理解していただくこと
それが,患者さんを救うこと
室生 
ASは軽症であれば一生涯手術が必要ない場合もありますが,重症であれば手術のタイミングが重要になってきます。
この手術機会を逃さないためには患者さんへの説明がとても重要です。
この点について村上先生はどのようにお考えですか。
 
村上 
医師からの説明は極めて重要ですね。
手術が必要な場合でも,話し方によっては,「もう年ですから手術は結構です」となりかねません。
重要なことは,
(1)珍しい病気ではなく最近増加している病気であること
(2)ASは進行性の病気であるため定期的なフォローアップが非常に大事であること
(3)手術が必要になっても適切なタイミングで行えば手術は安全に行われていること
(4)手術によって予後は改善し日常生活に復帰できること
—を折に触 れ説明しておくことが大切です。
 
 
室生 
わたしは重症ASの患者さんに対しては,「悲観する必要もないが,楽観してもいけない」と言っています。
客観的に,手術の必要性と得 られる利益を説明します。
心エコーでのフォローアップと,患者さんへの説明がしっかりとできていれば,それぞれの患者さんに合った手術のタイミングを逃さずに済みます。
 
 
AS患者を救うためにわたしたちができること
村上 
最後に,AS患者を取り巻くすべての医師が“AS診断4カ条”をあらためて振り返り,より多くの患者さんを救うために取り組んでいただくことを期待しています。
 
 
 
 
出典 Medical Tribune 2011.1.27
版権 メディカルトリビューン社
 
 
 
 

その他
「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/
(循環器専門医向き)
ふくろう医者の診察室 
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
http://wellfrog4.exblog.jp/
 井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
http://wellfrog3.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/ 
(内科医向き)
「井蛙」内科メモ帖 
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/  

があります。     

 

 

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