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74回日本循環器学会総会(2010京都)・学術集会ファイアサイドセミナー「動脈硬化予防のエビデンス」(座長:島田和幸氏=自治医科大学病院病院長・循環器内科教授)での講演の記事で勉強しました。
演者は米国・アーカンソー医科大学内科学・生理学・生物物理学 Jawahar L. Mehta 教授です。
アスピリンの新しい作用
アテローム発生・心筋梗塞のおける潜在的作用機序
アスピリンは,1899年に発売された世界初の人工合成医薬品である。その有用性は豊富なエビデンスに裏づけられ,世界中で解熱・鎮痛薬,抗炎症薬,抗血小板薬として活用されている。
しかし今なお,アスピリンが有する作用の全貌は解明されていない。Mehta氏は,近年注目されているアスピリンの作用とその機序に関する研究の動向を紹介した。
国際共同研究でアスピリンの心血管イベント抑制効果を確認
Mehta氏は冒頭,血管閉塞を来す重要イベントである血栓症の発現機序について概説した。
血栓形成の初期は血管内皮層・平滑筋,血流は正常に見えるが,アテローム硬化症を来す患者の場合,既に血管機能障害は始まっている。
その後10年以上経過すると,血管壁の変化が顕在化してくる。動脈内膜の肥厚や平滑筋細胞の遊走・増殖,内膜下への炎症細胞の遊走が促され,単球は酸化LDLを取り込んで泡沫細胞と化す。
晩期には多数のマクロファージや泡沫細胞,炎症細胞が生じ,血管内皮層の破裂・剥離や血小板の凝集が進み,不安定冠症候群や脳卒中が引き起こされる。
アスピリンは,こうした血管内皮障害から炎症,酸化LDLの生成,血栓症の発症に至る経路の要所で,さまざまな作用を発揮する。同氏は,まずアスピリンの抗血小板作用を取り上げた。その臨床効果は1970年代に確認されたが,とりわけ不安定狭心症男性患者にアスピリンを投与すると,用量によらず死亡・非致死的心筋梗塞の発生が著明に抑制された(N Engl J Med 1983; 309: 396ほか)。
国際共同研究APT(Antiplatelet Trialists'Collaboration)によるメタ解析では,心筋梗塞既往患者に対するアスピリンの心血管イベント再発抑制効果が示された(BMJ 1994; 308: 81)。
後続のATT(Antithrom-botic Trialists'Collaboration)メタ解析では閉塞性血管障害を有する患者を対象とし,同様の成績が得られた(BMJ 2002; 324: 71)。
またHarpazらは,アスピリンの投与により,冠動脈疾患を合併したインスリン非依存型糖尿病患者の全死因死亡率が低下することを明らかにした(Am J Med 1998; 105: 494)。
米国では,心血管リスクの高い糖尿病患者に低用量アスピリンの使用を考慮するよう推奨している。
アスピリンは内皮保護的作用を持つAktの活性を亢進させる
続いてMehta氏は,主として最近の基礎研究結果に基づいて,アスピリンの抗炎症作用と抗酸化作用について解説した。
アテローム硬化症における炎症反応は,酸化ストレスや血小板凝集,平滑筋細胞増殖によって亢進する。
炎症には多数の細胞接着分子も関与し,活性化内皮細胞はICAM-1,VCAM-1,P-セレクチン,L-セレクチン,カドヘリンの発現を増強する。
これらの炎症関連因子に対し,アスピリンは多面的に抑制する。例えばin vitroヒト血管モデルにアスピリンを投じると,ICAM-1の発現および平滑筋細胞の増殖は抑制され(Circulation 2001; 103: 1688),T細胞の内皮細胞への接着,T細胞上のL-セレクチン発現も抑制される(J Immunol 2001; 166: 832)。
また,内皮細胞でのシグナル伝達にかかわる転写因子NF-κBは,炎症性サイトカインを活性化させ,アテローム発生や心筋梗塞の発症に荷担する。
一方,内皮型NO合成酵素阻害物質をリン酸化させるAkt(プロテインキナーゼB)は細胞アポトーシスを抑え,内皮を保護するように働く。Yuanらは,糖尿病やメタボリックシンドロームのモデルマウスにアスピリンを投与すると,Akt活性が高まりNF-κBのシグナル伝達が阻害されると報告している(Science 2001; 293: 1673)。
動脈硬化モデルマウスを用いた実験では,アスピリンがアテローム硬化巣での前炎症分子フラクタルキンの発現を抑制することも示唆されている(Cardiovasc Drug Ther 2010; 24: 17)。
酸化ストレスによる血管内皮障害がアスピリン投与で回復
アテローム硬化症の発症・進展には酸化ストレス,すなわち活性酸素種(ROS)の過剰産生が大きく関与している。
ROS自体は生物学的に欠かせないが,その産生はアテローム硬化症や糖尿病,血栓症,加齢に伴って過剰になりやすい。
酸化LDLが形成されると,血管内皮細胞上の受容体LOX-1の発現が増加し,内皮機能障害や炎症,血栓症が促進される。
これに関してMehta氏らはin vitro研究を行い,アスピリンが用量・時間依存的にLOX-1 mRNAおよびLOX-1の蛋白レベルを抑制することを確認している(Cardiovasc Res 2004; 64: 243)。
また,酸化ストレスによってNOが分解されると,NOの血管弛緩作用や,血小板凝集・炎症・平滑筋細胞増殖に対する潜在的抑制作用が損なわれる。
だが,そうした場合でもアスピリンを投与すれば,内皮依存性血管拡張反応を回復しうることが,高血圧症患者を対象とした臨床研究の結果からうかがえる(図1)。

最後に同氏は,アスピリンの抗血管新生作用と抗アテローム硬化作用を示す検討例を紹介したうえで「アスピリンが有する抗血小板以外の作用の一部は,サリチル酸も関与するシクロオキシゲナーゼ阻害によらないものである」と付言。
さらにアテローム硬化症および心筋梗塞などの続発症に対する,アスピリンの多面的調節作用を図示した(図2)。

「本講演がアスピリンの作用機序を理解し,アスピリンを賢く活用する契機となれば幸いである」と結んだ。
出典 Medical Tribune 2010.6.10
版権 メディカルトリビューン社
<番外編> 2010.10.30追加
#アスピリン5年以上服用、近接結腸癌リスク70%低下
アスピリンによる大腸癌の予防効果に関して、無作為化比較試験5件の20年間の追跡調査をもとに検証。
20年間にわたって結腸癌発症リスクの低下を認め、5年以上の服用で近接結腸癌リスクが70%低下し(ハザード比0.35)、直腸癌リスクも低下したが(同0.58)、75mgを超える服用ではベネフィットは増加しなかった。
http://www.m3.com/news/THESIS/2010/10/27/10806/
原文
Long-term effect of aspirin on colorectal cancer incidence and mortality: 20-year follow-up of five randomised trials
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(10)61543-7/abstract
http://www.m3.com/news/THESIS/2010/10/27/10806/
<きょうの一曲> カンパニュラの恋
平原綾香「カンパニュラの恋」
http://www.youtube.com/watch?v=NeouOwD-OFY&feature=related

茂登山東一郎 「卓上の果物」 6S
http://www.norigallery.com/past_2009/past_2009_05_27.html
その他
「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
http://wellfrog4.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
http://wellfrog3.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/
(内科医向き)
「井蛙」内科メモ帖
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/ があります。