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さまざまな大規模臨床試験において,HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)による心血管イベント抑制効果が示されています。 スタチンによるコレステロール低下療法の有用性は確立されたと言えます。
一方でスタチンのLDL-コレステロール(LDL-C)低下作用から独立した多面的作用,いわゆるpleiotropic effectsが大きな注目を集めています。
きょうはスタチンについての座談会の記事で勉強しました。
司会:
筒井 裕之 氏 北海道大学大学院 医学研究科循環病態内科学 教授
出席(発言順):
小室 一成 氏 大阪大学大学院 医学系研究科循環器内科学 教授/千葉大学大学院 医学研究院循環病態医科学 客員教授
江頭 健輔 氏 九州大学大学院 医学研究院循環器内科学 准教授
循環器領域におけるスタチンの新たな可能性
エビデンスから見たスタチンの新たな可能性
筒井
■日本循環器学会の慢性心不全治療ガイドラインでは,軽症例はまずACE阻害薬かARBを投与し,さらにβ遮断薬,抗アルドステロン薬,利尿薬,ジギタリスなどを重症度に応じて投与するといったことが示されています。
■われわれの調査では,わが国の収縮不全患者の約90%にACE阻害薬およびARBが投与され,また,β遮断薬,利尿薬,抗アルドステロン薬も多く用いられており,比較的ガイドライン通りの治療がなされていると言えます。
■一方,長期予後を見ると1年死亡率が約8%,再入院も約20%と予後はきわめて悪いことが示されており,こうした現状が心不全治療の新たなアプローチへの期待へとつながっているものと思います。
小室(心不全に対するスタチンの影響)
■心不全を対象とした前向き研究としては,2003年に佐賀大学(当時大阪大学)の野出教授が実施された臨床研究において,拡張型心筋症患者に対するスタチンの心機能改善作用が報告されています。
■一方,2007年にはCORONA,2008年にはGISSI-HFという大規模臨床試験の結果が発表されましたが,この2つの試験はともに,当初期待されたほどの結果を示すことはできませんでした。
■現在,スタチンが心不全に対してどのような影響を及ぼすかについては,議論の分かれるところではありますが,少なくともCORONAとGISSI-HFは欧米人を対象にした試験であり,日本人の慢性心不全におけるスタチンの影響を判断するには不十分であると考えられます。
■そこで現在,われわれは日本人を対象にした多施設共同臨床研究PEARL Studyを実施し,スタチンが高コレステロール血症を合併した慢性心不全患者の予後に及ぼす影響を検討しているところです。
日本人の新たなエビデンス創出を目指して~PEARL Study~
小室(PEARL Studyの対象となった背景疾患)
■高コレステロール血症を合併し,軽度から中等度の安定した慢性心不全患者(NYHAⅡ~Ⅲ度)を対象としています。
最適な心不全治療を施したうえでスタチン投与群と非投与群に分け,33~57カ月間フォローするというものです。
1次エンドポイントは心不全悪化による入院または心臓死と設定しています(図1)。
■登録症例数は目標を超える577例が集まりました。
約80%が男性で,平均年齢は63歳,NYHAⅡ度が90%,Ⅲ度が10%,左室駆出率は平均35%でした。
また,虚血性心疾患を有する症例が29%と少ないのがPEARL Studyの特徴であり,これは欧米と比べて虚血性心疾患が少ないわが国の心不全の状況がよく反映されていると言えます。

■先行のCORONA,GISSI-HFと比較すると,PEARL Studyでは非虚血症例が多い,NYHAⅡ度の比較的軽症例が多いなどの違いがあります。
小室(PEARL Studyでピタバスタチンが選択された理由)
■ピタバスタチンは国産のスタチンであり,日本人約2万例を対象とした大規模プロスペクティブ調査において有効性(図2)と安全性が確認されています。
さらに,これまでの基礎的な検討から,血管内皮細胞や心筋細胞への作用が確認されている点が挙げられます。

■また,われわれはがんの抑制遺伝子であるp53が血管新生を抑制することで虚血が起こり,この虚血が心不全の発症に関与するという研究結果を報告しておりますが,最近の検討でピタバスタチンがp53を抑制することが示唆されました。
われわれは,この機序として酸化ストレスによるDNA損傷によってp53が蓄積されると推察していますが,ピタバスタチンの抗酸化作用によってp53が抑制される可能性があるのではないかと考えています。
スタチンのpleiotropic effectsと血管保護作用
筒井
■血管の機能はスタチンのLDL-C低下作用によっても改善すると考えられますが,pleiotropic effectsとして最初に見出されたのは,内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)活性化作用や平滑筋細胞増殖抑制作用などの血管保護作用であり,こうした作用が脂質改善作用とともに血管内皮機能や虚血を改善し,心血管イベントを抑制するのではないかと考えられています。
江頭(スタチンのpleiotropic effects)
■スタチンの血管平滑筋細胞増殖抑制作用は以前より報告されていますが,われわれもこの作用について着目し,再度,検証を行いました。
その結果,脂溶性スタチンには血管平滑筋細胞の増殖抑制作用が示されました(表)。
また,ピタバスタチンは血管内皮細胞の再生能にも期待が持てることが明らかとなりました(図3)。


日本発世界標準の低侵襲ナノ医療
江頭(ナノ粒子を用いたDDS)
■われわれは,薬効を効果的に発現させる方法として,標的細胞や組織内に直接働きかけるDDSを研究しています。
これは,生体吸収性ポリマーに薬剤や遺伝子を封入できるナノ粒子を利用したものですが,ブタの冠動脈インターベンションモデルにおいて,スタチンの1つをナノ粒子に封入し,これをコーティングしたステントを用いることにより,炎症やフィブリン血栓の沈着を抑制し,血管再生を加速させることがわかりました。
■また,このスタチン封入ナノ粒子をマウス虚血肢に筋注すると,虚血状態にある血管内皮細胞に選択的に取り込まれることが示されました。
さらに,ナノ粒子の単回投与で血流は回復し,その効果は2週間持続しました。
同様の作用を経口投与で得ようとすると,100倍以上の高用量を14日間投与する必要があるという計算になります。
■以上の結果から,薬剤封入ナノ粒子投与による治療戦略は,将来的には重症心筋虚血や心不全の治療,また血管新生の抑制が必要となるがんや網膜症治療への可能性が期待されます。
血管内皮細胞選択的ナノDDS技術を,より安全かつ有用な治療的血管新生を達成するための日本発世界標準の低侵襲ナノ医療として提案していきたいと考えています。
出典 Medical Tribune 2010.7.1
版権 メディカルトリビューン社
<番外編>
小血管を有する患者におけるEES vs PES: SPIRIT ⅡとSPIRIT Ⅲ試験統合分析
SPIRIT ⅡとSPIRIT Ⅲ試験の統合分析より、小血管を持つ患者において、Xience Vエベロリムス溶出ステント(EES)では、Taxusパクリタクセル溶出ステント(PES)と比べて、良好な成績が得られることが、イタリア、University of MilanのAntonio L. Bartorelli氏らにより、7月1日号のCatheterization and Cardiovascular Interventions誌で報告された。
Bartorelli氏らは、SPIRIT Ⅱ、及びSPIRIT Ⅲ試験に登録された患者のうち、小血管(リファレンス径<2.765mm)を有する患者541人において、PESとEESを比較した。
EES群ではPES群と比べて、平均ステント内late loss(0.15±0.37mm vs 0.30±0.44mm: p=0.011)、及びセグメント内late loss(0.10±0.38mm vs 0.21±0.34mm: p=0.034)は有意に小さく、非Q波MI、及びTLRの割合が低かったため、1年のMACEの割合も有意に低かった(5.2% vs 10.7%: p=0.037)。
1年の非Q波MIの発症率は、EES群1.6%、PES群で5.0%であった(p=0.037)。
Bartorelli氏らは、「小血管を有する患者においてXience V EESはTaxus PESと比較して良好な成績をもたらした」と、まとめている。
Bartorelli A, et al. Catheter Cardiovasc Interv. 2010; 76: 60-66
<きょうの一曲> Django
Django - Steve Kuhn Trio
http://www.youtube.com/watch?v=4OntGp_zVUQ
その他
「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
http://wellfrog4.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
http://wellfrog3.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/
(内科医向き)
井蛙」内科メモ帖
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/
があります。