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< 循環器・エビデンス(前編) | メイン | 心臓弁膜症の診断・治療 >
昨日の後半です。
デリケートな内容もありますので、出来るだけ改変しないようにします。
本音で語り合う座談会は読んでいて気持いいものです。
私も講演会に出席する際には出来るだけ意見交換会で演者に迷惑にならない程度にお話を伺うように心がけています。
私の年齢をここで種明かしします。
同級生で院長になっている連中を除けば勤務医はそろそろ定年です。
講演される先生のほとんどは年下です。
医学には年齢は関係ありませんが、何だか老婆心ながら喋りかけてみたい年回りなんだなと思うのです。
心の中では、演者が本物かそうでないかを峻別する楽しみも味わっているのです。
自分ながら悪い趣味だと思いますが生来へそ曲がりだから仕方ありません。
##エビデンスから何を学び,診療に役立てるか(後編)
##日本でエビデンスを構築するには
昨今は,わが国からも数多くのエビデンスが発信され,そのなかからは欧米の主要学会で大々的に発表され,主要雑誌に掲載されるなど諸外国から注目を集めるエビデンスも“輩出”されている。
しかし,全般的に見たわが国のエビデンスには,まだ「詰めの甘さ」が見られるとEBM専門家は指摘する。
<コメント>
MT誌にしては結構珍しい「辛口」の前置きです。
どんな「エビデンス」を想定しているかは賢明な先生方それぞれに思い浮かべる「エビデンス」があると思います。
筒井 裕之 教授 北海道大学大学院循環病態内科学
山下 武志 研究本部長 心臓血管研究所
横井 宏佳 部長 小倉記念病院循環器科
森本 剛 講師 京都大学医学教育推進センター
#質の高いエビデンスには統計家と臨床家のコミュニケーションが必須
■最近の日本の臨床研究論文を見ていて気になるのは,統計解析担当者が共著者に入らずに外注したことが明らかに見て取れる論文が多いことです。
実際,日本には臨床試験などの統計処理を業務としている会社がいくつもあり,お金を出せば共著者に名を連ねることなく解析を請け負ってくれる状況です。
しかし,統計解析担当者が過去にどんな論文を出し,どんな解析をしたかということは非常に重要な情報であり,信用のよりどころにもなります。
それを匿名の外部者に任せ,著者は十分に内容を吟味しないまま論文にまとめてしまうのは無責任なことであり,信頼が得られないのは当然です。
そもそも,質の高いエビデンスをつくるためには,試験をデザインする段階から統計家と臨床家が密にコミュニケーションを取っていくことが必要だと思いますが,残念ながら,日本ではそのあたりの意識が低いように思えます。
(森本)
#J-RHYTHMからの学び
■全くその通りです。実を言うと,われわれが行ったJ-RHYTHMという試験は,まさに統計家不在のもとで進められた失敗例の見本のような試験だったと反省しています。
J-RHYTHMは,心房細動に対するリズムコントロールとレートコントロールを比較した試験です。
当初の計画では持続性心房細動と発作性心房細動を1,300例ずつ集める予定で,デザインペーパーにもそう記載したのですが,ふたを開けてみると持続性心房細動は数が集まらず,発作性のみでの解析となりました。
また,発作性心房細動症例も800例を超えるのがやっとでした。もしデザイン段階から統計家が携わっていたなら,こうした事態に対する備えもできただろうと思います。
また,1次評価項目は複数のイベントの複合なのですが,その1つが「身体的・精神的な理由による治療方針の変更」というソフトエンドポイントであった点も問題です。
つまり,患者さんが「症状が今1つすっきりしない」とか「不快だ」と訴えたために治療法を変更した場合も,死亡や脳卒中と同じ「イベント」として数えられるわけです。
治療はオープンラベルで,医師には「レートコントロールよりリズムコントロールのほうがいいはずだ」という思い入れがありますので,ここに恣意性が働いた可能性は十分にあります。
J-RHYTHMが計画された2002年当時は,統計家にプロトコル作成に加わっていただくという発想自体がほとんどありませんでしたので,ある程度仕方がなかった部分はありますが,今にして思えば発表するに値しない試験であったかもしれません。
その反省を踏まえ,現在進行中のJ-RHYTHM IIでは,最初から統計家に参画していただいています。(山下)

#サンプルサイズが小さい場合はサロゲートの評価項目を活用
■山下先生は「これは出すべき論文じゃなかった」とおっしゃいましたが,私は出して正解だったと思います。
持続性心房細動の症例が集まらなかったことなど都合の悪かったこともきちんと記載して,「その結果こうだった」と報告する姿勢が大事ですし,後の研究にもつながると思います。そうでないと,ポジティブなデータだけが世に出ることになってしまいます。
それから,ソフトエンドポイントの問題については,やはりクレームが付く可能性が高いので避けたと思います。
ハードエンドポイントにするのが理想ですが,サンプルサイズが小さければそれに合わせたサロゲートの評価項目も探したでしょうね。(森本)
■でも,心房細動は死亡率が低いので,死亡はエンドポイントにできませんし,塞栓症もワルファリンの有無でほとんど決まってしまいます。
よいサロゲートマーカーがないのです。(山下)
■例えば,B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)はどうでしょう。比較的客観的でしかも差が出やすいので,例数が少ないときに使えると思うのですが。(森本)
■以前,脳神経内科の先生方とディスカッションしたとき,やはりBNPを塞栓症リスクのサロゲートマーカーにしようとしているとおっしゃっていました。(横井)
■残念ながら,心房細動ではほぼ全例でBNPが上がってしまうので無理です。(山下)
<コメント>
山下先生の講演会でBNPについての質問をしたことを思い出しました。
先生の考え方におは論理の破綻がありませんでした。
臨床指向の姿勢は私なりに評価しています。
■特異性が低いこともネックになると思います。
BNPは心不全で上昇しますが,そのほかに,加齢や腎障害の場合などでも上がりますから。(筒井)
■しかし,ランダム化すれば両群にばらつかせることができるので,交絡因子の影響はある程度減らせることができます。
ランダム化試験が組めるのであれば,サロゲートの評価項目は非特異的な因子でも状況によっては可能だと思います。(森本)
■J-RHYTHM IIでのエンドポイントは心房細動のあった日数としています。(山下)
■それはいいですね。それなら恣意性が働く余地は少ないです。(森本)
■ただ,時にはサロゲートマーカーが真のエンドポイントと一致しないこともあります。
その最たる例が,CAST試験(NEJM 1991; 324: 781-788)です。
心室性期外収縮の抑制に優れたナトリウムチャネル遮断薬(クラスIc群)の抗不整脈薬により,かえって生命予後が悪化することが明らかとなり,世に衝撃を与えました。
心房細動の日数についても,生命予後と相反することが絶対ないとは言えないのではないでしょうか。(筒井)
■その可能性はあります。
ですから,サロゲートの評価項目で見る場合はハードエンドポイントとのconsistency(一致性)を意識することが重要です。
つまり,J- RHYTHM IIの場合なら,日数と合わせて実際のイベント発生数も調べるわけです。
たとえハードエンドポイントのP値が有意でなくてもconsistencyはわかります。(森本)
■逆転が起こっていないかどうか,一定の方向が理解できるということですね。(山下)
#~JCARE-CARD~
#多変量解析でも“consistency”が重要なキーワード
筒井 われわれが行ったJCARE-CARD試験について紹介したいと思います。
■JCARE-CARD試験は,比較試験ではなく前向きの登録観察研究で,左室駆出率(LVEF)の保持された心不全患者(LVEF 50%以上)とLVEFの低下した患者(LVEF 40%未満)の予後(死亡や心筋梗塞による入院)を比較したものです。
試験デザインの段階で専門家に相談してデザインや解析法を決めましたが,解析自体は内部で行っています。
その結果,未補正でもLVEFの保持された患者の予後は,低下した患者と差がなかったのですが,種々の因子を補正しても両者の差は見られませんでした。したがって,LVEFが保持されていても予後は必ずしもよいとは限らないというのが,この試験の結論です。(筒井)
■多変量解析では,どのモデルをお使いになられたのでしょうか。(森本)
■Cox比例ハザードモデルを使いました。(筒井)
■論文にはどのモデルを使ったのか,なぜそのモデルを選んだのかという説明が書かれていないことが気になります。
ご存じのように,補正のかけ方にはいくつかのパターンがあります。(森本)
■それによって結果が違ってきますよね。(山下)
■あるモデルでは有意な差が出たけれども別のモデルでは有意でなかったということになると,consistencyがないということになります。
先ほどイベントのconsistencyが重要だという話をしましたが,多変量解析のconsistencyも重要なキーワードであり,それを表現するには論文にきちんと方法を明記することが大切だと思います。(森本)
■このあたりは方法に書いていますが,補正した因子は別のところに書いており,わかりにくくなっています。
参考になりました。(筒井)
#解析方法や変数は選択理由を明確に
■この試験ではLVEF 50%以上が「LVEFの保持された患者」,40%未満が「LVEFの低下した患者」とされており,真ん中の40~50%に該当する患者は除外されています。
これはなぜなのでしょうか。(森本)
■LVEFが保持された心不全については,カットオフ値のコンセンサスがまだ得られておらず,40~50%の患者は文献によって扱いがまちまちな「グレーゾーン」なのです。
そこで今回は,シンプルに比較するため,50%以上と40%未満の2群での比較という形を取りました。(筒井)
■例えば,40%と45%,50%という感じでいくつか異なるカットオフ値を設け,どこで分けた場合も一定の傾向が得られたというような形でまとめることができるなら,そのほうがいいような気がします。(山下)
■私もそう思います。
解析は恣意的な条件で患者を除外することなく,すべての患者を対象とすることが大原則であり,特定の集団を抜き取ることは避けるべきです。特に,真ん中の集団を抜き取ってしまうとリアルワールドの状況とは変わってしまう可能性があります。
ここはやはり,山下先生がおっしゃったようにカットオフ値を変えるとか,LVEF 40%未満と40~50%,50%以上という3群間で比較し,真ん中は有意じゃなかったけれども上と下には有意差があったという形にしたほうがいいと思います。
あと,論文を査読するエディターからも「真ん中を外したのは何か隠しているからじゃないか」と勘ぐられる可能性があります。そうした事態を避けるためにも,解析の方法や変数は選択理由が明快で再現可能なほうがいいと思います。キーワードは “transparency”,透明性ですね。(森本)
■そうですね。
同様の解析を行ったわれわれの以前の研究や,米国でのOPTIMIZE研究では,先生が指摘されたような形でまとめています。

#臨床に通じた統計家の育成は循環器領域の課題
■森本先生のお話はたいへん参考になりました。
ただ,われわれも臨床研究を行う際には早い時点で先生のような方とコンタクトを取りたいと思うのですが,身近にそういう人がいないため,結局民間の臨床試験受託企業(CRO)のような会社にお願いする形になるのが,今の日本の現状だと思います。
日本から良質なエビデンスが育ちにくい理由の1つには,CROに莫大なお金を持って行かれてしまって,研究そのものに十分な資金が割けないということがあるのかもしれません。(横井)
■ROはそれがビジネスですから…。
でも,解析には臨床のセンスも必要ですから,本来は循環器の臨床の人材のなかから統計に長けた人間を養成すべきではないかと思います。
実際のところ,私も臨床医ですが,「インターベンションが得意な先生がいるのと同じように,私は統計が得意」といった感じなのです。(森本)
<コメント>
森本先生のコメント。
好感が持てますよね。
山下 臨床にも通じているところが重要なポイントですね。純粋な統計家の人と話すと,全然話が通じないことがしばしばありますから。
森本 それに,同じ病院にいればディスカッションの時間もたっぷり取れます。
最初の話に戻りますが,優れたエビデンスを構築するためには,やはり計画段階から統計家と臨床家がコミュニケーションを取っていくことが必要なんです。
山下 ディスカッションを重ねていれば,論文にも解析方法を詳しく書けますね。
横井 内部で統計の部分をしっかり抑えてしまえば,CROに莫大なお金を支払う必要もなくなり,いろいろな研究にお金をかけることができますしね。日本の循環器系の学会がそういうことに投資して,人を育てていく体制が整うといいですね。
森本 同感です。日本の大きな学会は人材も資金も潤沢ですから,本気で取り組めば国際的にも評価される試験がたくさんできると思います。
まとめ
○ 質の高いエビデンスを構築するためには,試験デザインの段階から臨床家と統計家の密なコミュニケーションが必要。統計処理もエビデンスの重要な一部。
統計を匿名の人任せにした論文は信用が低い
○ 評価項目はハードエンドポイントが理想だが,サンプルサイズが小さければそれに合わせたサロゲートの評価項目を活用する。
その際,ハードエンドポイントとのconsistency(一致性)を確認できるようにする
○ consistency(一致性),transparency(透明性)は信頼されるエビデンスの要件。
解析法や変数の選択理由は明確にし,ネガティブデータも隠さず載せたうえで,理由を考察する
○統計解析は臨床のセンスが必要である。
臨床に通じた統計家は,循環器の臨床現場で育成することが望ましい
出典 MT pro 2009.12.24,31
版権 メディカルトリビューン社
<コメント>
「腹を割った」若手の先生達の、久しぶりにいい座談会でした。
こんな座談会を是非継続していただきたいと思います。
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