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薬物治療やデバイスの進歩により循環器領域でも治療選択肢が増えています。
そのため,選択のよりどころとなるエビデンスの重要性はこれまで以上に高まっているといえます。
昨今の循環器診療に重要な課題を提供した試験の概要とその方法,解釈を分析した座談会の記事で勉強しました。
出席者は以下の4人の先生方です。
筒井 裕之 教授 北海道大学循環病態内科学
森本 剛 講師 京都大学医学教育推進センター
山下 武志 部長 心臓血管研究所研究本部
横井 宏佳 部長 小倉記念病院循環器科
Round-table Discussion/座談会 エビデンスから何を学び,診療に役立てるか(前編)
不整脈・心不全・虚血性心疾患の臨床にインパクトを与えた試験結果を読み解く
<不整脈>RE-LY試験 (山下武志部長 紹介)

■2009年8月の欧州心臓病学会(ESC)で報告され,大きな話題となりました。
心房細動患者を対象に,新規抗トロンビン薬dabigatranの脳卒中予防効果を検討した試験で,対照薬にはワルファリンが用いられました。(山下)
■プラセボ比で約70%の相対リスク低下を誇るワルファリンに対抗できる薬剤はなかなか見つかりませんでした。
こうしたなか,ようやく有力な候補であるdabigatranが登場し,両者を比較するRE-LY試験が実施されたわけです。
しかし,ワルファリン群の患者にはプロトロンビン時間のモニタリングが必要になるため,盲検にはできません。
そのため,オープンラベル試験として行われ,dabigatranの2種類の用量間は二重盲検とするデザインが採用されました。(山下)
■2年間の追跡の結果,1次評価項目の発症率は,dabigatranでは低用量群・高用量群ともワルファリン群を下回り,ワルファリンに対する非劣性が証明されました。
さらに,頭蓋内出血の発症率はワルファリン群より有意に低く,相対リスク低下は60%を超えました。
つまり,これまでのゴールドスタンダードだったワルファリンの持つ不便さを解消し,しかも効果と安全性は同等もしくはそれ以上という薬剤が登場したと解釈できる試験ではないかと思います。(山下)
筒井
非劣性試験とはいえ,高用量のdabigatran群では優位性さえ認められたわけですね。
ただ,イベント発生率がすごく低いようですが,NNT(number needed to treat)はどのくらいでしょうか。
山下
200ぐらいです。
ワルファリン自体が非常に効果の高い薬剤ですので,NNTで見たインパクトはわずかです。
そもそも,この試験の目的は利便性を追求することですので,効果についてはほぼ同等と捉えたほうがいいと思います。
森本
ワルファリン群の年間イベント発生率が1.69%というのは,一般的な値より低いのでしょうか。
山下
低くはないと思います。
プラセボでの発生率が5%程度と推定される集団ですので,その7割減ですから1.5%前後なら妥当な数字だと思います。
森本
そうすると,途中で症例数を1万5,000例から1万8,000例に増やしていることが気になります。
予想よりイベント発生率が低かったのなら理解できますが,そうでないのなら,dabigatran群の効果が予想したほどではなかったために例数を増やしたという可能性が疑われます。
山下
1万5,000例では非劣性が証明できなかった可能性があると…。
森本
あるいはもう少し頑張って優位性を示そうと考えたのかもしれません。
いずれにせよ,お金をかけて3,000例も増やしたのには何か理由があるはずですが,「イベント数が少ないため」と書かれているだけで詳細は不明ですね。
山下
これは盲点でした。今までだれも指摘していないと思います。
森本
とはいえ,評価項目は脳卒中や塞栓イベントのハードエンドポイントですし,結果については議論の余地はないと思います。
横井
そうですね。
この結果を受けて,今後の実臨床ではワルファリンからdabigatranにシフトしていくのでしょうか。
山下
日本への導入はまだですが,将来的にはそうなると思います。
<心不全>MUCHA試験 (筒井裕之教授 紹介)

■心不全に対するカルベジロールの有効性をわが国で初めて証明し,それまでβ遮断薬が禁忌とされてきた心不全への適応が承認されるきっかけとなった試験です。
5年も前の試験ではありますが,11月開催の米国心臓協会(AHA)学術集会のLate Breakingで取り上げられるJ-CHF※試験の基盤となる日本での承認を取るための第III相試験です。(筒井)
※Assessment of Beta-Blocker Treatment in Japanese Patients with Chronic Heart Failure
■対象は,虚血性・非虚血性を問わずニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類II〜III度で左室駆出率(LVEF)40%以下の心不全患者174例で,当時の標準治療にプラセボもしくはカルベジロール5mgまたは20mgをadd-onするプラセボ対照試験です。
なにぶん5年前の治験ですので,1次評価項目が全般改善度になっているのですが,死亡もしくは心血管系の入院というハードエンドポイントも見ており,カルベジロール高用量群ではプラセボ群より有意に低下していました。
しかし,イベントの内訳を見ると,プラセボ群では12例すべてが入院で,死亡は0なのですが,カルベジロール5mg群では4例中2例,20mg群でも4例中1例が死亡です。
つまり,死亡に対する抑制効果は認められていなかったのです。
筒井
そこで,今度のJ-CHF試験では,日本人におけるカルベジロールの効果をハードエンドポイントで検証しようというのが目的の1つです。
また,MUCHA試験では,全般改善度でもLVEF増加率の比較でも,低用量より高用量で高い効果が認められましたが,低用量5mgでも効果は十分にありました。
一方で,実際のわが国におけるカルベジロールの平均用量は8mg程度です。
したがって,実際に用いられている5mgや2.5mg,あるいはもっと少ない1.25mgでも効果があるかどうかを検証することがJ-CHF試験のもう1つの目的です。
山下
実際,中等度以上の心不全の場合,20mgを飲むのはきついですよね。
状態がいい人しかランダム化できないような気がします。
筒井
それはありますね。
20mgを服用できそうにない人は試験対象者から外れてしまいます。
横井
日本では毎月こまめにフォローアップするので,20mg群に割り付けられた人もあまり脱落することなく耐えられたということはありませんか。
筒井
確かに欧米の臨床試験では3か月間隔ぐらいでフォローアップされていますが,日本では毎月ですから,可能かもしれません。
森本
そもそも,なぜ5mgと20mgという用量設定だったのでしょうか。
また,1:1:2の割り付けで20mg群に倍の人数が割り当てられている理由もわかりません。
読んで理由がわからない論文は後でクレームが付くリスクが高いので,エディターは避けたがります。
そのあたりは今後改善する余地があると思いました。
あと,もう1つ気になったのですが,LVEFの測定データは主治医にブラインドされていたのですか。
筒井
カルベジロールの用量は当然ブラインドされていますが,LVEFの結果は主治医がわかります。
森本
そうすると,その情報が入院の判断に影響すると思うのです。「この人はLVEFが悪いから入院させよう」というように。戻さないことの倫理性との兼ね合いが難しいところだと思うのですが,そのあたりは少し弱いのではないかと思います。
<虚血性心疾患>COURAGE試験 (横井宏佳部長 紹介)

■2年半前の試験になりますが,われわれインターベンション専門医にとっては,いろいろな意味で衝撃的な試験でした。
これは,オプティマルな薬物療法とこれに経皮的冠動脈インターベンション(PCI)をadd-onした場合との比較試験です。
当然,PCIをadd-onしたほうが予後はよいというのが大方の予想だったのですが,ふたを開けてみると,5年間の追跡で両者のイベント発生率に全く差は見られませんでした。(横井)
横井
折悪しく,前年のESCにおいて薬剤溶出ステント(DES)による遅発性ステント血栓の危険性を指摘する報告が相次いでいたことも影響し,米国における2007年のPCI施行件数は前年の120万件から100万件にまで落ち込み,現在に至るまで回復していません。
しかし,PCI専門医の立場から見ると,この試験にはいくつかの問題点があるように思えます。
まず,対象の選択ですが,3万5,000例をスクリーニングしたにもかかわらず,最終的にランダム化されたのはわずか2,287例でした。
しかも,この集団におけるイベント発生率は非常に低く,死亡率は年間1%台です。
つまり,もともとが低リスクで,PCIの長所を引き出しにくい患者層だったのではないかということが1つです。
また,対象の7割は多枝病変のある方ですが,PCIの内容を見ると36%が1ステントです。
ここから多枝病変患者の半分が,完全血行再建されていないことになります。
さらに,DESの使用頻度はわずか2.7%です。これは,現在のPCIの実態とかけ離れた状況です。
一方,薬物療法は,スタチンが9割の患者に処方され,5年間でLDLコレステロールが100mg/dLから70mg/dLに低下するなど,ほぼ完ぺきに近いコントロールがなされています。つまり,COURAGEはオプティマルな薬物治療とサブオプティマルなPCIの比較試験であるように思えます。
森本
同感です。除外理由を見ても,「ロジスティックな理由」などという訳のわからない理由で除外された人が6,500例もいます。よくわからない人はなんだかんだと理由を付けて除外し,残った非常に状態のよい人だけを対象としてなされた試験という印象です。
ただし,そういう非常に限られた集団では,薬物療法とPCIのハードエンドポイントに差はないということは言えますね。
横井
そうですね。
ただ,そういう集団でさえも,症状を取るということに関しては,術後3年間はPCI群が有意に勝っています。
だとすれば,転帰は同じでも3年間症状なく過ごせるPCI群のほうが患者さんのQOLは高いのではないかと思います。
森本
それはどうでしょうか。
一般に,症状のある人が多ければ急性冠症候群(ACS)の人も多く,ACSが多ければ心筋梗塞も多く,心筋梗塞が多ければ心血管死亡も多いという具合に,程度の軽いものが多ければ,より重症なイベントも増えるはずです。
つまり,統計学的に有意でなくても,イベントの減少率にヒエラルキーが存在するはずです。
しかし,この試験では,症状のない患者が減ってもACSによる入院の数は減っていませんので,プラセボ効果に近いものがあるのではないかと思います。
それよりも,薬物療法群では少なからぬ患者が血行再建術を受けている点が興味深いですね。
横井
ええ。結局3割が血行再建術を受けています。それなら最初からPCIを受けたほうがよかったという評価もあります。
森本
ただし,血行再建術の再施行はすべてがクリティカルなものではないので,脳梗塞や心筋梗塞といったイベントと同等に考えるのはどうかという議論もあります。
臨床医は,そのあたりの「重み付け」も含めて解釈する必要があります。
#デバイス・薬物の治療選択を巡る試験の展望
横井
デバイスを用いた治療は心不全や不整脈の治療でも盛んに行われていますが,デバイス対薬物療法の試験に対する筒井先生と山下先生のご意見はいかがですか。
筒井
心不全領域では,以前アミオダロンと植え込み型除細動器(ICD)を比較したSCD-HeFT試験が行われましたが,今ではデバイスと薬物療法を組み合わせて用いる治療が標準的治療として位置付けられており,PCIと薬物療法のように「どちらかを選ぶ」というのは現実的ではないと感じますね。
しかし,COURAGE試験では,薬物療法群の患者さんの多くがのちにPCIを受けていたということでした。
薬物療法をしっかりやったうえで,さらに必要があればPCIを追加で施行するという形の試験がより実臨床に近いですし,結局のところ,予後も一番いいのではないかと思いました。
山下
デバイスを用いる治療は,どうしても術者の技量に依存する部分が大きいという問題があります。
一般に,PCIは海外より日本の成績が抜群にいいですから,先ほどのCOURAGE試験の結果もその点を考慮して読む必要があるかもしれません。
逆に,カテーテルアブレーション治療に関する研究は,アブレーション手技の技量向上と同じレベルで綿密な薬物療法が行われているかどうかの検証も必要となるのですが,薬物療法の成績が一般的なレベルより悪い傾向があるようです。
論文を出すのはアブレーションの成績のいい施設ですから,アブレーションの成績が過大評価される傾向がある点に注意が必要だと思います。
横井
PCIも最初のころはそうでした。
そういう意味では,COURAGE試験はインターベンション専門医の視点ではなく,一般の目からPCIを評価した最初の論文だと思います。
これからは,そういう視点も大切にしていかなければならないということですね。
出典 Medical Tribune 2009.11.26
版権 メディカルトリビューン社
<エビデンス 関連サイト>
m3.comより拾ってみました。
心血管疾患の治療ガイドライン
http://blog.m3.com/reed/20090616/1
心疾患診療ガイドラインのエビデンスの質
http://blog.m3.com/reed/20090310/1
エビデンスの罠 無駄な研究?続き
http://blog.m3.com/DrBlue/20090103/2
エビデンスの罠 経験主義
http://blog.m3.com/DrBlue/20090105/3
エビデンスの罠 番外編その2
http://blog.m3.com/search?page=7&q=エビデンス
エビデンスの罠 番外編その4
http://blog.m3.com/DrBlue/20081224/2
エビデンスの罠 その9
http://blog.m3.com/DrBlue/20081226/1
エビデンスの罠 年越し
http://blog.m3.com/DrBlue/20081231/9
エビデンスの罠 ふたたびバイアスについて
http://blog.m3.com/DrBlue/20090110/1
エビデンスの罠 メガトライアルの重要性
http://blog.m3.com/DrBlue/20081228/1
エビデンスの罠 無駄な研究??続々
http://blog.m3.com/DrBlue/20090104/2
エビデンスの罠 番外編
http://blog.m3.com/DrBlue/20081218/4
エビデンスの病~その1
http://blog.m3.com/ore_sama/20070706/1
医者を背後から撃つ「医者代表」
http://blog.m3.com/ore_sama/20081026/1
エビデンスオタク
http://blog.m3.com/DrBlue/20091111/1
EBMとNBM 3
http://blog.m3.com/yosshi/20090627/EBM_NBM_
Cochrane
http://blog.m3.com/DrBlue/20081227/Cochrane
Cochrane その2
http://blog.m3.com/DrBlue/20081227/Cochrane__
エビデンス・ベースド・厚労省
http://blog.m3.com/yonoseiginotame/20100321/15
(ちょっと意味合いが異なりますが)
<コメント>
「エビデンス」については、多くの投稿がありました。
特にDr Blue 先生の「エビデンス」についての造詣の深さには敬服しました。
これからはちょこちょこ読まして貰おうと思いましたが2010.2.22以降ブログが更新されていません。
アーカイブでの投稿数も月別に随分バラツキがあるのも気になってしまいました。
Dr Blue 先生。
ブログの投稿を楽しみにしています。
その他
葦の髄(このブログのイラスト版です)
http://yaplog.jp/hurst/
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
http://wellfrog4.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
http://wellfrog3.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/
(内科医向き)
があります。