戯れ言たれる侏儒
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< 循環器・エビデンス(後編) | メイン | 欧米で進む弁膜症の血管内治療,その位置付... >

心臓弁膜症の診断・治療

戯れ言たれる侏儒 / 2010.04.29 00:16 / 推薦数 : 1

一時減少傾向にあった心臓弁膜症(弁膜症)が再び増加しているようです。
その推定患者数は約200万人ともいわれます。
毎年1万人近くが手術を受けると見られています。

ご存知のように、かつて主因だったリウマチ性の弁膜症は激減しましました。
私が医師をスタートした病院は、循環器科が有名な病院であったためか数多くのリウマチ性弁膜疾患を診察することが出来ました。
心音図学も花形でしたし、心臓エコーの黎明期だったので,
FeigenbaumのTextでUCGの勉強もしたものでした。
中学校の先生をしている中年女性の先生が典型的な僧帽弁顔貌(重度のMS)で来院されましたが、一度も弁膜症を指摘されたことがなかったということもありました。
毎年の職域健診をどうやってくぐり抜けて来たんだろうと頚を傾げたのも今となっては懐かしい思い出です。
さて、最近の弁膜症患者が増加しているのは、もちろん高齢化や動脈硬化性疾患の増加が背景にあり、加齢性変化や動脈硬化による弁膜症が急増しているためです。

この方面のトピックスとしては
①3次元(3D)エコーの導入
②僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成術の普及
③カテーテルを用いた生体弁置換術の検討
などがあるようです。

きょうは、こういった弁膜症の最新の診断と治療についての記事で勉強しました。
コメンテーターは岡山大学大学院医歯学総合研究科循環器内科の伊藤浩教授と,新東京病院心臓血管外科の山口裕己主任部長です。

##的確な重症度評価で早期治療の流れをつくる
弁膜症の最大の問題点は加齢。高齢になればなるほど発症リスクが高まることである。
従来の弁膜症の古いイメージを捨て,誰にでも起こりうる疾患と認識を改めなければならない。
高齢化の進行とともに,加齢・変性や動脈硬化による弁膜症が急増し,患者数は以前より増えている。
狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患と同様,弁膜症はまさに現代病と言える。

弁膜症は,心臓にある4つの弁(僧帽弁,大動脈弁,三尖弁,肺動脈弁)が,なんらかの原因でうまく閉じなかったり(閉鎖不全),十分に開かなくなって(狭窄)起こる。
とりわけ異常が発生しやすいのが僧帽弁と大動脈弁である。
なかでも僧帽弁閉鎖不全症,大動脈弁狭窄症が急増しており,高齢者の弁膜症の多くがこれである。
この2つに対する診断と治療戦略が重要である。

#僧帽弁閉鎖不全症
#重症例はできるだけ早く外科に
まず僧帽弁閉鎖不全症であるが,これにはいくつかのタイプがある。
最も頻度が高いのは,僧帽弁逸脱のように弁自体に原因がある器質的僧帽弁閉鎖不全症(primary MR)だが,最近は,虚血性心疾患に伴う心機能の低下によって,弁を支える組織が伸びたり,切れたりして二次的に弁の閉まりが悪くなる機能性僧帽弁閉鎖不全症(secondary MR)が増えている。

弁膜症の有無は,心雑音や身体所見,心不全症状などから推測が付くが,心エコー(特に経食道心エコー)では,原因,病変の局在,重症度まで評価できる。
さらに進化したのが3D食道エコーで,動画で弁膜の異常が一目でわかる。
精密診断はもとより,外科医が手術プランを練るうえで欠かせないツールといえる。

僧帽弁閉鎖不全症の治療は,弁置換術に代わり,弁の形を修復する弁形成術が主流である。
これによって内科の対応も大きく変わった。
弁形成術は,狭窄弁を切開したり,弁の一部を切除し,縫縮することで逆流を止めるもので,置換術に比べて術後の心不全発症率や死亡率が低い。
加えて弁を修復するだけなので,術後にワルファリンを飲み続ける必要がなく,術後のQOLを維持できる。

以前は無症状はもちろん心不全症状のある弁膜症でも,弁置換後の患者の負担を考え,薬物療法で粘る場合が多かった。
しかし弁形成術の普及で,そうした懸念が消え,早期手術の道が開かれた。
一方,重症の僧帽弁逆流があると,たとえ無症状でも3年で死亡率が約30%と予後は不良である(図1)。
また,薬物療法を続けることが予後改善につながるというエビデンスもない。
「重症の逆流と診断された症例は,できるだけ早期に外科に送る決断が大事。それが内科医の役割」と同教授は強調する。


#重症度評価は弁口逆流面積で
そこで問題となるのが,僧帽弁逆流の重症度評価だ。
現在は,カラードプラ法で逆流ジェットを描出し,到達距離や広がりで判定することが多い。
この方法は簡便だが,半定量的でスクリーニングの域を出ない。そこで最近,新たな指標として注目されているのが弁が閉じていない部分の面積である弁口逆流面積(EROA)※1だ。
カラードプラ法に連続波ドプラを併用し,計算式で求めるもので,
EROAが30m㎡未満は軽度,
30~39m㎡は中等度,
40m㎡以上は高度
と判定する。
米メイヨー・クリニックの研究では,EROAが大きくなるほど予後は不良で,40m㎡以上は20m㎡未満の患者に比べ,心臓死のリスクが倍以上になると報告されている(図2)。

EROAの最大のメリットは定量的で客観性に富むこと。判定に主観が入る心配もない。
EROAによって心エコーによる重症度評価の標準化が可能になった。
広く普及することによって,僧帽弁閉鎖不全症の早期治療につなげる可能性がある。
#大動脈弁狭窄症 手術タイミングの見極めが大事
一方,僧帽弁閉鎖不全症と同様,患者数の増加が目立つ大動脈弁狭窄症でもリウマチ性は減少し,動脈硬化により弁が石灰化し変性するタイプが増えている。

大動脈弁狭窄症の特徴は,無症状の期間が長いことだ。
しかしこの間に狭窄は確実に進行し,これを止める手立てはない(図3)。

例えば,加齢変性の大動脈弁狭窄症の場合,弁間圧較差は年に平均約7mmHg増加し,弁口面積は約0.1~0.14㎠減少していく。
そして,いったん心不全,失神,狭心症などの症状が発現すると,心臓の状態は加速度的に悪化し,放置しておくと2~5年以内に半数が死亡するという。
ただし,僧帽弁閉鎖不全症と違って大動脈弁狭窄症は弁形成術が難しく,人工弁による弁置換術が一般的だ。
このため,冠動脈バイパス術や他の心臓手術を受ける患者は別にして「手術は症状が出てから」というのが世界的なコンセンサスとなっている。

しかし,無症状とは言え放置しておくわけにはいかない。
心負荷と症状を軽減するため薬物治療を行うと同時に,定期的に重症度を確認する。
重症度は,心エコーによる大動脈弁口面積,弁間圧較差で評価する。
ここでも重要な指標は定量的に測定できる弁口面積で,日本人の場合,0,75㎠以下が重症と判定される。

そこでポイントとなるのが,手術のタイミングの見極め。
症状が出現した場合は当然だが,無症状でも重症の狭窄と判断された患者は,外科医に紹介するのが望ましい。

大動脈弁狭窄症の有効な治療法は弁置換で,年齢に制限はない。しかし,高齢患者のなかには,開心術が負担になるケースもあることから,最近カテーテルを用いて生体弁を置換する方法(経カテーテル人工弁置換術)が導入された。
手術リスクの大きい高齢患者には朗報であり、新たな試みとして期待される。

##僧帽弁では弁形成術が主流に,大動脈弁では生体弁の置換術が増加
僧帽弁閉鎖不全症では弁形成術が主流に,大動脈弁狭窄症では生体弁による弁置換術が増え,ともに治療成績は目覚ましく向上している。

#僧帽弁閉鎖不全症
#ほとんどのケースで弁形成術が可能,
低侵襲手術の試みも
弁形成術の最もよい適応は,僧帽弁逸脱症である。
僧帽弁は前尖と後尖の2つの弁から成るが,このうち変性によって後尖の腱索が切れたり,伸びきったりして起こる弁逸脱はほとんどが修復できる。
前尖が逸脱している場合は,後尖の一部を前尖の逸脱していない部分に移植するなど高い技術が必要だが,現在はこれも十分可能になっている。

新東京病院心臓外科では,こうした難易度の高い手術を含めて,年間130例もの弁形成術を行っており,日本での実績をリードしている。

弁形成術は,自己弁を温存するため,左心機能が維持され,弁置換術に比べ遠隔期の死亡率も低い。
米国心臓病学会(ACC)/ 米国心臓協会(AHA)ガイドラインでは,弁形成術の適応を心不全症状の有無で分け,有症状で心機能低下が軽度なら弁形成術を,無症状で心機能が正常でも重症の僧帽弁閉鎖不全症には,経験豊富な施設において成功率が90%を上回ることを条件に弁形成術を勧めている。
たとえ無症状でも逆流が高度なら,放置しておけば弁の変性が進む。
心機能を良好に保つためにも早期の弁形成術が望ましい。

もっとも,すべての僧帽弁閉鎖不全症で弁修復ができるわけではない。
例えば,リウマチ性・感染性の弁膜症で弁組織が破壊されていたり,僧帽弁狭窄・不全症の重症例で,弁の一部あるいは全体が石灰化し,固くなっていたりする場合は,弁形成には適さず,むしろ弁置換のほうが安定した成績が得られる。
同院の場合,僧帽弁閉鎖不全症に対する手術の98%が弁形成術で,残り2%が弁置換の対象になっているという。

弁形成術は,僧帽弁閉鎖不全症の標準的な手術療法となりつつあるが,そうしたなか,
さらなる進化を求めて,一部で低侵襲手術も試みられている。
山口主任部長が2年前より行っているのは「小開胸による僧帽弁形成術」だ。
通常の弁形成術では胸の中央を約20cm切開するが(正中切開),小開胸では右の乳房下を8cmだけ切り,その小さな傷から心臓にアプローチし,内視鏡支援下で弁形成術を行う。
安全に手術を実施するため,普通,大腿動脈から挿入する人工心肺装置の管を,腋窩動脈につなぎ,ここから送血するなどの工夫もしている。
現在,小切開手術を手がけているのは数施設であるが,侵襲が小さく,入院期間も短くてすむほか,術後,傷口が目立たたず,女性患者には大きな福音となる。
#大動脈弁狭窄症
#生体弁,機械弁の選択は患者の社会的背景を配慮
一方,大動脈弁狭窄症では,変性した弁を人工弁に取り換える弁置換術が確立された治療法である。
弁置換術の場合,患者は再手術(生体弁)やワルファリンの継続使用(機械弁)といった負担を強いられる。
それだけに,外科医は手術時期を適切に判断しなければならない。

ACC/AHAガイドライン(図5)によると,手術適応となるのは,まず重症で心不全,狭心症,失神などの症状がある場合。
症状が発現すると予後不良なので早期に弁置換を行う。
また無症状でも,左室駆出率が50%未満に低下した重症例も対象となる。
さらに,狭窄が中等度でも冠動脈バイパス術など他の心・大血管手術を受ける場合は弁置換術の適応である。

無症状の大動脈弁狭窄症に対する弁置換術の適応については議論がある。
しかし,なかには心筋障害が進行し,不可逆的な心機能低下を来すような症例もあり,早めに手術したほうがよい。
ただそれには,弁膜症手術の実績が十分で,高い技量を持つ外科医がいる施設という条件が必要である。

弁置換術でもう1つポイントとなるのが,生体弁か機械弁かの選択だ。
生体弁の比率が高い欧米と異なり,わが国では機械弁の使用が多く,以前は8割を占めていた。
その理由として,日本では患者のフォローアップがきめ細かく,ワルファリンのコンプライアンスが比較的良好だったことが挙げられるが,
一方で,医師側が再手術を忌避し,耐久性の優れた機械弁に誘導する傾向があったことも見逃せない。
しかし生体弁が進化し,長期成績が向上したことで,事情は変わり,最近では生体弁が全体の5割を超えるようになっているという。
ちなみに,同院の場合,大動脈弁置換では9割が生体弁だ。

従来,人工弁の選択は,65歳以上は生体弁,それ以下は機械弁と年齢で決めることが多かった。
ワルファリンのリスクや弁の劣化による再手術のリスクを十分に評価したうえで,患者の希望や社会的背景を考慮して選択すべきという意見もある。

カテーテルによる生体弁留置術については,いずれも試験段階で,現在の治療法を超える十分なエビデンスは得られていないのが現状である。

#機械弁,生体弁の進化
#機械弁は二葉弁が主流
弁置換術に用いられる人工弁には機械弁と生体弁の2種類がある(図)。

機械弁は,カーボンやステンレスなどでできており,耐久性に優れる。
しかし,弁に血栓が付着するのを防ぐため,置換後,生涯にわたって抗凝固薬を服用し続けなければならない。
 
最初に開発された機械弁は,ケージ付きのボール弁で1960年代前半から20年あまりゴールドスタンダードとして世界中で用いられた。
70年代後半になると,より耐久性に富むパイロライティックカーボンを素材にした二葉弁(セント・ジュード・メディカル; SJM弁)が登場する。
2枚の半月型のリーフレットを小さなヒンジで支える構造で,開放角が広く,弁前後の圧差が少ないなどの利点がある。
これまでの30年間での使用実績は190万個以上。4,480例を対象とした長期遠隔調査(平均7年,最長25年)でも,再手術回避率がきわめて高いことが証明されている。

現在,わが国で多く用いられているのは,この二葉弁を改良したタイプ(SJMRegent)。従来型に比べて弁口面積がより広くなり,血液の乱流を防ぐ工夫が加えられている。
さらに開閉のたびに血液が洗い流される構造で,血栓が付きにくいという利点もある。


#生体弁―弁口面積拡大と耐久性向上
一方,生体弁はウシやブタの生体組織からつくる。
血栓の心配はほとんどなく,ワルファリン内服を必要としない。耐久性の面で機械弁には劣るとも言われていたが,近年改善が進み,10~20年の耐久性も報告されている。

生体弁にはステント弁とステントレス弁の2タイプがある。
ステント弁は,金属やポリマーでつくられたステント(フレーム)に,生体組織でできた膜や大動脈弁をマウントしたもの。
僧帽弁,大動脈弁を含めたすべての弁置換に用いることが可能で,置換術も比較的容易だ。
ステント部分があるため弁口面積が狭くなるというデメリットがあったが,弁輪上への植え込みに適した弁が開発され,より広い弁口面積が得られるようになり,大動脈弁の置換術では最も多く用いられている。

これに対してステントレス弁は,大動脈弁の置換術のみに用いられるが,フレームや縫着弁座がなく,心臓になじみやすい利点もある。
特に,大動脈起始部(大動脈弁と上行大動脈)をすべて置換するような手術では有用性が高い。ステント弁に比べ高度な置換技術が必要とされ,弁口面積の広いステント付き生体弁が開発されていることもあり,使用数は減少傾向にある。

なお,胸部外科学会などの統計資料に基づき試算された2008年の人工弁の症例数は,1万5,000件弱で,うち生体弁が56%と推定されている。

出典 Medical Tribune 2010.4.22
版権 メディカル・トリビューン

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