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植え込み型心内圧モニター(Implantable Hemodynamic Monitor;IHM)を使用した臨床試験「The COMPASS-HF(Chronicle Offers Management to Patients with Advanced Signs and Symptoms of Heart Failure)study」についての記事で勉強しました。
ハーバード大学医学校教育関連病院ブリガムウィメンズホスピタル 循環器内科重症心不全・心移植部門
加藤 真帆人先生の解説です。
ESCAPE試験のリベンジ「COMPASS-HF」は成功したか?
COMPASS-HFのデザイン
■COMPASS-HFは,274例の慢性心不全患者を対象に,IHMデバイス(Chronicle®, Medtronic Inc.)が,その予後に与える影響を調査した臨床試験である。
■被験者はEjection Fraction(EF)によらず,NYHA IIIもしくはIVの症状を呈する慢性心不全患者とし,被験者全員にIHMデバイスの植え込みを行い,モニター機能をONにしたChronicle group(n=134)と,OFFにしたControl group(n=140)とに割り付けた「単盲検試験」である。
■この試験のプライマリーエンドポイントは「心不全関連イベント」,つまり,6か月の追跡期間中に心不全の『急性増悪』による入院もしくは医療機関を緊急受診した合計回数と設定された。
#プライマリーエンドポイントの設定は正しかったのか?
■しばしば「死亡数」がエンドポイントとされるが,この試験では患者総数が274例と少なく,また経過観察期間が6か月間と短いために,両群を合わせても死亡する患者数が少なく,対照群との差が付かないことが予想されたため,「心不全関連イベント」の総数をプライマリーエンドポイントと設定された。
NYHA IIIもしくはIVである重症心不全患者であれば「心不全関連イベント」の総数は,かなりの数が見込めると考えて試験をデザインしている。
■しかし,プライマリーエンドポイントを「死亡」ではなく「心不全関連イベント」としたことで,解析および結果の判定が少し複雑になっている。
■被験者は一度「死亡」してしまえば「二度死亡する」ことはありえない。
しかし,「心不全関連イベント」は「死亡」と違い,同じ患者が何度でも起こしうる。
「心不全関連イベント」の発生率では有意差が出ず!
■結果は,プライマリーエンドポイントである「心不全関連イベント」に関しては,6か月の追跡期間中,Chronicle groupの44例の患者に合計84回(イベント発生率0.67/6 patient-months)の心不全関連イベントが発生し,一方,Control groupでは,60例の患者に合計113回(イベント発生率0.85/6 patient-months)のイベントが生じた。
■つまり,Chronicle groupでは6か月間に1人当たり0.67回の「心不全関連イベント」が起こり,Control groupでは1人当たり0.85回起きた。
そしてこの「心不全関連イベント」の総回数については,両群間では有意差はなかった(P=0.33)。
つまり,「IHMデバイスであるChronicle®は『急性増悪』による入院もしくは緊急受診の回数を減らすことができなかった」ということになる。
<コメント>
以下は、この記事のポイントですので原文のまま引用します。
私個人としては、論文の読み方の勉強になりました。
見慣れないグラフにInvestigatorたちの悔しさが透けて見える!
■いろいろな意見があると思いますが,統計学的解析では上記のような結果になってしまいました。
Investigatorたち(いや,おそらくスポンサー)は,さぞかしこの結果に納得がいかなかったのでしょう。
そこでこんな見慣れないグラフを持ち出しています(図1)。

■図1の一番右端を見てください。
イベント8回のところです。Chronicle groupで「1」と記述されています。
この被験者は6か月間で8回も『急性増悪』を起こしています。
■もし,この被験者がいなければ,イベント数6回と7回にはControl groupの被験者だけしかいませんので,Chronicle groupでの「イベント発生率」はグンと減って,もしかしたら有意差が付いていたかもしれません。
この少し見慣れないグラフは,そのことを訴えたかったわけですね。
どちらが重症なのだろう? 統計マジック炸裂か!?
■次に,このInvestigatorたちは「Kalpan-Meier曲線(サバイバル曲線 )」を用いて「6か月間心不全による入院をしなくてもすんだ被験者の割合」を曲線に描き,比較してみせています。
■このサバイバル曲線を描くのに使用したエンドポイントである「心不全による入院」とは,プライマリーエンドポイントとなにが違うのでしょうか?
#実は大きな違いがあるのです!
■サバイバル曲線にすることで,一度,心不全入院をした被験者は,その後の解析から「外されます」。
そして残った被験者数は「Number at Risk」としてグラフに表記しなければなりません。
■つまりこの解析では,6か月間に1度しかイベントを起こさなかった被験者も,8回もイベントを起こした被験者も,その回数は全く不問にして,初めてイベントを起こすまでの時間のみが比較解析されているわけです。
■例えば,Aという被験者はエントリーから一月後に最初の入院をして,その後,毎月入退院を繰り返し,6か月間に6回入院したとします。
Bという被験者は,エントリーからわずか1週間で入院しましたが,その後は一度も入院しませんでした。
■さて,被験者Aと被験者Bでは,どちらが重症であると考えられるでしょうか?
■もちろん入退院を繰り返した被験者Aなのですが,このサバイバル曲線では,被験者Bがより重症である,というような扱いになります。
なぜなら,「エントリーしてからどれだけ入院しないですんだか?」がサバイバル曲線の示すところだからです。
■もっと正確に述べれば「何をもって重症と言うのか!」ということになります。
「心不全関連イベントの回数」なのか,「最初の心不全入院までの時間の短さ」なのか,ということで,統計はなにも嘘を言ってはいません。
だからこそ,臨床試験のデザイン,特にエンドポイントの設定は「臨床試験の命」なのです。
#人は二度死ねない! 美しい「Kaplan-Meier Curve」にはとげがある
■エンドポイントが「死亡」であれば,このようなことは起こり得ません。
なぜなら「二度は死亡できない」からです(先述)。
しかし,エンドポイントを「心不全関連イベント」としてしまうと,複数回イベントを発生する被験者が出てきてしまい,サバイバル曲線による解析は,正確さを欠くことがあるのです(図2)。

■したがって,このように「美しい」Kalpan-Meierを見ても,それにだまされてはいけません。
この試験のエンドポイントは「美しいKalpan-Meier Curve」ではなく「『急性増悪』を予防することができる」か否か,なのです。
■ということで「COMPASS-HF」では,デバイス自体の安全性は証明されたものの,プライマリーエンドポイントである「心不全関連イベント」の減少を示すことができませんでした。
この結果を受けて,米国FDAはMedtronic社から提出されていた本デバイスの保険適応申請を却下しました。
■なぜ,IHMデバイスは『急性増悪』を予防することができなかったのでしょうか?
参考文献:
Bourge RC, et al. J Am Coll Cardiol 2008; 51(11): 1073-1079
出典 MT pro 2010.2.11
版権 メディカルトリビューン
<番外編 その1>
安静時心電図による循環器疾患の発症リスクや死亡の予測研究は,各国で盛んに行われています。
滋賀医科大学公衆衛生学部門の長澤晋哉氏は,24年にわたる前向きコホート研究の結果,P波異常(僧帽性P)が将来の循環器疾患リスクの上昇と関連していることを突き止めました。
~僧帽性P波異常~
循環器疾患リスクの上昇と関連
粗死亡率は正常者より数倍
■研究は,1980年循環器疾患基礎調査受検者である30歳以上の男女1万546人を対象としたコホート研究「NIPPON DATA80」において実施された。
全員に標準化した方法で問診,血圧・身体測定,血液検査,心電図検査を行った。
心電図所見は独立した2人の研究者がミネソタコード(MC)に従いコード化し,一致しない場合はもう1人の研究者がコードを決めた。
P波異常は肺性Pと僧帽性Pに分けられ,それぞれMC9-3-1とMC9-3-2に判定される。基準は「肺性P:P波の高さ>=0.25mV(2.5mm)」(II,III,aVFのいずれか),「僧帽性P:P波の幅>=0.12秒(3mm)」( I ,IIのいずれか)である。
■統計手法はP波異常の循環器疾患と総死亡に対するハザード比(HR)をCox比例ハザードモデルで算出。調整因子は性,年齢,BMI,収縮期血圧,血清総コレステロール値,血糖値,飲酒,喫煙とした。
追跡したのは循環器疾患の既往や心房細動,心房粗動のない1万199人であった。
■総死亡の粗死亡率(年対1,000人)は,P波正常群では13.1に対しP波異常群では34.7であった。
P波正常群に対するP波異常群の多変量調整HRは1.32と有意な上昇は認められなかった。
循環器疾患の粗死亡率(年対1,000人)は,P波正常群では4.7に対しP波異常群では18.1であった。
P波正常群に対するP波異常群の多変量調整HRは2.18と有意に高く,特に僧帽性P群では2.24倍と高かった。
長澤氏は「P波異常,特に僧帽性Pは将来の循環器疾患死亡リスクの上昇と関連した。僧帽性Pは心室機能障害とも関連していると言われるが,心電図を読むにはさらなる注意が必要と考えられる」とまとめた。
<コメント>
多くの先生はあれっと思われるような内容です。
私も勤務医の頃、長らく「心電図のコメント書き」をやっていました。
今や、心電図も自動解析が普及してそういった「手作業」も行われていないのではないでしょうか。
「mitral P(僧帽性P)」の心電図波形をみて僧帽弁狭窄症の患者を見つけたのも今となっては懐かしい思い出です。
「sinistro P(左房性P)」というコメントも幾度書いたかと思うと感無量です。
さて、私の認識では、「mitral P(僧帽性P)」と「sinistro P(左房性P)」とは異なるのです、この点はどうなんでしょうか。
またsinistro PはLVEDP(だけではないでしょうが)の上昇を意味しているという認識だったのですが、そう考えれば目新しい内容といえるかどうかと考えてしましました。
<P波 関連サイト>
心房負荷
http://www.udatsu.vs1.jp/atrial-overload.htm
<番外編 その2>
オルメサルタンが安定狭心症患者においてアテローム進展率を低下
■安定狭心症患者に対するARBオルメサルタンの投与は、冠動脈アテロームの進展率低下をもたらすとの研究論文が、「Journal of the American College of Cardiology」3月9日号に掲載された。
■心臓病センター榊原病院(岡山市)の廣畑 敦氏らは、安定狭心症患者247人を対象とする試験(OLIVUS)を実施した。
被験者は冠動脈疾患を有し、(梗塞)責任血管に対して経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けるとともに、非責任血管に対して血管内超音波検査(IVUS)を受けた。
処置後、オルメサルタン(10-40mg)投与群または対照群のいずれかに被験者を割り付けた。
■ベースライン時および14カ月時にIVUSを実施した結果、対照群と比較して、オルメサルタン投与群のアテローム容積率および総アテローム容積の変化は有意に低かった(総アテローム容積は5.4% vs. 0.6%、アテローム容積率は3.1% vs. -0.7%)。
■著者らは「患者の特徴および血圧管理は2群間で同様であった。しかし、追跡IVUSの結果、オルメサルタン投与群では総アテローム容積およびアテローム容積率の変化率が有意に低かった。以上の所見は、安定狭心症患者の冠動脈アテローム進展率を潜在的に低下させるという、オルメサルタンのポジティブな役割を示唆する」と述べている。
<原文>
Impact of Olmesartan on Progression of Coronary Atherosclerosis
J Am Coll Cardiol, 2010; 55:976-982
http://content.onlinejacc.org/cgi/content/abstract/55/10/976
HealthDay News 2010.3.5
その他
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
http://wellfrog4.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
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井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
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井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/
(内科医向き)
があります。
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