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兵庫県立尼崎病院循環器内科の佐藤 幸人先生が書かれたECLIPSE試験に関する記事で勉強しました。
ECLIPSE試験は、バゾプレッシンV2受容体拮抗薬tolvaptanの血行動態への影響を見たものです。
バゾプレッシンV2受容体拮抗薬tolvaptanの血行動態への効果
悪影響を与えることなく低ナトリウム状態などを改善
背景:低ナトリウム血症などに有効とされるtolvaptan
バゾプレッシンV2受容体拮抗薬tolvaptanは尿量を増加し,心不全や肝不全の浮腫,また両疾患に合併するような循環血液量増加に伴う低ナトリウム血症,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)に伴う低ナトリウム血症などに有効と考えられている。
TolvaptanはSALT試験※1では低ナトリウム血症患者において,低ナトリウム状態を改善し,EVEREST試験※2では長期予後改善までは認められなかったものの,重症心不全患者において投与1日目から有意な体重減少と呼吸困難の改善が認められた。
ECLIPSE(EffeCt of toLvaptan on hemodynamIc Parameters in Subjects with hEart failure)試験では,tolvaptanの血行動態への影響が検討された(J Am Coll Cardiol 2008;52:1540-1545)。
Acute hemodynamic effects of tolvaptan, a vasopressin V2 receptor blocker, in patients with symptomatic heart failure and systolic dysfunction: an international, multicenter, randomized, placebo-controlled trial.
(J Am Coll Cardiol 2008;52:1540-1545)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/19007589
方法:収縮期機能不全の心不全患者にtolvaptanを投与して8時間観察
ニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類III,IV度の駆出率(EF)40%未満の心不全患者にSwan-Ganzカテーテルを留置し,肺動脈楔入圧(PCWP)が18mmHgを超える患者を対象とした。薬剤投与はプラセボ,tolvaptan15mg,30mg,60mg経口単回投与のいずれかに割り付けた。
観察は8時間行い,その間,他の薬剤は変動させなかった。
#結果:尿量は増加し,尿浸透圧,血漿浸透圧が改善するも,降圧効果は限定的
Tolvaptan投与の結果,尿量は増加,PCWP,右房圧(RAP)は減少し,尿浸透圧は低下,血漿浸透圧は増加した(図1,2,3)。



その他,心拍出量,血中カリウム,クレアチニン,尿素窒素(BUN)に変化は認めず,血中ナトリウムはわずかに増加した。ただし,尿量はtolvaptanの投与量に相関して増加したが,PCWP,RAPの低下は必ずしも投与量に比例しなかった。
考察:使用法については進行中の臨床試験の結果に注目
現在わが国においてtolvaptanは第III相の治験中であり,近い将来に臨床現場で使用可能と思われる。
実際には,フロセミドなどで治療抵抗性の浮腫や,循環血液量増加に伴う低ナトリウム血症に対して使用されるものと思われる。
本試験でtolvaptan単回投与の血行動態への影響が明らかとなったが,尿量の増加の割にはPCWP,RAPの低下作用は顕著でなく,せいぜい数mmHgの低下であった。
この現象がEVEREST試験の時にも観察されたように,tolvaptanが強い利尿作用を持つ割には過度の降圧を生じにくい原因と思われる。
EVEREST試験ではtolvaptanの心不全入院患者における総死亡,心不全による入院などの改善を示すことはできなかった。
しかし急性期治療薬として腎機能の悪化や血行動態への悪影響を生じることなく,体重減少,呼吸困難などの改善を得ることが可能であった。
また,SALT試験同様,低ナトリウム血症患者には低ナトリウム血症改善効果が示された。
今後,現在進行中の他の臨床試験によってtolvaptanの最良の投与対象とともに,投与法が明らかになるものと期待される。
※1
SALT(Study of Ascending Levels of Tolvaptan in Hyponatremia)試験
(N Engl J Med 2006;355:2099-2112)
方法:
心不全,肝不全,SIADHが原因であり,循環血液量が正常あるいは増加した低ナトリウム血症患者において,tolvaptanの外来投与の有効性を検討した。
患者数はSALT-1(tolvaptan102例,プラセボ103例),SALT-2(tolvaptan123例,プラセボ120例)。
結果:
tolvaptanはプラセボに比べて4日後および30日後の血清ナトリウム濃度を上昇させるのに有効であったが,投与を中止すると約1週間で再び低ナトリウム血症が生じた。
ポイント:
低ナトリウム血症は心不全,肝不全患者において独立した予後規定因子であり,tolvaptanで補正することにより長期予後改善が期待できる可能性があるが,この点は今後の検討課題である。
※2
EVEREST(Efficacy of Vasopressin Antagonism in Heart Failure Outcome Study with Tolvaptan)試験
(JAMA 2007;297:1319-1331, 1332-1343)
方法:
心不全悪化によって入院した患者において,標準治療にtolvaptanを追加した場合の有効性および安全性を検討した。
(1)短期有効性試験では7日後(早期退院の場合は退院時)の臨床症状の変化を,
(2)長期予後試験では全死亡,心血管死+心不全による入院を検討した。
患者数はtrial A(tolvaptan1018例,プラセボ1030例),trial B(tolvaptan1054例,プラセボ1031例)。
結果:
短期有効性試験では,tolvaptan群では1日目から有意な体重減少を認め,1日目の呼吸困難も有意に改善した。
また,腎機能,心拍数,血圧に有意な影響は認めず,低ナトリウム血症の患者ではナトリウムの改善が見られた。
しかし,長期予後ではtolvaptanとプラセボの間に有意差を認めなかった。
ポイント:
EVEREST試験の対象患者は慢性心不全が急性増悪した患者であり,どちらかというと慢性心不全というよりは急性心不全に近い母集団であった。
急性心不全患者においては,点滴強心薬はもちろんのこと,点滴血管拡張薬であるB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)製剤nesiritideでも長期予後改善効果は認められていない。
また,重症患者が対象の場合,予後改善効果は認められにくい。実際,EVEREST試験では平均9.9か月のフォロー期間で,約40%の患者が入院し,約25%の患者が死亡しているといった超重症患者群であった。
EVEREST試験では,重症心不全患者に対してtolvaptanは重篤な低血圧,腎機能悪化を生じることなく,体重減少,呼吸困難改善を目的として追加使用可能であるということが確認された。
長期予後改善効果については有効な患者群の抽出が望まれる。
出典 MT pro 2008.12.5
版権 メディカルトリビューン社
<トルバプタン 関連サイト>
新規心不全治療薬トルバプタン
http://blog.m3.com/reed/20101021
ESCAPE試験サブ解析
http://blog.m3.com/reed/20081126/ESCAPE_
心不全(世界の権威に聞く)
http://blog.m3.com/reed/20080410
<番外編>
ムコ多糖症とともに〜早期発見で救える命がある(循環器科編)〜
http://mt.m3.com/genzyme/muco2010_10/movie/muko_03/index.html

清水 規 『金剛輪寺盛秋』 日本画
http://www.seikougarou.co.jp/sell/shimizunori/1855.html
その他