戯れ言たれる侏儒
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静脈細胞が冠動脈の起源

戯れ言たれる侏儒 / 2010.09.07 00:19 / 推薦数 : 0

静脈細胞が冠動脈の起源
天然の再プログラミングとして今後の応用に期待
スタンフォード大学生化学部門のKristy Red-Horse博士らは,マウス胎仔を用いて心臓の発達を研究し,冠動脈に分化する細胞を突き止めたとNature(2010; 464: 549-553)に発表した。
今回同定された前駆細胞の起源は,意外にもこれまで想定されていた部位の細胞とは全く異なるものであった。

 

大きく異なる動脈と静脈
静脈は酸素の欠乏した血液を心臓に送り返し,動脈は新鮮な血液を全身に送り出す。
いずれも管状構造をしており,出入り口が異なる以外はほとんど区別が付かないように見える。
しかし,実のところ,血管を形成している細胞は静脈と動脈で大きく異なる。
これは,血管内を通過する血液の圧力や血流パターン,水素イオン濃度(pH),生化学的組成など,それぞれの血管特有の条件に対処しなければならないからである。

これまで,ヒトと他の哺乳動物の解剖学的研究から,冠動脈に分化する細胞は大動脈近傍から発生することが示唆されていた。
しかし,ニワトリの胚を用いた最近の研究で,胎仔の心臓の構造の一部である心外膜原基(proepicardium)の関与が示唆されていた。

心筋表面を移動し動脈に再分化
筆頭研究者のRed-Horse博士らは今回,マウス胎仔心臓の細胞を長期間詳細に観察し,静脈洞に発生した細胞が,受胎後約11.5日から心筋表面を移動し始め,14.5日ごろには明確な冠動脈に分化することを確認した。

同博士はこの結果に対し「他の多くの研究者同様,私もこれらの細胞は心外膜原基に由来すると考えていたため,今回の結果は非常に意外であった。
この細胞は,静脈の内皮細胞として発生し,本来は胎仔の心臓に血液を送る側の細胞である。
それが,心臓表面や心筋内を移動するうちに自然に再プログラミングを受け,動脈や毛細血管に分化した。
これら静脈を形成している細胞が脱分化して動脈に再分化したことは驚きである」と述べている。

静脈や毛細血管にも分化
Red-Horse博士らは前述の観察結果を追認するために,マウス胎仔から発生期の心臓を摘出し,静脈洞を除去して体外で培養したところ,心臓は拍動を続けたが,対照群の正常な心臓と異なり冠動脈を形成できなかった。

さらに,細胞標識技術(同大学幹細胞生物学・再生医療研究所のIrving L. Weissman教授の研究室が開発)を用いて,発生期のマウス胎仔心臓にある複数種の細胞を色分けした結果,静脈洞から発生した単一種類の細胞が心臓全体を移動し,冠動脈の内皮だけでなく,心臓の静脈や毛細血管も形成することがわかった。

Red-Horse博士は「これらの細胞が,静脈から動脈の細胞へと性質を変えるために必要な条件を解明し再現することができれば,数百万人の冠動脈疾患患者に希望を与えるものとなるだろう」と述べている。

バイパス術用の移植片作製に向けた応用も
冠動脈バイパス術では,閉塞動脈の周囲に迂回路を形成するために,移植片としてしばしば静脈を用いるが,動脈由来の移植片よりも失敗する率は高く,寿命も短い。

心筋ほど過酷な仕事をしている筋はほかにない。
また,他の筋肉と同様に,心筋も安定した酸素供給を必要とし,そのために冠動脈がその周囲を巡り,内部にも入り込んで,酸素が豊富で新鮮な血液を送達している。
動脈内壁のプラーク破綻を主因として冠動脈が閉塞すると,心筋は傷害され,死亡することもある。
こうした冠動脈疾患はごく一般的な疾患で,世界的に見ても死因の上位を占めている。

研究責任者でハワードヒューズ医学研究所(HHMI)のMark A. Krasnow主任教授は「冠動脈の正常な発生機序を解明できれば,その情報をもとに冠動脈バイパス術に用いる移植片を改良できるかもしれない。
さらには,手術をしなくても心筋の血流量を増大できる方法が見つかるかもしれない」と今回の知見の可能性について期待を寄せている。


脱分化の機序解明も予定
Red-Horse博士は,今回の知見について「これは天然の再プログラミングの好例である。
心臓は静脈洞から発生する細胞に対し,遊走して冠動脈に分化させるようシグナルを出していると考えられる。
この分子シグナルがわかれば,バイパス術の際にそれを活用して冠動脈を作製できるようになるかもしれない。このことは,治療上の観点からきわめて重要と考えられる」と述べている。

同博士らは現在,静脈洞から発生する細胞が冠動脈に分化するときに,心臓から出されるシグナルが細胞の遺伝子発現パターンをどのように変化させるのかについて解明しようとしている。
今後,ヒトの細胞においても同様の脱分化が引き起こされるか否かの解明についても取り組む予定である。

Krasnow主任教授は「過去数年間に臓器発生の機序に対する理解は深まり,組織工学と再生医療の分野でも重要な進歩が見られたが,それぞれの分野間の相互交流が不足している。現在,われわれは,身体が血管や臓器を形成する機序についてこれまでに得られた知見は,実験室で血管や臓器を作製することに役立つのではないかと考えている」と述べている。

同主任教授とWeissman教授は,いずれもスタンフォードがんセンターに所属している。

出典 MT pro 2010.6.10
版権 メディカルトリビューン社

 

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