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高齢者高血圧における至適な降圧目標値を明らかにするため,日本人を対象に実施されていたValsartan in Elderly Isolated Systolic Hypertension(VALISH)Studyの結果がこのほど発表されました(Ogihara T, et al. Hypertension 2010; 56: 196-202)。
同研究では,AT1受容体拮抗薬(ARB)バルサルタンを第一次薬として厳格に降圧療法を行っても有害事象が増加しないことが明らかになりました。
この試験の結果,今後の高齢者高血圧治療における方向性が示されました。
きょうは、このVALISHで勉強しました、
##VALISHの結果と高齢者高血圧の治療方針
##ARBを用いた厳格降圧療法の可能性が示される
司会
猿田 享男 氏 慶應義塾大学 名誉教授
出席(発言順)
荻原 俊男 氏 大阪大学 名誉教授/大阪府立急性期・総合医療センター 院長
島田 和幸 氏 自治医科大学附属病院 病院長/自治医科大学内科学講座循環器内科学部門 教授
松岡 博昭 氏 獨協医科大学 名誉教授/宇都宮中央病院 病院長
菊池 健次郎 氏 旭川医科大学 名誉教授/北海道循環器病院 常務理事
瀧下 修一 氏 琉球大学 名誉教授/沖縄リハビリテーション福祉学院 学院長
伊藤 貞嘉 氏 東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座 腎・高血圧・内分泌学分野 教授
#VALISH概要

#目的
日本人高齢者収縮期高血圧患者における降圧目標値の検討
#対象
70歳以上85歳未満の収縮期高血圧患者(SBP>160mmHgかつDBP<90mmHg)
#試験デザイン
前向き・無作為化・オープンラベル・エンドポイント盲検試験(PROBE法)
・国内461施設から3,260例を登録
・同意撤回/未追跡例を除外した解析適格例は3,079例(平均年齢76.1歳)
厳格降圧群1,545例(平均ベースライン血169.5/81.7mmHg)
緩徐降圧群1,534例(平均ベースライン血169.6/81.2mmHg)
・追跡期間:平均2.85年,中央値3.07年
#評価項目
一次エンドポイント(複合エンドポイント)
突然死,致死性・非致死性脳卒中,致死性・非致死性心筋梗塞,心不全および他の心疾患による死亡・入院,腎機能障害(Cr値倍化,Cr値>2.0mg/dLまたは透析導入のいずれか)
#結果
バルサルタン単剤治療率:厳格降圧群56.1%,緩徐降圧群57.6%
3年後の血圧:
厳格降圧群136.6/74.8mmHg,緩徐降圧群142.0/76.5mmHg(両群の血圧差:5.4/1.7mmHg,P<0.001)
一次エンドポイント:
1,000患者・年当たり厳格降圧群10.6件,緩徐降圧群12.0件(ハザード比0.89,95%信頼区間0.60〜1.31,P=0.383)
重篤な有害事象:
厳格降圧群5.6%,緩徐降圧群5.2%(P=0.61)
#バルサルタンを第一次薬として厳格な降圧を達成
猿田
日本高血圧学会は,2000年に初めて発行した「高血圧治療ガイドライン(JSH)2000年版」より,高齢者高血圧における降圧目標値を設定しています。
しかしながら,JSH2000および改訂版のJSH2004を作成した当時は,至適な降圧目標値を示すエビデンスが不足していました。VALISHは,こうした背景のもとで実施されました。
荻原 (VALISHに結果)
VALISHでは,高齢者収縮期高血圧患者に対してARBであるバルサルタンを第一次薬とし,収縮期血圧(SBP)<140mmHgの厳格降圧群と140~149mmHgの緩徐降圧群における心血管イベントの発生頻度が比較されました。
試験開始3年後の血圧は,厳格降圧群136.6/74.8mmHg,緩徐降圧群142.0/76.5mmHgで,両群の血圧差は5.4/1.7mmHgでした(図1)。厳格降圧群のSBPは,試験開始から平均で33mmHg低下しました。

試験終了時にバルサルタン単独でコントロールされていた患者の割合は,厳格降圧群56.1%,緩徐降圧群57.6%でした(図2)。
試験開始3年後のバルサルタン平均投与量は,厳格降圧群91.2mg/日,緩徐降圧群88.1mg/日であり,厳格降圧群が有意に高値ではあるものの(P<0.001),その差は大きくありませんでした。

一次エンドポイントである複合心血管イベントの発生率は,Intension-to-treat(ITT)解析で厳格降圧群10.6/1,000患者・年,緩徐降圧群12.0/1,000患者・年で,両群間には有意差が認められず,per protocol解析でも両群間に有意差はありませんでした。
また,二次エンドポイントについても有意差は認められませんでした(図3)。
サブグループ解析では,性,年齢,BMI,ベースライン時の降圧療法,糖尿病,脂質異常症,CKDについて解析しましたが,いずれも有意差は認められませんでした。
ただし,両群の到達血圧別に検討したところ,SBP≧150mmHgの場合に心血管イベントリスクの著明な上昇が認められました。

以上の結果から,VALISHでは高齢者高血圧における至適な降圧目標値を見出すには至りませんでしたが,バルサルタンを第一次薬として厳格な降圧療法を行っても有害事象は増加しない点と,高齢者に対するバルサルタンの優れた降圧効果が示されたことの臨床的意義は大きいと考えます。
また,JSH2009で75歳以上かつSBP≧160mmHgの症例における降圧中間目標値に設定されたSBP<150mmHgに対しても一定のエビデンスが得られたと言えます。
#高齢者高血圧におけるVALISHの位置付け
島田 (高齢者高血圧を対象としたほかの臨床試験の中でVALISHはどのように位置付けられるのか)
SBP≧160mmHgの高齢者高血圧については,プラセボ対照試験で降圧治療の有用性が確認されています。
HYVET※1では,80歳以上の超高齢者に対する降圧治療の有用性も報告されています。
また,降圧薬の選択によって降圧治療の有用性に大きな差はないことも示されています。
※1 Beckett NS, et al. N Engl J Med 2008; 358(18): 1887-1898.
VALISHは,JATOS※2に続き至適な降圧目標値について検討した重要な研究ですが,結果はいずれも厳格降圧群と緩徐降圧群との間に心血管イベント発症リスクの差は認められませんでした。
しかしながら,VALISHで示されたSBP≧150mmHgで心血管イベント発症リスクが上昇するというデータは,CASE-J※3のサブ解析の結果とも合致しており,今後の治療方針に影響を与えることになると思います。
※2 JATOS Study Group. Hypertens Res 2008; 31(12): 2115-2127.
※3 Ogihara T, et al. Hypertens Res 2008; 31(8): 1595-1601.
松岡
海外では,高齢者高血圧を対象に,降圧目標値を設定した前向き研究はありません。
この意味において,わが国で行われたVALISHは,JATOSとともに非常に意義深い研究であったと言えます。
#日本人の高齢者高血圧は比較的低リスク
猿田
次に,厳格降圧群と緩徐降圧群の心血管イベント発症数が少なく,統計学的に有意差が認められなかった点はどのように捉えていますか。
菊池
イベント発症が予測(日本のJMIC-B※4:冠動脈疾患合併高血圧とフラミンガム・ハート研究※5から)の約半数であり,これが両降圧群間の差異検出パワーの低下につながりました。
今回の対象が予測より低リスクであったことによると考えられます。
※4 Yui Y, et al. Hypertens Res 2004; 27: 181-191.
※5 Kannel WB. Am Heart J 1999; 138(3 part 2): 205-210.
瀧下
JATOSと比べても,全死亡率および脳卒中の発症率が低く,明らかに低リスクであったものと思います。
荻原
われわれは当初,VALISHの対象を高リスクだと想定していましたので,日本では欧米に比べて健康な高齢者が多いこと,医療者側がきめ細かい治療を行っていることなどの大きな違いがあると実感しました。
しかしながら,VALISHの結果は日本における実臨床を反映した結果だと考えますので,こうした成績を発信する意義は大きいと考えています。
伊藤
VALISHでは心血管病の既往例や糖尿病の合併例が少なく,日本の高齢者のなかでも比較的健康な症例が対象であったと言えます。
こうした症例の治療に当たり,今回のVALISHの結果はよい参考になると思います。
#高齢者でも示されたバルサルタンの降圧効果
菊池 (バルサルタンの降圧効果について)
試験終了時にバルサルタン単独治療が半数以上を占めていますが,これは通常とは異なる食塩感受性でない軽症の高齢患者が多かったためと推察されます。
最終2受診時の降圧目標の達成率は厳格降圧で約3分の2,緩徐降圧で2分の1以下(140mmHg未満例が少なくない)でしたが,試験1年後,2年後の持続的達成率がイベント評価上,より重要ですので,サブ解析に期待したいですね。
瀧下
厳格降圧群でもバルサルタン単独治療が多かったのは事実ですが,その多くが目標血圧に達していたとするデータは示されていません。
今後はバルサルタン単独治療を行った群で,血圧の分布を明確にすることも重要だと思います。
荻原
厳密にはおっしゃる通りですが,厳格降圧群におけるSBPは平均33mmHg低下していますので,バルサルタン単独でも強力な降圧が得られていると考えています。
松岡
厳格降圧群と緩徐降圧群で併用療法を受けた患者の割合があまり変わらないのですが,これはどのような理由が考えられますか。
荻原
今後の解析を待っておりますが,Ca拮抗薬の投与量に差があると考えられます。
#JSH2009を補強するVALISHの結果
荻原 (VALISHの結果が今後のガイドラインに及ぼす影響)
降圧目標値に関しては,現時点でガイドラインを変更する必要はなく,むしろ補強された結果が得られたのではないかと思います。
島田
高齢者高血圧については,今まではSBP≧160mmHgが研究のターゲットになっていました。
ところが,150mmHgを境にイベントリスクが上昇することがわかってくると,今後は140~160mmHgも検証すべき対象になる可能性が出てくると思います。
菊池 (薬剤選択について)
HYVETでは,利尿薬,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,β遮断薬,Ca拮抗薬の順に投与され,VALISHではARB,Ca拮抗薬,少量の利尿薬の順に投与されています。
VALISHではHYVETに比べ,重篤な有害事象が少なかったことから,ARBで治療を開始し,降圧が不十分であればCa拮抗薬を併用するという日本のガイドラインに沿った治療は安全性が高いことを示唆していると思います。
猿田
VALISHでは,高齢者高血圧において厳格な降圧を達成し,かつ有害事象も少なかったことから,ARBバルサルタンを第一次薬に用いた降圧治療の有用性が確認できました。
降圧目標値について明確な結論は出ませんでしたが,少なくともJSH2009におけるSBP<150mmHgという中間目標値の意義が示されたことにより,今後の治療に役立つエビデンスが得られたと思います。
出典 MT pro 2010.9.23
版権 メディカルトリビューン社