戯れ言たれる侏儒
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CKDの脂質管理とスタチン

戯れ言たれる侏儒 / 2010.06.14 00:08 / 推薦数 : 1

CKD患者は心血管系のリスクが高いことが知られています。
このことには高血圧,糖尿病などとともに脂質異常が関係しているといわれています。
このあたりがCKDと心血管イベントの関係が分かりにくくなっている理由でもあります。
循環器専門医の中にはCKDの概念が今一つ理解出来ない先生方も多いのではないでしょうか。
私もその一人です。
CKDに至る原因が様々であるというのが混乱の原因でもあります。

それらの原因の中で,脂質異常はCKDそのものの進行にも関係することが知られています。
実際に「CKD診療ガイド(2009)」では,CKDでは脂質異常症の治療により蛋白尿の減少と腎機能低下抑制が期待され,LDLコレステロール(LDL-C)は120mg/dL未満(可能であれば100mg/dL未満)にコントロールすることが重要であるとの記載があります。
しかし,実地臨床では浸透していないのが現状でもあるようです。

今日は、CKDの脂質管理における指針とスタチンの安全性と有効性についての座談会の記事で勉強しました。
##慢性腎臓病の脂質管理におけるスタチンの役割
##―早期からの脂質管理の重要性を―

司会:
渡辺 毅 氏 福島県立医科大学腎臓高血圧・糖尿病内分泌代謝内科学講座教授
出席者(発言順):
常喜 信彦 氏 東邦大学医療センター大橋病院腎臓内科講師
Christoph Wanner 氏 Professor of Medicine, Head of Nephrology Department of Medicine, Division of Nephrology, University Hospital Wurzburg
庄司 哲雄 氏 大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学講師
川村 哲也 氏 東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科准教授
#CKDに対するスタチン処方の現状
渡辺
高コレステロール血症の治療薬として世界的に繁用されているスタチンですが,脂質異常症を伴うCKDに対する使用率はそれほど高くないのが現状です。
常喜(スタチンの使用率に関してのデータの紹介)
われわれがCKD患者を治療する際には,腎障害進展抑制と冠動脈疾患(CAD)などの動脈硬化性疾患の発症抑制という2つをターゲットに治療を行っています。
最近,脂質異常症はこの2つのどちらにも関与していることがわかってきました。
そのため私は,CKD患者ではスタチンを用いた脂質異常症の治療は重要だと考えます。

ところが,私たちの施設で新規に透析を導入した311例について,導入前すなわち保存期腎不全の治療について調査したところ,スタチン使用例はわずか52例,16%にすぎないという結果でした。ちなみに,使用例が最も多かったのはCa拮抗薬の218例で70%,次いでエリスロポエチン製剤(ESA)の130例で42%,ARB/ACE阻害薬の123例で40%などとなっています(表)。


渡辺
他の薬剤と比べ,スタチンの使用率は低いということですね。


常喜(CKD患者の心血管系リスクについて)
透析導入前の患者さんのCAD合併率についての報告は多くないのですが,これらの報告からわかることは,CKDのステージが上がるほどCAD合併率は高くなるということです1)。
ステージ1での合併率は5~12%2),ステージ5ないし5Dでの合併率は50%程度3,4)と報告されていますから,私はCKDのステージの数に10を乗じたものが,だいたいのCAD合併率と考えています。


Wanner 
実際に,Goらが一般人口100万人以上を対象に調査した結果でも,推定糸球体濾過率(eGFR:単位はmL/min/1.73㎡)が60未満になると心血管イベント発症率が上昇し始め,45未満になると急上昇することが示されています(図1)。

#介入時期により異なるスタチンの有用性
渡辺
CKDでスタチン投与の影響を検討した試験はそれほど多くないうえに,結果にばらつきがある印象を受けます。

Wanner
eGFRが45以上,CKDのステージで言えば2~3の患者さんにスタチンを投与した試験の成績はきわめて良好です。
例えば,TNT(The Treating to New Targets)試験のサブ解析では, アトルバスタチンのCKD症例および腎機能正常例のeGFRに対する影響を見ています5)。


常喜
さらに,ステージ2のCKD患者さんを対象にアトルバスタチンを投与したGREACE(Greek Atorvastatin and Coronary Heart Disease Evaluation)試験6),eGFRが45以上で,ステージ3でも早期の患者さんを中心的対象としてアトルバスタチンを投与したALLIANCE(The Aggressive Lipid-Lowering Initiation Abates New Cardiac Events)試験7)の報告もあります。


渡辺
eGFRが45以上であれば,スタチンによる脂質介入の結果はポジティブであるということですね。


Wanner(eGFRが45未満に低下したステージ4~5もしくは5DのCKD患者にスタチンを投与したときの効果について)
透析導入後の患者さんでの臨床試験の結果はネガティブです。
アトルバスタチンのデータとして,透析導入後の糖尿病患者さんを対象に脳心血管イベントを見た4D(Deutche Diabetes and Dialyse Studie)試験8)が報告されています。
これは,原因の特定できない突然死などが増加するので,統計上はその効果がはっきりしないものになってくることが原因と考えられます。こ
のように,早期介入と晩期介入で成績の異なることが,CKDに対するスタチンの効果にばらつきがある印象を生んでいます。


渡辺
透析導入にまで病態が進行すると,脂質異常という1つのリスク因子を是正しただけでは,なかなか転帰改善までには至らないということですね。
それまでに介入する必要性が示唆されます。


庄司
同じく糖尿病患者を対象にアトルバスタチンを投与したCARDS(The Collaborative Atorvastatin Diabetes Study)試験9)のサブ解析が示されています。
この試験は2型糖尿病でLDL-Cが160mg/dL未満の患者を対象にアトルバスタチン10mgとプラセボを比較した試験で,大血管障害抑制に対するアトルバスタチンの作用,特にeGFRが60未満の患者での脳卒中リスク低下に対する作用を見た解析です。
これらの結果から,糖尿病患者であっても,早期介入ということがきわめて重要と言えます。

#CKDのステージ3で動脈硬化の進展が最も速い
庄司(なぜ,CKD患者では早期のスタチン治療でメリットが得られるのか) 
Rigattoらは,CKD患者さんの頸動脈エコーを経年的に測定し,プラークの成長速度を腎機能別に検討しています。
その結果,プラークの成長速度が速いのはクレアチニン・クリアランス(CCr:単位はmL/min)が29~35の層までで,腎機能がそれ以下になると,むしろプラークの成長速度が鈍ります(図2)。
したがって,CKDステージの早期からスタチンを投与すると,それによるプラークの成長抑制作用も最も大きいと言えます。


Wanner(スタチンによる脂質低下の程度と,心血管イベント抑制作用の関連について)
スタチンの使用例9万例以上の成績のメタアナリシスであるCTT(The Cholesterol Treatment Trialists)の結果では,LDL-Cが1mmoL/L(約40mg/dL)低下するごとに,心血管イベントは19%減少すると報告されています10)。


#スタチンの腎機能に及ぼす影響
川村(スタチンが腎臓そのものに及ぼす影響について) 
脂質異常が腎臓にとって悪影響を及ぼすことはよく知られていて,そのメカニズムもかなり詳細に解明されています。
また,スタチンがその悪影響を解除することで,腎機能によい影響を及ぼすであろうことも,以前から指摘されています。
一方,スタチンの最も重篤な副作用と言ってよい横紋筋融解症が,腎機能が低下した患者さんで多く報告されていることも事実です。
そこで私たちは,自施設における高脂血症合併腎疾患患者84例を対象に,アトルバスタチン投与の腎機能へ及ぼす影響ならびに安全性について,後ろ向きの解析を行いました。

対象は,血清クレアチニン(Cr:単位はmg/dL)で評価した腎機能により,
(1)正常群(Cr≦1.0),
(2)中等度障害群(1.0<Cr<3.0),
(3)高度障害群(3.0≦Cr)
―の3群に分け,アトルバスタチン投与12か月後までモニタリングしました。
そうしますと,総コレステロール(TC),LDL-Cは,3群ともアトルバスタチン投与後は有意に低下していました(図3)。
また,クレアチン・キナーゼ(CK)やCrの推移については,3群ともアトルバスタチン投与後もおおむね変化は認めませんでした。さらに,3群ともアトルバスタチン投与前における高脂血症未治療群では,蛋白尿の有意な減少も観察されました。


渡辺
アトルバスタチンは腎機能には関係なくCKやCrの推移への影響が少なく,蛋白尿の減少を示すことを示唆する成績と言えます。
では,こうしたスタチンの効果は,スタチンのクラス・エフェクトと言ってよいものでしょうか。


常喜(スタチンの種類による違いについて)
例えばスタチンの副作用に関してですが,これまでのスタチン使用例を集計した解析では,蛋白尿の発現率が,スタチンの種類により大きく異なることが示されています11)。
したがって,前述の川村先生の検討で示されたアトルバスタチンによる蛋白尿の減少は,あくまでもアトルバスタチンに特異的なもので,スタチンのクラスエフェクトによるものではないと考えたほうがよいようです。

#より積極的なCKDステージ早期からのスタチンの使用を
渡辺 
最初の疑問に戻りますが,スタチンがこれほどCKDで有用でありながら,これまで,特にわが国では使用されてこなかったのは,どのような理由によるのでしょうか。

常喜 
1つはCKDと脂質の関係にあまり関心がなかったことが挙げられます。
2つ目には,有効性に関するエビデンスが不十分で,よく知られてこなかったこと。
さらに3つ目に,副作用に対する過剰な懸念が挙げられると思います。


渡辺 (take home message)
しかし,今挙げられた3つのもののうち,1つ目を除く2つの問題については,本日の座談会の内容から,かなり払拭されたのではないかと考えます。
ですから今後,より多くの先生方が脂質異常を伴うCKD患者に対してスタチンを使用していくことを期待します。
ただし,安全性の面ではスタチンの種類による差もありますので,使用中はこまめに腎機能をチェックしていただくことが肝要でしょう。

出典 Medical Tribune 2010.6.10
版権 メディカル・トリビューン社


文献
1)J Am Soc Nephrol 2003; 14: 2373-2380.
2)Brenner&Rector's The Kidney-seventh edition- Section Ⅳ, Chapter 50 Cardiovascular Aspects of Chronic Kidney Disease.
3)Nephrol Dial Transplant 1997; 12: 718-723.
4)USRDS, Dialysis Morbidity and Mortality (Wave 2) 1997 Annual Data Report Web site: www.usrds.org.
5)J Am Coll Cardiol 2008; 51: 1448-1454.
6)J Clin Pathol 2004; 57: 728-734.
7)Am J Kidney Dis 2009; 53: 741-750.
8)N Engl J Med 2005; 353: 238-248.
9)Am J Kidney Dis 2009; 54: 810-819.
10)Lancet 2005; 366: 1267-1278.
11)Circulation 2005; 111: 3051-3057.


<番外編>
#効果確認によりapixabanの心房細動第3相試験が早期中止される
http://www.biotoday.com/view.cfm?n=39895
■2010年6月10日、Bristol-Myers Squibb(ブリストル・マイヤーズ スクイブ、BMS)社とPfizer(ファイザー)社は、経口第Xa因子阻害抗凝固薬・apixaban(アピキサバン)の脳卒中や全身性塞栓症抑制効果が明確に示されたことを受けてワーファリンなどのビタミンKアンタゴニスト治療が不適切な心房細動患者を対象にした大規模第3相AVERROES試験を早期中止すると発表しました。



2010.6.12撮影 東京・白金台 「八芳園」


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