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< 拡張期心不全への対応 その1(1/2) | メイン | 拡張機能障害を伴う高血圧とCCB >
昨日の続き(後半)です。
#〜臨床像〜
#高齢者,女性,高血圧が多く,虚血性心疾患が少ない
■拡張期心不全はどのような臨床像を呈するのか。後藤医長は最近,次のようなデータを得たという。
■対象は,同センターに入院した急性心不全または慢性心不全急性増悪の394例。
EFと同じく左室収縮機能の指標とされる心エコー図の左室内径短縮率(%FS)を算出。
入院時%FSが26%未満の収縮期心不全270例(69%)と,26%以上の拡張期心不全124例(31%)に分け,臨床所見を比較した。
■その結果,拡張期心不全群では収縮期心不全群に比べ,年齢が高く,女性の割合が高く,虚血性心疾患,心筋梗塞既往,冠動脈バイパス術(CABG)既往が低率だった。
年齢別に拡張期心不全の頻度を見ると,年齢が高いほど高率となり,75歳以上では40%を超えた。
拡張期心不全群では,さらに入院時の収縮期血圧が高く,心拍数が少なく(上昇幅も小),左室拡張末期径(LVDd)および左室収縮末期径(LVDs)が小さく,心室中隔壁厚(IVS WTh)が大きかった。
すなわち,左室壁厚は大きいが,左室拡張は見られず,壁運動も保たれていた。
血中BNP濃度は両群とも明らかに上昇していたが,拡張期心不全群では収縮期心不全群の半分程度にとどまった(表1)。

心不全緊急入院例の臨床像
#糖尿病患者は拡張期心不全を起こしやすい
■前出のJCARE-CARD研究の中間解析でも,拡張期心不全では収縮期心不全に比べ,高齢者,女性,高血圧が多く,虚血性心疾患が少なかった。
そのほか,基礎心疾患として拡張型心筋症が少なく,肥大型心筋症が多いこと,合併心疾患として心房細動が多く,心筋梗塞,心室粗動(VF)・細動(Vf)が少ないことも示された。
拡張期心不全の規定因子としては,肥大型心筋症,貧血,心房粗動(AF)・細動(Af),高血圧および年齢が,収縮期心不全の規定因子としては拡張型心筋症,左脚ブロック,心筋梗塞既往および虚血性心疾患が浮かび上がったとしている。
拡張期心不全で高齢者,女性,高血圧が多く,虚血性心疾患が少ないという点は,これまでの欧米の報告とも一致している。
なお,貧血はもともと女性に多いこと,高拍出量性心不全の原因となることが知られており,今年8月に示された米国心臓学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)の慢性心不全ガイドライン改訂版で,拡張期心不全と鑑別すべき疾患の1つに掲げられた。
■一方,拡張期心不全で糖尿病や肥満を有する症例が多いという報告もある。
糖尿病に関して,増山教授らは最近,比較的重症の糖尿病患者で左室拡張機能を検討したところ,非糖尿病例に比べ拡張機能が低下しているというデータを得た。
「糖尿病患者は拡張期心不全を発症しやすい状態にあることが推察される」と同教授。糖尿病は収縮期心不全の背景因子としても注目されているが,この場合は虚血性心疾患を経て収縮期心不全に至るというプロセスが予想される。
これに対して拡張期心不全では,糖尿病が拡張障害に直接関与しているという可能性が示唆されたことになる。
#予後は健常者に比べ不良,再入院率も高い
■拡張期心不全の予後も明らかになってきた。
生命予後については,拡張期心不全の死亡率が収縮期心不全に比べて良好とする報告と同等とする報告があり,統一した見解はない。
例えば,V-HeFT試験では拡張期心不全の1年死亡率が8%で,収縮期心不全の19%より明らかに低率。Vasanらが報告したフラミンガム研究でも,拡張期心不全の年間死亡率は9%で,収縮期心不全の19%より低かった。
これに対して,Senniらの検討では,生存率に有意差は見られなかった(図3)。
ただし,いずれの報告も,健常群に比べると予後不良であるという点では一致している。

拡張期心不全患者の生命予後(Expected;性,年齢を補正して得られた一般住民で予想される生存曲線)
■なお,後藤医長によると,拡張期心不全患者の死亡率,特に心臓死の頻度は,わが国の報告が海外の各種報告に比べて低い(同医長らの検討で心臓死または突然死は1年7%,2年15%)。
基礎心疾患,心事故率,医療システムの違いなどが影響しているようだという。
■拡張期心不全の予後で特に注目されるのは再入院率の高さだ。65歳以上の心不全患者の退院1年以内の心不全による再入院率を検討した報告によると,拡張期心不全で52%と高率だったが,54%であった収縮期心不全との間に有意差は見られなかった。そのほか,拡張期心不全の退院後6か月間の死亡リスクは収縮期心不全の半分程度だったが,再入院リスクは同等という成績も報告されている。
■拡張期心不全はEFが正常であることから,予後良好と思いがちだ。
しかし,予後に関する多くの報告は,拡張期心不全であっても予後は決して良好ではなく,適切な診断,治療を行う必要性が高いことを示唆している。
#〜診 断〜
#カテーテル検査による拡張不全の検出は困難
■拡張期心不全の診断基準が,1998年に欧州心臓学会(ECC)から,2000年にはVasanらから提唱された(表2)。
いずれも,心不全の自覚症状と身体所見,EFなどに加え,カテーテル検査に基づく拡張期心不全の証明を求めている。
しかし,日常診療において拡張期心不全を検出するのは容易でない。カテーテル検査での検出となればなおさらだ。
■より現実的な診断の進め方として,後藤医長は「肺うっ血があり,高血圧歴,第IV音(左房収縮時の左室壁伸展で生じる心音),心電図で左室肥大所見が認められるにもかかわらず,心筋梗塞の既往,第III 音(心室流入血による心室筋,房室弁の振動で生じる心音),頸動脈怒張が顕著でない場合に拡張期心不全を疑う。
さらに,肺うっ血が存在するにもかかわらず,心エコー図で壁運動が保たれており,左室壁厚が厚い場合には拡張期心不全の可能性がより濃厚になる」と指摘する。
#心エコー図,組織ドプラ法の併用は有用だが煩雑
拡張機能障害の評価はカテーテル法または心エコー法により行うことができるが,カテーテル法を日常診療で頻回に行うことはできない。
このため,通常は心エコー法,特にパルスドプラ法で得られる左室流入血流速波形を指標とする場合が多い。
しかし,増山教授によると,左室流入血流速波形だけで評価することは難しい。
Redfieldらにより,安静時の左室流入血流速波形,急性前負荷軽減試験による左室流入血流速波形の変化,肺静脈血流速波形,組織ドプラ法による僧帽弁輪部運動の程度などを組み合わせて拡張機能障害を評価する方法が提案され,予後の推測に有用とされたが,この方法も日常診療で行うには煩雑だという。
■Zileらは「左室拡大がなく,EFが保持されているものの,左室肥大を有する症例では,臨床的な心不全の診断基準を満たしていれば,拡張機能を直接的に評価しなくても拡張期心不全として差し支えない」と提言しているが,拡張期心不全のなかで左室肥大を有する症例は40%程度でしかないと言われる。
また,左室肥大例の心不全発症率は20%以下にとどまる。
#「EF正常でBNP高値」は拡張期心不全の可能性大
■このように拡張機能障害を臨床で簡便に評価する方法が今一つ明らかにできない状況において,にわかに注目されつつあるのが血中BNP濃度だ。
増山教授も,拡張機能障害の診断におけるBNPの有用性について検討している。
■対象は,明らかな肺うっ血を伴う急性心不全で緊急入院した症例。
これらの症例を,受診時EFが45%以上の拡張期心不全またはその既往のある症例(DHF群)と,これまで全く心不全症状を自覚したことのない左室肥大を伴う高血圧性心疾患症例(コントロール群)で血中BNP濃度を比較した。
その結果,左室重量係数は両群間で差はなかったが,BNPはDHF群で有意に高値を示した(図4)。
この結果は,DHF群のうち,過去に著明な心機能低下〔ニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類 IV 度〕の既往があり,薬物療法によってNYHA I 度にコントロールされている症例に限った場合も同様だった。

心不全症状を自覚したことのない左室肥大を伴う高血圧性心疾患症例(コントロール群)と,拡張不全またはその既往のある症例(DHF群)における左室重量係数,血中BNP濃度
■この成績から,同教授は「EF正常でBNPが高値を示す,具体的には100pg/mLを超えるような症例では,拡張期心不全の可能性が高いと見てよいのではないか」と指摘する。同教授らはさらに,BNPが拡張機能障害に対する治療効果判定の指標になるという成績も得ている。
#〜治 療〜
#左室圧−容積関係から見た病型別の治療も
■拡張期心不全の診断が適切に行えたとしても,その予後を改善できるような治療法はまだ確立されていない。
ACC/AHAの慢性心不全ガイドライン改訂版で示されている「強く勧められる治療」は降圧療法だけ。
拡張期心不全の薬物療法に関する初の大規模臨床試験であるCHARMでは,ARBのカンデサルタンが心不全による総入院件数を減少させることが示されたが,これが現在までに得られている拡張期心不全の薬物療法に関する唯一とも言えるエビデンスだ。
■そうした現状において,実際の臨床ではどのような治療が行われているのか。
増山教授は「まず,労作時の心拍数増加を抑制して拡張期時間を保持する目的でβ遮断薬,徐脈性のCa拮抗薬などを投与する。もちろん背景にある高血圧はきちんと治療すべきで,特にR-A系抑制薬やβ遮断薬が有用と考えられる。肺うっ血があれば利尿薬を少量投与する。過量投与するとショックを起こすこともあるので注意しなければならない」と説明する。
■後藤医長は,拡張期心不全の病型を心エコー図に基づく左室圧−容積関係から4つに分類し,それぞれの病型で推測される原因,病態に合致した治療を行う方法を提唱している(表3)。
4病型とは,
(1)左室壁コンプライアンス低下型
(2)拘束型心筋症または収縮性心膜炎型
(3)右室負荷による左室拡張不全型
(4)不完全弛緩(収縮不全と拡張不全の合併)型。
最も多いのは(1)で,比較的予後良好の症例が多いという。

拡張期心不全の病型別に見た原因,病態と治療
#線維化抑制を主目的とした治療に期待
■増山教授らは,前述のように,拡張不全モデルで少量のR-A系抑制薬が過剰な左室肥大や線維化の進行を抑え,拡張不全発症を阻止する成績を得ている。
その有効性は,より早期からの投与,あるいはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とARBの併用を行うことでいっそう高くなった。
こうしたことから,R-A系抑制薬は収縮期心不全だけでなく,拡張期心不全にも有効であることが推測されるという。
同教授らの検討では,アルドステロンを介したR-A系を抑制するミネラルコルチコイド受容体拮抗薬のeplerenoneを投与した場合にも,左室肥大や線維化が抑制され,拡張機能障害の進行が阻止された。
そのほか,線維化を促進すると考えられるphospholipase
D(PLD)の阻害薬N-methyle-thanolamineを投与すると,線維化亢進とそれに伴う左室スティフネス増大が抑制されるとともに,拡張期心不全発症が阻止される成績も得られた。
このような動物実験によるさまざまな成績から,同教授は「拡張期心不全に対しては,線維化抑制をおもな目的とした治療が有効である可能性が高い」と推測,研究の進展に期待を寄せている。
■一方,同教授は拡張不全モデルで,左室拡大の有無を規定するMMP-9の発現が収縮不全モデルのように亢進していなかったことから「拡張期心不全へのアプローチとして,収縮期心不全とは逆にむしろ左室を大きくする方向の治療が考えられる」とも指摘。このように収縮期心不全の治療とは明らかに異なる特異的な治療が確立されれば,拡張期心不全を収縮期心不全と分けて診断する意義は非常に大きくなるはずだ。
#<まとめ>
拡張期心不全の治療に関して多くの知見が得られつつあるが,有効な治療法を確立していくには,多くの大規模臨床試験のデータが必要になる。
現在,イルベサルタンを用いたI-PRESERVE試験,ペリンドプリルを用いたPEP-CHF試験,わが国のJ-DHF試験などが進められており,これらの結果がおおいに期待される。
出典 MT Pro 2005.11.24
版権 メディカル・トリビューン社
<番外編 その1>
むしろ拡張不全に注意を
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?Keywords=拡張不全&perpage=0&order=0&page=1&id=M3612142&year=2003&type=total
<番外編 その2>
米アボット、冠動脈疾患治療用「XIENCE V」が日本で製造販売承認を取得
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=240541&lindID=4
経皮的冠動脈形成術(PCI)を受ける患者1800人が参加した無作為化試験(COMPARE試験)の結果、Abbott(アボット)社のエベロリウムス(Everolimus)溶出ステント・XIENCEは有効性と安全性の両方でBoston Scientific(ボストン・サイエンティフィック)社のパクリタキセル(Paclitaxel)溶出ステント・TAXUSより優れていました。
http://www.biotoday.com/view.cfm?n=37503
Abbott社のXienceステントは有効性と安全性の両方でBoston Scientific社のTAXUSステントより優れていることを示した試験結果が発表されました。
http://www.biotoday.com/view.cfm?n=37503
その他
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
http://wellfrog3.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/
(内科医向き)
があります。
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